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九州地方整備局の入札制度における
総合評価落札方式の改善について

国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課長補佐
鍬  淳 司

国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課長補佐
中 島  大

キーワード:総合評価、品質確保、担い手確保、生産性向上、働き方改革

本稿では、2021 年度の工事、業務における総合評価落札方式の主な変更点の概要について紹介する。

1.はじめに
九州地方整備局では、平成25 年11 月より総合評価落札方式(二極化)の本格運用を図り、「品確法」の基本理念である「価格」及び「品質」が総合的に優れた内容の契約がなされるよう努めてきた。
一方、受注競争の激化による地域の建設産業の疲弊や就労環境の悪化に伴う担い手不足等の課題を踏まえ、現在及び将来にわたるインフラの品質確保とその担い手の中長期的な育成・確保を図るため、令和元年6 月に品確法、入契法、建設業法のいわゆる「担い手三法」の改正が行われたところであり、働き方改革の推進、生産性向上への取り組み、災害時の緊急対応強化、調査・設計の品質確保という観点を、いかに現在の入札・契約手続きの中に取り入れ、実現していくかが喫緊の課題である。
これらの課題への対応を図っていくとともに、総合評価落札方式の透明性・公平性を確保しつつ、評価の安定化及び評価の質の向上を求めることに加え、「担い手の中長期的な育成及び確保の促進」と、現在のみならず「将来の公共工事の品質確保の促進」を図る多様な入札契約の制度設計を立案していく必要がある。
2021 年度は、頻発化・激甚化する自然災害への対応を踏まえ、地域の守り手である「地元企業の受注機会の更なる拡大」を図るとともに、「働き方改革」、「生産性向上」を加速し、円滑な契約手続きを実施するため、各種試行工事及び試行業務の積極的活用を図る。
なお、「働き方改革」や「生産性向上」をより確実に推し進めるため、適正工期の確保、工期の平準化、i-Construction 等にも取り組んでいくこととしている。発注者各位におかれてはご理解、ご協力をお願いしたい。

2.工事における新たな取り組みについて
2.1 総合評価落札方式の改善について
(1)「配置予定技術者の工事実績」評価基準の見直し
・令和2 年10 月1 日付の建設業法改正の施行に伴い、建設業法第26 条の3 項ただし書きの規定を受ける特例監理技術者及び監理技術者補佐の配置が始まったことにより、評価基準の見直しを行った。
対象:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)、技術提案評価型(S型)【分任官・本官工事】
⇒現行:より同種性の高い工事、同種性が認められる工事と監理(主任)技術者あるいは現場代理人、担当技術者の組み合わせで3 段階評価。
⇒ 2021 年度:特例監理技術者・監理技術者補佐の実績を評価するため、より同種性の高い工事、同種性が認められる工事と監理(主任、特例監理)技術者あるいは現場代人、管理技術者補佐、担当技術者の組み合わせで5 段階評価。

図1 「配置予定技術者の工事実績」評価表

(2)「橋梁補修工事の実績」の新設
・橋梁補修工事の円滑な事業執行に関する取り組みとして、「橋梁補修工事」の実績のある配置予定技術者を評価する。
対象:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)、技術提案評価型(S 型)【分任官・本官工事】
⇒現行:未設定
⇒ 2021 年度:過去2 ヵ年度+当該年度に完成した工期5 ヶ月以上の橋梁補修工事(耐震補強も含む)の実績を2 段階で評価

図2 「橋梁補修実績」評価表

(3)「工事の手持ち状況」評価(本官工事)の見直し
・本官工事の評価基準の追加を行った。
対象:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)、技術提案評価型(S 型)【本官工事】
⇒現行:地整内の当該年度当初契約額とする。(一般土木は必須項目、その他の工事種別は選択項目)
分任官及び本官ともに、当該年度施工額が3億円未満の場合A 評価(満点)、3 億円以上6億円未満の場合C 評価(50%)、6 億円以上の場合E 評価(0%)
⇒ 2021 年度:本官工事の評価基準について、当該年度施工額が5 億円未満の場合A評価(満点)、5 億円以上10 億円未満の場合C評価(50%)、10 億円以上の場合E 評価(0%)の3段階で評価(※分任官工事は変更なし)

図3 「工事の手持ち状況」評価表

(4)「働き方改革」評価の見直し
・働き方改革の更なる促進のため、評価項目を「週休2日工事の実績」と「ICT 施工の実績」に分割し、より取り組みやすくするために、評価基準の見直しを行う。
対象:施工能力評価(Ⅰ・Ⅱ型)【分任官・本官工事】
⇒現行:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)の企業の能力評価において「働き方改革」の評価項目を必須項目としている。
評価内容については、過去2 ヵ年度に完成した工事を対象に、①週休2日を実施した実績②ICT 施工を実施した実績で評価
⇒ 2021 年度:
○「週休2日工事の実績」:過去1 ヶ年度+当該年度に完成した工事における週休2日工事の実績において、4 週8 休工事の実績(満点)、4 週7 休工事の実績(75%)、4 週6 休工事の実績(50%)、週休2日工事の実績なし(0%)の4 段階で評価
○「ICT 工事の実績」:過去1 ヶ年度+当該年度に完成したICT 施工の実績において、同一工事内で①~⑤を全て実施(満点)、同一工事内で①~⑤の一部(3 項目以上(②、④、⑤は必須))を実施(75%),同一工事内で①~⑤の一部(2項目以上)を実施(50%)、それ以外(0%)の4 段階で評価

図- 4 「働き方改革」評価表

(5)「若手・女性技術者の配置促進」の新設及び試行工事「若手技術者評価型」の休止
・新たな技術者の確保・育成を目的に「若手・女性技術者の配置促進」を新設する。
対象:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)【分任官・本官工事】
⇒現行:資格要件を45 歳以下、「配置予定技術者の年齢」にて年齢が35 歳以下のものをより優位に評価(2 点)、「企業の支援体制」(選択式)にて企業の支援内容により評価(5 点)
⇒ 2021 年度:35 歳以下の若手技術者又は女性技術者の配置について、2 段階で評価(※若手技術者評価型の試行は休止)

図5 「若手・女性技術者の配置促進」評価表

(6)「特定工事の実績」評価の追加
・不調・不落対策のため、不調・不落の多い工事(特定工事)の実績についても評価対象とする。
⇒現行:土木系工事の維持修繕工事を除く全ての工種において、原則必須事項としている。評価する維持工事等の実績の工事内容は、橋梁補修、構造物補修、設備補修、道路・河川維持工事等(通年維持工事)
⇒ 2021 年度:
・過去1 ヶ年度+当該年度に完成した工事5 ヶ月以上の実績を評価
・九州地方整備局の実績が2 件以上A 評価(満点)、九州地方整備局の実績が1 件C 評価(50%)、九州地方整備局の実績なしE 評価(0%)の3 段階で評価
・評価する工事実績を橋梁補修(耐震補強も含む)、構造物補修、設備補修、道路・河川維持工事等(通年維持工事)、電線共同溝、砂防工事、橋梁床版、舗装修繕、交差点改良、現道を改良する歩道整備とする。
・評価項目名称を「維持修繕工事等の実績」から「特定工事の実績」とする。

図6 「特定工事の実績」評価表

(7)「製作工場の有無」の新設
・九州内に自社の製作工場がある場合に加点評価を行う。
対象:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)、技術提案評価型(S 型)【分任官・本官工事】
⇒現行:未設定
⇒ 2021 年度:九州内の自社製作工場の有無について2 段階で評価

図7 「製作工場の有無」評価表

(8)「地元企業活用比率」評価方法の見直し
・評価における簡素化及び誤り防止を目的として参加企業から申請された提案値にて評価を行う方法に見直す。
対象:施工能力評価(Ⅰ・Ⅱ型)技術提案評価型(S 型)【分任官・本官工事】
⇒現行:向上率により評価
向上率=(提案値-標準値)÷(最大提案値-標準値)
⇒ 2021 年度:参加企業からの申請された提案値で75% 以上A 評価(満点)、50% 以上75% 未満B 評価(75%)、25% 以上50% 未満C 評価(50%)、25% 未満E 評価(0%)の4 段階で評価

図8 「地元企業活用比率」評価表

(9)技術提案の課題設定の見直し(技術提案評価型)
・求める技術提案(技術力評価)を明確にするため、技術提案の課題設定を見直す。また、受発注者双方の負担軽減のため、技術提案の課題数の削減を行う。
対象:技術提案評価型(S 型)【本官工事】
⇒現行:指定課題及び自由課題を設定し、技術提案の課題数は5 課題としている。
⇒ 2021 年度:全て指定課題とし、技術提案の課題数を5 から3 課題に削減する。

図 変更設定例(3課題) ■「工事目的物の性能・機能に関する事項」 品質確保や向上 ・指定課題:1課題、■現揚状況に適合した施工上の課題に関する事項」 施工上配慮すべき事項 ・指定課題:2課題 ※上記は設定例であり、工事内容により適宜設定(合計課題数を3課題とする。)

(10)「段階選抜方式」の見直し(技術提案評価型)
・参入機会拡大を目的として、段階選抜方式の一次審査より技術提案を1 課題のみ求める。
対象:技術提案評価型(S 型)
  【WTO・段階選抜方式】【本官工事】
⇒現行:
①一次審査:30 点満点
(配置予定技術者の能力等15 点、企業の能力等15 点)
※選抜者数:10 者+(競争参加資格が認められた者の数- 10)× 1 / 2
②二次審査:60 点満点
(技術提案60 点【5 課題】)
⇒ 2021 年度:
①一次審査:40 点満点
(配置予定技術者の能力等5 点、企業の能力等15 点、技術提案20 点【1 課題】)
※選抜者数:10 者
②二次審査:60 点満点
(技術提案60 点【3 課題】(一次審査の1 課題含む))

図9 段階選抜方式評価基準・配点

(11)企業実績評価型(試行工事)の配点見直し
・監理(主任)技術者の不足による入札不調対策、技術者の担い手確保及び働き方改革等の観点から試行を実施中であるが、更なる促進を目的に、企業能力の配点を更に高く設定する。
対象:施工能力評価型(Ⅰ・Ⅱ型)企業実績評価型【分任官工事】
⇒現行:
配置予定技術者の能力等:10 点
企業の能力等:22 点
地域貢献等:8 点
⇒ 2021 年度:
配置予定技術者の能力等:8 点
企業の能力等:24 点<
地域貢献等:8 点

図10 企業実績評価型評価基準・配点

3.業務における試行の改正について
3.1 2021 年度の基本方針
・入札参加手続きの簡素化・効率化、地場企業の受注機会の拡大、若手・女性技術者の登用等を念頭に九州地方整備局では昨年度までに6 種類の試行を開始した。2021 年度は、これらの試行について、より実態に即した使い勝手の良い制度とするため、アンケート等により以下の改正を行い、令和3 年8 月1 日以降公告の業務より適用を開始している。

3.2 簡易型ショート版
・「総合評価落札方式(簡易型)」を対象として、技術提案資料作成及び審査の簡素化と手続き期間の短縮を図るため、令和2 年8 月1 日以降公告業務より試行を開始した制度。
・技術提案書の簡素化のため、技術提案書は400字以内とし、記載内容は、「実施方針」または「業務実施にかかる留意点」としていたが、「文字数が少なすぎて、実施方針を具体的に書けない」「実施方針は、業務全体を網羅した記載となるため、評価が難しい」等の意見があったため、以下の通り改正した。
◇文字数制限を400 文字 ⇒ 600 文字に変更
◇技術提案書の記載内容は「実施方針」を廃止し、「業務実施にかかる留意点」のみへ変更

3.3 技術提案簡素化型
・プロポーザル方式、総合評価落札方式(簡易型・標準型)を対象として、技術提案書の作成及び審査を軽減するため、令和2 年4 月20 日以降公告業務より試行を開始した制度。
・実施方針は800 字以内、評価テーマに対する技術提案は1200 字以内としていたが、「提案したい内容を一部しか表現できない」「キーワード的な表現しかできないため各社の差があまりつかない」等の意見があったため、以下の通り改正した。
◇実施方針の文字数制限を800 文字 ⇒ 1200 文字に変更
◇評価テーマに対する技術提案の文字数制限を1200 文字 ⇒ 1500 文字に変更
・また、評価テーマに対する技術提案の評価については、「文字数制限に伴い、細分化された評価の判断基準を見直すべき」との意見があったため、以下の通り改正した。
◇的確性の判断基準は「余条件との整合性」と「着眼点、問題点、解決方法等」を一体評価に変更。
実現性の判断基準は「説得力」と「業務実績」を一体評価に変更(図- 11)。

図11 技術提案の評価(判断基準)の改正

・総合評価落札方式(簡易型)では、予定技術者の評価点(表彰実績、業務成績等)と技術提案の評価点の割合が50:50 であるが、技術提案を重視した評価方法が求められている。このため、技術提案の配点ウェイトを大きくした配点比率にする試行を、実施件数が多い技術提案簡素化型(総合評価( 簡易型))で実施する。
◇予定技術者:技術提案 = 50:50
⇒予定技術者:技術提案 = 40:60

3.4 技術提案チャレンジ型
・地場企業の技術力向上を目的に、受注機会の無い企業へも同等に競争参加の機会を与えるため、平成29 年度より試行を開始した制度。
・地域要件(企業の所在地)は局地的な設定(「○○県内」「○○事務所管内」等)に努めているが、必ずしも地場企業の受注へ結びついていないため、以下の通り改正した。
◇地域要件を「○○県内」「○○事務所管内」等に設定されるよう、同種・類似業務の設定の考え方を緩和する。

4.おわりに
九州地方整備局では、担い手三法の趣旨を踏まえ、公共工事の品質確保に向けた中長期的な担い手の育成・確保や労働環境の改善などの施策を行うと共に、建設業界の発展に寄与できるよう、各地方公共団体とも連携して発注者の責務を果たすため、引き続き様々な施策に取り組んでいく。
なお、本稿に掲載した内容の詳細、「工事(業務)における総合評価落札方式の実施方針[2021年度版]」及び過年度の運用についてはホームページに掲載しているので参照願いたい。

【URL】
http://www.qsr.mlit.go.jp/for_company/hinkaku/sogohyoka.html

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