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家田・川坂川自然再生事業
~地元のかわは地元で守る!~

宮崎県 県土整備部 河川課
河川担当 主任技師
黒沢津  翔

宮崎県 延岡土木事務所
河川担当 主幹
藤 本 国 博

キーワード:家田湿原、川坂湿原、貴重種、地域協働

1.はじめに
家田川及び川坂川は、延岡市北川町の山地部を源として北川町の南東部を流下し、北川に合流する一級河川である。
家田川及び川坂川は、伏流水が湧出する地点からは勾配がなく、あちこちに小川が流れ、北川本流の湧水域であった。加えて、北川の堤防が霞堤であり、当該地区は毎年のように襲う洪水によって数多く冠水する北川の浸水域となっていることから、古くから年中水の抜けない地域となり、そこには広大な湿地帯が広がっていたと考えられている。
当該地区は、平安時代から終戦時期にかけて水田として耕作されたが、洪水が頻発する悪条件の中の耕作であったため、近年では次第に休耕田や放棄水田が増え、そこにはかつての湿性植物が数多く生育するようになり、全国的にも貴重な植物が多く見られるようになった。
北川では、1997 年 ( 平成 9 年)台風 19 号による大洪水を契機として、河川激甚災害対策特別緊急事業 (H9 ~ H15)が行われた。河道掘削等を実施したことにより、北川の水位が低下し、家田川及び川坂川の霞堤から堤内地へ流入する洪水流が低減し、冠水回数、冠水時間が減少した(図- 1)。
その結果、家田湿原、川坂湿原の環境が湿地から乾燥に移行し、湿地環境が損なわれ始め、今後さらに乾燥化が進行する可能性が高いことから、自然再生事業により湿地環境の再生・保全を実施する必要があった。

2.家田湿原、川坂湿原の貴重な自然環境
家田湿原、川坂湿原は「日本の重要湿地 500」に選定されている(平成 13 年 12 月:環境省)。
また、レッドデータブック記載植物種が多く存在しており、その中には、この場所で初めて発見されたハタベカンガレイ(環境省RL:VU、宮崎県RL:CR-r)、キタガワヒルムシロ(宮崎県 RL:EN-g)や日本一の群落を形成しているサイコクヒメコウホネ(環境省 RL:VU、宮崎県 RL:VU-r)、オグラコウホネ(環境省 RL:VU、宮崎県 RL:EN-r)(写真- 1、2)も含まれる。その他、魚類、鳥類、昆虫類においてもレッドデータブックに記載されている種が多く確認されている。

3.家田・川坂川自然再生事業
家田湿原、川坂湿原の保全にあたっては、河川工学、植物、魚類、鳥類、昆虫類に関する学識者や地域の歴史に詳しい地元住民及び行政で構成される「家田・川坂川自然再生検討会」を設置し、平成 18 年 2 月まで計 4 回にわたり議論を重ね、平成18 年2 月に自然再生事業の方針を定めた「家田・川坂川自然再生計画」(以下、「再生計画」という。)を策定した(図- 2)。
再生計画策定後、事業実施にあたり、植物に関する学識者、地元住民、行政で構成する「家田・川坂川地元協議会」を設置し、具体的な整備方法や整備後の維持管理について、地元と意見を交わしながら事業を進めた(写真- 3)。

具体的な整備内容としては、乾燥化しつつある場所を湿地環境に戻すための掘削工事、湿原に生息・生育する動植物の観測や掘削後の効果確認のための環境モニタリング、湿原の適切な維持管理を実施するための管理用通路の整備等を実施した。

4.整備後の変化
環境モニタリング調査を行い、乾燥地域に繁茂する外来種が存在している箇所を選定し、掘削工事を実施した。工事実施にあたっては、地元協議会にて地元住民から意見を採用し、過去に繁茂していた湿性植物の種が地中深くにそのまま保存されている(シードバンク)ことを想定し、規定地盤高まで掘り下げた後、再度 1m ほどほぐし掘削を行った。
掘削工事後の環境モニタリング調査を実施した結果、生育する植物が乾燥から湿性の植物に変化した。加えて、掘削工事を実施したエリアから、これまで湿原で確認されていなかったレッドデータブック記載植物が出現した。これは、ほぐし掘削によりシードバンクされていた種が地上に現れたことで発芽したものと考えている(写真- 4)。また、湿原全体におけるレッドデータブック記載動植物及び昆虫類の数も掘削実施前と比べ増加したことから、一定の整備効果が確認できた。

5.住民との協働による維持管理
平成 22 年度に今後の保全活動を担う「家田の自然を守る会」「川坂川を守る会」が発足した。
地元協議会では、整備完了後の湿原を地域と連携して保全していくため、地元(家田の自然を守る会、川坂川を守る会)、学識者、宮崎県、延岡市の役割分担を定めた。具体的には、地元は環境モニタリング、草刈り、外来種の駆除、学識者は環境モニタリング(アドバイザー)、宮崎県は河道及び河川管理施設の維持管理、延岡市は拠点施設の設置と管理とし、主体的に実施する内容を共有した。
その中でも地元が主体の役割とした環境モニタリングは、地元でも実施可能なように特定の種を選定し調査(簡易モニタリング調査)を実施することとした(写真- 5)。

また、同じく外来種駆除は、地元の伝統行事である藻がり(写真- 6)や一般企業と連携し、ボランティア約 200 名で除草活動を実施する(写真- 7)など、河川管理者のみならず、地域が一丸となり、家田湿原、川坂湿原を保全する取り組みが進められている。

6.観光資源として活用
湿原の掘削工事に併せ、案内看板(写真- 8) や管理用通路の整備(写真- 9)を実施したことで、一般の家族を対象とした見学会や地元の小中学校が授業の一環として行う観察会等、湿原を活用したイベントが行われている(写真- 10)。

また、家田湿原、川坂湿原から近く、東九州自動車道北川インターチェンジに隣接している道の駅北川はゆまには、家田湿原・川坂湿原の案内看板(写真- 11)や守る会が湿原周辺で作ったソバを販売するなど、再生事業を実施したことによるストック効果が徐々に現れてきている。

7.おわりに
今後は、古くから守られてきた湿原を貴重な観光資源として活用できるよう、延岡市により湿原周辺の整備が検討されている。
宮崎県においても、適切な河川管理を行い、再生事業の効果を継続して発揮できるよう関係者と連携して進めていきたいと考えている。
これらの取り組みが延岡市の新たな観光の名所として市民の皆さんが気軽に訪れる地域となることを期待している。
最後に、再生事業が実施できたのは、地域の皆様を始め、家田・川坂川自然再生検討会、家田・川坂川地元協議会関係者等の多大なご理解とご協力のおかげである。改めて深く感謝申し上げる。

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