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大島大橋上部工の設計と施工について

長崎県道路公社 技術課長
本 田 好 司

三菱重工業(株)長崎造船所
 造船設計部鉄鋼橋梁設計課
 主任
熊 脇 留 行

1 架橋経緯について
本県ではかねてより,離島の生活環境の改善と経済の浮揚を図るため離島架橋事業を重点施策と位置付け,積極的に事業が推進されてきた。
ここに紹介する大島大橋(図-1)はその一環として,県本土中西部の西彼杵半島西海町太田和とその西方約1kmに浮ぶ大島町・崎戸町(図-2)を結ぶ離島架橋として,平成3年度より事業が進められてきた。
平成9年夏に下部工が,引続き施工された上部工の架設も平成11年春に完了し,同年11月11日に無事完成供用することができた。(写真-1)以下では主橋梁部上部工の概要について述べる。

2 橋梁概要
本橋の橋梁諸元は次のとおりである。
 路線名:主要地方道大島太田和線(大島大橋有料道路)
 道路規格:第3種第3級
 設計速度:V=50km/h
 活荷重:B活荷重
 基本風速:V10=45m/sec
 平面線形:R=∞
 縦断勾配:0.6%パラボラ
 橋  長:1,095m(主橋梁670m)
 幅員構成:W=9.75m(車道7.25m,歩道2.5m)
 床  版:鋼床版(t=12mm),鋼製歩道
 舗  装:車道,グースアスファルト舗装(t=7cm)  歩道,アスファルト舗装(t=4㎝)
 橋梁形式:3径間連続鋼斜張橋(主径間)
 ケーブル:ファン形式,2面吊り10段マルチケーブル方式(40本×2=80本)
 下部工形式:鋼設置ケーソン(1P~3P) 脚付鋼設置ケーソン(4P)

3 斜張橋の設計概要
主橋梁上部工(斜張橋)の設計上の特徴は次のとおりである。
(1)支間長(350m)に対し,ケーブル定着間幅員が12.5mと狭く,且つ桁高も2.5mとスレンダーな構造である。
(2)主桁の断面は耐風安定性を向上させるため側セルと中央セルから成る逆台形箱桁の両側にフェアリングを設けている。(図-3)

(3)主塔は下絞りA型の鋼製塔とし,橋軸方向の挙動に対しては,塔と主桁の間をせん断ゴムバネ形式の弾性支承で拘束することにより温度および地震時の作用力の低減を図る構造である。
(4)ケーブルは力学特性上有利なファン形式とし,耐風および全体安定性,張出し架設時の安定性向上とねじり剛性の高い2面吊りマルチケーブル方式である。
(5)ケーブル定着構造は,塔側は構造上の制約より鋳鋼製の定着桁方式とし,主桁側は逆台形箱桁の外側腹板に直接定着鋼管を割込ませたパイプ定着構造である。
(6)鋼斜張橋は可撓性に富む構造形式であり,地震時+温度変化時の橋軸方向の移動量が非常に大きくなる。このため,伸縮装置には大変形にも追従可能であり,走行性,維持管理性,経済性にも優れたマウラースイベル形式を採用した。
(7)架設工法は,主塔については橋面下と橋面上にブロック分割し,起重機船による大ブロック架設とした。また主桁については,端部から主塔に向かって3個の大ブロックを一括架設としたが,中央径間部は航行船舶条件よりケーブルを利用した単ブロックの張出し架設とした。

4 耐風安定性の検討
本橋は中央径間350mに対し,有効幅員は片歩道付2車線で9.75mと非常に細長く,耐風安定性の指標となる中央径間長Lと幅員Bの比率はL/B=36と大きい。このため,本橋の設計・施工にあたっては,表-1に示す各種試験を実施し,耐風安定性の確保に努めた。

(1)主桁
主桁断面は,両端にフェアリングを設けた偏平六角形箱桁断面を基本形状とし,二次元剛体模型により,耐風安定性に優れた最適断面の検討を行った。図-4に試験結果を示す。
断面形状の他,高欄形状,検査車レール間隔を適切に変更することにより,耐風安定性に優れた主桁断面を決定した。

(2)主塔
主塔については,完成時と主塔架設直後(自立時)の2ケースについて3次元弾性体模型を用いて照査した。完成時については,設計風速以内では有意な振動は発生しないことを確認した。これに対して自立時では,橋軸直角方向の風に対して主塔面外曲げ振動が,橋軸方向の風に対して面内曲げ振動が発生したため,制振装置による対策を実施した。

(3)主桁架設時
完成系の主桁断面については上述のように十分な耐風安定性が確保されていることを確認した。
これに対して,主桁架設時においては,①地覆高欄形状など桁の断面形状が完成系とは異なる②桁重量が完成系に比べて舗装分だけ軽くなることから別途検討を実施した。
既往の架設系風洞試験結果に基づいた机上検討の結果,架設中の主桁に発生する渦励振振幅は強度上間題となる大きさではないものの,振動の発生によって作業性に悪影響を与えることが予想された。このため,空力的に最も不安定となる閉合直前状態について写真-2に示す3次元弾性体模型を用いた風洞試験を実施した。

なお,架設機材については,空力的に影響を与えると考えられる機材は形状・重量とも再現し,その他の機材は重量による影響のみを考慮することとした。
試験の結果,図-5に示すように,机上検討で発生が懸念された架設作業に影響を与える低次の渦励振振動は発生しなかった。これは,桁先端部の架設機材を撤去した試験で振動が発生していることから,架設機材の空力安定化効果によって振動の発生が抑えられたものと考えられる。
また,高次の渦励振振動は発生するものの,架設作業に影響を与えない高風速域であり,強度的にも問題ないことを確認した。以上のことから,主桁架設時の制振対策は実施しないこととした。

5 工場製作
本橋上部工は,平成8年度に発注し,県内4業者により構成される共同企業体にて工事が進められた。工事の全体工程を表-2に示す。

(1)主塔の製作
① ブロック分割
主塔は,図-6に示すように基部ブロック2個および下部大ブロック,上部大ブロック1個ずつの計4個に分割されており,それぞれ工場にて一体組立を行った。ブロック重量は基部120t,下部520t,上部920tであり,大ブロックの製作は工場のクレーン能力の制約により先ず長さ約10m,重量約100tの輪切りブロックを製作した後,これらを地組立により一体化した。
ブロックの製作精度確保のため,地組立取り合い部は寸法計測後,端面切削を行った。

② 現地継手部の精度管理
現地架設時に不具合が生じないように,基部ブロックは下部大ブロックに地組立を行った。また上下部大ブロックの現地継手部は,後架設となる上部ブロックの工程的な制約を考慮し,上部最下段の輪切りブロック1個だけ先行製作を行い,これを下部ブロックに地組立することにより現地継手相互の精度検証を行った。

(2)主桁の製作
① ブロック分割
主桁は,図-7に示すように側径間はS1,S2大ブロック2個,中央径間はS3大ブロック1個と張出し架設用単ブロック19個に分割され,全長合計25個のブロックで構成されている。製作は,前述のようにJV4社で分割施工された。

② 主桁組立
大ブロックの製作は,先ず8~14mの輪切りブロックを製作し,これらを架台上で地組立により一体化した。また中央径間の張出し架設用単ブロックは各社毎に仮組立を行ったが,工区境の精度確保のため,相互のブロック端部の三次元計測等による数値検証を行って出来形を確認した。

6 現地架設
(1)概要
本橋は渡海橋であり,種々の架設条件より海上利用を優先し,起重機船(以下,FCと称す)による大ブロック架設を多用することで工期短縮を図った。実施においては東西方向に架橋される立地条件から,気象・海象条件が激しく変化し,特に南面は東シナ海に開け,うねりがまともに侵入するため,海上工事への影響度が大きく,工程管理は非常に厳しいものであった。
なお,斜張橋架設に先立ち,寺島側,太田和側の取付高架橋をFCにより一括架設した。
架設ステップの概要を図-8に示す。

(2)主塔下部の架設
下部工施工時に埋め込まれたアンカーフレームに主塔基部ブロックを架設し,基部グラウト施工後,アンカーボルトに軸力導入を行った。
工場より台船に平積み輸送された下部大ブロックは仮泊地にてFCにより吊上げ,反転・立て起して曳航し,その後基部ブロック上に架設した。
ジョイント作業では,下部大ブロックの自立に必要な高力ボルトを本締め後,FCを解放した。

(3)主桁大ブロックの架設
側径間主桁大ブロックの架設に先立ち,現地では直ベント(海中ベント)と,主塔付きの斜ベントの設置を行った。架設は,先ず,端支点~直ベント間にS1ブロックを架設し,次にS1~主塔間にS2ブロックを架設した。S1とS2のブロック継手はモーメント連結を採用したが,鋼床版が溶接継手であるため,鋼床版の応力を分担するモーメント連結桁を鋼床版上に設置した。同継手はS2を吊り上げたまま仕口合わせを行い,連結桁と下フランジ側の高力ボルトを架設時モーメントより定まる所要本数だけ本締め後,徐々に主塔側支点へ吊り降ろし,継手部へモーメントを導入した。
S3ブロックは,中央径間側が斜ベントで仮支持されるため,S2とのブロック継手の仕口が合うように斜ベント上の仮支承高さを調整・嵩上げして架設し,連結完了後に同仮支点をジャッキダウンすることにより継手部にモーメントを導入した。

(4)主塔上部の架設
主塔上部は本橋で最大の長い脚柱を有するA形長大ブロックである。台船で平積み輸送後FCにより吊り上げ,反転・立て起し後主塔下部ブロック上に搭載・架設した。
架設時の最重点課題は現地継手の継ぎ折れ等の解消による主塔の鉛直度確保であった。特に橋軸方向は脚柱断面(長さ4m)のわずかなすき間が塔頂(高さ114m)では大きな誤差となる。このため,架設に先立ち,上・下部大ブロックの現地継手に関し次の様な事前検証を行った。
即ち,現地既設の下部ブロック,および工場における上部ブロックそれぞれの継手面の三次元出来形計測を行い,同計測データを用いて架設時における仕口合わせの立体シミュレーションを実施した。その結果,塔柱コーナー部に銅板製の微調整ライナーを挿入するなどの対策を行い,鉛直精度を確保した。
なお,下部ブロックは架設済みのため既に変形しており,一方上部ブロックはFCによる吊り上げ状態で仕口合わせが行われるため,両者の変形解析値を求め,シミュレーションに反映させた。
写真-3は,主塔上下部大ブロックの現地ジョイント状況を示す。

(5)中央径間単ブロックの直下吊り架設
台船輸送された中央径間の主桁単ブロックは,既設桁先端に設置した二双式クレーンにて直下吊りし,ブロック継手を無応力で連結するため,吊り上げ状態のまま仕口合わせを行い,ボルト添接と鋼床版溶接を施工後,二双式クレーンの荷重解放を行った。

(6)ケーブル架設
ケーブルは,中央径間単ブロック1個を架設するたびに側径間と中央径間のケーブルを1段ずつ架設した。架設順序は側径間側2本(左右面)を先行し,その後中央径間側2本とした。
リール巻きされたケーブルを展開し,先ず主塔側アンカーソケットを主塔に併設したタワークレーンで吊り上げ,定着させた。その後,主桁側アンカーソケットをラフタークレーンやウインチ等により定着鋼管内に一次引き込みを行った。
次に,定着鋼管下端にセットしたケーブル引き込み装置(テンションジャッキ)により二次引き込みを行い,主桁側を定着させた。
定着完了後,左右両側のケーブルに同時にシムを挿入(一次シム)して設計張力を導入した。
ケーブル架設が一段完了するたびに,夜間計測を行い,その架設系における形状管理を行った。

7 形状管理
吊り形式の橋梁は非常にフレキシブルな構造であり,架設時においては,設計で意図した構造形状を所定の誤差内でバランス良く架設するため,架設ステップ毎に橋体の形状計測を行い,設計値との誤差を管理することが必要である。
誤差の調整は,ケーブル下端に挿入しているシムプレートの出し入れにより行う。調整の要否の判断およびシム調整量の決定には,橋体形状の自動計測システムと構造解析用コンピュータを連動させた形状管理システムを用いた。
(1)計測項目
計測する項目は,ケーブル張カ・主桁キャンバー・主塔の倒れ・橋体温度の4項目である。設計値はこれらの計測値に整合させるため,構造解析に計測時温度のデータを取り込み,解析値を温度補正した。また温度変化により変動する計測値の同時性と迅速性を狙い自動計測とした。計測システムの系統図を図-9に示す。

(2)計測方法
① ケーブル張力
加速度計で感知したケーブルの常時振動から固有振動数を求め,振動法により張力に自動換算するシステムとした。計測対象ケーブルはシム調整の影響が顕著な上段から3本とした。
② 主桁キャンバー
主桁内計測点に連通管を利用したプローブを設置し,プローブ内の水位を変位センサーにて感知する自動計測システムとした。
計測点は主桁形状の全体傾向を把握するため,全長に亘り概ねケーブル定着点2点に1点を配置し,中央径間側先端は更に密に配置した。
③ 主塔の倒れ
計測には,自動追尾型トータルステーション方式を採用した。主塔基部と塔頂部に設置したプリズムを視認できる陸上側にトータルステーションをセットし,両プリズムまでの距離と角度を三次元計測することにより,両者の座標差から倒れ量を自動計測するものである。
④ 橋体温度
主桁,主塔,ケーブルに熱伝対を取付け,各部の温度を他の計測項目と同時に自動計測した。
なお,ケーブル温度は熱伝対を埋め込んで製作したダミーケーブルにより計測した。
これらの計測値は全て電気信号に変換後,システムを構成するパソコンに集められ,ディスプレイ上に同時表示される。

(3)形状計測
計測は,ケーブル一段架設完了毎に行い,合計21回計測した。また,直ベント仮支点が解放された時点と,主桁閉合後の2回は一斉計測により,全ケーブルを含む橋全体の誤差確認を行った。
橋体形状は温度変化に敏感であるため,計測は橋体の温度の変化が安定し,且つ温度分布が均一化する夜間に行った。
また,張出し架設は寺島側(2P)と太田和側(3P)両側から海を隔て,併行して施工を進めたが,寺島側システムに集約された計測データは,形状管理室が設置された太田和側システムへ無線通信により転送し,そこで両側分を一括管理した。

(4)管理基準値
管理基準値の設定に当たっては,竣工済み橋梁で採用された実績値を参考とし,本橋の設計に見込まれている主塔の倒れ量誤差やケーブル張力の余裕量等を考慮した。
本橋の管理項目と管理基準値を表-3に示す。

(5)架設系におけるシム調整の影響値
図-10は側径間最上段ケーブル(C1),および中央径間最上段ケーブル(C20)に,それぞれ100㎜のシムを挿入した場合のケーブル張力,主桁キャンバー,塔頂変位に与える影響値を示しているが同図から次のことが分かる。即ち,
① ケーブル張力への影響はシム調整を行ったケーブルとその下段ケーブルの2本への影響が顕著で,それ以外のケーブルヘの影響は小さい。
② 側径間ケーブルのシム調整は,塔頂変位への影響が大きく,主桁キャンバーヘは主塔部を回転軸として剛体回転したような変形を与える。
③ 中央径間ケーブルのシム調整は,塔頂変位に与える影響は小さく,主桁キャンバーヘは主桁先端近傍への影響だけが顕著である。
これらの影響値は,その架設系における形状誤差から,シム調整の要否および調整量を判断する際の重要なデータの一つであった。

(6)形状計測結果
直ベント仮支点解放から残り3段の形状管理においては,閉合時の主桁の継ぎ折れを回避するため,段階的に寺島側と太田和側の主桁軸線が一直線に近くなるように誤差管理を行った。
当該架設系の残留誤差から閉合直前系の誤差を予測し,これを改善するシム調整量を次に架設するケーブルの一次シム量に反映させる方法等も取り入れることにより,ほぼ目標形状に近い形で閉合させることができた。
目標形状に対する誤差は,塔頂変位,主桁キャンバー,ケーブル張力の全項目において,架設系完成系ともに管理基準値内であった。図-11は,一例として架設段階毎の主桁キャンバー誤差の推移実績を示したものである。

8 おわりに
大島大橋は,平成11年11月11日11時11分11秒に地元の期待を一身に担って開通した。
その開通は,離島であるが故に多くの苦労を重ねてきた町民の長年の夢でもあった。開通により生活圏,経済圏の飛躍的な拡大はもとより,ハウステンボス,西海橋と続く,新しい観光スポットとしての役割も期待されている。
今後は,本橋が1日でも長くその重要な使命を果たしていけるよう,適切な維持管理を施すことに努力していきたい。

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