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巨大落石に対する軽量盛土覆工工法について
~軽量盛土(覆工方式)SPCウォール工法~

国土交通省 熊本工事事務所
 道路管理第二課長
平 江  哲

1 はじめに
一般国道57号は,大分県犬飼町を起点に,阿蘇・熊本市・宇土市・三角町を経由して,長崎県島原市から長崎市に至る主要幹線道路である。熊本管内のうち,火山地帯で急峻な地形をなす阿蘇カルデラ壁や,海食崖と入り組んだ海岸線に沿う宇土半島は,斜面上に浮石·転石あるいは岩盤から分離した巨大岩塊が不安定な状態で分布し,落石・崩壊がしばしば発生することから,種々の防災対策工を必要とする。
ここでは,巨大落石の危険性があった宇土市大字赤瀬地区において行われた斜面調査と,岩盤斜面検討委員会による対策工法の検討にもとづいて,新工法である軽量盛土覆工工法(SPCウォール)を用いて巨大岩塊の安定化を目的とした防災工事を施工したので,その概要について述べる(写真ー1)。

2 赤瀬地区対策工の経緯
岩盤斜面検討委員会(以下,委員会)は,1996年2月と1997年8月に発生した豊浜トンネルおよび第二白糸トンネルでの相次ぐ大規模な岩盤崩壊を教訓に,現在のドクター制度に先立ち,学識経験者·専門家ならびに道路管理者をもって1997年11月に発足し,1999年3月までの間に計3回委員会を開催し,国道57号の防災対策について検討してきた。
検討を行った箇所は,1996年度に実施した防災総点検で防災カルテ作成を行った79箇所の中から選定したが,阿蘇坂梨地区で2箇所,三角地区で3箇所の計5箇所である。
まず,空中写真撮影と現地踏査を行い,さらにボーリング調査を含めた地質精査を実施し,地質構造ならびに岩盤劣化状況と浮石・転石の分布状況および安定性について検討した。これらの調査資料にもとづいて委員会で総合評価を行った結果,中でも赤瀬地区は崩壊規模が大きく,緊急性も高いと判断され,対策を早急に行う必要があるとの結論に至った。
不安定斜面に対する当初の設計は,従来から実績のある吹付法枠工とグラウンドアンカー工により斜面全体を力で押さえ込むような工法であったが,委員会から巨石や直立岩に対する施工時の安全性確保が困難との指摘を受け,これらの除去方法や斜面対策の新工法も含めて対策工を見直すことにした。
そこで,地形条件・環境条件等を考慮した上で,施工性・安全性・経済性を評価して,積極的な掘削除去は行わず,現況斜面を押さえ込む案とし,できるだけ現況斜面の掘削をせずに,浮石や転石を巻き込んで,斜面全体を安定化させる軽量盛土覆工工法を選定した。
軽量盛土覆工工法は新工法であるが,構造性・施工時の安全性の確保について目的を満足していることが確認されたため,委員会から斜面対策工として採用の承諾が得られた。その後,軽量盛土覆工工法の詳細設計を行い,2000年9月より赤瀬地区防災工事に着手し,2001年2月に無事竣工した。

3 地形地質の概要
宇土市赤瀬地区の国道57号は,標高15~16m付近の海岸線沿いに取付けられている。また,山側斜面は,標高50~70m程度まで50゜前後の急峻な地形となっている。特に,標高50m付近に高さ約10mの急崖が約100mにわたって連続し,岩盤崩壊の発生源となっている(写真一2,3,4)。
基盤地質は,古第三紀の白岳砂岩層からなり,礫を含む中~粗粒で厚い層理の砂岩を主とするが,部分的に薄い炭層や炭質頁岩を挟んでいる。砂岩層の傾斜は,南西側(終点側)へ10~15゜と緩く傾斜しているが,道路とほぼ平行する高角な断層や割れ目が1~5m間隔で発達し,さらにこれと直交する割れ目が存在するため,急崖となった部分は岩盤が緩んで危険な状態となっている。その下方斜面中腹にも地山から分離した巨大な岩塊や転石を含む崖錐(厚さ5~8m)が不安定な状態で分布し,部分的に新しい段差や地割れも認められるため,斜面の掘削は極力避けるべきであると判断された。
対策工事に着手するまでは,斜面に取付けた伸縮計やボーリング孔に設置した孔内傾斜計の定期的な観測により監視することとした。岩盤斜面の掘削を行っていないので,目立った活動はないものの,微小な活動兆候が認められたため,斜面の取扱いには慎重を期する必要があった。

4 技術的問題点と対策
当地区のような斜面の場合,通常は崖錐や不安定な岩塊を除去するのが一般的な工法であるが,当地区のように大岩塊が多いと,施工時に発生する落石を受け止める仮設防護柵が大掛かりなものとなる。また,急崖にある高さ10m以上の直立岩塊を除去するためには,搬出用の仮設道路が必要でかつ小割除去時の全面通行止めも避けられない。しかしながら,国道57号は天草方面に通じる幹線道路であることから,繁忙期を避けての片側交互通行の交通規制はやむをえないとしても,全面通行止めは避けるという基本方針にもとづいて対策工の検討を行った。
表ー1の対策工法比較表に示すように,積極的な掘削除去を行わないで,現況斜面を押さえ込む工法としたが,第2案および第3案の場合,施工時の安全性確保に問題があり,施工効率も期待できないことから,第1案の軽量盛土覆工工法を採用した(図ー2,図ー3)。
本工法は,工場で一括製作したプレキャストコンクリート版(標準品:B=2,000mm×
H=1,000mm×t=190mm)をPC鋼棒(φ17mm)で連結緊張することにより,自立型枠として機能させ,プレキャストコンクリート版と地山の間にエアーモルタルを打設して施工する積上げ方式である。この工法の特徴は,従来の法面工で必要とされた仮設足場をせず,作業ヤードもクレーンの旋回に必要な片側車線のみで施工可能である。
斜面中腹の不安定な岩塊や浮石は,エアーモルタルで包み込んでしまうために,撤去の必要がなく,安全にしかも確実に施工することができる。なお,斜面上の急崖にある巨大な直立岩に対しては,軽量盛土の高さを直立岩に対し根固め効果が得られる高さに設定し,軽量盛土完了後に最上部平場を足場として,グランドアンカーにて直立岩の転倒防止対策を行った。
このように赤瀬地区防災工事では,斜面中腹や急崖部に存在する浮石や巨大な岩塊を除去することなく,斜面を安定化させることができた。
特に,注目されるのは,プレキャストコンクリート版をPC鋼棒で緊張するキャンティレバ一方式の採用により,エアーモルタル等の軽量盛土材を用いる垂直壁あるいは斜壁の盛土構造物の築造を容易にしたこと,背面の斜面にせん断ボルトを打設し,抑止力を増大させるとともに地山と構造物が一体化するように工夫したことである。

5 施工時の管理について
軽量盛土覆工工法の施工時における安全・施工管理については,①軽量盛土工法による斜面の安定性向上,②巨石や直立岩に対する施工時の安全性確保を目的として,調査段階で設置した伸縮計および孔内傾斜計による施工進捗に応じた計測管理を行った(図ー2,図ー4)。また,不安定な巨石および直立岩には回転灯・警報機付の伸縮計を増設し,伸縮計の挙動による作業員待避と一般車両の通行規制を含めたリスク管理用のマニュアルを作成して運用した。
なお,伸縮計は1時間当り2.5mm変位したときに現場事務所のブザーと回転灯が作動するようにセットしたが,幸運にも工事期間中に作業中止をかけるような事態は発生しなかった。
また,孔内傾斜計の観測でも,すべりの兆候を示すような挙動はなく,軽量盛土が立ち上るにつれて山側に1~2mm程度変位し,斜面全体としてはむしろ安定化する傾向が見られた。

6 おわりに
熊本工事事務所で管理している急峻地形の国道では,浮石や転石が不安定な状態で分布し,今回のような緊急対応を要する箇所がまだ多く残っている。これらの箇所に対してもそれぞれ適切な対応策を施す必要があり,現在ドクター制度を活用しながら斜面崩壊リスクを低減すべく防災対策に取り組んでいるところである。
しかしながら,予測することが難しい斜面崩壊や落石に対して,限られた予算を効果的に運用するには,減災を目的とした精度の高い調査と予知・予測に関する観測・監視技術の導入および管理体制,さらに安全でかつコスト縮減を目指した対策工法の検討が必要である。
このような観点に立って,赤瀬地区では巨大落石に対し,新しい工法である軽量盛土覆工工法(SPCウォール)を採用し,安全にしかも短期間に工事を終えることができた。今後,同様な巨大落石に対する対策工の参考になれば幸いである。
最後に,岩盤斜面検討委員会の委員でもあり,終始多大なご指導をいただいた熊本大学工学部環境システム工学科の鈴木敦巳教授,大見美智人教授,北園芳人助教授,ならびに調査・設計担当の基礎地盤コンサルタンツ㈱関係諸氏に対し謝意を表します。

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