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公共調逹方式の一大改革実現へ
(コスト構造改革の取り組み)

国土交通省 九州地方整備局
 企画部 技術管理課長補佐
加 治 賢 祐

1 はじめに
平成15年度は「コスト構造改革」の初年度である。
これは,昨年8月末の経済財政諮問会議において,国土交通大臣が「コスト構造改革」の取り組みに着手すると表明したことを受けたもので,従前の工事コスト縮減に加え,公共事業の全てのプロセスを例外なく見直すとしたものである。
このため,9月末には事務次官を委員長とする「国土交通省公共事業コスト構造改革推進委員会」を設置するとともに,幹事会や八つの作業部会を組織するなど省内の推進体制を整え,大臣表明からわずか半年余りの今年3月末に,実施すべき施策を取りまとめた「国土交通省公共事業コスト構造改革プログラム」が策定された。
このように,コスト構造改革は短い期間でかなりのスピードで動いており,本稿では,こうした内容や九州地方整備局としての取り組み等について,簡単にご紹介する。

2 コスト縮減のこれまでの取り組み
公共工事のコスト縮減については,平成9年度から3ケ年で工事コストを10%以上縮減するという目標のもとに,政府全体の取り組みとしてスタートし,計画・設計の見直し,技術開発,積算の合理化等の直接的施策や資材の流通の合理化,建設副産物対策等の間接的施策を実施した結果,3年目の平成11年度にほぼ目標が達成された。更に,平成12年度からは,コスト縮減施策の定着を図ることや厳しい財政事情の下で引き続き社会資本整備を着実に進めていくことなどを理由に,工事の時間コスト,ライフサイクルコスト,社会的コストや工事の長期的なコスト等の低減を視点とした総合的なコスト縮減を,新たな行動指針をもとに実施してきた。
工事コストの縮減については,平成8年度を基準とした縮減率でフォローアップしており,平成13年度までの九州地方整備局における縮減結果について,図ー1に示す。
この間,着実な成果を上げているものの,ここ数年は縮減の伸びが鈍ってきており,特に,平成12年度は前年度の実績を下回る結果となっている。また,全国的に見ても,頭打ちの傾向でありコス卜縮減は進んでいるものの,これまでの施策では限界にあると云わざるを得ない状況下にあるものと思われる。

3 コスト構造改革とは…
(1)改革のポイント
これまでの延長線上でコスト縮減を行うには限界があり,全く新しい考え方で,より大胆に,今までに無い視点の改革に取り組みが求められ,こうして生まれたものが『コスト構造改革』である。
具体的には,「発注者として,公共調達の全てのプロセスをコストの観点から見直す」としたもので,従来からの制度的枠組み等にとらわれず,より良い調達システムに変えていくこととしたものである。見直しのポイントとしては,
 ①「事業のスピードアップ」
 ②「設計の最適化」
 ③「調達の最適化」
の3点に主眼を置いている。
このうち「事業のスピードアップ」については,工事に先立つ段階での事業の円滑な進捗を図ることに重点を置き,合意形成手法の改善,事業の重点化・集中化,用地・補償の円滑化を図るもので,極めて遅れている地籍調査についてもその促進を図るものである。
次に「設計の最適化」では,計画・設計に関する規格の見直し,民間の技術提案を積極的に導入する仕組みの構築等を行うことにより,従来からの取り組みにおける技術的な限界をブレークスルーする。特に,地域に応じた構造基準の見直し(ローカルルール)や直轄工事における設計総点検は直ちに実施することとしている。
また,「調達の最適化」では,今までの直営方式準拠の考え方を抜本的に改め,民間の調達方式の導入を基本としながら,民間の技術力を結集できる調達を確立するとともに,公共発注における予定価格,積算,発注単位,入札,契約などに関する制度的な制約等についても検討し,必要な制度改革を行うものである。
以上,コスト構造改革について簡単に記述したが,この改革としてのキーワードは,「民間の手法や工夫」である。
民間の手法や工夫を参考に,幅広い観点と発想で検討し,試行による検証を経て直ちに制度化や本格実施に移していこうというもので,特に「調達の最適化」は,民間の技術力,調達方法を公共工事に導入していくことを目指すもので,“価格のみを中心とした競争から技術力競争重視の調達方式への転換”に尽きる。

(2)改革の目標
このコスト構造改革の目標として,従来の工事コスト縮減に変わる概念として「総合コスト縮減率」を設定した。
これは,これまでの工事コスト縮減に加え,大胆な「規格の見直し」や「ローカルルールの導入」によるコスト縮減,事業の「重点化・集中化」や「地籍調査の促進」による事業のスピードアップによる事業便益の向上・早期実現,また,将来の維持管理費の縮減にまで踏み込んで評価の対象にするとしたもので,特に,時間的要素を取り組んだことが大きな特徴となっている。具体的数値目標としては,図ー2に示すように,従来の平成8年度を基準としていたものを,新たに平成14年度を基準とし,平成19年度までの今後5ケ年間で15%の縮減を達成することとしている。

4 目標達成のための具体策
(1)改革プログラムの策定
平成15年3月末には,今年度から本格的に取り組むコスト構造改革の具体的な施策メニューを示した『国土交通省公共事業コスト構造改革プログラム(以下:「改革プログラム」という)』を策定した。
この改革プログラムは,平成15年度に確実に実施する施策(設計の総点検)のほか,検討,試行,関係省庁との調整を行った上で実施に移行する施策も含めた34施策が織り込まれている。

(2)新たな調達方式の試行
改革プログラムの内訳として,特に,調達の最適化として12施策のメニューが策定されており,そのうち,入札・契約の見直しの施策として9施策が打ち出されている。
このうち,詳細な試行方法は今後検討が必要となるが,VE提案を求める工事では,標準案による参加を認めていたものを技術提案者だけが入札に参加でき,更に,提案内容の技術的審査を対話(ヒヤリング)により行う入札方式の試行が盛り込まれている。
また,企業の技術力を適正に評価し,企業選定にあたって技術力を評価できる環境を整備することとされており,具体的には,一般競争入札等の入札参加条件で工事成績の活用方法を探るとされている。
このように,今回策定された改革プログラムは,技術力競争を重視した新たな調達方式の試行・導入,転換へと云うことに他ならない。

5 九州地方整備局の取り組み
策定された改革プログラムに対する,九州地方整備局としての現時点(平成15年4月末現在)での取り組み内容,又は,対応方針について紹介する。
(1)設計の総点検
今回策定された改革プログラムの中で,唯一実施年度が明記されているのが「設計の総点検」である。
この設計の総点検とは,「すでに進められている設計の内容が,現時点で最適なものになっているとは限らない。」とし,コスト縮減の様々な取り組みなどの観点から設計を見直すとしたものであり,すでに平成14年度に試行を実施している。これは,平成15年度に一斉に実施する総点検に先立ち,点検実施要領など,事前に課題等を把握する目的で実施したもので,九州地方整備局管内の17のモデル事務所を選定し,平成15年1月から3月中旬の間で実施した。現在,この試行結果を踏まえ,平成15年度の本格運用を準備中である。
また,九州地方整備局では,コスト構造改革に関連した現場の支援体制の一つとして,『人づくり』を目指した研修等の開催を準備中である。
当面は,「設計の総点検」が整備局等の職員(インハウス)により行うことから,計画・調査などの分野で中心的役割を担う調査担当課長を中心に対する研修として開催する予定で検討している。

(2)ローカルルールの設定
ローカルルールの設定は,施策の一つとして,地域の実情にあった合理的な計画・設計の推進を求めるもので,そのための技術基準の弾力的運用設定を行うこととなっている。
このような背景を踏まえ,5月に地域高規格道路の新たな構造要件の見直し基準がまとめられ,関係機関に通知されている。具体的には,4車線以上(片側2車線)としていた要件を見直して2車線での整備を容認したことや60km ~80km以上であった設計速度を概ね60km以上に緩和したことなどである。
この対応の一例を先取りしたものとして,先の4月21日に開催された長崎県知事との定期対談の中で,1993年に基本計画が決まり,97年に事業化され,現在,整備計画策定に向けて調査を進めている西九州自動車道のうち,『伊万里松浦道路(18km)』について,基本計画を見直し,片側2車線から1車線への変更を検討することを明らかにしている。

(3)その他の施策
前述以外の施策については,例えば,すでに試行中にある総合評価落札方式や電子調達としての電子入札は,その一層の推進として積極的な活用や,円滑な実施と普及等が求められており,九州地方整備局としてもコスト構造改革を加速度的に推進していく予定である。しかしながら,これら施策の実施には,より具体的な取り組み内容や目標を明文化した実施方針が必要となる。
施策実施に向けた検討フローを以下に示す。

(4)具体的施策の実施に向けた対応
今回のコスト構造改革は,社会資本の提供できるサービスがいつ開始されるか,それが早まった場合にはコスト縮減効果としてカウントしようという考え方が取り入れられており,極めて大きな意義を持っている。と云うのも,これまでの社会資本の整備は,仕掛かりからサービスの提供まで時間がかかり過ぎているか,細切れ的にしかサービスの提供ができていないことが少なくなかったからである。これまでも,現場の第一線の担当者は一所懸命努力してきているが,こうした努力目標があれば,担当者としてより一層の励みになるものと思われる。
こうした背景等を踏まえ,34の施策実施にあたっては,社会実験を含む試行を実施したうえで検証し,制度化・本格実施化を行うことが少なくなく,更には,現場体制の確立等も視野に入れながら検討していく必要があることから,実施方針の検討.策定には本局のみにおいて策定するのではなく,事務所の参加が不可欠であると判断している。このため実施方針の原案策定にあたっては,事務所長の代表と局内の関係者とから組織する,「ワーキング」を設置すべく現在調整中である。また,意志決定に向けての段階の一つとして,ワーキングとは別に,副所長(代表)会議の活用も検討している。

6 今後の課題
公共事業は,豊かな国民生活や活発な地域経済活動に必要不可欠な道路,河川,ダム,下水道などの社会資本の整備を行っている。これら社会資本は,長期間にわたって使われるため品質の確保が必須条件であり,ただ安ければよいと云うものではない。
このためには,前述したように今後は,価格のみを中心とした競争から,技術力競争重視の入札契約方式へ転換していく必要があり,そのためには企業の技術開発を促すためのインセンティブを付与する仕組みの早期な構築が必要と思われる。

7 おわりに
九州地方整備局の対応を含めてコスト構造改革について述べてきたが,今後の公共事業は,本当に地域のニーズにこたえた最小限のサービスになっているかと云うことが大事である。その答えの一つがコスト構造改革である。
4月1日に出された「平成15年度国土交通省所管事業の執行について(事務次官通達)」の中でも,より一層のコスト縮減を図るため,「公共工事コスト構造改革」の推進に努めることとされており,数値目標を達成するためにも,早急に,34のプログラムに対する具体的実施方針を作成し,可能な施策から順次実施していきたい。
そうすることにより,「より良く,より安く,よりタイムリー」な社会資本の調達が可能になる。

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