地場建設企業の地域貢献度の評価についてのアンケート調査
九州共立大学工学部教授 牧角龍憲
1.はじめに
地域に密着して活動する地場建設企業は、地域の防災や災害復旧を推進する重要な担い手であり、とくに、豪雨災害が多発する九州地方においては、自治体と地場建設企業とが迅速かつ効率的な協力(連携)体制で災害復旧事業を行うことが欠かせない。また、地場建設企業は、地域に根づいた企業として、住民の雇用や福祉の場を確保し、地域経済を活性化させ、地域文化の継承など社会活動を継続するなど、これからの地方の時代を支える柱として欠くことができない存在である。
一方、地方における公共投資の縮小傾向に加えて競争入札による価格競争の激化の影響で、地場建設企業は疲弊しつつある。この現状を打開し、地域に必要な企業の存在を将来的にも継続していくためには、地域に貢献している実態を明らかにして、総合評価方式における企業評価に反映させていく方策を確立することが必要である。
そのためには、地場企業の地域貢献度は何を指標にしてどのように評価するのがよいのか、地域に密着して有形無形の貢献をしている地場企業をきちんと評価できるのか、企業評価あるいは参加資格要件のいずれで評価するのがよいのか、などについての答えを明らかにしておかねばならない。
そこで、本研究では地場企業の地域貢献を客観的に評価する方式を構築するための基礎として、地域貢献に係る地場建設企業の取り組みについて現状を把握するとともに、今後における地域貢献のあり方や評価、とくに総合評価落札方式ならびに競争参加資格審査の発注者別評価点における地域貢献活動の評価方法に関する意向や要望などについてのアンケート調査を行った。
2.アンケート調査方法
(1)調査対象
九州地方の建設関連企業1002社ならびに国県市町村438機関を対象にした。なお、建設関連企業の対象者1002社は次の手順で選定した。
①国土交通省九州地方整備局の有資格者名簿(平成20年度)「一般土木工事」における工事等級CおよびDに登録された企業の内、本社所在地が九州内にある企業を抽出し、
②Cランク企業は全該当者420社を対象とした。
③Dランク企業は各県において10%相当数の企業計582社をランダムに抽出した。
(2)調査時期および調査法
平成20年10月1日から11月31日まで郵送調査法によりアンケート調査を実施した。
(3)調査項目
以下の6項目について、択一式または記述式による回答を求める質問を設定した。なお、Q1およびQ3以外の項目は、建設企業と発注者のいずれも同じ設問にした。
Q1: 回答者の属性
Q2: 地域貢献度を評価することの是非
Q3: 社会的貢献についての評価及び取組み状況
Q4: 地域貢献度を評価するに適する上位項目
Q5: 評価する際に留意すべき事項(記述式)
Q6: 自由意見または感想(記述式)
このうち、Q3の設問については、総合評価方式一般競争入札を実施している各地方自治体において、企業の「地域貢献度」を評価する項目として採用している全33項目を対象にした。そして、各項目について「地域貢献として評価すべきと思われるかどうか」を問い、回答は“ 強くそう思う”、“ そう思う”、“ そう思わない”、“ 評価に適さない”“ どちらでもない” から選択するようにした。項目の一覧を表- 1に示す。
表-1 地域貢献度を評価する項目
3.アンケート調査結果
3-1.回答数および回収率
アンケートの回収結果を表- 2に示すが、建設企業1002社からの回答数は335社で、回収率は33%であった。九州各県の回収率に極端な違いはみられず、九州全域にわたるデータが得られている。また、発注団体438機関からの回答数は199機関で回収率は45%であった。
表-2 アンケート回答数(建設企業)
3-2.回答者の概況
図-1に、回答企業335社の概況を示す。回答が最も多かったのは、営業年数が50年以上、従業員数が10~24人、本社を含めた営業所数は1箇所、平成19年度の完成工事高2~ 5億円、公共工事の比率は80~99%、平成19年度の収益率は0~1%の企業であった。地域の老舗として堅実に地元の建設事業に携わる企業が多いことがわかる。また、同じ地場企業であっても、従業員数や完成工事高などの規模には大小の差が大きくあることから、それらの違いによって社会的貢献に対する取組み方や評価への期待も異なることが予想される。
図-1 回答企業の概況
次に、回答された105市町村の概況を図-2に示す。管轄面積、人口、技術職員数のいずれにおいても限られた範囲に偏ることなく、小規模~中規模の各自治体から回答が寄せられていることがわかる。また、同じ市町村であっても、管轄区域の面積や人口、事業費あるいは技術職員数などの規模が明らかに異なる場合があり、それらの違いによって市町村が企業に期待する地域貢献の内容も異なることが予想される。
図-2 回答市町村の概況
3-3.地域貢献を評価することについて
総合評価方式の企業評価ならびに競争参加資格審査の発注者別評価点において、地域貢献度を評価することについての企業および市町村それぞれからの回答結果を図-3に示す。
図-3 企業の地域貢献度を総合評価および参加資格で評価することについて
企業からの回答は、総合評価および参加資格審査のいずれも80%以上が賛成しており、そして“積極的に評価すべき”が4割以上であることから、九州管内の地場企業が地域貢献の評価を強く求めていることがわかる。これに対して、総合評価方式で“評価すべきでない”とする企業が3%(10社)あり、その理由として「点数を稼ぐための地域貢献になってしまう」、「無償の貢献を強制させられることになる」などがあげられている。何をもって地域貢献として評価するのか、評価する側と評価される側が互いに納得できるような評価にしていくことが重要である。
市町村の回答結果は、図-3右に示すように、賛成とする立場は7割近くあるものの時期尚早という回答も多くなっており、地域貢献の評価については市町村一律ではなく、個々の市町村がそれぞれの状況に応じて検討していることがわかる。
また、競争参加資格審査の発注者別評価点における評価については、総合評価方式の場合よりも慎重に扱う立場の回答が多くなっている。市町村においては、一般競争の競争性を確保できるような参加資格の制限項目と地場企業の貢献度を加点できるような評価項目をバランスさせながら選定することが求められており、試行段階の現時点では慎重にならざるを得ないと考えられる。
3-4.地域貢献としての評価項目について
(1)企業側からみた地域貢献度の評価
社会的貢献に係る33項目を対象に、地域貢献として評価すべきかどうかについて地場企業からの回答結果を図- 4に示す。調査対象の33項目は、総合評価方式において企業の地域貢献度を評価する基準として、いずれかの発注機関が採択している項目から選定している。図は、評価することに賛成(強く思う、そう思う)の比率が高い項目から順に並べているが、全ての項目が高い賛同を得ているわけではなく、賛成の比率が40%を切る項目もみられ、地場企業からみて評価基準として適しているかどうかについては項目によってかなりの違いがあることがわかる。
図-4 企業側から見た地域貢献度評価の必要性ならびに取組み状況
地場建設企業が地域貢献として評価して欲しいと強く思っているのは、「国・県または市町村との防災協定締結」、「防災パトロールへの協力」、「災害発生時の公共管理施設への緊急出動」、など災害時対応に係る貢献が多いことがわかる。また、図右には各項目についての企業の取組み状況を示しているが、上位の項目では8 割以上の企業が既に実施済みとなっており、災害時対応などに具体的に取組んでいる企業が多いことがわかる。
一方、既に実施済みで取り組んでいるにもかかわらず地域貢献としての評価をあまり期待していない項目もある。「地域の社会活動などへの加入・協力」、「県発注工事で県産品の使用」、「県内事業者への下請け発注率が高い」などは70%以上の企業が既に取り組んでいるが、評価されることを強く望んでいる企業は約20%しかない。これは、企業の技術力が反映される項目で評価すべきとする企業が多いためと考えられる。
下位の項目においては、図の右に示すように、「取組みの予定なし」または「取り組む余力なし」の比率が高い、すなわち企業として取り組める余裕がないほど、評価することを望まない比率が高くなっている。とくに、「新規学卒者の採用」、「郷土芸能などの伝承活動に携わる者が正規職員」「高齢者の介護休暇制度の実施」など、雇用・福祉に係る社会的貢献に関する項目が多くなっている。ただし、「地域住民の常勤職員数」については60%が評価することを望んでいる。
地域における雇用の場を確保していることが地場企業としての地域貢献ではあるが、大半が従業員40人以下の中小企業であるため、新たな負担増につながるような雇用・福祉の取組みではなく、厳しい経営環境下でも努力して現行社員の雇用を継続している点を地域貢献として評価することが望まれているといえる。
(2)発注者側からみた地域貢献度の評価
図- 5に発注者側からの回答結果を示す。企業と同様に評価すべきとする回答が多いのは災害時の対応に係る貢献であり、地域貢献の主軸になっていることがわかる。しかしながら、「バックホウ+ダンプトラックなどを所有」にみられるように、企業の60%以上が評価すべきとしているのに対して、発注者側では否定的な回答(そう思わない+評価に適さない)が60%を超えるような場合があり、両者間の地域貢献度に対する考え方にかなりの違いがみられる項目もある。災害時には企業との協力が不可欠であることから、地域貢献度の評価観に大きな隔たりがあるのは好ましくない。
図-5 発注者側から見た地域貢献度評価の必要性ならびに採択状況
発注側と企業側との間で顕著な違いがみられるのは「ISO14001又はエコアクションなどの環境保全への取組み」である。発注者側では80%以上が評価すべきとして、40%以上の機関が総合評価方式における地域貢献の評価基準に採択しており、最高の採択率になっている。これに対して、企業側においては「取り組む予定または余力がない」企業が40%近くあり、零細な中小企業にとっては負担が大きいことから評価すべきとする企業は少なく、半数以下になっている。「新規学卒者の採用」および「高齢者の介護休暇制度の実施」においても同様の傾向がみられた。
地域貢献度の評価は地場企業が地域で頑張っていることを評価するのが目的であり、評価される側(企業)にとって過大な負担になるような評価基準は、例え発注者が期待したい項目であっても評価に適していない場合があると考えられる。
4.地域貢献度の評価における組織規模の影響
前述の「ISO14001又はエコアクションなどの環境保全への取組み」の評価について、企業および発注機関の組織規模の区分ごとに図-6に示す。発注機関は区域内人口と技術職員数、企業は従業員数、年間完工高および公共工事の比率で、サンプル数がほぼ同数になるように区分している。
図にみられるように、評価すべきとする回答率には企業の従業員数および完工高などによる違いが明らかにあり、これは取組み状況における違いにほぼ対応していることがわかる。また、発注者においても違いがあり、規模が小さくなるほど評価すべきとする比率が小さくなっている。すなわち、貢献度として評価するかどうかの考え方は組織の規模によってかなり異なる場合がある。
図-6 ISO14001又はエコアクションなど環境保全への取組み
図-7に、ボランティア活動に係る項目について示すが、同様に規模よる違いがみられる。条件の“10人以上” が企業規模から厳しい制約になるか否かによる差であり、これは取組み状況の実施済みの比率において、従業員数の多寡によって2 倍以上の差になっていることからもわかる。
図-7 会社として10名以上が参加するボランティア活動
次に、「消防団員、交通指導員など地元で頑張る者が正規職員」の評価について図-8に示す。図から、(1)企業側は前述の項目と同様に50%以上が賛同しているのに対して、発注者側は否定的な回答がほとんどでありほぼ正反対の傾向にあること、(2)発注者側においては規模によって明らかに比率が異なり、人口ならびに技術職員数が少なく、すなわち組織規模が小さくなるにつれて評価する比率が高くなっていること、(3)一方、県の機関では「適さない」が60%以上、九地整の機関では否定的意見が90%近くあり、技術職員数5人未満の市町村とはほとんど逆の比率になっていること、などがわかる。
すなわち、地域貢献度としての評価の受止め方には、受発注の二者間の違いだけでなく、組織規模の大小も大きく影響する場合があるため、評価基準を定める際にはこのことを十分考慮しておく必要がある。幸いなことに、企業の規模は工事等級の参加資格で考慮されており、さらに、地域貢献など企業の実績評価を主にした総合評価の型式も対象が限定されているため、それぞれの規模に対応させて適切に評価基準を選定することで、企業に過大な負担を生じさせることなく地域貢献を適切に評価加点していくことが可能である。
また、発注者側においても組織規模や地域特性などによって企業との連携協力のあり方が異なっていて当然であり、規模に応じた評価基準を定めていくことが重要である。
図-8 消防団員、交通指導員など地元で頑張る者が正規職員
5.まとめ
1)
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80%以上の地場企業が、総合評価で地域貢献度を評価することに賛成している。そして、地域貢献として評価されることを強く望んでいるのは、災害時対応に係る貢献が多い。
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2)
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地域貢献度を評価される側(企業)にとって過大な負担になるような評価基準は、例え発注者が期待したい内容であっても評価に適していない場合がある。
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3)
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受発注者のいずれにおいても、地域貢献度としての評価の受止め方には、組織規模の大小が大きく影響する場合が多い。したがって、地場企業との良好な連携協力を継続するためには、組織規模を考慮した評価基準を選定することが重要である。
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最後に、ご回答いただいた335社と199公共機関ならびに情報をご提供いただいた建設業協会の方々、また、調査実施に協力してくれた田中徹政君、上原祥子君、岩田純一君に厚くお礼申し上げます。また、本研究は、(社)九州地方計画協会の研究支援を受けて実施したものであります。本調査の詳細なデータについては下記を参照下さい。
http://www3.kyukyo-u.ac.jp/t/k039/makizumikenn.html