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国道328号厚地橋の工法検討
(工事中における大規模地すべりとその対策)

鹿児島県土木部
次長
稲 田  博

鹿児島県土木部
橋梁係長
加 藤 憲 一

1 まえがき
一般国道328号の郡山町入来峠は地形が急峻な事から本県の中でも最大の難所と呼ばれ,これまで整備が遅れていたが昭和60年度に曲線半径60m,縦断勾配3%の盛土工法(盛土高10m)を採用し工事が着手され,61年12月には下層路盤工までほぼ完成し供用開始も間近であった。
しかしながら62年1月から路体盛土を含んだ地山全体の地すべりが発生し,収束する傾向が見うけられないため,とりあえず応急対策として盛土の取り除きを行い,その後土木研究所等の指導をあおぎながら本格的な対策工として再盛土案,ルート変更案および橋梁案の検討を行い最終的に橋梁案が採用されるまでの経緯を報告するものである。

2 地すべり発生の経過とその概要
一般国道328号の入来峠附近の改良工事は昭和60年9月から着手され,昭和61年12月には舗装工事を残すのみとなっていた。ところが昭和62年1月に「多数アンカー式擁壁」にクラックが発生していることが発見され,その後道路面にまでクラックが徐々に拡大し,2月中旬には道路が陥没,崩壊する大規模な地すべり性崩懐に発展した。
盛土工事は図ー1の断面であり,総盛土量25,881m3を15カ月で施工され昭和61年12月25日に完成した。多数アンカー式擁壁の施工は昭和60年11月までに完成しており,今回の変状までの少なくとも1年2ケ月間は異常が報告されていなかった。ところが盛土が完成し暫定的に道路を供用してから約1カ月程度で変状が発生したことになる。この地すべりが発生してからの経過は表ー1のとおりである。

地すべりは道路盛土部を含めた山体尾根部を巻き込む大規模なもので2月の急激な崩壊後も10~15cm/日と地すべりとしては異常に大きな速度で変位が継続した。
そのため,応急対策として昭和62年6月~7月にかけ地すべり頭部の排土を実施したところ降雨により多少の変動はあるものの変位量は1~2㎝/日程度と小さくなった。

3 地 質
地すべり地を構成する地質は第四紀更新世前期の泥岩砂岩互層(八重層)とこれを被覆して分布する安山岩類が10~20mの層厚で分布する。この安山岩と八重層との境界はボーリング資料によると一部茶褐色に風化し粘度化している。地すべりはこの境界附近で発生しており安山岩が移動土塊となっている。安山岩層は一般的にはN値50以上を示すが移動土塊部ではN値15~40程度とかなり軟質となっている。
地質図および地すべり想定図は図ー2のとおりである。

4 対策工の比較検討
復旧工法として次の3ケースを検討した。
(1) 道路計画面まで再び何らかの方法で盛土する。
(2) ルートを変更する。
(3) 地すべり区間を橋梁とする。
4-1 盛土案について
盛土案は線形的には問題ないが,活動中の地すべりの上に再度盛土すると新たな盛土により更に地すべりの活動力が増加し,それを抑止する力が必要となる。これには膨大な費用が必要である。
4-2 ルート変更案について
ルート変更案の場合,問題は道路線形,縦断勾配である。今回崩壊した現ルートは予備設計段階で多くの比較ルート案の中から選定されたもので地形が急峻なことから曲線半径R=60mと道路構造令の限界値を採らざるを得なかった制約の中で曲線区間内の縦断勾配を極力抑えて交通安全上の配慮を行ったルートであると言える。従って変更案を検討する上で出来るだけこの設計思想を踏まえて検討しなければならない。
しかしながら地すべり地帯を避けたルートにするにはだいぶ山側に追い込むことになり延長は短くなるが縦断勾配は現ルートより厳しくなることは避けられない。また山側にルートを追い込んだ場合長大な切取り区間が生じる。
この区間は現ルートでもかなり大きな切取り区間となっており切取り部の地質状況を見ると,今回地すべりが発生した箇所と同様に泥岩の上部に安山岩が分布する構造となっていることから大規模な切取りによりまた地すべりが発生する可能性がある。
4-3 橋梁案について
橋梁案は当初ルート通りの線形で今回地すべりが発生した区間を橋梁で通過するものである。
橋梁区間がR=60mの平面曲線となるため,構造的には複雑となりまた現地状況からも施工性が良いとは言い難く工事費は割高となる。しかしこのような状況での施工例も多くあり,施工は十分可能である。問題点は地すべり地に近接して施工せねばならない点であるが,橋脚の位置,基礎形式等を配慮することにより現在活動している地すべりに対する影響は避けることが出来ると考えられる。
また地すべりの拡大による橋梁への影響に対する対策としては橋梁部附近の斜面をアンカーや抑止杭等で直接的に防護する方法や,地すべりそのものを抑止し地すべりの拡大を防ぐ方法等が考えられる。
これらは盛土による過載荷重や自動車荷重がなく地すべり対策は容易で経済的である。
4-4 各案の比較検討
今回の比較検討を行うにあたり,経済性はともかく大規模地すべり地帯に建設される主要な幹線道路としての機能や構造性を重視して検討した。
まず盛土案は活動中の地すべり上に再度盛土を行うため大がかりな抑止工法が必要となることや,再度荷重を載荷することになり好ましくない。
次にルート変更案は本工区が国道328号で国道3号のバイパス的役割も果たす重要な道路で今後交通量も増加することから現設計以上に劣る線形はかんばしくなく,また長大な切取り面が生じることから新たな地すべりが発生するおそれがある。
このようなことから今回の厚地工区については橋梁案が最も望ましいと言える。

5 橋梁について
5-1 地すべりに対する橋梁の基本方針
(1) 橋梁自身で地すべりに抵抗するよう設計することは非常に不経済であり,また地山の安定を確保することも不可能なことから地すべり対策工として抑止杭やアンカー等を用いることとする。
(2) 上記の前提条件により,橋種や下部工の配置については入念な検討を行うこととするが,基本的には通常の橋梁設計と同様とする。
5-2 橋梁形式の決定
橋梁架設位置は地すべり発生地域であるので橋台,橋脚の配置は橋梁全体の安全性に重要な影響を与える。従ってその決定条件として下記の様な事項を考慮した。
(1) 橋台は地すべり区間外に設ける。
(2) 橋脚の設置は地すべり区間内を避けられないが橋脚の数を極力少なくすると共に地すべり区間の中心部には設置しない。
(3) 基礎形式は地形,地質から判断して杭基礎が適当である。
 打撃工法による杭は地すべり再発生の要因となる為望ましくなく,周辺地盤のゆるみを極力少なくできる深礎杭が望ましい。
(4) 上部工は下部工に作用する荷重を出来るだけ小さくする構造形式が望ましい。
上記設計思想を基に橋梁比較設計を行い表ー2に示すその結果より鋼3径間連続非合成箱桁を採用することとした。
概要を述べると,比較案は2径間案,3径間案,5径間案について検討した。
2径間案は
(1) 橋脚数が少なく施工性に優れている。
(2) 橋脚位置が地すべり区間の中心部に位置し構造的に好ましくない。
(3) 他案に比べて不経済である。
3径間案は
(1) 橋脚数が少なく施工性に優れている。
(2) 橋脚の位置が地すべり区間の中心部を避けており好ましい。
(3) 5径間案に比べ多少不経済である。
5径間案は
(1) 橋脚数が多く地すべり区間の中心部にも設置するので構造的に好ましくない。
(2) 他案に比べて経済的である。
以上のことから地すべり地帯に架設される橋の安全性を重視して,鋼3径間連続非合成箱桁を採用した。図ー3にその一般図を示す。

5-3 上部工
桁は曲線半径60mの曲線桁であり,桁には大きなねじりモーメントが作用するのでねじり特性に優れた箱桁とし,幅員も13.2mと広いことから箱桁を2本並列し強剛な横桁を用い格子構造とした。図ー4に標準断面を示す。

5-4 下部工
地すべり発生地に架設する橋梁は安全性を重視することが大事であり,特に橋脚の設計は地すべりが再発生した場合を想定し図ー5のような設計地盤線を仮定し,それより上部には土圧を考慮した。
杭の先端支持層は安山岩層とする場合と泥岩層とする場合が考えられるが,安山岩層は風化の著しい部分(N値7~29)と良質な岩の部分(N値50以上)が交互に入り混じっていることと,地すべりを起こした地層であることを考え泥岩層を支持層とした。

6 地すべり対策工法の検討
地すべり対策は法面をアンカーで処理する案と地すべり全体を抑止する抑止杭案で検討した結果安全性の高い抑止杭工法を採用した。

7 あとがき
完成間近の道路が20日間ほどで見るかたもなく崩壊していくのをつぶさに観測しながら地すべりの恐さと自然の力の大きさにただ茫然と見守ったものでしたが,その後2年4カ月の歳月がたち現在,地すべりの抑止杭が完成し橋脚の施工中である。平成元年度末には上部工も完成し供用開始のはこびとなる予定である。

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