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熊本県営古庭坊こばぼう団地におけるユニバーサルデザインの取組み

熊本県 土木部
 住宅課 参事
今 福 裕 一

1 はじめに
熊本県では,全国に比べ,高齢化が進んでおり,本格的な少子高齢社会を迎えています。
また,人々の価値観やライフスタイルの多様化に伴って,子育てをしながら社会活動に参加する人が更に増えていくことが予想されます。
4人に1人が高齢者という社会では,建物の利用者の多くが高齢者ということも考えられるため,年齢とともに低下する身体機能を感じさせない配慮や介護のしやすさに配慮した建物づくりが必要となってきます。
そこで,熊本県では,平成14年2月に「くまもとユニバーサルデザイン振興指針」を策定し,県民,企業・団体,行政等のパートナーシップによって県全体でユニバーサルデザイン(以下「UD」という。)を推進していくことができるように,その進むべき方向とそれぞれに求められる役割等を明らかにし,UDの推進を図っているところです。
その一環として,平成13年度から着手した県営古庭坊(こばぼう)団地の建替事業についてはその計画段階から,本県が進めるUDの考えをできる限り取入れ,いくつかの試みを行ったので,その取組みについて紹介します。

2 古庭坊団地建替事業の概要
古庭坊団地は,熊本市の中心部から東へ約1kmのところにあり,戦後の著しい住宅不足解消の一環として,昭和25~26年度に建設されたもので,建設から50年以上経過し,躯体・設備の老朽化が著しく,最低居住水準に照らし合わせても良好な居住環境とは言えないため今回の建替に至ったところです。(表ー1参照)

3 UDによる建物づくり
(1)基本姿勢
本県が進めるUDでは,プロセス(過程)を重視し,次の3つを基本姿勢としています。(図一1参照)
① 「対話によるデザイン」
建物づくりの一連のプロセスのなかで,いつどのような方法で,だれを対象にニーズを把握するのが効果的かを考えます。
② 「さりげないデザイン」
だれもが自然に使える計画かどうか,「すべての人に簡単」,「すべての人に快適」,「すべての人に安全」,「すべての人と状況に柔軟」という4つの視点で設計を進めていきます。
また,その際には,利用者の意見を聴き,計画に反映させていくことが重要となります。
③ 「追い求めるデザイン」
機能性,操作性,価格妥当性等の面からもっと良い計画はできないか十分検討を行います。
以上を基本姿勢とし,今回の計画を進めていきました。

(2)UDの取組み概要
古庭坊団地における実際のUDの取組み内容について説明します。
① 住まいやすさの追求
アプローチ通路から住戸内に至るまで徹底した段差解消を行っています。
また,玄関(一部を除く)及び住戸内の建具は引戸を,スイッチ類はワイドスイッチを採用し高さも統一しています。
② 住戸内事故の防止
火傷や浴室内での転倒防止等を図るため,サーモ付き水栓・低床ユニットバスの採用や手摺を設置しています。

③ フレキシプルな対応
入居者の状況に応じ,洗面台や押入の中間棚(3段階)は,高さ調整が可能です。(写真ー3参照)

④ 将来の変化への対応
手摺設置用壁面補強,緊急通報空配管等将来の居住環境の変化に対応するための配慮を行っています。
⑤ さりげないデザインヘの配慮
避難の際を考え,各階のエレベータ付近に避難・待機できるスペースを設けています。

(3)ハーフメイド方式の採用
重度身体障害者世帯向け住戸(常時車いす利用者のための住戸・7戸)については,入居予定者参加のハーフメイド方式を取り,入居予定者とのヒアリングや実地検証を繰り返しながら設計・建設を進めました。ハーフメイドとは,住戸内の間取り・設備機器等を入居者の意見を取り入れながら整備する方法で,入居者の生活状況に合わせた住まいづくりであると言えますが,本県としては初めての取組みでもあり,試行錯誤を繰り返しながら作業を行ったというのが現状です。
今回のハーフメイドに関しては,まず取組んだのが,担当職員・設計者・施工者による高齢者・障害者の疑似体験でした。実際に車いすに座り,その視線の高さ・手の届く範囲・操作性の良い寸法等を体験し,入居者とのヒアリングに備えました。
次に,入居予定者の住居,あるいは普段利用されている施設等を訪問し,身体状況や生活の現状,あるいは苦労している点等を調査し,叩き台としての平面プランを練りました。
ある程度平面プランが固まった段階で,住戸計画の説明を入居予定者に対して行いましたが,2次元の図面を用いて空間を説明することの難しさ,あいまいさを実感することとなり,「実物」の必要性を強く感じました。
そこで,工事施工者の協力を得て,現場事務所に実物大模型(モックアップ)を作ることにしました。特に,水廻りにおける空間構成が各人多様でしたので,これまでのヒアリングを通して得た内容でトイレ,洗面所,浴室を作り,ここに衛生機器・各種設備類・手摺・スイッチ・コンセ ント等を配し,加えて玄関扉の引手やドアスコープ,鍵,インターホン,分電盤や緊急呼び出し装置等も壁面に配置し,器具そのものの使い勝手や設置位置等について実地検証を行いました。これにより最終的なプランを確認し,ようやく入居予定者のニーズを引き出せたと考えています。

このような意味で,今回のハーフメイドの取組みは,しつかりとしたプロセスを踏んで,対話を通したモノづくりが実現できたと考えています。(図ー2参照)

4 その他の新たな取組みについて
(1)防犯対策
平成13年3月に国土交通省が警察庁と連携し「共同住宅の防犯上の留意事項」及び「防犯に配慮した共同住宅の設計指針」が策定され,本団地においては計画段階から県警と連携し,その指針に準拠した計画としています。防犯のモデル団地として本県の県営住宅では初めての取組みであり,今後民間への波及を期待しています。
① 住棟配置,動線計画
共用玄関は,周囲からの見通しが確保された位置にあり,人の顔行動を明確に識別できる程度以上の照度である50ルクスを確保する等防犯性を確保しています。(図ー3参照)

② ピッキング対策
増大するピッキングの被害を防止するため,今回ピッキング対策錠及び補助錠の設置を行っています。(前掲の写真ー2参照補助錠及び2段ドアスコープが確認できます。)
③ 共用部への防犯対策
エレベータには防犯窓及び防犯カメラを設置し,共用部においても防犯性を確保しています。
④ 侵入経路の遮断
縦樋隠しやブラケット式落下物防護庇等を設置することで,バルコニー側からの侵入が困難な構造としています。

(2)県産資材の利用促進(地産地消)
「地産地消」とは,一般的には「地域で生産された農作物を地域で消費すること」をいいますが,本県では,「農林水産物をはじめ,伝統文化,健康,環境等の地域の魅力を活かすことにより,生産者と消費者の交流を通じて,より暮らしやすい豊かな生活や活力に満ちた地域の実現を目指すための取組み」と位置づけ,次の材料などを利用し,「地産地消」を図っています。
① 床材(杉,ヒノキ),造作材(額縁,建枠,巾木,廻縁他)の活用
② い草クロス,畳表の活用

5 おわりに
今回の取組みを通して,いくつかの課題も浮かび上がってきました。
一つには,公営住宅では入居予定者の要望にどこまで応えるべきなのか,その線引きが難しいということです。入居者にとって便利・使いやすい・快適なことは,ともすれば贅沢とも受け取られます。また,当然次の入居予定者も存在するわけで,入居者が変わる度に大掛かりな工事を行うのではUDとは言えません。
また一つには,このような取組みをいかに継続させていくかです。担当職員が数年で変わっていく中で,ノウハウをいかにして伝えるべきかを考える必要があります。システム的なアプローチを構築し,今回の取組みで得たものを次回にフィードバックさせ,よりよいモノを作ろうとする姿勢が望まれます。
古庭坊団地は,平成15年5月に完成し,同年7月以降には入居者を主人公とした生活の舞台となりましたが,今後,入居者の暮らしやすさを検証することも,プロセス(過程)の一つと考えています。
また,今後は,今回のような建替事業ばかりではなく,既設県営住宅のストック活用やUDの民間建築物への更なる普及についても同様に図っていくことが重要な課題であると考えています。

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