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竹林の適正管理と有効利用
伴野雅之
1 はじめに

古くは『竹取物語』にも見られるように、竹林はわが国の生活に非常に身近なものであったと同時に、古来より竹を資源として利用し、竹細工や竹工芸といった伝統的日本文化を形成してきた。また、タケノコは季節の風物詩として食されている。しかし近年ではプラスチックなどの代替資材の普及やタケノコ輸入の増加とともに、竹林を管理する後継者の不足により放置竹林の増加が社会問題化してきている。
このように竹は未利用資源となっており、有効利用法の研究が数多く行われている。その1つとして竹炭は活性炭に代わる安価な吸着材として期待され、地域レベルの活動でも水質浄化剤として用いられている。竹炭は多くの細孔を持ち、そこに水中の汚濁物質が吸着する。また、竹炭はpHを上昇させる効果を有していることから、農地の土壌改良剤としての効果(酸性土壌の中和)も期待される。
本論文では福岡県西部の糸島地域(福岡市西区・前原市・糸島郡二丈町・同志摩町)を事例として、竹林の現状を考察した。また、放置竹林問題に対する解決策として竹の将来の利用方法を検討すると同時に、どのような手法が有用であるかを提案した。

2 竹林の現状と糸島地域

竹は温暖な土地に繁殖する植物であり、わが国では北海道から九州まで数多くの種が分布している。図1に都道府県別に見た竹林面積の上位10都道府県を示している。上位5県は全て九州・山口地方に位置し、福岡県の竹林面積も11,020haと広い。これは九州の温暖な気候が竹の生育に適しているためと考えられる。このように、九州では竹林が非常に多く存在しており、また放置竹林や竹林の拡大は非常に重要な問題となっている。なお九州には主にマダケ・モウソウチクの2種が多く自生している。


図1 都道府県別竹林面積 上位10府県 (2000年世界農林業センサス(1)

今回対象とした糸島地域は福岡県の西部に位置し、一般に福岡市西区、前原市、糸島郡二丈町、同志摩町の4市区町村を合わせた呼称である。竹林の分布はGISを用い、第6回自然環境保全基礎調査(2) の植生図から読み取った。図2に糸島地域の竹林の分布を示す。標高280m以上にはほとんど竹林は分布しておらず、主に標高30m以上の徐々に標高が高くなっていく場所に分布している。即ち、竹林は勾配が比較的急な斜面に多く自生している。この竹の特徴は高齢化している林業従事者にとって大きな負担となり、放置竹林の増加の一端を担っていると考えられる。


図2 糸島地域における竹林の分布


表1  糸島地域における行政界別竹林面積

表1に各市区町村における竹林の面積を示す。1990年及び2000年に行われた世界農林業センサス(1) の結果では、この10年間で竹林の面積はあまり変化がないように感じられる。また、統計値と比べGISにより算定した竹林の面積が大きく見積もられている。
この理由として、統計で示されている竹林面積は竹材の生産を主目的とするもののみの値であり、タケノコの生産を主目的とした竹林や放置竹林を含んでいない点が挙げられる。即ち、統計値との差の大きさが潜在的な放置竹林の多さを表しており、糸島地域における放置竹林は非常に大きな面積を有している可能性が高く、その拡大も懸念される。
また糸島地域には現在、九州大学伊都キャンパスが造成中であり、2005年に供用を開始している。伊都キャンパスの敷地内にも多くの竹が自生しており、伐採が定期的に行われている。NPO法人タウン・コンパス(3) や福岡グリーンヘルパーの会(4) では竹伐採の市民活動を主催しており、住民とともに竹林を適切に管理していく活動を行っている。

3 竹炭の特徴とその活用

竹を伐採した後の有効利用方法として炭化がある。竹を炭化させた竹炭は多くの有益な特徴を持つ。竹炭は非常に細かな細孔を有し、比表面積も非常に大きい。一般に吸着にはミクロ孔と呼ばれる直径20Å以下の細孔が寄与するといわれており、竹炭にはこのミクロ孔が多く存在する。そのため、竹炭には匂いの成分や水中の汚濁物質を取り込む性質を有している。また、活性炭などと比べ、リンやカリウムが多く含まれている特徴がある。リンやカリウムは農業における肥料の三大要素のうちの2つであり、この成分が多く含まれている竹炭は肥料として用いることが可能である。

3. 1 水質浄化剤として
上述したとおり、竹炭には水中の汚濁物質を取り込むという水質浄化作用を有している。特にその表面は負に帯電していることから陽イオン性の汚濁物質の吸着に優れていると考えられる。また、炭化温度によっては多くの塩基性官能基が表面に現れ、硝酸イオンといった陰イオンの吸着にも優れることが分かっており(5) 、河川やダム等の浄化への利用が期待される。
近年では、住民による水路や河川の浄化活動が全国的に行われている。糸島地域においても、九州大学の移転に伴う人口増加により水環境の悪化が懸念されており、公共用水域への汚濁負荷をできるだけ小さくすることが求められている。今後、住民参加による水域の浄化活動への関心が高まれば、その活動での利用が見込まれる。竹炭は未利用資源であり、材料自体のコストとしては非常に安価である。そのため、広範囲に分布する汚濁負荷源(例えば雨天時道路排水)への対策に適用が可能である。

3. 2 農業用肥料として
日本の農地では酸性雨や化学肥料による影響で酸性土壌になりやすいのに対し、植物の生育には強い酸性は好ましくない。そのような場合、土壌の中和を行う必要がある。竹炭はpHを上昇させる効果を有しており、土壌改良剤としての利用が期待される。また、リン・カリウムといった植物の微量必須元素を比較的多く含み、同時に肥料としての効果も期待できる。特にリン資源は枯渇が懸念されており、リン鉱石の価格も2006年から2008年の間に5倍以上上昇していることを考えると、竹炭を肥料として用いることは将来の化学肥料代替物として期待できる。
糸島地域には農地が広く分布しており(図3)、その大部分が水田である。糸島地域の農作物や製品には「糸島ブランド」として市場に出されているものもあり、比較的高い価格でも購入されている。竹炭を肥料として用いる場合にも、糸島産の竹炭だけを肥料として使用して栽培したという付加価値をつけ、「糸島ブランド」として販売することができると考えられる。この場合、糸島地域内で竹の地産地消を行うことができ、輸送コストも最小限に抑えることができる。


図 3 糸島地域における土地利用図

4 まとめ

九州にとって放置竹林は重要な社会問題である。適切に管理がされていない竹林は、急速な成長により動植物の多様性が失われるだけでなく、保水力が小さく、地滑りなどの災害を引き起こす恐れもある。地域内住民が安全で快適な生活を送る上で、竹林の適切な管理は今後ますます必要なものとなってくるであろう。
農業用肥料としての利用は付加価値をつけることで、経済的に成り立つ竹材の定期的な伐採が行えることが予想される。一方、水質浄化剤としての利用には、国や自治体といった行政による主導が必要である。今後の竹林管理は竹林所有者のみでなく、行政・住民との協力が十分に必要であり、産・官・民が一体となった竹の資源としての循環を考えなければならない。

【参考文献】
(1) 世界農林業センサス,
http://www.maff.go.jp/census/index.html
(2) 第6回・第7回自然環境保全基礎調査 植生調査,
http://www.vegetation.jp/
(3) NPO法人 タウン・コンパス,
http://www1.ocn.ne.jp/~town/
(4) 福岡グリーンヘルパーの会,
http://fgh-hp.hp.infoseek.co.jp/index.html
(5) 伴野雅之, 久場隆広, 佐野弘典, 河村直哉:
異なる炭化温度における竹炭の水質浄化特性, 第42回水環境学会年会

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