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県営住宅のエレベーター付きバリアフリー工事について

長崎県 土木部
 住宅課 課長補佐
太 谷  登

長崎県 土木部
 住宅課 技師
久 田 誠 司

1 はじめに
長崎県は今,既存の県営住宅に階段室型EV(エレベーター)を設置する事業を進めている。入居者の反応も極めて良好であるため,ここで紹介したい。国の公営住宅ストック総合改善事業(個別改善)の補助を受けており,平成15年度までにEV設置37基,住戸改善405戸の実績がある。

2 なぜ今設置する必要があるのか
図ー2に過去の県営住宅の建設戸数を示す。

特徴としては,S50年代のピークが目立つということが言える。この年代は,高度成長期であり,本県においても5階建て階段室型住戸が大量に建設された。
この年代の建物は,これから到来する高齢社会に向けてのバリアフリー化がなされておらず,設備の水準も低い。そのため,躯体の耐用年限を待たずして築40年前後には建替えを検討する必要がある。
ここで将来展望として,これらの団地が築40年を経過するときどうなるか考えたい。
図ー3を見ていただきたい。

右の曲線グラフが築40年経過時の建替え物件数,破線①が本県予算の事業ラインを示す。
S50年代のピークを建替えようにも,本県予算の事業ラインを大きく超えているため,建替え対応が不可能である。しかもこのピークはあと10年ほどで一気に押し寄せてくる。
これらの年代に対し,EVの設置等,高齢社会に対応した改善を,建替事業量が比較的少ない今の時期に行い,長寿命化することで業務の平準化を図ることが求められる。
簡単にまとめると,本事業の意義は
  1.高齢者の問題
  2.財政的な問題
この2つを同時に解決することにある。
10年後には予算が不足する。解決のために残された時間は限られていることから,事業スピードを常に念頭に置いておく必要がある。

3 工事内容
(1)EV設置工事
国土交通省が開発提案募集した,低コスト型EV(4人乗り)を設置。

(2)住戸改善工事
以下のとおり。

3.1 EV設置方法について
既存の階段室型住戸にEVを設置する方法は数種類ある。効果的な方法は次表の2つに絞られる。

Aの特徴は,踊り場に着床するため,既存の階段室踊り場の腰壁を撤去するだけでEV設置可能な点である。しかし,半階の登り降りが生じるため,車イス対応とすることは出来ない。
Bについては,階段を一部完全撤去する必要があるため,住戸への出入りが不可能な時期が数ヶ月生じる。この間入居者の仮住戸が必要になる。この2タイプを以下の4つのパラメータで比較してみた。

表2の解説
(1)コスト
表ー3 コストの比較(5階建て30戸 20年間 単位:千円)(06-08)

(2)バリアフリー
Aは半階の登り降りが生じるため,車イス対応とすることは出来ない。
(3)居住性
Aは窓が開放出来て風通しが良い。
(4)事業スピード
Aは住みながら工事が出来る。Bは入居者を移転させるため,仮住戸の準備等,時間を要する。

本県では現在のところAを選択している。バリアフリーの面が完璧ではないが,以前より高齢者に優しい建物になることは間違いない。
コストや事業スピードは大切な要素である。短期間で多くの戸数を実施する上で,“安くて早い”事は必要である。また居住性も大切で,階段室型住戸の長所は残したい。

3.2 住戸改善工事
本事業のポイントは,EV設置だけではなく,この住戸改善を同時に行っている点である。
EV設置のメリットが無い1・2階の入居者にも受け入れてもらうために,住戸の改善を同時に行うことは必要である。
もちろん高齢社会に手すりや段差解消等のバリアフリー化は欠かせない。これは,65歳以上における住宅内の死亡事故が交通死亡事故を上回っていることからも言える。

4 住民への対応
4.1 事前アンケート
本工事により,家賃算定の基準の1つである利便性係数が上昇するため,家賃が1割ほど上昇する。よって,住民の同意形成が必要であった。
そのため説明会を行い,入居者の同意を求めることとしたが,高齢化に対して意識の低い若い世代から反対が出て,説明会自体が紛糾することが予想された。
そこで事前アンケートを行い,入居者の意見を十分検討することから取り組んだ。図ー7に事前アンケートの結果を示す。

賛成意見の例
 「EVがあると助かる。」
 「少々家賃が上がっても便利になるのでいい。」
 「シャワーが付くので嬉しい。」
反対意見の例
 「家賃が上がるので困る。」
 「1階なのでEVは不要。」
 「どうせなら建替えて欲しい。」

反対意見に対しては対応案を準備して説明会に臨む必要がある。そのため綿密な打ち合わせを行った。
特に低層部である1・2階の入居者の家賃上昇に対しての説明は,一番気を使うところである。

4.2 入居者説明会
説明会は,入居者の同意形成を得ることを目的として開かれた。
まず,前述の財政事情や,高齢社会の問題を入居者に説明し,この事業はどうしても必要であることを入居者の心に訴えた。
その上で,事前アンケートで挙げられた疑問点・要望点に対しての対応案を丁寧に説明した。
1・2階の家賃上昇に対しては,今まで上階の入居者が不便な状況にあっても同等の家賃を払っていたことを再認識してもらい,集合住宅における平等性への理解を求めた。
このような流れでこれまでは,入居者の同意を得ることに成功している。

4.3 工事中の留意点
EV設置と住戸改善工事のうち,入居者の関心が大きいのは,住戸改善工事である。
工事は浴室の全面改修を含め,約1週間掛かる。その間入居者の協力を必要とすることになるので十分な配慮が大切である。
入札後は施工者と綿密な打ち合わせを行い,入居者に十分な配慮を行うよう指導している。
具体的には,入居者へ工事内容をよく理解させること,入居者と綿密な日程調整を行うことなどで,そのやり方によって施工者と入居者にいい信頼関係が築かれるかが決まる。
この信頼関係が入居者の本事業に対する印象を左右するといっても過言ではない。

5 まとめ
 5.1 事後アンケート
今後の参考とするため,工事の種類ごとに事後アンケートを実施した。
全体として良い評価を受けたと考える。EV設置は事前アンケートの結果を上まわった。

意見欄(抜粋)
 〇「EVは便利」
 〇「給湯器は沸かし過ぎがなく安全」
 〇「工事時期が2日間風呂無しでも我慢できる季節だった」
 ×「予定時間を過ぎて食事の支度に困った」
 ×「手すりの位置悪い」
手すりの設置については,約半数は不要であった。若年層中心に不要という意見が多い。また,高齢者にも取り付け場所が体のニーズに合わなかったとの意見もあった。今後,入居者の希望に合わせた施工を行えば,支持率が上がると考える。

5.2 今後の課題
現在EV設置と住戸改善で戸当たり約250万円と新築の約2割の工事費である。建替サイクル40年を60年に設定出来るとすれば,2割の投資で5割も耐用年数を延ばした計算となる。
今後さらに,イニシャル及びランニングの両面でコストの低減を図って行くことが,重要である。

以上,本県のEV設置およびバリアフリー工事について紹介した。まだ始まったばかりの事業である。他の自治体の動向にも積極的に目を向け,有効な住宅ストックの活用を目指していく予定である。

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