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長大コンクリートアーチ橋の設計と施工
―大分自動車道・別府橋―

日本道路公団福岡建設局
大分工事事務所所長
伊 藤 野 彦

日本道路公団福岡建設局
大分工事事務所構造工事長
一 瀬 久 光

1 はじめに
長崎と大分を結ぶ九州横断自動車道は,延長約235kmの高速自動車国道であり,九州自動車道の鳥栖ジャンクションを境に,西側が長崎自動車道(約108km),東側が大分自動車道(約127km)と呼ばれている。別府橋は,この大分自動車道の終点近く,温泉で有名な別府市に建設中のもので橋長411m,アーチスパン235mのコンクリートアーチ橋である。温泉地帯という腐食環境,地盤条件の厳しい場所における大規模アーチ橋の建設となるため,計画時点から様々な調査・検討に基づき種々の対策を講じながら施工を進めている。
本文は,着工以来3年を経てアーチリングが閉合し,現在,補剛桁の施工を行っている別府橋の設計・施工について報告するものである。

2 設 計
2.1 橋梁概要
 道路名    大分自動車道
 規 格    1種3級A
 橋 長    411m
 有効幅員   2@9.0m
 平面線形   R=4,000m
 縦断勾配   4.94%
 形式鉄筋   コンクリート固定アーチ橋
 支 間    235m(東洋一)
 ライズ     fL=34.0m,f=37.0m
 架設工法   トラス・メラン併用工法

2.2 設計方針
本橋の設計は,以下に示す基本方針のもとに行った。
① アーチの構造系は,AA1アーチアバットの基礎地盤が温泉変質作用を受けて軟質化しているので,補剛桁の寄与率を高めたローゼタイプのアーチ(ただしアーチリングは補剛桁鉛直材の自重も単独に支持しうる剛性を持つ)を採用し,軽量化を図り,アーチアバットの反力を極力軽減できるようにした。
② アーチが非対称であるため,左右のスプリンギング部の断面力のバランスを考慮して,アーチ軸線形状を決定した。
③ アーチリングは,面外地震に抵抗できるよう,横方向剛性の高い3室箱桁の上下線一体断面を採用した。また,クラウン部において補剛桁と一体化することで耐震性を高めた。
④ 補剛桁は断面性能に優れる箱形断面を採用し,腐食環境を考慮して架設用斜吊りPC鋼棒を転用したパーシャルPC部材とした。
⑤ コンクリートのクリープは,施工中に進行する影響も考慮して解析した。
⑥ 設計震度は修正震度法によるものとするが固有周期については固有値解析を実施して求めた。

2.3 設計条件
活荷重:TL-20,TT-43
衝撃係数:i=10/(25+L)アーチリング補剛桁
    :i=20/(50+L)床版
震 度:完成時 橋軸方向  Kh=0.17
        直角方向 Kh=0.21
    :施工時     Kh=0.10
温度変化:コンクリート ±10℃
    :鋼      ±30℃
クリープ係数:Φ=2.0(基本値)
乾燥収縮度:ε=25×10-5(基本値)
レラクセーション:床板  5%
        :その他  3%
支点移動:鉛直方向 δγ=37mm
     水平方向 δH=56mm
軸線移動:+25cm,-5cm
施工時荷重:架設作業車 P=250t
     :作業荷重  W=100kg/m2

2.4 上部構造の検討
(1)基本構造の検討
a)アーチ軸線
アーチ軸線には,次の理由により変垂曲線(シュトラスナーの式の準用)を用いることとした。

① パラメーターmを変化させることで,非対称アーチでも断面力を対称にできる。
② 長大コンクリートアーチ橋として最も実績のある曲線である。
本橋では,表ー1に示すように3種類のパラメーターの組合せを比較して,左右のスプリンギングの断面力が対称となるmL=3.0,mR=2.0の軸線形状とした。

b)鉛直材の結合条件
アーチ構造としては,アーチリング,鉛直材補剛桁をできる限り剛結合として不静定次数を高め,外力に対して一体で抵抗させるのが望ましいことから,鉛直材の結合条件を検討した。
アーチリングと鉛直材に関しては,施工上の理由から剛結合として,補剛桁と鉛直材の結合条件を図ー3の2ケースについて検討した。
この結果,ケース2では鉛直材のコンクリートおよび鉄筋が地震時に許容応力度を超えるため,ケース1の結合条件を採用した。

(2)架設時の設計
アーチリングは,トラス構造による片持架設,メラン材閉合後の鋼・コンクリートの補合アーチが形成されてからのコンクリート打設,完成時と各段階で断面力の傾向が異なるので,施工時から完成時まで解析できる平面骨組解析を用いて,逐次構造系を変化させた解析を実施した。
a)アーチリング
アーチリングの架設時の設計は,以下に示す条件を確保するよう,斜吊りPC鋼材およびアーチリングPC鋼材の本数等を決定した。
① アーチリングの応力度は,アーチリングが完全に閉合する前まではPC構造とし,閉合後はRC構造として検討する。
② 架設時のコンクリートの許容引張応力度はひび割れを生じさせないこととして,

とする。

アーチリングの主要断面応力度を表ー2に示す。

b)斜吊の材
斜吊り材は,アーチリング閉合後に撤去して補剛桁に転用することを考慮し,架設時に想定される荷重が作用した場合でも,以下の許容値を確保するものとした。

また,設計の簡略化を図る目的で,施工中に作用する従荷重(風荷重,温度変化,サグの影響,引張誤差)による応力度をあらかじめ上記許容値から差し引いて,架設時主荷重による許容引張応力度を設定した。斜吊り材の許容引張応力度の計算結果を表ー3に示す。

c)メラン材
メラン材の形状については,フルプレートタイプ(宇佐川橋)とトラスタイプ(帝釈橋)を比較した結果,経済性およびウエブのコンクリートの締固めの容易さから,トラスタイプを採用した。
また,メラン材をアーチリング完成後の抵抗材として利用できるかどうか検討したが設計が架設時の割増しを考慮した許容応力度を用いているので,本体利用した場合,完成後のメラン材の応力度は設計荷重時の許容値を超えるため,設計荷重作用時の抵抗材としては無視し,終局荷重作用時の抵抗材としてのみ考慮するものとした。

(3)完成時の設計
a)アーチリング
アーチリングの完成時の検討は,架設時に生じている応力度に,完成以後に載荷される応力度を加えて照査することとし,以下の条件を満足するように実施した。
① アーチリングの応力度は,RC構造として設計する。
② 活荷重の載荷時期を考慮して,クリープの進行度1/2および完了時の2ケースについて検討する。
③ せん断補強に対する基本的な考え方は,アーチリング全体系での破壊状態をスプリンギング部の曲げ破壊となるように,各検討断面でのせん断破壊の安全度を確保することとする。
④ AA1アバットの支点移動量については,常時扱いとする。
b)補剛桁
補剛桁は,以下の理由からPRC部材として,㈶高速道路調査会の「PRC道路橋設計要領(案)」に従って設計した。
① 架設地点が温泉腐食環境地帯に位置するため,RC部材よりもひび割れ制御を確実にする。
② 斜吊りPC鋼材を転用できる。
ただし,プレストレスの導入レベルは上記条件①を考慮して,次の考え方で求めることとした。

3 トラスカンチレバー部の施工
3.1 概要
スプリンギング部の支保工施工を終了してから特殊大型ワーゲンを組み立て,アーチリングの両側からそれぞれ約80mの長さまで張り出し架設を行った。張出し架設は,施工時の応力を低減する目的で,鉛直材と上弦材に大型H鋼を また斜材にPC鋼棒を用い,下弦材としてアーチリングコンクリートを構成部材とするトラス構造で施工を進めるトラスカンチレバー工法を採用した。

トラスカンチレバ一部は,基本ブロック長4.4mで18ブロックに分けて施工した。施工手順としては,所定の位置に移動・据え付けされた特殊大型ワーゲンによって支持された型枠内に鉄筋・PC鋼棒を組み立て,コンクリートを打設し,コンクリートが所要の強度に達した時点でPC鋼棒の緊張作業を行い,次のブロックの施工に移るというものである。
アーチリングの施工区分を図ー5に示す。

3.2 ワーゲンの構造
アーチリングは,上下車線一体となった3室箱形断面構造で,その幅は18.7~21.4mと通常の箱形断面の域を超えるものである。したがって,ワーゲン内で1回に打設されるコンクリート量も,トランスカンチレバ一部で70~120m3(メラン部で130~180m3)と多く,これらの重量を受け持つワーゲンも大型のものとなった。
構造は,大型トラス4基を配置したもので,主構造部重量は230tである。このワーゲンの特徴としては,角度調整機構および油圧ジャッキによる推進装置が挙げられる。角度調整機構は,各ブロックごとに変化するアーチリングの勾配に対して,ワーゲンを常に水平に保つよう,後方支柱,ターンバックルの長さ調整を行うものである。推進装置は,型枠,足場等含めた約260tの重量を最大勾配38°で推進されるもので,容量50t,ストローク60cmのセンターホール型ジャッキ4台を擁し,コントロール操作盤でワーゲンを押し上げる。ジャッキ反力は,ゲビンデ鋼棒φ32によりアーチリングコンクリート前面にかけたレールストッパーに伝達される。

3.3 上げ越し管理
(1)概要
上げ越し管理の目的は,工事が完了しコンクリートのクリープ・乾燥収縮によって生じるたわみ量を所定の計画高に加えて決定した。
本橋では,架設期間が長いこと,また架設時には鋼とコンクリートの複合構造物になることから施工中のクリープ・乾燥収縮の影響を考慮して上げ越し計算を実施した。また,AA1アバットの基礎地盤の特殊性から基礎の沈下が当初から予想されたので,この影響についても上げ越し量に考慮した。
特にアーチ構造の場合,軸線の誤差がそのまま断面力に影響を及ぼすので,設計で定められた許容誤差±100mmを限界値とし,±50mmを管理目標として施工を進めた。
(2)上げ越し量
アーチリング各ブロック型枠セット高を図ー6に示す。このセット高が18ブロックの値に示すように円滑な曲線にならないのは,斜吊り材の緊張による影響である。また,図ー6の補正値とはアバット構築時スプリンギング部の鉄筋を埋設した際にそれ以降の沈下量分を上げ越ししたが,実測値が下回ったためにアーチリングの高さを調整したものである。

(3)上げ越し管理
アーチリングの標高と距離は,光波測距器を主に,レベルを従として各ブロック先端に埋め込まれた釘を用いて,コンクリート打設,PC鋼棒の緊張,ワーゲン移動および斜吊り材の緊張作業ごとに随時測定した。
測定にあたっては,アーチリング張出し施工時に常に観測できるようEP1およびEP2橋脚に貼付したリボンテープを仮ベンチマークに,アーチリングを常に観測できる位置(AA1,AA2アバット)に基準点を設置した。
上げ越し管理で特に留意した事項は,温度変化によるアーチリング変位の補正方法である。設計上の上げ越し計算は,各部材の温度変化により生じるアーチリング変位量をあらかじめ算出し(図―7),実測値からその量を差し引いて管理値を確認した。
基礎の沈下については,アーチアバット施工時に計算値より実測値が少なめであることが判明していたので,その影響を考慮して上げ越し量を設定し,6ブロックごとに実測値を基にして上げ越し量の見直しを実施することとしていたが,10mm程度の補正が必要であった。

4 メラン材の架設
4.1 概要
メラン材の架設は,アーチリングのトラスカンチレバー施工が所定の位置(18ブロック)まで完了後,あらかじめ地組みされたメラン材(約530t)をワーゲンに組み込まれた吊上げ設備および吊上げ用PC鋼棒にて一括吊上げし,アーチリング先端の沓にピンで固定するものである。
地組にあたっては,パイプ支保工を組み,100t吊りクローラクレーンにて組み立て,高力ボルト本締めおよび上弦材に通路足場・安全ネット等の取付けまでを行うものとした。
吊上げ荷重が約530tもあるため,ワーゲンの改造補強を行い,吊上げ装置はA,Bライン8基を準備して,アーチリングに余分な応力を作用させないようにA,Bラインのメラン材を同時に地切りした後,片側ずつ架設した。

4.2 地組
メラン材は工場製作・仮組立て検査完了後,単品部材に分割し海上輸送と陸上運搬で現地に搬入した。
地組方法としては,①単材組立て,②面材組立て,③ブロック組立て,の3案を検討した結果,部材の輸送,地組ヤードのスペース,徴調整の容易さ,地組クレーンの能力等の条件から単材組立てを採用した。単材組立ての手順は,地上のベント上で片ラインの端部から1ブロックごと,次の順序で行った。
①下弦材,②対傾構,③下横構,④垂直材,⑤斜材,⑥下部防護工,⑦上弦材,⑧対傾構,⑨上横構
一括架設を行うため,組立てにあたってはアーチリング先端の支承取付け位置を基準にして,吊上げ時のアーチリング・メラン材のたわみや温度変化等,各種の変位量を算定し反映させた。また吊上げ量を同じにするため,現地盤を利用して支保工・コンクリート基礎の施工を行った。

4.3 吊上げ
a)吊上げ手順と要領
メラン材の吊上げは,特殊大型ワーゲンに各4台,計8台のリフトジャッキ(油圧ジャッキ最大揚力95t)を設置し,吊上げ用鋼棒(ステップロッド)は最大径φ85のものを使用した。また,油圧ポンプユニットを各々のワーゲン上に1台設置し,一方のワーゲンに設置された操査盤で遠隔操作により吊上げた。設備の組立て,吊上げ途中でのロッド抜取り等の揚重設備として,150t吊りクローラタワークレーン2台を配置し,図ー8に示す手順によって吊上げた。

b)吊上げ工程
吊上げはA,Bライン同時に,30%,60%,100%の順序で載荷し,各部材応力に異常のないことを確認しながら地切りをして,その後Aライン側のみ2mのリフトアップ試験吊りを行い,本吊上げに備えた。
吊上げは,気象情報の最大風速10m/secを目安に作業実施の判定を下し,Aライン側より吊上げた。
吊上げ速度は当初計画では4.5m/hであったがロッド抜取り時間の短縮により実績としては6 m/secであった。
c)吊上げ時のジャッキの負荷
鋼重265t×2連を8台のジャッキにより同時に地切りするので,ワーゲン部材への偏荷重を避けるため,ロードイコライザーを使用して,ジャッキの速度差およびロッドのレベル差による変動荷重を吸収することにした。また,そのときの荷重変動をロードイコライザーに取り付けられた油圧計で圧力管理した。管理値はワーゲン部材強度より,計画値の115%までとした。

5 おわりに
温泉地帯に架かる長大コンクリートアーチ橋ということで,計画時点から種々の検討を加えてきた別府橋もこの7月,ようやくアーチリングが閉合し,現在補剛桁の施工を行っている。
これまでのところ,心配されたアバットの鉛直沈下・水平変位ともに設計値を下回っており,問題ないと思われる。
今後とも十分な施工管理を行い,来春の橋体完成へ向けて努力してゆきたい。

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