在来種による河川緑化資材の供給に関する検討調査(第2報)
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 調査試験課長
九州技術事務所 調査試験課長
古 賀 唯 雄
1 はじめに
河川環境に対する考え方は,環境全体の枠組みに連動して,最近10年間に著しい変化を示した。
平成4年の地球環境サミットにおける生物多様性条約の動きに始まり,種保存法の施行,平成5年の環境基本法の制定,平成6年の環境政策大綱(旧建設省),平成7年の生物多様性国家戦略の決定(平成14年3月改定),平成9年の河川法の改正(生物の多様な生息,生育環境の確保),平成12年の環境影響評価法の施行(生態系の保全)などがあげられる。平成14年3月の『新・生物多様性国家戦略』では,「人間により国外から持ち込まれる外来種は,在来種の捕食,交雑など,地域固有の生物相や生態系に対する大きな脅威となっており,侵入の予防,侵入の初期段階での発見と対応,定着した移入種の駆除・管理の各段階に応じた対策を進める必要がある。」とされている。
このように,生態系の保全と調和に対する国民の要請は高まりつつあり,この傾向は河川整備においても例外ではない。以前より,張芝,種子吹付等の河川堤防工事段階では,成長が早く安価である外国産の芝及び種子等を用いる施工方法が問題視されてきた。外来植生を排除した地域固有の在来種を用いた施工が必要となるが,現状ではこれらの導入手法が確立されていないことが課題となっている。
このような状況の中で,平成13年度に在来種による緑化資材供給計画の策定を目的として,「在来種による河川緑化検討委員会」を設立した。
本調査は,その委員会からの提言を基にフィールド実験を14及び15年度にわたって実施し,在来種による緑化資材検討計画を策定するものである。
2 調査内容及び結果
(1)植生遷移調査
過去における築堤工事の履歴を基に,工事後の植生の遷移を調査した。調査箇所は,1年前(平成13年度),2年前(平成12年度),5年前(平成9年度),10年前(平成4年度)の築堤工事を代表する4箇所の現地調査を行い,工事の導入種と現存植生との対比から植生の遷移状況を把握した。
全体的な傾向としては,施工直後は導入種(外来種)と導入種以外の外来種(全国的に広く分布する,シロツメクサ,セイタカアワダチソウなど)とともに勢力を広げるが,その後は地域の在来種に徐々に遷移していることを確認した。なお,堤防の横断方向の植生についての詳細調査を本年度実施中である。
(2)分子生物学的遺伝子調査
六角川の河川法面の代表植生であるチガヤの遺伝的特性を葉緑体および核DANのPCR-RFLP※分析によって佐賀大学と共同調査した。
チガヤは,集団内に多くの遺伝的多様性を含んでいた。また,六角川の上流,中流,下流で遺伝子タイプを比較したが,その分布パターンはモザイク状になっており,集団間の遺伝的分化は不明瞭であった。六角川流域から緑化用のチガヤを採種するという前提では,チガヤの地理的分化を壊すような遺伝的汚染(その地域にない遺伝子型を持ち込む)は起こらないという結果が得られた。
※PCR-RFLP法
PCR(ポリメラーゼ連鎮反応によって,10万~数百万倍に増幅する方法)によって増幅したDNAを制限酵素で切断し,電気永動によってDNA(塩基配列)を検出する方法。
PCR(ポリメラーゼ連鎮反応によって,10万~数百万倍に増幅する方法)によって増幅したDNAを制限酵素で切断し,電気永動によってDNA(塩基配列)を検出する方法。
(3)築堤工事法面における育苗実験
効率的で実用性の高い調査を実施するため,築堤工事法面を実験フィールドとして,以下に示す各種育苗実験を実施した。
(a)播種による育苗実験
六角川周辺で採種した在来種を播種した。
(b)埋土種子による育苗実験
旧堤防の土壌を深さ別に採取し実験に用いた。
(c)地下茎による育苗実験
採取した在来種の地下茎を実験に用いた。
(d)混播法による育苗実験
在来種の種子を混合して播種した。
築堤工事法面におけるフィールド実験の各種実験位置を図2ー1に示す。
フィールド実験は現在継続中であるが,6月上旬の結果を見ると,播種実験ではヨモギ,埋土種子の実験では種の採取深度の浅い土壌,混播法ではヨモギとアキノノゲシについて良好な発芽状態が確認されている。
(4)育苗園
在来種の増産を目指して,六角川周辺に育苗園を造成し,育苗園へ対象在来種を播種し栽培している。
(5)外来種駆除実験
高橋排水機場内のセイタカアワダチソウを対象に,駆除時期及び駆除方法(抜根・草刈)を変えて駆除を実施した。駆除の効果は新芽数を計測して算出した。
躯除方法で比較すると,セイタカアワダチソウは地下茎でも繁殖するため,種子散布期(11月頃)では,草刈に比べ抜根の駆除効果が倍であり,抜根の方が草刈に比べ駆除効果があったと推定される。
駆除時期で比較すると,花芽形成期に対して種子散布期は地下茎の養分を種子生成に使用した後なので,地下茎に残存する養分が減少していると推定されるため,抜根では花芽形成期に比べ種子散布期の駆除効果の方が大きいと考えられる。草刈では地下茎が残るため駆除時期による差はほとんどない。
3 おわりに
緑化資材の供給には,多量の種子が必要であるため,計画策定を行う上でも広く地域の住民等による採種活動などの検討が必須であると考えられる。地下茎による育苗実験においては,地下茎の生育状況が悪く,逐次実験条件を変化させて,追加実験を行う予定である。
河川空間は,源流部から河口,水中,水際,河原などの場所に応じて,土壌,水,日照などの条件が異なる様々な環境が存在し,その環境に応じて多様な生物が生息・生育する場所である。したがって,人間の生存の基盤となっている生態系の長期的安定性,生物資源の持続的利用,人と自然との豊かなふれあいなどの観点から重要である地域固有の生物の多様な生息・生育環境を確保することは,河川管理の重要な役割と認識する必要がある。そのためには,河川における在来種の保全及び外来種対策が一つのキーワードとなる。
なお,今回は中間報告であるが,本調査の内容については国民の関心が高まっており,新聞各社に掲載され,NHK佐賀放送局でも特集が組まれ放映された。