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最近の土砂災害調査及び大規模斜面崩壊等に関する
監視技術の動向

国立研究開発法人 土木研究所
上席研究員
水 野 正 樹

キーワード:土砂災害調査、土石流、斜面崩壊

1.はじめに
近年は、2014 年8 月広島災害や2017 年7 月九州北部豪雨災害等のような激甚な豪雨、2014年9 月御嶽山噴火等の火山噴火、2016 年4 月熊本地震等の大規模地震、急激な降雪等、突発的な自然現象が頻発している。
これに対応して土木研究所土砂管理研究グループでは、大規模な土砂災害発生時の減災対策に重点をおいた研究開発を実施するとともに、大規模な土砂災害が発生した場合、現地調査や国・地方自治体への災害技術支援を行っている。このうち土砂災害発生時の現地調査や災害技術支援として、2017年7月九州北部豪雨災害等の事例を紹介する。
研究開発については、特に大規模斜面崩壊等の土砂災害に対して,広範囲に監視するための技術開発や、現地の状況を速やかに収集し初期対応をより迅速に実施するための技術開発を進めている。この中で、広域の斜面変動状況を捉える技術として、LP 計測データ差分解析技術、また、大規模崩壊等の早期検知技術として、地震計・振動計データ活用技術、監視カメラ画像解析技術、さらに、現地状況の早期把握のためのSfM 解析技術等の監視技術について、土木研究所土砂管理研究グループの取組みを紹介する。

2.2017 年九州北部豪雨等における土砂災害調査と技術支援
2.1 2017 年九州北部豪雨の流木調査
2017 年7 月5 日から6 日かけて、福岡県朝倉市や大分県日田市付近を中心に線状降水帯が発生し1)、気象庁の朝倉観測所では2 日間で586 ㎜の降水量を記録した。この豪雨による多数の崩壊で多量の土砂と流木が流出し、激甚な被害をもたらした。筑後川の中流域右岸側の渓流から約21万m3の流木が発生したと報告されている2)。土砂管理研究グループは、流木の発生が特に顕著な朝倉市の筑後川右岸側の渓流を対象に、流木の発生域や流域内に残存する堆積箇所を明らかにするため、空中写真判読と現地調査を行った。7 月に現地調査を行った妙見川と奈良ヶ谷川では、表層崩壊が広い範囲で多発して、流木が流域内のほとんどの支渓流で発生しており、このことが多量の流木流出となった要因と推察する。流木の堆積は、主に①崩壊斜面の下部、②支渓流と渓流の合流点付近(写真- 1)、③合流点付近に堆積した支渓流からの流出土砂の渓流側上流部、④流路屈曲部の外湾部、で認められた。妙見川の須川第一砂防堰堤では、写真- 2 のように堰堤の堆砂域に多量の流木が確認され、砂防堰堤の流木捕捉効果が認められた。

2.2 2017 年九州北部豪雨の日田市小野地区地すべりにおける現地調査と技術支援
2017 年7 月6 日に筑後川水系支流の小野川右岸に位置する斜面(大分県日田市小野地区の集落の対岸)において、斜面長約300 m、幅約200 m、標高差約200 mの大規模な斜面崩壊(写真- 3)が発生したことから、大分県等の要請により現地調査等を実施した。崩壊地は上方斜面と下方斜面の2 つの範囲に区分され、上方斜面は地すべりによる変動、下方斜面は表層崩壊による変動と考えられる。崩壊した土砂により小野川の河道が閉塞され、閉塞箇所の上流では湛水及びそれに伴う家屋浸水が生じていた(写真- 4)。崩壊地より上部の背後斜面では、複数の段差亀裂が確認され、今後、崩壊が背後斜面に波及する可能性を有すると判断した。また、今回発生した段差亀裂のさらに奥には古い滑落崖も確認され、過去に斜面変動が発生していたものと考えられる。上方斜面の崩壊地は、緩斜面(テラス状)となっており、緩斜面先端の遷急線付近に段差地形、斜面内に陥没帯が確認され、不安定土塊が残存していると判断した。急崖を呈する下方斜面については、部分的に露岩しているほか、一部植生が残存していた。市長をはじめ県・市の関係者に調査結果を説明するとともに、警戒避難のあり方等について助言した。

2.3 豊後大野市綿田地区地すべりにおける現地調査と技術支援
2017 年5 月16 日に、一級水系大野川支川平井川左岸に位置する大分県豊後大野市朝地町綿田地区において宅地内の地割れ発生に関する通報があり、その後、近隣地で相次いで多数の亀裂が発見された。亀裂群は幅約250m、長さ約400mの弧状に分布し、斜面末端部においては、道路・橋梁・護岸に押し出しと思われる圧縮変状が点在した。このため、この地割れ現象は、地すべり活動が発生したために生じた地表変状であると判断した。綿田地区は、平均勾配約20 度の丘陵地で棚田と家屋が点在する。周辺は分離小丘を抱える地すべり地形を呈しており、古くから地すべり活動が繰り返し発生する履歴を有していると推測できる。現地調査で、斜面上方の段差を伴う亀裂の拡大(写真- 5)、河川護岸や砂防堰堤の損傷、圧縮によると思われる変状等を確認したことから、今後の降雨等により、亀裂の拡大や地すべり土塊による河道閉塞等の一連の災害の進行が危惧された。そのため、市長をはじめ、県・市の関係者に対して調査結果を説明するとともに、応急対策としての地下水排除工の実施、河道閉塞対策の検討に向けて必要な調査・観測項目等について助言した(写真- 6)。

3.大規模斜面崩壊等に関する監視技術の動向
大規模斜面崩壊等に関する監視技術について、これまでの土砂管理研究グループの主な取組みについて紹介する。

3.1 航空レーザ測量データを用いた標高差分解析による斜面変動の把握
変動斜面の安全性は、非変動斜面に比べ、相対的に低いため、変動斜面が地震動を受けると、さらに斜面の不安定化が促進される可能性が考えられる。このため、地震時に不安定化する斜面を予測する上で,地震発生前から変動が進行している斜面を把握することは重要である。近年、国内では、航空レーザ測量が積極的に実施されるようになり、同一地域における複数時期の航空レーザ測量データ(以下、LP データ)の蓄積も進みつつあり、複数時期のLP データを活用して経時的な斜面の変化を把握することで、広域斜面を対象に、効率的に変動斜面を抽出できる可能性が高まっている。
この研究においては、斜面変動の発生を2 時期のLP データの差分解析により把握する手法を検討した。その結果、斜面変動の発生を面的に把握できた事例(図- 1(下))がある一方、計測データが少ない場合やフィルタリング処理による過度のデータ除去により、実際には斜面変動の発生していない箇所を見かけ上標高変化した箇所として出力する事例(図- 1(上))が生じた。このため、標高差分解析の精度向上に向けて、2 時期のLPデータによる標高差分解析の誤差発生要因やその影響度についての検討を進めている。

3.2 地震計・振動計による土砂移動の検出
災害時の警戒避難や応急復旧対策等を実施する上で、土砂災害が発生したエリアやそのタイミングを把握することは重要である。そのために、災害発生後にヘリコプター等空からの調査により、土砂災害の発生位置と流下範囲を調査しているが、気象条件等によって迅速な調査が困難な場合がある。一方、崩壊や土石流から生じる振動を、地震計で検出し、振動の震源を求めることで、土砂移動の発生箇所と時間を推定する手法(図-2)が提案された3)。また、振動波形から土砂移動の規模も推定できることが明らかになっている4)。これらの成果等を踏まえ、土砂管理研究グループは、大規模な土砂移動現象の発生を検知する振動センサーの設置が推進できるように、設置にあたっての基本的な原理や運用方法等をマニュアル5)としてまとめた。

3.3 RGB 画像解析による土石流の監視
全国の直轄砂防事務所ではCCTV カメラを砂防堰堤等に多数設置しており、この画像を土石流監視のために活用できれば、警戒避難体制の向上に寄与できる。砂防分野ではこれまで、CCTV カメの画像から流速や流量といった数値を求め、観測を行うための研究がなされてきたが、山地河川の急な流況変化や悪天候時等への対応が課題となっている。この研究では、土石流の監視を目的として、土砂移動に伴う濁りの変化をCCTV カメラで検知する技術を開発中である。
2016 年8 月23 日に北海道石狩川水系黒岳沢川で発生した土石流のCCTV 画像の解析を行い、土砂移動や土石流に伴う濁りの変化を画素情報から検知することを試みた6)。ここで画素情報とは画像が持つ基礎情報のことであり、R(赤)・G(緑)・B(青)の光の三原色を用いた値を指す。通常、土石流が発生した場合は、渓流水中の土砂濃度が急激に高まり、茶色に近い色で濁ることが一般的に考えられる。そこで、写真- 7 の土石流発生時の画像により、画素情報のRGB を用いた解析を行った。図- 3 の土石流到達前のRGB 値は、ほぼ一定値を示す平常時ほどではないが、時系列での変化が小さい。一方で、土石流到達時はR の値が相対的に上昇するとともにRGB 値が時系列で変動する。このことから、土砂移動や土石流に伴う濁りの変化をRGB の画素情報から検知できることが分かった。今後は画素情報と濁度実測値との関係を明らかにしていく予定である。

3.4 SfM 解析による天然ダム形状の計測
大規模斜面崩壊が発生し天然ダムが形成された場合、決壊を原因とする土石流により被害が想定される区域及び時期を明らかにする必要があり、その計算に必要な、天然ダムの高さ等の形状と位置を迅速に把握する必要がある。
現在、形成直後の天然ダム形状の計測手法として、ヘリコプターからの長距離レーザ距離計による計測を用いている。この手法は、計測後すぐに結果を使用できる利点がある一方で、上空から目視で堆積土砂の高低を判断して計測する越流開始点を決めること、手振れの影響を受ける中で計測を行うこと等から、精度や実施において課題がある。そこで、土砂管理研究グループでは、簡便かつ三次元的に形状を計測する手法として、複数の写真から三次元的形状を形成する技術であるSfM(Structure from Motion) を活用した計測手法を試みた。その結果、図- 4 に示すとおり、ヘリコプターから撮影した写真から天然ダムの形状を簡易に十分な精度で得ることができた。今後は、天然ダム形成直後の新たな計測手法として活用することを考えている。

3.5 土石流の水理量評価
土石流の水理量を精度よく計測することは、氾濫範囲を予測するための数値シミュレーションの精度向上や、土石流の対策で設置する砂防堰堤の設計方法を策定する上で重要である。
土石流の流速は一飯にマニング式を適用して推定される。式中のマニングの粗度係数は、土石流の流速を推定するために重要な変数で、土石流に含まれる土砂の容積濃度や密度、粒径分布といった条件によって変わると考えられている。そこで、土砂管理研究グループでは、火山灰の降灰後の土石流が頻発する鹿児島県桜島有村川で2015 年12 月10 日と2016 年6 月19 日に観測された土石流について、粗度係数の時系列変化に注目した解析を行った。
入力データは、有村川3 号砂防堰堤の水通し上部に設置した走査型レーザ距離計である測域センサーで計測した、土石流の縦断流下断面形状と水深のデータを用いた。土石流流速は、流下断面形状データをもとに水通しから基準面までの流脈飛距離と落下時間を半理論式に代入して算出した8)。計測と算出によって得られた土石流水深と土石流流速について、清水を想定したマニング式の理論曲線と比較した(図- 5)。ここで、U:平均流速(m/s)、R:径深(m)、sin θ:動水勾配、n:粗度係数。その結果、出水初期は粗度係数(n)0.03 程度の理論曲線に乗っているが、水深が増えてピーク周辺になると0.06 を超える粗度係数の理論曲線へシフトし、その後の後続流では粗度係数が低下する傾向を確認した。このような傾向は既往の報告9)と整合している。今後も他分野で開発された技術を活用して計測を試みていく。

4.おわりに
これまでの山地渓流における流木処理計画は、主に土石流とともに急勾配の渓流から流出した流木を調査した結果を基に策定した技術基準類により検討されてきたが、今回の九州北部豪雨では、緩やかになった渓床勾配の区間においても流木により被害が拡大した。そこで今後、渓床勾配が緩急の両区間において山地渓流の流木処理計画の立案に資するため、流木の発生、流出、堆積実態について調査を進めていく予定である。そしてLPデータの差分解析、振動センサー、RGB 画像解析、SfM 解析等の大規模斜面崩壊等に対する監視技術については、信頼性や迅速性を高めるため、検知精度を向上させる研究を進めている。これらの監視技術を活用することで、土砂災害の緊急対応や災害予防をより円滑に実施できるようにしていきたい。
また、土木研究所が研究を実施するにあたり、研究対象となる現場を提供して頂いている事務所等の関係者の皆様に謝意を表します。

【参考文献】
1)気象研究所:平成29 年7 月5-6 日の福岡県・大分県での大雨の発生要因について(平成29 年7 月14 日)
2) 九州地方整備局: 平成29 年7 月九州北部豪雨に伴う流木発生量( 速報値) について( 平成29 年7 月28 日)、http://www.qsr.mlit.go.jp/site_files/file/bousai_kasen17072801%281%29.pdf
3)大角恒雄、浅原裕、下川悦郎:2004 年8 月10 日奈良県大塔村斜面崩壊時のHi-net データ解析―斜面崩壊検知への応用―、自然災害科学、Vol.24、No.3、pp.267-277、2005
4) Yamada, M., Y. Matsushi, M. Chigira, and J.Mori:Seismic recordings of the Landslidescaused by Typhoon Talas, GeophysicalR e s e a r c h L e t t e r s 、Vo l . 3 9 、L 1 3 3 0 1 、doi:10.1029/2012GL052174、2012
5)独立行政法人土木研究所土砂管理研究グループ火山・土石流チーム:大規模土砂移動検知システムにおけるセンサー設置マニュアル(案)、土木研究所資料第4229 号、2012.6
6)五十嵐和秀、水谷佑、高原晃宙、木下篤彦、水野秀明:山地河川の濁りによるRGB 値変化に着目した土石流発生検知手法開発に向けた試み、土木技術資料、Vol.59、pp.20-23、2017.6
7)赤澤史顕、高橋佑弥、黒岩知恵、藤村直樹、水野秀明:ヘリコプターからの斜め写真を用いたSfM による天然ダム形状の計測、土木技術資料、Vol.59、pp.12 - 15、2017.5
8)吉永子規、清水武志、水谷佑、髙橋佑弥、藤村直樹、泉山寛明、石塚忠範:レーザ測距儀を用いたナップ飛距離及び水深の計測方法の提案と流速推定への応用、砂防学会誌、Vol.70、No.1、pp.46-53、2017.5
9)水山高久、上原信司:土石流の水深と流速の観測結果の検討、砂防学会誌 ( 新砂防)、Vol. 37、No. 4、pp. 23-26、1984.11

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