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新たな広域道路交通計画の策定について
~九州リングネットワーク~

国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路計画第一課
課長補佐
中 島  昇

キーワード:新広域道路交通計画、重要物流道路、国土強靭化、高規格道路、拠点、ICT

1.はじめに
急速な人口減少が進展する一方、激甚化・頻発化する災害やインフラの老朽化等の喫緊の課題への対応も踏まえ、我が国の生産性や国際競争力を強化するため、平常時・災害時を問わず、広域的な交通を安定的に支えることが重要となっている。
そのため、平成30 年3 月に道路法の一部が改正され、国土交通大臣が物流上重要な輸送網を指定する「重要物流道路制度」が創設され、また、令和2 年12 月には、「防災・減災、国土強靭化のための五か年加速化対策」が閣議決定された。
これらの課題への対応や新たな国土構造の形成、グローバル化、国土強靭化等の社会・経済要請に応えるとともに、総合交通体系の基盤としての道路の役割強化、ICT・自動運転等の技術の進展を見据え、広域的な道路交通の今後の方向性を定めた「新広域道路交通ビジョン」、及び具体の計画を示した「新広域道路交通計画」を策定したので、その内容を紹介する(図- 1)。

図1 重要物流道路を契機とした「新たな広域道路交通計画」の策定について

2.計画の概要
令和3 年度を計画初年度とした概ね20 ~ 30年の中長期的な視点で検討を行っている。
「新広域道路交通ビジョン」は、①地域の将来像、②広域的な交通の課題と取組、③広域的な道路交通の基本方針で構成される。
「新広域道路交通計画」は、①広域道路ネットワーク計画、②交通・防災拠点計画、③ ICT 交通マネジメント計画の3 つの計画から構成される。①道路網の整備に加え、②拠点の整備を行い、③それらを利用するモビリティを含む全体をICT 等の新技術を用いてマネジメントすることで、道路ネットワーク機能を強化していく計画である。
九州地方の各県・政令市では、令和3 年6 月末までにビジョン・計画が策定された。九州地方整備局では、各県・政令市の策定された計画を踏まえ、令和3 年7 月に「九州地方新広域道路交通ビジョン」及び「九州地方新広域道路交通計画」を策定した。

3.九州地方新広域道路交通ビジョンについて
九州地方における広域的な交通の課題として、「主要都市間連絡道路でのミッシングリンクの存在」をはじめとして、図- 2 に示す8 つの課題を掲げるとともに、交通課題を踏まえた新たな取組みとして、「円滑な移動環境構築に向けた交通結節点の機能強化」等6 つの取組を掲載している。
これらの交通課題の解決に向け、九州圏の将来展望として「九州圏広域地方計画」で掲げる九州地方の3 つの将来像『日本の成長センター「ゲートウェイ九州」』、『三層の重層的な圏域構造からなる「元気な九州圏」』、『巨大災害対策や環境調和を発展の原動力とする「美しく強い九州」』の実現に向け、九州地方の広域的な道路交通に関する今後の方向性について、平常時・災害時及び物流・人流の観点から「広域道路ネットワーク、交通・防災拠点、ICT 交通マネジメント」の3 つの基本方針を設定した(図- 2)。

図2 九州地方の将来像実現のための広域的な道路交通の基本方針(体系図

また、それぞれの基本方針について、「広域道路ネットワーク」は、高規格幹線道路を補完する広域道路ネットワークを中心に、地域の拠点や拠点間連絡の方向性、災害時のネットワークの代替機能強化の方向性等、「交通・防災拠点」は、地域の主要な交通拠点に関する、道路と各交通機関の連携強化の方向性、災害時の物資輸送や避難等の主要な防災拠点の機能強化等の方向性等、「ICTマネジメント」は、ICT 等を活用した道路の情報収集や活用の方向性、他の交通とのデータ連携などサービス向上の方向性、主要都市部等における面的なマネジメントの方向性等を視野に具体の強化の方向性を整理した。
図- 3 に、九州における広域道路ネットワークの基本方針(ビジョン)とネットワーク形成イメージを示す。

図3 九州ブロックにおける広域道路ネットワークの基本方針(ビジョン

4.九州地方新広域道路交通計画について
(1)広域道路ネットワーク計画
①広域道路ネットワークの階層
広域道路ネットワークは、求められる機能、役割により「高規格道路」と「一般広域道路」に分類される(図- 4)。
また、高規格道路としての役割が期待されているものの、起終点が決まっていない等、個別の調査に着手している段階にない道路は、構想路線として分類している。

図4 広域道路ネットワークの階層

②拠点の設定
高規格道路及び一般広域道路(基幹道路)の選定にあたっては、連絡すべき拠点を設定し、路線検討を行っている(表- 1)。さらに、基幹道路と拠点(物流拠点、防災拠点、交流・観光拠点等)を連絡するラストマイルの機能強化を図ることで、広域道路ネットワークの機能をより発揮することができる。

表1 拠点の一覧

③広域道路ネットワーク路線
図- 3 に示した広域道路ネットワークの基本方針(広域道路ネットワーク強化の方向性)を踏まえ、拠点を連絡する高規格道路、一般広域道路からなる広域道路ネットワークを選定した(図- 5)。

図5 九州ブロック広域道路ネットワーク計画図

(2)交通・防災拠点計画
道路ネットワークの機能を最大限発揮するためには、従来のようなリンク中心の道路整備ではなく、ノード(交通拠点)の整備を通じて、鉄道、高速バスなどの公共交通を含む道路交通ネットワーク全体をマネジメントすることが重要である。
交通・防災拠点計画は、広域的な公共交通が結節する交通拠点のモーダルコネクト等の強化、災害時の物資輸送や避難等の主要な拠点となる道の駅等において、ソフト・ハードを含めた防災機能の強化を図るものであり、以下の取組を推進する。

①地域活性化に向けた交通・交流拠点整備
1)交通拠点整備
・鉄道駅等における交通ターミナル整備(バスタプロジェクト)
・道の駅や高速道路SA・PA におけるバス等の乗り継ぎ拠点整備
・鉄道駅等における乗り継ぎ駐車場・駐輪場整備

図6 交通結節点機能強化の整備イメージ(長崎駅周辺地区)

2)交流・観光拠点整備
・「道の駅」への観光施設等の併設による交流・観光拠点化
・IC 近傍「道の駅」の高速道路一時退出利用
・SA・PA と公園・休憩施設との連結の検討・整備
・「道の駅」やSA・PA におけるEV 急速充電設備の増設

②産業競争力の強化を図る物流拠点整備
・スマートIC による工業団地等の物流施設と高速道路の直結
・「道の駅」における農作物の集荷拠点環境の整備
・SA・PA における大型車駐車マスの拡充

図7 味坂スマートIC(仮称)の整備効果

③「道の駅」等での防災拠点化整備
・「道の駅」の広域的な「防災拠点」としての防災機能強化
・交通ターミナルにおける防災機能強化
・SA・PA におけるNEXCO と関係自治体間での防災協定締結

写真1 「道の駅」における防災施設整備(道の駅「たのうら」

(3)ICT交通マネジメント計画
ICT 交通マネジメント計画は、ICT やAI、ビッグデータといった革新的な技術を積極的に活用し、道路交通情報を収集・提供・利活用することで、道路交通の課題解消に向けた交通マネジントの強化を行うとともに、道路交通や移動に係る社会的課題の新たな解決手段に資する自動運転の普及・促進を行うものであり、以下の取組を推進する。

①ICT等を活用した交通マネジメントの強化
・災害時の運行支援情報「通れるマップ」の提供
・AI によるカメラ画像解析を活用した交通量観測
・観光地渋滞対策
・訪日外国人観光客レンタカーピンポイント事故対策
・各種モード間のシームレスな乗継ぎ等を支援するMaaS の取組
・スマートシティの実現に向けた取組

図8 令和2年7月豪雨時の通れるマップ

写真2 訪日外国人観光客レンタカーピンポイント事故対策

②自動運転の普及・促進に向けた取組
・中山間地域における道の駅等を拠点とした自動運転サービス
・内閣府未来技術社会実装事業等と連携した自動運転サービス導入支援事業

図9 みやま市での自動運転実証実験の概要

③推進体制
飛躍的に進化する情報通信技術を新たな道路政策に取り入れていくため、渋滞対策協議会や地域道路経済戦略研究会等を活用し、大学等と連携協力した検討体制を構築していく。

5.おわりに
今後、策定した新広域道路交通計画に基づき、高規格道路の路線指定や、重要物流道路の指定が行われる。本計画の実現に向け、広域道路の着実なネットワーク整備や機能強化を実施するとともに、拠点へのアクセス強化や災害時における代替機能の強化など、関係自治体とも連携し、オール九州で取組を推進してまいりたい。
なお、計画策定にあたっては、有識者懇談会等で貴重なご意見を賜った。ここに記して、深く感謝を申し上げたい。

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