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小石原川ダムにおける
施工CIMの活用と維持管理CIMの開発

独立行政法人水資源機構   
朝倉総合事業所 調査設計課主幹
宮 崎 智 也

キーワード:小石原川ダム建設事業、CIM、施工、管理

1.はじめに
小石原川ダムは筑後川水系小石原川、福岡県朝倉市に建設中の、洪水調節、流水の正常な機能の維持(異常渇水時の緊急水の補給を含む)、新規利水を目的とした多目的ダムである。堤高 139m の中央コア型ロックフィルダムであり、平成 28 年 4 月にダム本体建設工事に着手し、令和元年12 月に試験湛水を開始した。
独立行政法人水資源機構(以下「機構」という。) では、近年著しい情報通信技術の進展を背景として、生産性の向上、作業効率化・省力化及び高精度の品質確保を目指し、設計・施工から管理までを一連とするi-Construction & Management に取り組んでいる。小石原川ダム建設事業において、機構として初めて本格的な適用を行っており、設計段階において発注者が運用する CIM を構築し、施工段階での利活用と管理段階への発展を目指した検討を進めてきた。
本稿は、これらの中から主な取組事例について報告するものである。

2.小石原川ダムの CIM モデル
2.1.概要
平成 27 年度から開始した小石原川ダム本体工事の発注手続きと並行して、ダムにおける設計・施工・維持管理の一貫した CIM の活用方法の検討を開始し、平成 29年3 月の「CIM 導入ガイドライン(案)」(国土交通省 CIM 導入推進委員会) の公表に先行して、3 次元モデルに各段階(設計、施工、維持管理)で得られる属性情報を付与できる CIM を構築した。

施工段階における CIM は、2 次元図面を基に地形、堤体、各種構造物等を 3 次元にモデル化し、種々の施工記録を集積し、その後の施工・工事監督に活用するものとした。3 次元モデルには、属性情報を外部参照として関連付けるリンクを構築し、基礎処理工及び盛立工においては、一部属性情報を直接付与することにより、モデル上で検索・抽出等を可能とする機能も加えている。
維持管理段階における CIM は、主に竣工後のモデルに、巡視・点検・計測結果を時系列的に集積し、ダムの安全性等の継続的な確認に活用することを見据えている。
施工段階と維持管理段階では、更新する情報の内容や更新頻度が異なることから、CIM システムは施工 CIM と維持管理 CIM の 2 段階に区分して開発した。

2.2.施工 CIM
道路、堤体等の土木構造物は原地形の影響を受け、それぞれに特性を持つ形状である。1 つの3D-CAD で全ての土木構造物のモデル化は困難であり、複数の 3D-CAD から土木構造物の特性に合わせて最適なソフトを選定し、モデル化する必要がある。しかし、各データ形式には、それぞれ互換性がない場合もあるため、複数のデータ形式の読み込み、モデルの軽量化、属性情報の付与が可能な Autodesk 社の製品である Navisworks を用いて、CIM を統合管理する施工 CIM システムを構築した。
なお、地形データについては、小石原川ダム貯水池周辺のみ航空測量に基づく LP データからモデルを作成しており、さらに外部の流域は国土地理院の 10m メッシュデータを使用した。

2.3.維持管理CIM
維持管理段階では、CIM を利用し各種モニタリング情報を時空間的に集約整理することで、ダムや貯水池周辺の状況を効率的に把握することを目的とした。そこで、維持管理 CIM システムは計測装置など各種モニタリングシステムとの連携を視野に入れ、Web ベースのシステムを構築した。
3 次元モデルは、WebGL(Web Graphics Library) の「Three.js」を利用し、施工 CIM システムと同様に設計・施工で作成された CIM モデルを統合管理できるユーザーインターフェースを有している。
施工 CIM システムで構築したモデルや外部参照された属性情報に関しては、任意の構造物を選択するツリー構造及び外部参照されたフォルダ構成を再現する「台帳管理」機能を実装し、データを保存するものとした。次に、維持管理段階で得られる巡視・点検・検査記録はタブレット等で記録された情報を対象モデルと関連付けて保存し、時系列に整理する「履歴管理」機能を実装した。さらに、各種モニタリングシステムから自動取得される計測・観測値を CIM モデルと関連付けてグラフ化表示する「グラフ」機能を実装した。
以上のシステム構築により、管理時には取得した貯水位や堤体変形等の計測情報等と、3 次元空間上で管理される巡視・点検記録を合わせて、各施設の状況把握や異常時の迅速な対応が可能になると考えている。

3.施工 CIM の利活用
ここでは、ダム本体工事の代表的な工種として「盛立」「埋設計器」「基礎処理」に関する利活用状況に加えて、ダム管理棟の景観について検討した事例を報告する。

3.1.堤体盛立
堤体盛立に関するモデルは、コア・フィルタ・ロックのゾーン毎に区分した設計モデルのほか、施工経過に伴って、月当り、日当りの出来形をモデルとして表現した。
月当り施工量のモデルは、進捗状況の確認や説明用のツールとしての使用を目的としたものである。また、日当り施工量のモデルは、施工業者のICT 施工から得られる転圧マップから作成したものであるが、時系列の施工記録を明示するとともに日々の品質管理等の施工管理データを詳細に保存・蓄積することにより、トレーサビリティを確保することを目指したものである。
堤体盛立の施工では、近赤外線を用いた含水比監視や画像解析による粒度分布の解析が実施されており、コア材品質の連続監視の体制が確立されている。また、堤体盛立面での品質管理は、定期管理試験(現場透水試験、現場密度試験等)や施工層毎に実施する日常管理試験(乾燥密度(RI 法)、含水比等)を実施するほか、ICT を駆使して転圧回数、CCV(振動ローラの加速度応答から 得られる地盤剛性を表す指標)の面的計測を全施工層で実施している。
これらのデータをモデルの属性情報として記録し、「いつ」、「どこで」、「どのような」施工が行われたのか確認できることは、堤体観測結果の考察に資するものとなる。

3.2.埋設計器
堤体内部には、各種埋設計器が設置されており、建設中からの観測が実施されている。
施工 CIM では、この埋設計器の設置箇所をモデル上にプロットし、観測データを属性情報として保存するとともに、グラフそのものを 3 次元モデル化し、CIM 空間の中に表現することを試みた。
図- 9 は層別沈下計、図- 10 は間隙水圧の測定値をモデル化したものである。グラフは、ダム上下流方向における特定の測線に投影した準3次元モデルとなるが、例えば堤体盛立の進捗とあわせた沈下量の推移など立体的な挙動を把握するための一助となる。詳細な数値データについては属性情報から確認することができる。
前述したように、計器周辺の盛立施工時の品質管理データにもアクセスできることから、CIM を起点として、得られた観測結果の関係性を把握することができる。

3.3.基礎処理
基礎処理の 3 次元モデルにはグラウチングデータとしてルジオン値、セメント注入量等を属性情報(表- 1 参照)として直接付与し、コア写真や注入チャート、透水試験結果等を属性情報として関連付けるものとしている。
施工の進捗に応じてグラウチングデータをCIM に逐次取り込むことにより、施工情報のデータベース化に加え、断層付近における改良状況や水理地質構造に対する考察に利用し、業務を効率化することを目指した。
直接付与した情報により、例えば次数別に区分することや、一定値以上の高透水性を示したステージを限定して表示することが可能となる。条件の組み合わせによって、高透水でありセメント注入量が多い箇所、高透水であるがセメント注入量が少ない箇所といった特徴を 3 次元分布として捉えることができ、設計時における地質情報等と比較して水理地質構造を評価することに有効である。

図- 11 は、地質等断面とカーテングラウチングの施工結果を重ねて表示したものである。設計時の地質等情報は地質区分、岩級区分、ルジオン値の 3 種類があり、モデル上での切り替えや、スライドさせて並行表示することが容易にでき、関係者間での情報共有や議論するためのツールとしても活用できる。

4.維持管理 CIM の運用計画
維持管理 CIM では、施工 CIM で構築したモデル及び属性情報に加えて、新たに管理段階の計測データや巡視記録等を蓄積し、ダム・貯水池全体の情報を一元的に管理することを計画している。図- 12 及び図- 13 は維持管理 CIM システム のトップ画面から、主な機能である台帳管理、履歴管理、グラフを表示したものである。

4.1.タブレットを利用した入力システム
堤体・貯水池巡視等の情報を効率的に管理・保 存していくため、携帯性に優れたタブレットを使用したシステムを構築した。
入力用のフォーマットを作成し、現場において容易にデータ入力ができるようにするほか、GPS 機能等によりカメラで撮影した画像記録を効率的に CIM 内の該当位置に関連付けするものとして、システムの設計を行っている。また、日報等の出力フォーマットも登録し、タブレットから入力した記録は自動的に反映して確認が可能なものとする予定である。

4.2.各種手続きの更新スケジュールの管理
ダム管理の中では、定期的に各種手続き(道路 占用、河川占用等)の更新や設備の点検・更新を行うことがある。これらを維持管理 CIM システムの中にデータベースとして登録しておくことにより、スケジュールを可視化する機能を付加した。
具体的には、手続き対象構造物等の施設に関連 付けて「占用許可の内容」や「許可期限」の項目を登録フォーマットに入力することにより、維持管理 CIM のトップ画面で手続きが必要となる期限を「お知らせ」として表示するものである。画面表示には、例えば期限までの残り日数により色を区分する等の工夫をして、必要な手続き行為等を明確に認識しやすいものとした。
この機能は、「お知らせ」に表示した対象施設の位置を 3 次元モデルで把握するとともに、当該施設に蓄積している施工段階又は管理段階の属性情報を確認することで、点検計画の立案や更新の必要性評価に活用するものとしていきたいと考えている。

4.3.計測監視データの取り込みとグラフ化
小石原川ダムでは、堤体の変形計測を行うGPS や、貯水池地すべりの挙動を計測する孔内傾斜計、地盤伸縮計、地下水位計等を配置し、それぞれに自動計測機器及び通信設備を設置してデータ配信が可能な体制とした。
維持管理CIM システムでは、これらの計測データを集約してグラフ化し、表示が可能なものとした。3 次元モデルにより各設備の位置を確認するとともに、各種計測機器のグラフを相互に確認することで、立体的な挙動や関連性が捉えやすくなる。
維持管理 CIM の中では履歴管理の情報があわせて得られるため、巡視記録等との比較も容易である。また、施工 CIM に蓄積した情報へのアクセスが可能であり、例えば法面の挙動を把握したい場合には、ボーリングデータを速やかに確認することができる。
このようにして、それぞれの機能を活用・連携することで、計測監視データから得られる事象の全体像を効率的に評価することが期待できる。

5.おわりに
施工 CIM については、発注者として工事監督を行う中で、情報の整理やイメージを可視化して議論を進める材料として一定の効果が得られたと考えている。また、工事施工業者との間で 3 次元モデルを共有することができれば、施工計画を立体的に捉えて確認する等、更なる有効活用が期待できると思われる。
維持管理 CIM システムの設計については、現在、専用端末を中心として巡視等にタブレットを併用するシステムを開発しているが、試験湛水期間中に試行運用を行って改良の必要性を検討していく。そして、その後のダム管理においても継続して i- Construction & Management に取り組んでいきたい。

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