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南九州西回り自動車道 宮里トンネルの施工について
岩元俊彦

キーワード:南九州西回り自動車道、トンネル、スコリア層

1.はじめに

「南九州西回り自動車道(総延長約140㎞)」は、熊本県八代市から水俣市、鹿児島県出水市、薩摩川内市を経て鹿児島市に至る高規格幹線道路であり、並行する国道3 号の交通混雑の緩和、災害時等における信頼性のあるネットワークとして機能するとともに、九州南西部地域の経済活性化等に大きく寄与する路線である。
宮里トンネルは南九州西回り自動車道 川内隈之城道路の薩摩川内高江IC .薩摩川内都IC(総延長約6.7㎞)間(図ー1参照)に、薩摩川内市の南西部を貫く片側1 車線の暫定供用にて計画している、延長1,211m のトンネルであり平成26 年度内開通を目指している。
本トンネルの位置は、比高120m ~ 150m の溶岩台地(図ー2参照)にあり、台地全体を玄武岩あるいは自破砕玄武岩が覆っていること、地中に玄武岩が貫入している可能性があること、さらに、陥没地形が存在、そこにスコリアや火山弾などの堆積物が堆積していることが判明している。なお、この台地上には河川などの水源が認められないが、井戸を掘って地下水を利用(用途は多種)しているため、既往の解析結果では地下水がトンネル工事により多少の影響を受けることが報告されている。
本稿では、全国的にも珍しいスコリア層を通過する宮里トンネルの施工状況について報告する。

2.工事概要

宮里トンネルの工事概要を以下に示す。
 工 事 名:鹿児島3 号宮里トンネル新設工事
 発 注 者:国土交通省 九州地方整備局
 受 注 者:三井住友建設株式会社 九州支店
 施工場所:鹿児島県薩摩川内市宮里町地内~鹿児島県薩摩川内市青山町地内
 工  期:平成24 年2 月14 日~平成26 年3 月31 日
工事内容:
 トンネル掘削(発注時)支保パターン
 坑口付け+ D Ⅲパターン:146.0m
 D Ⅰー b パターン   :704.0m
 C Ⅱー b パターン   :295.8m
 C Ⅱー L パターン   : 64.2m

図ー3に宮里トンネルの平面図、図ー4に地質縦断図、図ー5に代表的な断面図を示す。
本工事は、平成24 年8 月に起点側坑口より掘削を開始し平成25 年10 月末までに坑口から896m まで掘削を終えており、インバート工、覆工コンクリート工を順次進めている。
ただ、掘削開始の約2 ヶ月前になる平成24 年6 月の豪雨により起点側坑口の斜面が崩壊するというアクシデントに見まわれ、本トンネルが貫くこの溶岩台地の脆弱さが露呈した。その被災状況を写真ー1に示す。

3.宮里トンネルの特徴
(1)地形・地質概要

本トンネル周辺の地形的特徴は、頂部に広がる地形平坦面とその直下に見られる急崖ないし急傾斜面で特徴付けられる。平坦面は、不定型で幅数100m .最大1㎞程度の広がりをもつ溶岩台地で、地形分類では中起伏山地に分類される。急傾斜面は、30°~ 40°前後の傾斜で平坦面を縁取っている。調査地周辺では、幾筋もの沢が山体(丘陵)を深く刻み込んでいるため、狭小な谷幅となっている。特に、トンネル起点側坑口を刻む「宮里谷」、終点側坑口を刻む「木場谷」は、それぞれ南北方向、北西.南東方向に丘陵を下方に浸食するため、両坑口付近の谷は、直線的で狭長となっている。
また、地質的特徴は、白亜紀の不加体(四万十帯)を基盤とし、新第三紀から第四紀更新世の火山岩類が厚く堆積する。この火山岩類は、先加久藤火砕流堆積物、新期火山岩類、入戸火砕流堆積物に大別される。図ー6に本トンネル周辺の地質平面図を示す。

このうち、本トンネル周辺の新期火山岩類は玄武岩を主体とし、全体に硬質であるが冷却節理が多く発達するため、全体に透水的な岩盤があることが多い。特に、低透水的な加久藤火砕流堆積物の直上位に分布することから地下水を胚胎する帯水層を形成しやすいと考えられる。なお、既往の調査結果から台地中央部に火山性の陥没構造が分布していることが判っており、その陥没構造には堆積したスコリア層と貫入した玄武岩の層が確認されている。図ー7に本トンネル周辺の模式柱状図を示す。

ここで、陥没構造に堆積しているスコリア層について説明を加える。スコリアとは玄武岩のマグマが噴火の際に地下から上昇し、減圧することによってマグマに溶解していた水分などの揮発成分などが発泡したため多孔質になったもので、外観は黒い軽石に似たものである(写真ー2参照)。スコリアは多孔質であり礫径が大きく高い間隙率を有することから帯水(透水)層を形成すると想定され、掘削においては湧水を伴うと考えられる。また、スコリアは火口から放物線を描いて放出され、周囲に同円心状に堆積するとされ、ひとつの火口から大量に放出されるとスコリア丘を形成する。このスコリア丘の代表として、九州では熊本県の阿蘇山 米塚が挙げられる。図ー8に本トンネル周辺の地質構造発達史(概念図)を示す。

(2)地下水の状況

 先述したように、本トンネルが通過する台地状の地形には河川などの水源が認められないが、井戸を掘って地下水を利用(用途は多種)している。
 本トンネル周辺の地質構成や岩盤性状からは、地下水を胚胎し得る帯水層(透水性岩盤)が認められる。帯水層の直下位には低透水層ないし遮水層(遮水基盤)が分布すると考えられる。
 既往の調査結果及び、その水理特性から、分布する地層のうち帯水層として機能し得るのは、
①新鮮な玄武岩溶岩塊状部、②玄武岩貫入岩、③溶結凝灰岩(中.強溶結部)、④スコリア層(基低部における高間隙率保有区間)である。なお、孔内水位変化や区間水頭の分布を加味すると、帯水層は以下のように区分される。
(宙水層):
  ・表層付近の強風化玄武岩溶岩、スコリア層や崖錐堆積物が該当する。
  ・側方への連続性に乏しく、局所的に水位の高さが異なる。
(第一帯水層):
  ・溶結凝灰岩(中.強溶結部)と陥没構造を通じて、側方に連続したスコリア層が該当する。
  ・帯水層として水位が安定している。
個々の帯水層への地下水供給として、宙水層は台地からの雨水涵養が主体と想定される。この宙水層にあたる玄武岩溶岩は新鮮な節理が発達した塊状部では1 × 10-3~4㎝/s の高透水を示す。またスコリア層についても同様の値を示している。これに対して、第一帯水層は宙水層直下の低透水層より下位に分布する台地上からの涵養量は極めて小さいと考えられる。更に同帯水層は近年の渇水発生以前においては長期にわたって井戸水が安定的に供給されていたと判断されるため、涵養水以外の供給源が存在する可能性が高い。
また、流動経路としては一定方向への安定した流動方向をもたず、沢の中心に向かう流れや沢の延伸方向に向かう流れなどが混在し、多用な流動形態をとっていると考えられる。特に第一帯水層中の地下水流動経路は、基低部の低透水層の不陸に規制される複雑な流動形態を示すことが想定される。図ー9に本トンネルの地下水解析モデルを示す。

【用語説明】
宙水:不圧地下水面より上位の不飽和帯中に、局所的に形成される特殊な地下水体。年間を通じて、存在するものと、降雨時のみに認められるものとがある。

4.現在までの施工状況

一般にトンネルを掘削する場合、地山の状態が脆弱であれば補助工法を採用することが多い。本トンネルにおいても、先述したように脆弱であるため、補助工法を併用して掘削を行っており、その状況を以下に述べる。
坑口付近においては粘土化した赤茶色の火山礫凝灰岩であり、一軸圧縮強度0.4N/mm2、含水比50%で掘削当初は自立するが時間の経過とともに緩みが進行し、肌落ちして崩落する。また、坑口から約160m 付近ではロックボルト孔から20L/min の湧水も確認された(写真ー3参照)。その切羽の安定対策として鏡ボルト及び鏡吹付けコンクリート、天端の抜け落ち等の安定対策として各種先受工を施している。図ー10 に補助工法のイメージ図を示す。

坑口から330m 付近においては下半からの湧水により路盤面が泥ねい化し、掘削・ズリ運搬の支障となったため、ウェルポイント工法を実施した(写真ー4、写真ー5参照)。
ただ、トンネル全体が脆弱というわけではなく、坑口から約180m 付近.約480m 付近にかけては補助工法を採用していない。
また、掘削の過程で第一帯水層付近に達したため、事前に水平調査ボーリングを実施したところ、ボーリング孔より1,500L/min の湧水が確認され、検討を行い、再び各種安定対策を施すこととなった(写真ー6参照)。
さらに、トンネル掘削(発注時)支保パターン中のC Ⅱ区間となったが、下半の一軸圧縮強度が3.0N/mm2と低く、また湧水量も多くD Ⅰパターンでの施工を行っている。
その後、平成25 年7 月よりスコリア層が切羽に見受けられるようになり、本層は大量の湧水を含むと想定されていることから、切羽の不安定化が懸念されている。そこで、受注者である三井住友建設㈱から技術提案のある下記を実施し入念な検討を行った。
・水平調査ボーリング:スコリア区間における分布範囲と岩盤性状の確認及び切羽前面の水抜き(2 孔)
・切羽前方探査:削孔エネルギーをもとにFEM 解析を行い、支保パターンと補助工法を事前に検討及び切羽周辺の水抜き(3 孔)
その結果、1 断面当り5 孔の削孔で高い水抜き効果が認められ切羽の安定を図ることができた。
なお、スコリア層の一部に貫入している玄武岩についても前方探査の結果から存在が確認できており、実際に切羽全体を覆う形で露呈し、その岩質は機械掘削が困難なほど硬質であった。そこで、硬質な部分のみに発破を併用して掘削を進めていくこととし検討を行った。しかし、貫入玄武岩の周りはスコリア層であるため安易に爆薬を使用するとトンネル支保構造に影響を与えることが懸念された。その影響を与えない判断基準として、上半トンネル外周4m に硬質な玄武岩があることを確認することとし、確認方法としては、ロックボルトからの湧水が無いこと、削孔時の繰り粉が暗灰色の玄武岩のものと確認されることとした。その結果、スコリア層区間は順調に掘り進むことができ、現在は中.強溶結凝灰岩の層を掘削しているところである。図ー11 にスコリア層中の前方探査結果を示す。

5.おわりに

スコリア層という全国的にも珍しい地質を掘削する工事であり、何事もなく層を通過することができたのは既往の調査・解析結果を参考に入念な検討を行った結果である。本工事は、まだ掘削中であり今後も安全かつ円滑に進めていきたい。
今後、類似の地質を通過するトンネルの参考となれば幸いである。

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