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安全・安心の確保を目指した早崎防災事業

国土交通省 九州地方整備局
 大隅河川国道事務所 所長
武 士 俊 也
国土交通省 九州地方整備局
 大隅河川国道事務所 副所長
原 薗 良 和
国土交通省 九州地方整備局
 熊本河川国道事務所 工事課長
(前 国土交通省 九州地方整備局
 大隅河川国道事務所 公務第三課長)
髙 倉  直
国土交通省 九州地方整備局
 大隅河川国道事務所 建設監督官
上 村 哲 也

1 はじめに
国道220号の鹿児島県垂水市海潟~前崎間の牛根麓地区は土砂災害などの常襲地区であり、昭和49年より異常気象時の通行規制区間に指定されていました。
早崎防災事業は、地域のこのような通行規制を解消し、「安全で安心して通れる道路」を目指して、平成9年に開通した早咲大橋L=0.9kmを含む全長L=5.2kmで計画されました。
牛根麓地区は早崎防災事業のうち、異常気象時の通行規制が残るL=2.6kmの通行規制解除を目指し計画されたL=2.7kmの道路で、早期完成による全面通行規制解除が期待されていましたが、平成20年3月20日開通し同時に通行規制を解除しました。
ここでは安全・安心の確保のため牛根大橋の施工を中心に防災事業についてご紹介させていただきます。

2 異常気象時通行規制の概要
異常気象時通行規制区間においては連続雨量が基準値を超過した場合、通行車両の安全確保のため事前に通行規制を実施していました。
・路線名 220号
・通称名 牛根麓
・区間  延長L=2.6km
   (自)垂水市海潟新道(162km600)
   (至)垂水市牛根麓(165km200)
・交通量 6,073台/日(2005年道路交通センサス)
・気象等の基準値
 ① 連続雨量が150㎜に達した場合
 ② ボラ(軽石類)流出の恐れがある場合
・気象観測所
 (テレメーター)牛根麓雨量観測所
・管理    国土交通省大隅河川国道事務所 垂水国道維持出張所

写真-1 国道220号164km200付近
平成17年9月の台風14号による災害
(霧島市方面を望む)

写真-2 国道220号165km200付近
通行規制状況(垂水市街方面を望む)

3 地域の声
牛根麓地区は自然災害による通行止めが多発し通勤、通学等日常生活に大きな支障をきたし長年の課題となっていました。

・地元漁協協同組合理事
 「安全面、経済面ともに牛根麓地区の完成に期待。」
・地元小学生
 「安心して通れる道路がいいな。」
・地元公民館主事
 「地域全体で1日も早い完成を願っています。」
・地元農業協同組合職員
 「災害時の不便な生活とサヨナラできる日が楽しみ。」
一例を示しましたが地元の強く熱い要望や小学生などの夢の実現に向け事業を進めてきました。

表-1 過去10年間での牛根麓地区の通行規制時間

4 早崎防災事業の概要
・路線名  国道220号早崎防災牛根麓地区
・事業区間 (自)垂水市海潟
      (至)垂水市牛根麓前崎
・延長   L=2.7km
・幅員   (一般部)W=11.5m
  W=3.0(歩道)+1.0+3.25+3.25+1.0
     (橋梁部)W=11.0m
  W=3.0(歩道)+0.75+3.25+3.25+0.75
・構造規格 第3種2級
・設計速度 V=60km/h
・車線数  2車線

図-1 位置図

5 事業の経緯
昭和53年  調査着手
昭和59年  事業化(早崎防災L=5.2km)
平成4年度  早咲大橋工事着手L=0.9km
平成9年度  早咲大橋 完成・開通
平成10年度  早崎防災早崎地区
        L=1.0km規制解除 
平成11年度  牛根大橋下部工工事着手
平成14年度  牛根高架橋下部工工事着手
平成19年度  早崎防災牛根麓地区
        完成・開通  L=2.6km規制解除

6 牛根大橋の概要
牛根大橋は、架設現場近郊の桜島の景観性、環境、経済性、施工性、維持管理などの様々な観点から下部工位置、上下部形式の選定を行い、橋長381m、中央径間260mの3径間連続バランスドアーチ橋を採用している。中央径間長は、バランスドアーチ橋のなかで九州で第1位、全国で第3位の規模である。
平面線形は曲線半径200mのS字であり、縦断勾配は3.2%の終点側に向けて下り勾配である。
上部工構造についてアーチ部分はバスケットの取っ手に例えることからバスケットハンドル形式としてライズf=45m(ライズ比1/5.8)である。
補剛桁は、2箱桁+1縦桁となっており、中間支点の水平力のバランスを取るために両側の側径間をRC床板、中央径間を鋼床板としている。支承はピボット支承である。

図-2 牛根大橋の側面図

図-3 アーチ部分の標準横断図

下部構造は、A1橋台はラーメン式(箱式)橋台、P1、P2橋脚は壁式橋脚、P3橋脚は張出式橋脚の4基からなり、基礎はいずれも場所打ち杭とし、A1~P2は国内最大級のケーシングマシンでの施工となる杭径φ3,000㎜を採用している。

7 下部工工事について
下部工工事は、桜島の溶岩流で埋め尽くされてできた空隙の多い特異な溶岩質地層での工事となり、下部工工事途中において①工事用道路の法面にクラックが発生、②仮設擁壁の沈下、③仮設桟橋の変位などP1橋脚部付近の地山の変状が生じたため、学識経験者などからなる検討委員会を設置し対策検討を実施した。

写真-3 法面クラックの状況

委員会による検討を経て、①地山のゆるみを狭い範囲に抑える工法への変更、②地山の変状に影響の少ない手順への変更、③以後の変状に対応できる補強を実施するなど工夫し工法、作業手順の見直しを行いながら慎重に工事を進捗させた。

図-4 地質資料

図-5 仮設擁壁の補強対策

また、基礎杭の施工においても火山灰質砂礫の細砂などの圧密によるケーシングの回転停止を防止するため、試験施工を実施するなど問題解決を図り難航した下部工工事を完成させた。

写真-4 A1橋台場所打ち杭施工状況

8 上部工工事について
上部工工事は、橋梁メーカー3社によるJVで、桁製作は広島、和歌山、千葉のそれぞれの工場で製作し、鹿児島市谷山港付近の作業ヤードで地組立てを行った。
桁の架設については、起点側、終点側、中央径間の順番で3つの大ブロックを国内最大級の起重機船(4,100t吊り)で架設した。

写真-5 地組立て完了状況

図-6 架設ステップ

写真-6 起重機船『海翔』による運搬状況

写真-7 中央径間部一括架設

吊運搬は、地組ヤードから架設現場まで、桜島を迂回する経路であり、距離は約35km、約7時間を要した。

図-7 起重機船での運搬経路図

吊運搬時の安定性の検討やフェリー航路など多くの海事関係機関との事前の周知PR、協議調整に時間を要した。
本橋は、アーチリブと補剛桁の隅角部に大ブロック継手を設けていないため、多くの閉合仕口を有しており極めて高い部材精度が必要となり、地組立て時の3次元計測のほか、様々な変形影響解析を行い、各仕口面が合うための事前検証を綿密に実施した。
径間のバランスの関係で、中央径間架設時、端支点部に負反力(40~180tf)が生じるため負反力対策設備を設け、桁と地盤をジャッキ及びグランドアンカーで固定した。架設ステップにより、負反力値と変位が変動するため集中管理し工事の安全に努めた。

写真-8 中央径間ブロック側

写真-9 側径間ブロック側

図-8 負反力対策設備のイメージ

写真-10 負反力対策設備

図-9 中間径間ブロック架設後の変形図

図-10 中間支点の水平力導入

アーチ橋の構造特性であるアーチリブへの軸力を導入するため中間支点に750tの水平力を導入した。同時に端支点の負反力を解消、完成時のキャンバー調整を実施した。
中間支点部の鋳鉄製の支沓部に850tジャッキを2基設置し、支沓下面を水平移動させた。

写真-11 中間支点水平力導入設備

9 おわりに
当該工事は、桁の地組立て場所及び現場架設作業において2,000名を超える見学者を幅広く受け入れてきました。地元小学生から建設業関係者までの現場見学をはじめ、桁架設時の一般の方を対象に見学会を実施するなど土木教育、研修の場としての役割を果たしてきた。

写真-12 牛根大橋(起点側を望む)

牛根麓地区の工事が完成し道路の開通により、2.6km区間の異常気象時通行規制区間が解除され、安全で安心して通行することができ、通行規制時の孤立集落が解消されることとなった。
また、主要幹線道路として、地域の活性化、産業、観光の発展に重要な役割を果たすことが期待される。

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