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ダムコンクリート打設工程への影響を小さくする
高圧ゲートの据付事例紹介
九州地方整備局 十時信忠
九州地方整備局 黒田浩章
1.はじめに

嘉瀬川ダム建設事業における常用洪水吐設備(コンジットゲート)(以下、本設備)は、国内で5指に入る高圧、大容量の高圧ラジアルゲートで、洪水調整を行う放流設備(高圧ラジアルゲート)である。本設備のうち、放流管及び整流板は平成20年5月に現地据付を完了した。このクラスのゲートで放流管及び整流板の据付には通常3箇月程度掛かり、コンクリート打設工程に大きく影響する。
本設備の据付では、ダム上流部に設置した組立ステージを利用して放流管及び整流板の組立を行い、コンクリート打設面が据付標高に達した時に油圧ジャッキを使用して一体引込み(以下、本工法)をすることで、ダム堤体内所定位置に据付を行った。これにより、2門分の据付を3日程度で完了できた。
本稿は、嘉瀬川ダム建設において目指しているコンクリート打設休止期間の縮減(コスト縮減)に大きく貢献することができたので、本工法について概要を紹介するものである。

2.工事概要

嘉瀬川は、脊振山系に源を発し佐賀平野を南流して有明海に注ぐ、流域面積約368km2、幹線流路延長約57kmの1級河川であり、その流域は県都佐賀市を含む3市にまたがり、古くから流域の社会、文化の基盤となっている。
嘉瀬川ダムは嘉瀬川の上流部、佐賀県佐賀市富士町に建設中の多目的ダムで、総貯水容量7,100万m3、堤高約97m、堤頂長約460mの重力式コンクリートダムであり、洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい用水、都市用水の供給、並びに発電を目的としている。昭和63年に建設事業に着手し、平成6年に付替道路工事に着手、平成17年9月に基礎掘削を開始、平成19年10月から本体打設を行っており、平成23年度のダム完成を予定しているところである。
嘉瀬川ダムの諸元を、表-1に示す。

嘉瀬川ダムの洪水調節は、ダム地点における計画高水流量2,200 m2/s のうち、1,370 m3/s を調節して、830 m3/s の放流を行う計画である。
本設備の全体一般図及び諸元を、それぞれ図-1、表-2に示す。

3.本工法の特徴について

(1)本工法の特徴
組立ステージからの一体引込みによるダム本体建設工事に係るコスト縮減を目的とする。
従来工法では、堤体コンクリート打設で通常使用するケーブルクレーンにより直接、放流管及び整流板を吊込み、堤体内に設置した高ステージング(本工法据付架台より、架台高さが打設休止期間を見越し、大きい。)上にて溶接及び据付を行う。
本工法では、堤体上流部に設置した組立ステージ上において、放流管、整流板、予備ゲート重構造戸当り及び据付架台を溶接及び組立後、油圧ジャッキで堤体内へ横移動し、据付する。従来工法の様に、ケーブルクレーンを使用しないため、土木工事との調整が不要となる。堤体内で高ステージングの組立及び溶接をしないので打設休止期間が短縮される。

(2)施工手順
        

  1. 堤体コンクリート打設(土木工事)面が据付標高に達する前に、以下機械工事準備作業に取り掛かる。    
  2. EL.228.5堤体打設完了後、芯出し、測量を行い、堤体内に引込みレール架台を設置する。    
  3. 放流管及び整流板溶接完了後、外部足場を解体する。    
  4. EL.230.5堤体打設完了後、芯出し、測量を行い、堤体内に引込みレールを設置する。    
  5. 組立ステージ上に引込みレールを1号側に設置。また架台下部に横ずれ防止のためのガイドローラ(チルタンク)を設置する。    
  6. EL.231.5堤体打設完了後、1号側に引込み橋を吊込み、設置。引込み機材(油圧シリンダ、ポンプ)を所定の位置に設置し、油圧ホースで各機器を接続する。    
  7. 放流管及び整流板の一体引込みを開始。引込み作業は架台下部に取付けた油圧シリンダを操作することにより、放流管及び整流板を移動させる。(1回の移動量は1m弱程度)    
  8. 1号側放流管及び整流板の堤体内への引込み作業完了後、引込み機材及び引込み橋、組立ステージ上の引込みレールを2号側へ移設する。    
  9. 同様の手順で、2号側放流管及び整流板の一体引込みを行う。
施工フロー、施工図及び写真を、それぞれ図-2、図-3、写真-1から4に示す。

(3)他のダムにおける打設休止期間の実績
同じような形式のダムで打設休止期間がどれくらい掛かっているかを比較してみると、従来工法において、常用洪水吐設備の据付に伴うコンクリート打設休止期間は、近年の実績で概ね30 日から55 日間程度である。

(4)コンクリート打設休止期間の縮減効果
従来工法の場合、常用洪水吐設備の設置されるBL17・19の打設休止期間は30 日程度であるが、本工法では零となり、30 日間短縮された。
なお、組立ステージは、BL15の選択取水設備及びBL18の水位維持主放流設備の溶接及び組立にも用いた。それに伴い、打設休止期間が50日程度短縮された。
本工法は、打設休止期間の縮減のみならず、上下作業の低減及び据付工程上の錯綜低減の観点から、優れていると言える。

4.おわりに

堤体上流部に設置した組立ステージを利用して放流管及び整流板の一体引込みをすることで、ダム堤体内所定位置に据付を行った。コンクリート打設休止期間の縮減に大きく貢献することができた。
最後に本工法の実施に当たりご助言、ご協力をいただいた関係者の皆様に謝意を表します。

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