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完成を迎えた古宇利大橋
一離島架橋プロジェクトを振り返る一

沖縄県 土木建築部
 北部土木事務所 主幹
渡 嘉 敷  隆

沖縄県 土木建築部
 北部土木事務所 主任
喜 納  久

1 はじめに
沖縄県は.沖縄本島をはじめ,宮古島,石垣島など大小160の島からなる全国でも有数の島嶼県であり,多くの離島を有している離島県である。離島については,美しい自然や独自の文化に恵まれている反面,狭小性.環海性.隔絶性といった特有の条件により,生活環境の立ち後れや脆弱な産業基盤,およびそれに伴う人口流出など.難しい問題が山積している状況にある。沖縄県では,離島の生活環境の改善や産業の振興を図る観点から,復帰後から今日に至るまで,プロジェクトとして,離島架橋事業に積極的に取り組んできているところである。

今帰仁村古宇利島は,沖縄本島北部の本部半島の北東に位置する,隆起サンゴ礁石灰岩からなる周囲7.9km,人口359人の離島である。産業は半農半漁の第一次産業が中心で,主要な特産品はウニ,モズク,紅芋,アロエなどとなっている。紀元前2世紀の土器が出土するなど島の歴史は古く,また七つの御嶽やウンジャミ祭など独特の祭祀が守られ,そして風光明媚な景観と豊かな自然に恵まれた島である。
しかしながら,島民の生活は1日5便のフェリーに依存しており,時間帯や天候によって移動が制限されるなど,生活環境は厳しい状況にあり,復帰直後約700人いた人口は,現在ほぼ半減している状況にある。

古宇利大橋は,今帰仁村古宇利島と名護市屋我地島(沖縄本島)を橋梁で結ぶことにより,古宇利島の医療・教育・福祉等の生活環境の向上を図るとともに,地域の産業の活性化及び観光資源の開発等を支援することを目的としている。
古宇利大橋は,橋長1,960mで,通行料を必要としない橋梁としては日本一長い橋となる。また沖縄海岸国定公園内に位置していることから,環境保全対策についても徹底した対策が行われている。さらに下部工の基礎において琉球石灰岩層を積極的に支持層とするなど,技術的にも非常に特徴を持つ橋梁となっている。
古宇利大橋は,長期間にわたる多数の人々の努力と創意工夫のもと,平成17年2月に完成を迎えたところである。島民を始めとして多くの人々の悲願がかなうこととなり,地域の活性化に大きく寄与するものと期待されている。
完成・供用開始を迎えるにあたり,本プロジェクトについて,事業の目的,整備効果,技術的特性,環境保全対策,コスト縮減等様々な観点から総括を試みるものである。

2 事業概要
□事業年度:平成5年度~平成16年度
□道路規格:第3種3級,B活荷重
□延長:4,050m(橋梁部1,960m,埋立部60m,取付道路2,030m)
□幅員:橋梁部10.25m,道路部12.0m
□上部工形式:PC8径間連続箱桁2連+PC4径間ラーメン箱桁+PC5径間連続箱桁
□下部工形式:逆T式橋台2基,ラーメン橋脚4基,壁式橋脚20基
□基礎工形式:鋼管杭基礎(標準部),鋼管矢板井筒基礎(航路部)
□上部工製作工法:プレキャストセグメント工法ショートラインマッチキャスト方式
□上部工架設工法:大型架設桁によるバランスドカンチレバー工法

3 事業経緯
□昭和54年度~平成4年度:架橋要請行動
□平成5年度~平成7年度:今帰仁村道事業として事業着手,技術検討委員会
□平成8年度:古宇利屋我地線として県道認定し県道事業として着手
□平成9年度:基礎工検討委員会,下部工着手
□平成11年度:上部工着手
□平成14年度:下部工完了
□平成16年度:上部工および取付道路完成,平成17年2月8日供用開始

4 事業の目的および整備効果
古宇利大橋の整備目的は,古宇利島の医療・教育・福祉等の生活環境の向上を図るとともに,地域の産業の活性化及び観光資源の開発等を支援することである。以下に整備効果を列記する。
(1) モビリティ(移動のしやすさ)の向上
古宇利島~本島間の移動時間が短縮され,安全で効率的な交通が確保される。また,天候や時間帯に左右されずに移動が可能となり,交通の随意性が確保される。

(2)生活環境・教育文化水準の向上
急患搬送など島外病院への通院・搬送が短時間で確実に行うことが可能となり,医療サービスの向上が図られ島民の不安が解消される。また,島外の中学校,高校への通学が容易になるとともに,クラブ活動等の交流機会が拡大され,教育サービスが充実される。

(3)交流・物流の拡大支援
時間短縮や,船賃コストの解消等により,効率的な移動や輸送が可能となり,人の交流や物流が盛んになる。

(4)地域産業の活性化
架橋に伴う島外への出荷の効率化や,輸送コストの低減により,島の基幹産業である農業と漁業の活性化を支援する。また,現在農業用水は貯水池により対応しているが,国営かんがい配水事業「羽地大川地区」の農水管が古宇利大橋に添架されることから,架橋後の渇水時の不安が解消され,収穫量の増大が期待される。

(5)観光資源の開発
古宇利島の歴史は約3600年前の先史の時代まで遡ることができ,ウンジャミ祭に代表される独特な祭祀や豊かで美しい自然など,未開発の観光資源が数多く存在する。架橋により本島と陸続きになることにより,世界遺産今帰仁城址や海洋博公園などを結ぶ本部半島周遊ルートの一端を担うことが期待され,観光客数の増大と観光地の開発等の効果が期待される。

(6)雇用機会の創出,定住化の促進,島の活性化
生活及び経済圏が広がることにより地域格差が解消される。また,基幹産業である農業と漁業が発展するとともに,観光資源の開発による新たな雇用機会が創出され.定住化の促進と島の活性化が期待される。

5 技術的特性
(1)琉球石灰岩層を支持層とする基礎工法
琉球石灰岩層は,サンゴ礁が固結したもので,固結と未固結の互層を形成し,鍾乳洞的な空洞を持つ複雑な地層である。そのため,強度のバラッキが非常に大きく,また固結度の高い中間層を打ち抜くことが困難な場合もあるなど,地盤特性及び支持力機構に関する知見や経験が乏しい特殊な地盤である。
古宇利大橋では,基盤岩である本部層の位置が90m~120mの深さにあることから,コスト縮減を図るため,琉球石灰岩層を積極的に支持層とした。
基礎および土質の専門家からなる「基礎工検討委員会」を設置し,各種の載荷試験等を実施して,琉球石灰岩層の地盤特性および支持力機構についての検討を行ったところ次のような結果が得られた。
① 琉球石灰岩の固い中間層を打撃工法により打ち抜くことができた。
② すべての杭において設計支持力を大きく上回る支持力が確認され,地盤常数を次表のとおりとした。
③ 杭形式の見直しにより,杭長が短くなり事業費のコスト縮減を図ることが出来た。

古宇利大橋において蓄積された琉球石灰岩層のデータや知見については,今後の研究,施工に大きく役立つものと期待される。

(2)高耐久化および新技術
古宇利大橋では,維持管理費を大幅に低減し長寿命化を図った「ライフサイクルコスト」の小さい橋梁の整備を目指して,従来の50年耐用から100年耐用に取り組んでおり,塩害対策として「かぶり増+エポキシ樹脂塗装鉄筋」の二重対策を施すなど高耐久化を図っている。
また,新技術としてはエポキシ樹脂塗装PCケーブルやポリエチレンシースを採用しており,沖縄県の事業として初めて上部工コンクリート強度50Nや外ケーブル方式を採用するなど,新たな技術の活用に積極的に取り組んでいる。
古宇利大橋で採用された塩害二重対策やエポキシ樹脂塗装PCケーブル等の技術は,その後,野甫大橋や本部南大橋など,県内の多くの橋梁で採用されている。

6 環境保全対策
古宇利大橋の位置する地域は沖縄海岸国定公園に指定されており,また屋我地島全体が鳥獣保護区に指定されているなど,自然環境の豊かな地域であり,平成5年2月施行の「沖縄県環境影響評価規定」に基づき環境影響評価手続きを行い,環境保全対策や環境監視計画が定められている。主な環境保全対策として,海洋環境への影響を考慮し,工事から発生する濁水の排出基準を沖縄県赤土等流出防止条例に規定されている浮遊物質量200PPM以下から25PPM以下に強化した。

これまで,環境監視調査を継続して行っているが,水質,騒音,鳥類調査等については概ね工事の影響は小さいとの結果となっている。
事業完了後に事後調査を行って総合的な評価が行われるものであるが,古宇利大橋における環境保全方法と蓄積されたデータについては,今後の他事業において参考となるものと期待される。

7 コスト縮減
古宇利大橋においては,コスト縮減対策の取り組みとして,技術検討委員会で検討されたPC連続V脚ラーメン橋からPC連続ラーメン橋への橋種変更や,琉球石灰岩層を支持層とする基礎工法の採用,上部工内外ケーブルの併用による桁製作費の低減などを行った。
特に琉球石灰岩層を支持層とする基礎工法の採用では,杭長を最大で約20m短くするなど,全体で37億円程度のコスト縮減が図られた。

8 修景・景観
平成11年度に「修景検討委員会」を開催し,古宇利島および屋我地島,周辺地城の歴史,文化,風土,自然景観等を考慮して,デザインコンセプトを「神と人をつなぐ,海の架け橋」と設定した。古宇利大橋の修景計画にあたっては,このデザインコンセプトに基づき,またコスト縮減等を考慮して,各所にアクセントをちりばめ,全体としてシンプルとなるようなイメージで計画を行った。
(1) 親柱については,古宇利島の人類発祥伝説に基づいたシンボル性の高いものとし,「男柱」と「女柱」で一対とした。

(2)古宇利側橋詰広場については,そのゲート性を考慮して,古宇利島をかたどった展望広場を計画した。
(3)高欄および舗装については標準品を用い,道路照明については鳥獣保護区であること等を考慮して必要最小限とし,歩行者誘導のための自動発光タイルを歩道面に埋め込む形式とした。

9 古宇利島の振興開発計画の進捗状況
古宇利大橋の事業化に併せて,古宇利島の特性に配慮した産業振興や集落の環境整備等を実現するため,平成6年度に今帰仁村において「古宇利島振興開発基本計画」が策定されている。現在までに実施された開発計画は,水産業近代化施設整備事業や古宇利海岸施設整備事業など,すべて公共事業となっており,リゾート構想等の民間の開発事業については,バブル崩壊のあおりを受け,計画は進んでいない状況にある。
現在,今帰仁村では区長や村出身の有識者,財界人からなる「古宇利活性化推進協議会」を開催し,基本計画のフォローアップと推進を図っているところである。また,今帰仁村では,古宇利大橋の開通後橋詰広場に隣接して物産センターを整備しており,農水産物の直売やイベント開催を行う等賑わいの空間づくりを進めている。

10 工程管理
古宇利大橋は,当初計画において平成14年度完成を予定していたが,基礎工の設計検討に期間を要したこと等の理由により,事業期間を2年間延長し,平成16年度に完成した。
事業期間の延長にあたっては,平成14年度公共事業評価監視委員会において,事業継続の審議結果を受けているとともに,上部工の製作ラインの増設などの各種の対策を行い,工期の短縮に最大限努めてきたところである。

11 古宇利大橋の総括
事業の目的と整備効果については,架橋により古宇利島の生活環境の飛躍的な向上が予想される。技術的特性については,沖縄県独自の検討を行うとともに,新しい技術や工法を活用しており,その結果,新しい技術や工法が県全体に波及する効果を生んでいる。
環境保全対策については,事後調査を待つ必要があるが,古宇利大橋が実施してきた環境保全対策は県内の他現場の参考になると考える。
またコスト縮減についても積極的に取り組んでおり,今後の参考になると考える。

12 おわりに
古宇利大橋のプロジェクトとしての取り組みについて,今後他事業への幅広い展開を期待したい。
また,古宇利大橋が十二分に活用され,古宇利島の振興,地域の活性化,観光資源の開発等に大きく寄与することを願ってやまないものである。

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