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大規模災害時における被災箇所調査の効率化と官民協働のあり方
牧角龍憲

キーワード:災害復旧の効率化、災害査定、添付写真の撮り方、マンパワー

1.はじめに
わが国は地震や風水害など自然災害が不可避な地理的環境条件にあり、数多くの災害が毎年各地で発生している。その被災地においては、早期に復旧を行い、地域の安全と安心を取り戻すことが一番の願いであり、それには地方自治体の負担を大幅に軽減して速やかな復旧事業実施を可能にする災害査定(補助事業採択)の手段がある。
災害査定には、被災箇所における的確な測量調査とそれに基づく復旧設計を主とする緊急な対応を必要とするが、技術職員が少ない地方自治体にとって容易なことではない。その行政部局を支援する態様で緊急対応して早期の査定を成立させているのは、地域の測量設計業者の貢献である。
ところで、この仕組みは将来の大規模災害時においても同様に機能するだろうか。未だに被災箇所の状況調査においては多くの人手がかかる作業が要求され、さらには行政担当者の打合せ不足によるやり直しや手戻りが頻繁に生じているため、測量設計業者は地域貢献と割り切ったとしても悲鳴をあげざるを得ないような、長続きが期待できないような憂慮すべき状況が現実にある。
今回の九州北部豪雨災害に匹敵する災害が再び発生する可能性は高い。その時においても迅速な災害復旧を行えるためには、被災箇所調査等の災害査定対応における憂慮すべき状況を改善して、官民協働による災害時マンパワーの効率的運用を図るようにすることが喫緊の課題である。
ここでは、災害査定に対応する被災箇所調査の改善点と官民協働のあり方について述べる。

2.九州北部豪雨災害における災害対応
平成24 年梅雨期の大雨は、九州地方に甚大な被害をもたらし、とくに7 月11 日~ 14 日の九州北部豪雨は、被害総額で約1,900 億円、公共土木施設だけでも4,000 件以上の被害をもたらした。
この豪雨災害において、災害発生後72 時間の初動措置が極めて迅速かつ組織的に行われ、被害の拡大が防がれたことは注目に値する点である。国の関係諸機関で得られる災害情報を一元化して第一線の市町村に発信される情報の即時共有化、TEC-FORCE と災害協定締結地場企業の連携による人材・資機材調達の迅速化、国と自治体との協定締結による技術者支援の円滑化など、防災に係る様々な取組みが功を奏した事例であった。官民を問わず数多くの土木技術者が昼夜を徹して尽力したことは言うまでもない。
その中で、行政からの要請を受けて、当日もしくは翌日に被災地域に入り、その後猛暑の8月をまたぐ2 ヶ月以上の長期にわたって、災害復旧が円滑に行えるように黙々と作業を進めて貢献した技術者集団がいた。地域の測量設計業者である。
被災した地域にとっては一日も早く復旧されることが一番の願いであるが、そのためには地方自治体の負担を大幅に軽減して速やかな復旧事業実施を可能にする災害査定を経なければならない。
本災害の被災箇所数は膨大であったが、11 月半ばにはほとんどの災害査定が完了した。これは、支援した地域の測量設計業者が主体となり、休日もほとんど取ることなく早朝から深夜まで、時には徹夜をして、被災箇所の測量設計ならびに災害査定申請書作成や修正作業に尽力したことにより成立したと言って過言ではない。

3.災害査定に係る業務の支援とマンパワー
表ー1 に、平成24 年6 月22 日から7 月22 日にかけての梅雨期の大雨等による被害箇所の災害査定件数(精査中)を示す。全九州の査定件数は3,729 件という膨大な数であり、とくに大分県は1,763 件、熊本県は971 件で突出している。
膨大な数の災害査定に対する準備は、自治体の少ない技術職員だけでなし得るものでなく、地域の測量設計業者による献身的な支援があってこそ成り立ったものといえる。

表には、各県の測量設計業協会の会員数も示している。災害時に民間企業が行政に協力する場合、事前に相互間の協定締結による協力体制が整えてあれば円滑な緊急対応が可能になる。災害時における支援(又は応援)業務に関する協定は、各県の測量設計業協会と県との間で締結されており、その協定に基づいて、協会員の各測量設計業者が緊急に対応して分担箇所の調査業務を行っている。
1業者が分担する査定件数を単純平均で求めると、大分県は41 件、熊本県は16 件、福岡県は10 件になっており、早期の査定(2 か月査定)に間に合わせるためには、業者にとってかなりの負担を強いられていることになっている。とくに、広域にわたる大規模災害時の場合、近隣地域からの応援が期待できる局所的災害とは異なり、それぞれの地域内だけで対応せざるを得ず、今回はその状況にあったといえる。
また、測量設計業界は公共事業削減や競争激化の影響で体力が損耗し、社員数(マンパワー)も減少している傾向にある。このような状況下においては、業者のマンパワーを効率的に運用できるようすることが必要であり、そのためには、査定に係る業務の効率化を進めることが不可欠である。
しかしながら、被災箇所調査の現状においては、多くの人手と時間を要するとともに行政担当者との打合せ不足によるやり直しや手戻りが頻繁に生じており、業者のマンパワーを不要に損耗させる非効率さが存在している。とくに、査定設計書に添付する写真の撮影時に憂慮すべき点が多くみられる。その点について次に述べる。

4.査定設計書の添付写真の撮り方について
査定は原則として実地にて行うこととされているが、迅速な査定及び早期復旧の観点から、机上査定を最大限、効果的に活用していくことが求められており、大規模災害時には、査定の簡素化として査定限度額の拡大が実施され、机上査定が積極的に活用されている。
机上査定及び査定前に応急工事を着工する場合には、現地の被災状況を把握、確認できる写真が被災の事実を示す唯一の手段のものとなるので、設計書に添付が義務づけられている被災状況写真には特段の注意が必要であるとされている。1)
すなわち、机上査定においては、添付写真のみがその採否を決定する唯一の判断材料となるため、査定準備の担当者は添付写真の出来ばえに細心の注意を払わざるを得ない。このとき、仕様の「災害査定添付写真の撮り方-平成10 年改訂版-」2) の内容には工夫を求めている事項が多く、その結果、担当者の裁量による判断で測量設計業者に過剰な要求がなされているのが現状である。

5.災害査定添付写真の現状と問題点
(1)河川被災箇所の添付写真
全景写真(図ー1)、横断写真(図ー2 及び図ー3)の例を示す。これらは、特異な災害査定の場合ではなく、一般的な災害査定における写真である。
全景写真は、被災箇所の全延長が分るように、起終点には必ずポールを立て、且つ距離が判別できるようにリボンテープを張って撮影することになっている。このとき、テープがたるまないよう5 m毎に1 名配置とした場合、図ー1 に示すように、長い延長ではかなりの人員を要することが分る。
「災害査定添付写真の撮り方」には延長15mで起終点の2 名配置の例や10 m毎に1 名配置の例が示されているが、担当者が厳格さを求めて短い間隔での配置を指示した場合には、多くの人員を要することになり、その人員確保は容易でない。
範囲を示す起終点のポールは不可欠であるが、支援業務においては縦断測量が行われることから、リボンテープによる距離の判別に厳格さを求める必要性は低く、改善すべき点と考えられる。
横断写真は、復旧工法を検討するために重要な写真であり、ポール・リボン・スタッフ等を用い、横断地形が容易に判断できるよう工夫することになっている。このとき、河川被災箇所においては、河川に浸かってポールやテープを保持するための人員を配置する場合(図ー2)があり、危険な状態での作業を伴うことになる。また、河岸や護岸など変化点が多く、図ー3 に示すように、少なくとも5 ~ 10 人の人員を要する場合がほとんどである。
横断写真において、横断実測図作成が行われて被災状況が的確に表されていることから、人が危険を冒してまで保持しなければならないポール等を用いた写真の必要性は低いと考えられる。

(2)山腹被災箇所の添付写真
全景写真において5 m毎に1 名配置とした場合、図ー4 に示すようにかなりの人員を要することが分る(延長51.5 mで10 名)。通常の道路改良などにおいては測量によって距離が判別されており、その測量を行う測量設計業者が被災箇所の調査を実施することを考慮すれば、リボンテープによる距離判別は絶対的に必要なものではない。最新の測量技術を用いれば、わかりやすく距離を判別できる指標を写真に表示することは十分可能である。
横断写真は、測点や地形の変化点等、主要箇所の横断状況を表すことになっている。本例の場合、11 箇所それぞれにおいて図ー5 に示すような人員配置で測定しており、危険な場所で多人数が長時間にわたって作業する状況が強いられている。
この場合も横断実測図作成により、多大な時間と労力を要するポール横断写真でなくても、長さと位置関係が分る指標を組み入れた横断写真で状況は十分把握できると考えられる。時間の大幅な短縮はマンパワーの効率良い運用につながる。

(3)法面被災箇所の添付写真
崩壊法長が大きい法面の横断写真を撮る場合、階段状にポール等を用いて断面の水平距離と垂直高を示し、地形の変化点があれば変化点にポールをたてることになっている。
このため、擁壁等の設置構造物も同時に変状を呈しているなど、地形の変化点が数多くある被災法面の場合、短い水平間隔で多段になるようポールを配置せねばならず、多くの人員が必要になる。例えば図ー6 の場合、9 人の人員を水平距離1.5m平均の間隔で配置していることになる。
この場合も前述と同様に、横断実測図が作成されて被災断面が数量的に把握されていることから、ポール横断写真による測定の必要性は低く、それぞれの位置関係が分る指標を組み入れた横断写真で状況は十分把握できると考えられる。

6.災害査定業務の効率化を支援する新技術
国土交通省水管理・国土保全局防災課より、Photog-CAD を使用した模擬査定を実施して災害査定に活用できることを確認し、災害査定において使用することに支障なしとする趣旨の通知文「災害復旧効率化支援システム・Photog-CAD の災害査定での使用について」が、平成24 年10 月22 日付けで各都道府県及び政令指定都市の災害復旧事業担当課長宛に発出された。
Photog-CAD(フォトジー・キャド)は、家庭用デジタルカメラを用いる写真測量技術とCAD の機能を融合した技術で、現地測量から査定設計書の作成まで一連の災害査定申請業務の流れを効率的に行える支援ツールとして、一般財団法人日本建設情報総合センターが開発したソフトウェアである。
この技術は、被災箇所の写真を3 方向から1 枚ずつ撮影するだけで写真測量機能により横断図を作成し、CAD 機能で復旧工事の設計と積算が効率的に行えるものであり、ポール横断の撮影など現地の測量が大幅に省力化されることになる。前述の通知文は災害査定の効率化につなげるための趣旨といえる。
また、災害時の緊急対応においては、どこでも入手可能な道具を使えることや誰でも使いこなせることが肝要であるが、その点からも本技術の簡便性は高く、普及がおおいに期待される。

7.被災箇所調査における官民協働のあり方
(1)災害対応における官民協働の認識
被災箇所調査を効率的に行うことは早期の査定につながり、それにより速やかな災害復旧が行える。したがって、行政担当者は査定申請者として被災直後から調査に取りかかることが望ましいが、地方自治体の土木職員の数(行政のマンパワー)は少なく、現地に束縛される被災箇所調査を行う余裕はないのが現状である。
そこで、地域の測量設計業者に緊急支援を要請して被災箇所調査を委託するものであるが、このときの両者の関係は、常時における発注契約時の関係とは異なり、行政がすべき役割を分担して担う協働関係であると認識すべきである。業者の協力なくして早期査定は成立しないのが現実であり、業者は査定申請業務に重要な役割を果たしてくれる相方であるとして認識する必要がある。
なぜなら、災害時は緊急対応であるため通常の定まった仕様に基づく契約関係にないがために、ともすれば一方的に業者に負担を強いるような設計変更等の過ちをおかす可能性が高いからである。
しかしながら、現状では業者に一方的に負担を強いる場合が多くみられ、その点を改善することが効率化を進めるに不可欠であると思われる。
(2)事前の方針決定と指示の一貫性
被災箇所の判定(箇所判定、起・終点位置など)や、被災状況写真撮影、復旧工法選定などは、被災箇所の行政担当者の裁量に負うところが大きく、これは通常時の発注仕様に匹敵する。したがって、被災箇所調査を開始する前に担当者は方針を明確に示しておく必要がある。
しかしながら、担当者は被災直後の多忙さから業者任せで開始させている場合が多く、結果として極めて非効率な「やりなおし」が生じている。
また、担当の所管が変更になった場合にも考え方の相違による「やりなおし」が生じている。
このような理由により、災害査定申請書作成業務における設計変更や修正指示が、非常に多くの頻度で発生しており、業者のマンパワーを奪い、作業員の疲弊を増大させている。また、設計変更は受注額に反映されないため、受注業務としては赤字になる要因になっている。効率化を進めるためにも、行政担当者による事前の方針明示と査定終了までの担当固定化が必要である。
この点について、中野は平成22 年7 月宮崎県豪雨災害における大規模災害時応援体制の検証結果から、「被災直後から査定終了まで同じ応援職員が一貫して支援する方が良い。」と報告している3)
また、平成22 年災害査定官座談会においては、「手戻りや時間ロスを少なくするには、事前に方針を決め、途中途中での事務所担当者と業者との打合せ、所内での担当者と上司のチェック確認を充実させる必要がある」、「発災から申請までを振り返り、事務所と業者の役割分担、事務所担当者と上司の役割分担、どの時点で誰が何を指示して何を確認するかなど、具体的に行った内容を再確認するのが必要」などの発言がなされている。4)
(3)過度な負担の抑制と打合せの必要性
災害査定のための写真撮影は、多くの人手がかかる上、行政担当者の裁量的判断により、何度も取り直しを指示される場合が多くあり、業者側の最大の負担要因になっている。
例えば、被災箇所の全景写真では5m 毎に1 名配置のため、延長40 mで10 人以上の人員が必要であり、再撮影が例え1ヶ所であっても、10 人超の人員を1 日拘束することになる。
被災箇所は足場が悪く危険であり、撮影位置が限られることも考慮して、再撮影が過度な負担にならないよう、担当者は事前の打合せを十分に行うとともに適切な指示を出すことが必要である。

8.おわりに
時代の流れに伴って土木技術者のマンパワーが減っているにもかかわらず、対応せねばならない豪雨災害など自然災害の規模は変わっていない。そのようななかで、1 日も早い災害復旧を実現するためには、量は少ないが質は高いマンパワーをいかに活用できるか、いかに効率よく運用できるかが大事である。
組織を越えて災害に対応する連携が機能し始めた昨今、その良さをさらに拡大して、様々な技術者集団が気持ちよく力を発揮できる官民協働体制を整えることは夢ではない。

参考文献
 1) ( 社) 全日本建設技術協会:平成24 年災害手帳
 2) 災害復旧工法研究会:公共土木施設災害復旧の災害査定添付写真の撮り方-平成10 年改訂版-
 3) 中野道成:2010 年7 月豪雨による災害と大規模災害時の応援体制について、九州技報第49 号、2011.7
 4) 平成22 年災害査定官座談会、防災第729 号、2010.3

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