大型PRCウェルを用いた橋脚基礎の施工について
前国土交通省 長崎河川国道事務所 建設監督官
現国土交通省 福岡国道事務所 福岡維持出張所長
現国土交通省 福岡国道事務所 福岡維持出張所長
巻 木 健 三
1 はじめに
本工事は,長崎県佐世保市で建設を進めている西九州自動車道佐世保道路において,海上橋脚の基礎として採用したPCウェル基礎(PPRC構造)を施工したものである。現場は港内にあり,地盤が軟岩から中硬岩に相当する岩盤層となっている。当初,二重締切りによる場所打ち杭基礎で計画していたが,近年のコスト縮減工期短縮といった社会的ニーズに対応すべく,本工法の採用となった。
PCウェル工法とは,橋梁基礎や立坑に採用されてきたプレキャストオープンケーソン工法である。近年,耐震性の向上,コスト縮減を目的にPC構造であったPCウェルからRC構造としたPPRC構造(以降PRCウェルと称す)が開発され,現在に至っている。
本稿では,PCa部材の現場製作,中硬岩掘削という国内初の試みと,新しく開発された構築掘削機械を用いた施工方法について報告する。
2 工事概要
工事場所:長崎県佐世保市干尽町地内
工 期:(自)平成16年3月6日
(至)平成17年3月31日
基礎形式:PCウェル基礎(PPRC構造)
躯体形式:RC張出式橋脚
3 施工概要
3―1 PRCウェルブロックの製作
今回,ウェル外径がφ5.00mと大口径であるため,陸上運搬ができない。そのため,現場内に製作ヤードを設けて製作をおこなった。
製作方法は,接合面の水密性と主鉄筋用シースの鉛直性を確保するため,マッチキャスト方式を採用した。
(1)鉄筋籠組立・設置
ウェルブロックの製作は,鉄筋籠を別ヤードで組み立てておき,一括吊り込みする方法が一般的であり,本工事でも同様に施工した。
ただし,今回は鉄筋籠の質量が最大で4.2tonあり,吊り込み時に鉄筋が変形すると,主鉄筋用シースの配置と鉛直精度の確保が困難となるため,H形鋼で組立架台を兼ねた吊り上げ架台を製作し,安全性の確保と変形防止に努めた。
(2)シース設置・固定
PRCウェルでは,ウェル構築後に主鉄筋を一括挿入する施工方法であるため,製作時に主鉄筋用シースの鉛直精度と配置精度を確保することが極めて重要である。
そこで,既設ブロックのシースをガイドとする代用パイプを使用して,その要求精度を確保した。
(3)打設・養生
コンクリートは,コンクリートポンプ車による打設とした。配合は強度の早期発現性と充填性を求められることから(40-18-20H)となっている。
養生は散水養生としたが,脱枠後も高保水性マットを巻き付けて,初期クラックの防止に努めた。
3―2 PRCウェル基礎の構築
本工事は,水上施工と岩盤層の掘削が施工上の大きな特徴である。本工事の施工手順を図ー4に示す。
(1)架設・掘削
今回のような,水上施工や岩盤掘削の場合,ウェル本体を吊り下げて施工する必要があるため,通常の圧入機構に支持機構を加えた支持圧入装置を使用することがPCウェル工法での標準施工である。
本工事の大きな特徴は,中硬岩までの掘削が可能な新しい掘削機械を導入したことである。この機械は,通常の場所打ち杭で使用される全周回転掘削機を動力とし,ケーシングチューブの先端に油圧稼働式の拡翼式中硬岩掘削ビットを取り付けたものである。掘削塊を中央に集積してハンマグラブで揚土できることから,大規模な処理設備を必要とせず,既存の機械を利用することでコストの低減を図っている。この掘削ビットの導入に当たっては,実証試験を実施しており,最大強度σ=70N/mm2のコンクリートを掘削している。本工事では,qu=40N/mm2の岩盤を無事に掘削した。
(2)緊張・グラウト
PRCウェルにおけるPC鋼材は,構造があくまでRCであることから,プレキャストブロックの接合が構造上の目的となっている。ただし,主鉄筋が降伏する前にPC鋼材が降伏・破断することを避けるため,導入プレストレスには主鉄筋の降伏強度以上の余裕を残すこととしている。また,今回のように沈設を伴う場合は,吊り材としての検討も必要となってくる。本工事では普通PC鋼棒(SBPR1080/1230φ32)15本の配置となっている。
緊張作業は,PC鋼棒3本毎におこない,均等にプレストレスが導入されるよう留意した。
グラウトは,橋梁上部工に準じた配合を使用し,注入孔に逆止弁を付けることで,グラウトホースの処理を省略,施工時間のロスを解消した。
(3)主鉄筋挿入
PRCウェルの構造根幹を成す主鉄筋は,ウェルの構築完了後に長尺鉄筋を一括で挿入する。挿入に先立ち,超遅延型モルタルをシース内に注入しておくことで,モルタルの確実な充填を図っている。
モルタルは,PRCウェル用に配合されたプレミックスタイプを,鉄筋には高強度ネジ節鉄筋(SD490)を使用した。
このモルタルと高強度鉄筋の付着性能およびシースを介しての応力伝達機構は,PRCウェルの開発段階で確認されている。応力は,鉄筋からモルタル,シース,コンクリートの順に伝達し,スパイラルシースによる鉄筋の拘束効果によって,高い耐震性能を有する構造となっている。
4.おわりに
PCウェル工法(PPRC構造)は,今回のような海上施工や工期の制約がある都市内施工,河川内施工,および近接構造物がある場合などで,適用性の高い工法であると考えられる。今回,これまで適用されなかった中硬岩の掘削が可能となったことで硬質地盤においても対応できることが証明された。このことに加え,現在ではウェルの分割化について実用化に至っているようである。これにより,製作ヤードの確保が困難な条件でも,大口径ウェルの適用が可能となり,その適用範囲が広がることが期待される。