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新たなる流木捕捉工

大分県日田土木事務所 所長
岡 本 文 雄

キーワード:河川等災害関連事業、流木捕捉、再度災害防止

1.はじめに
大分県北西部に位置する小野川は、筑後川水系花月川の支川で、福岡県との県境付近に源を発し、大分県日田市大字小野地区を流れる流域面積33.9km2、流路延長10.3㎞の一級河川である。
流域の土地利用は、山地・山林が9割を占め、家屋、事業所、農地などの資産の多くは、花月川合流点付近の下流域に集中して分布している。
本稿では、平成29年7月九州北部豪雨により甚大な被害を受けた小野川の事業が完成したことから、その取り組みについて報告する。

図1 小野川位置図

2.平成29年7月九州北部豪雨
平成29年7月5日~ 6日にかけて、梅雨前線が九州北部付近に停滞し、暖かく非常に湿った空気が流れ込んだ。この影響で線状降水帯が形成・維持され、同じ場所に猛烈な雨を継続して降らせたため、九州北部地方で記録的な大雨となった。
日田市では、局地的に1時間100㎜を超える雨が降り、大分地方気象台では、5日19時55分に大分県で初めて「大雨特別警報」を発表した。
また、小野川流域内にある上宮山雨量観測所では、総雨量634.0㎜、24 時間雨量581.0㎜(観測史上最大)、時間最大雨量83.0㎜を観測した。

3.現地の被災状況
被災の大きい延長2.6㎞の区間では、現況河川の流下能力不足及び橋梁での流木による流下阻害により河川が氾濫して、多数の家屋・事業所が浸水(床上浸水12 戸、床下浸水8 戸)し、河川管理施設についても、護岸の倒壊や流出などの被害が発生した。
また、災害関連事業区間直上流の山腹崩壊により家屋7 戸が倒壊したほか、大量の土砂が河川をせき止めたことにより天然ダムが形成され、家屋など10 戸が浸水した。

写真1 被災状況

さらに、日田市街と上流部の集落を結ぶ県道も約7日間に渡り交通途絶となり、集落が孤立するなど過去最大の被害となった。

4.河川等災害関連事業の活用
今回の被災原因は、①河道の現況流下能力を大きく上回る出水が発生したこと、②事業区間内に架かる西河内橋で流木が詰まり、河川の流れが阻害され流水がせき上げられたことが考えられる。
このため、災害復旧事業による原型復旧のみでは、同規模の出水が発生した場合、再度災害を防止することができない。
以上のことから、河道掘削や拡幅、流木捕捉工などの改良復旧を実施することにより、浸水被害を防止し、民生の安定が図られるよう、河川等災害関連事業で改良復旧を行うこととした。
【改良復旧のポイント】
■流下能力不足区間及び線形不良区間において、河道拡幅、河床掘削、築堤により流下能力の向上及び線形の是正を図る。
■河道拡幅により橋梁1橋を付け替える。
■上流部に残存する「不安定流木」の流出による下流域の浸水被害を防止するため、流木捕捉工を設置する。

図2 小野川計画概要

5.流木捕捉工の必要性
流木捕捉工は、土石とともに流下する流木を捕捉するために設置されるものであり、出来るだけ流水と土石、流水と流木の分離性を高める機能を確保する必要がある。
土石流区間であれば、流木は土石流と一体となり流下するため、土石流と流木を同時に捕捉できる施設とする必要があり、一般的には土石流捕捉工である透過型砂防堰堤等で、流木捕捉施設として併用する場合が多い。
一方、今回のケースのような掃流区間では、土石流区間で発生した土石と流木は分離して流下することから、流木捕捉施設を設置し、流木のみを確実に捕捉できる施設とする必要がある。
小野川では、河川等災害関連事業区間上流側の洪水被害による流出地を利用し、水衝部側に計画する貯木施設を設置することで、出水時の流木を確実に捕捉する分派型の流木捕捉工を設置する計画とした。

写真2 流木による流下阻害状況

6.流木捕捉工の諸元
流木捕捉工の効率的な流木貯木のために、有効と考えられる施設諸元(高さや幅)を検証し、妥当性の確認と効果の向上を図るための補助施設等の配置について、水理模型を作成して検討ケースを設定し、最適形状選定のための流木投入実験を実施した。

(1)実験方法及び実験条件
ⅰ)対象流量
平成29年7月被災流量(460m3/s)、1/30 計画流量(270 m3/s)、1/10 流量(240 m3/s)とし、定常流及び非定常流での条件設定とした。
ⅱ)対象流木及び投入実験
対象流木は、近傍の調査及びサンプリング結果等に基づいて、長さ(10.0m ~ 16.5m)とし、計画流木流出量は700m3とした。
また、投入実験は、「流木流下開始~ピーク流量(220分間)」及び「ピーク流量付近のみ(100分間)」を対象に、均等投入する2 ケースと一時的な河道集積後の集中流下を想定し設定した。

写真3 実験での流木捕捉状

図3 貯木地の流入イメージ

図4 流木捕捉イメージ

7.事業効果
平成30年2月に河川等災害関連事業として国の採択を受け事業に着手し、測量・設計及び被災箇所の用地買収を完了後、河川断面の拡幅のための護岸工の整備を行いながら、流木捕捉工も並行して施工し、令和3年3月に無事完成した。
今回の事業区間の上流部では、近年の災害によって山腹崩壊がいくつか確認されているが、いつ流木が流れてきても、一時的に流木を捕捉することができるようになった。
また、流木捕捉工の設置に伴い、流木対策として流木が下流へ流れることを抑制し、あわせて浸水被害も軽減させることができたことから、安全性がより一層向上したと考えている。

8.おわりに
我が国の国土は、地形、地質、気象等の面で極めて厳しい条件下にあり、いつどこで甚大な災害が発生しても不思議ではなく、国土強靱化は喫緊の重要課題である。
我々も、社会資本整備に携わる一員して、地域住民の方々の声に真摯に耳を傾け、その期待に応えられるよう、日々技術の研鑽を重ねながら、安全・安心なまちづくりに努めてまいりたい。
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた施工者である河津建設㈱及び㈱川浪組の工事関係者や㈱東京建設コンサルタントの皆様に深く感謝申し上げる。

写真4 完成写真(航空写真)

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