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天建寺橋で採用した新技術について
一 高品質化・工期の短縮・省力化を目指して一

佐賀県土木部道路課
 橋梁係長
小 野 龍 太

1 はじめに
一般県道西島筑邦線の天建寺橋は,九州一の大河筑後川を渡る橋として,昭和29年に架橋され,その後歩道橋が併設されている(図ー1)。
現橋梁は,佐賀県東部と久留米市南部や筑後地方を結ぶ幹線道路の一つとして,佐賀,福岡両県の産業,経済,文化の交流発展に寄与してきた。
しかし,架設後40年を経過して老朽化が著しく4tの重量制限や幅員が4.2mと狭く交通量の増加,車両の大型化に対応できないなど県道としての機能が低下し,架替えが強く望まれていた。
このため,平成3年度から天建寺橋の改築事業に着手した。建設省から平成4年度には「マイロード事業」に,6年度には「交流ふれあいトンネル・橋梁整備事業」に認定されている。

2 設計の概要
平成3年度に「天建寺橋景観検討委員会(田島二郎委員長:田島橋梁構造研究所長)」を設置し,筑後川の雄大な曲線や周辺の平坦な自然景観との調和,地域社会のシンボルとして親しまれる,地域の開発や振興に寄与するなどの観点から3径間連続PC斜張橋を選定した(図ー2)。

景観検討委員会に引き続き平成4年度には「天建寺橋技術検討委員会(池田尚治委員長:横浜国立大学教授)」を設置し,構造物の高品質化や工期の短縮,新しい工法の可能性を探り,建設業共通の課題である良質な労働力の確保,施工の平準化,省力化による生産性の向上を図ることを目的に技術的検討を行い,①プレキャストセグメント工法の採用,②外ケーブルの使用,③高強度コンクリートの使用を決定した。
また,基礎のケーソンは無人化工法を採用した。
橋梁の概要(図ー3)
 ・橋梁規格:第3種第3級 B活荷重
 ・橋梁形式:3径間連続PC斜張橋
 ・橋  長:426.0m
 ・支間長 :102.7m+219.0m+102.7m
 ・幅  員:車道2×3.0m 歩道2×2.5m
 ・斜材形式:準ハープ形2面吊り
 ・主塔形式:準H型RC構造
 ・基礎形式:壁式橋脚(P1,P2
       ニューマチックケーソン基礎
       逆T式橋台(A1,A2
       場所打ち杭基礎

3 技術的特徴
(1)NPC(New Pneumatic Caisson)工法
本橋には2基のケーソンがある。このうちP1ケーソンは低水位に位置するため仮桟橋を使用し,一重締切りの築島上より施工することにした。しかし,在来工法では1渇水期内での工期が厳しいことから,工期短縮のため新工法のNPC工法により施工することにした。
NPC工法は,建設省が平成2~6年度に実施した総合技術開発プロジェクト「建設事業における施工新技術の開発」の一環として,㈶先端建設技術センターと民間会社との共同研究・開発された工法で,ニューマチックケーソン工法の函内における掘削工と揚排土工を無人化・自動化した全く新しい工法である。
掘削には在来の無人化工法と同様に地上遠隔操作による天井走行式掘削機での函内掘削システムを用い,排土には新しく開発された自動制御によるテレスコ式クラムシェルバケット方式の土砂積替えシステムおよび自動化した地上搬出システムを用いている(図ー4)。

本工法の特徴として
① 一般に断面積150m2以上,深度25~50m程度のケーソンに適用可能である。
② 最深部でも10m3/時(地山)の掘削土搬出が可能であり,大深度になるほど従来工法より効率的で,工期を短縮できる。
③ 自動制御遠隔操作により,圧気下での作業環境から解放され,大深度でも安全で確実な施工が可能である。
などが挙げられる。
NPC工法の初の実工事であったため,各装置の組立や制御センサーの誤作動などにより多少の時間を要したが,当初計画どおりに一渇水期内で工事を完了できた。

(2)セミショートラインマッチキャスト工法によるプレキャストセグメント工法
プレキャストセグメント工法で主桁製作を行う場合,下部工施工期間中に主桁セグメントの製作が可能であり,主桁セグメントの架設期間が工程のクリテイカルパスとなる。これに対し場所打ち工法の場合,コンクリートの打込み,養生期間も含めた架設期間が必要となり,主桁架設日数で比較するとプレキャストセグメント工法に対し約2倍の工程となる。
また,時短・休日への対応を考えると,場所打ち工法は,天候・工程に左右されるが,プレキャストセグメント工法は,計画的な施工が可能である。こうしたことから,本橋の上部工施工にプレキャストセグメント工法を採用した。
主桁セグメントの製作方法としては,大別して,1径間単位で製作台を用意し,セグメントの製作を行うロングラインマッチキャスト工法と1ブロック分の製作台・型枠を用意し,1ブロックずつ製作を行うショートラインマッチキャスト工法があるが,本橋梁では,両者の長所を生かしたセミショートラインマッチキャスト工法をわが国で初めて採用した(写真一1)。

セミショートラインマッチキャスト工法は,セグメント分の底版型枠と1セグメント分の側型枠および内型枠を用意し,6セグメントの製作をマッチキャスト方式で1サイクルとして繰り返すものである(図ー5)。

本工法は.ロングラインマッチキャスト工法と比較して,製作ヤードや製作設備の規模を小さくできることから経済的である。また,ショートラインマッチキャスト工法と比較して,基準(OLD)セグメントの移動とセットの回数を減らせることから製作日数の短縮と製作精度管理の省力化を図ることができる。
主桁は,130セグメントで構成されているが,佐賀県側の架設地点の近くに設けた製作ヤードで一括して製作している(写真ー2)。

(3) 外ケーブル構造
外ケーブル横造を使用するとウェブおよび下床版を薄くできるため断面の軽量化を図ることができる。また,プレキャストセグメント化することにより薄い部材の施工精度を高めることが可能となる。
省力化→プレキャストセグメント化→軽量化→外ケーブル構造の使用というように,外ケーブル構造の使用は,省力化には欠かすことのできないものである(図ー6)。

(4)高強度コンクリート
主桁には,部材の軽量化,耐久性の向上を図るためδck=60N/mm2を使用することにした。
しかし,本橋梁のような箱桁断面には使用した事例がないため,室内試験および現場での部分断面による施工性試験を繰り返し実施し,最終的には½縮小模型による現場施工性試験を行って配合を決定した(表ー1)。
スランプフローの管理値は,材料の分離特性とワーカビリティーを勘案して設定した。

4 耐風安定性
主桁の耐風安定性について,耐風設計便覧による検討を行った結果,本橋梁は渦励振による鉛直たわみ振動の発生が予想されるが,その振幅は許容値以内であり,安全な耐風性を有すると判断された。しかし,耐風設計便覧は,B/H(幅員/桁高)の要素についてのみの照査式であり,断面の細部の影響については検証できない。
そこで,提案のウィンドノーズ付き断面に対して2次元部分模型による風洞実験を九州工業大学の久保喜延教授にお願いした。
その結果,断面の外形状については変更の必要がないとの結論を得られた(表ー2)。

5 おわりに
天建寺橋は,平成11年3月の供用に向けて順調に工事が進められている(写真ー3)。
本橋梁が,地域のシンボルとして親しまれることを願うと共に,これまで述べてきた新しい試みが,建設業共通の課題の解消と建設技術発展の一助となることを期待する次第である。

参考文献
1)井上哲典,村岡輝男:平野部を飾る斜張橋一天建寺橋一土木施工第37巻第9号1996.9
2)井上哲典,中野正則,前田諭,赤羽隆生,阿部昭十郎:天建寺橋の下部工の施工 橋梁と基礎第30巻第10号 1996.10
3)小野龍太,村岡輝男,藤岡秀信,伊藤祐之:プレキャストセグメント工法で施工されるPC斜張橋について 第7回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム論文集 1997.10

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