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小学校の安全対策を媒体とした高齢者の安全なまちづくりの提案
小西圭介
1 はじめに

近年、まちづくりにおける活動や取り組みを見直すなかで「地域コミュニティ」の重要性が挙げられる。わが国における社会問題として希薄化するコミュニティや少子高齢化等の問題がある。特に急速な高齢化が進む日本において高齢者の観点からみたまちづくりのあり方を明らかにすることは緊急の課題である。さらに高齢者の自立が求められている今日、高齢者のまちづくりへの自発的な取り組みは、今後より一層重要視されると考えられる。ここでは、小学校の安全対策を媒体とした高齢者の安全なまちづくりへの参加の提案を行う。

2 小学校の安全対策の現状

近年、児童を巻き込んだ事件・事故1) が後を絶ない状況であり、たびたび社会問題となっている。特に、2001年「付属池田小事件」では、校内に不審者が侵入し児童・教員を負傷させ、学校安全に関して大きな課題を残した。この事件によって「学校内=安全」という今までの認識は崩れ失り、文部科学省は各学校に安全対策の見直しを通達した。それによって各学校では校内外の安全対策を再検討し、多くの学校が「誰でも入れる開かれた空間」から「部外者の侵入を許さない閉ざされた空間」へと変化した。
さらに、学外での児童を取り巻く環境においても、一層、他者(地域住民を含む見知らぬ人)への警戒することを余儀なくされた。これは、安全対策としてやむを得ないものの、日常で地域住民と挨拶などの行為を行う機会を減少させると考えられ、学校と地域住民のコミュニティ形成の弊害になっていると推測できる。

3 福岡県教育委員会へのヒアリング調査

現在、学校安全については各学校に任されており、学校単位で様々な対策が講じられている。ここでは、県教育委員会へのヒアリング結果から抽出された、一般的な安全対策について以下①~⑥にまとめる。

① 通学路の見直し
通学路決定に関しては、2001年に文部科学省では、通学路決定に関して明確な基準をなくし、各学校に児童の安全を確保するように方針を転換した2) 。この政策によって、現在通学路は様々な経路形態が生じている。

② 校外委員会の設置
主に地元の老人会から組織される団体であり、現在、多くの小学校で設置され、ボランティアとして通学時の安全確保の活動を行っている【図-1】。


図-1 校外委員会の取組み

③ 子供110番の家の設置
「子供110番の家」とは児童が登下校時の緊急時に、駆込める家である。現在は、多くの地域・自治体で行われている。実際に、児童が利用した事例は少ないものの、子供110番の家が多く存在する地域では不審者の出現が減る傾向が把握されている。このことから、県教育委員会では不審者出現の対策として、子供110番の家の活動を推進している。

④ 防犯ブザー等の所持

⑤ 登下校時の見守り

⑥ 児童への安全対策の指導

4 福岡県宗像市A小学校地区の事例
(1)対象地区の地域性
まず小学校の安全対策が地域コミュニティ形成にどの程度有効か判断するために、福岡県宗像市H小学校を事例として挙げる。宗像市は人口9万4千人、高齢化率19.25%(県平均19.6%)である。また面積119㎞2であり、北九州・福岡の両政令指定都市の中間に位置している。

(2)宗像市立A小学校の取組み
宗像市では15校の市立小学校があり、ここでは独自の取組みを行っているA小学校の事例を述べる。 A小学校では、学校安全として地域住民を巻き込んだ安全対策を講じている。具体的には、地域住民による「見守り」が挙げられる。以前は、保護者が当番制で行っていたが、下校時の見守りの参加は難しいことから、老人会を主体とした地域住民ボランティアに委託している。しかし、見守りは地域住民のボランティアで行われているため「長続きしない」、「定期的に行われない」等の問題点があった。これを受け、現在、特定の場所での見守りを行うとともに、学校側が予め地域住民に児童の下校時間を通知し、散歩や買い物等の普段の生活で外出する時間を下校時に合わせてもらう新しい見守りのスタイルが実施されている。さらに、地域の老人会を中心とする校外委員を設け、安全対策をおこなっている。
地域住民の「見守り」の参加向上のため、月に1度、地域住民を学校給食に招待し、児童と地域住民が交流する機会を設けている。これによって、地域住民とのコミュニティが形成され、以前にも増して学校安全への地域住民(高齢者)の参加が増加した【写真-1】【写真-2】。


写真-1,写真-2 地域住民の活動風景

(3)A小学校校外委員会に所属する高齢者へのヒアリング調査
校外委員会に所属する高齢者の意見を以下にまとめる。
① 児童と交流することが楽しい。
② 見守りを通して児童のみではなく、見守りに参加している保護者や他の高齢者との交流も増えた。
③ 児童にとって安全なまちは、高齢者にとっても安全なまちであり、不審者撲滅などが目標である。

5 考 察
① 児童にとって安全なまちづくりを行うことは同時に高齢者にも安全なまちづくりに繋がると考えられる。また、校外委員会設立や子供110番の家は地域の治安の向上に繋がり、より住みやすい環境を整える手段の1つであると言えよう。
② 学校安全を通して、希薄化するコミュニティが再構築される可能性を見出せた。特に高齢者は児童・保護者および地域社会との交流を通して、孤独感の解消を図ることもできると考えられる。
③ 学校安全に高齢者が関わることは、児童・高齢者の双方にメリットがあり、高齢化が進む日本において、学校安全対策は高齢者が活躍する場所になりえる可能性が見出せた【図-2】。


図-2 学校安全からみたコミュニティ形成の可能性

6 おわりに

児童にとって安全なまちは高齢者にも安全なまちであり、万人に安全であると考えられる。さらに希薄化する地域コミュニティの改善につながる有効手段として「学校安全」からつくり出すコミュニティがあると言えよう。また、学校安全を通して児童だけではなく、保護者や高齢者間でコミュニケーションの機会が増えることが把握された。すなわち、高齢者が児童の安全対策に参加することは、地域の治安向上に繋がることはもちろん、高齢者の新たなコミュニティ形成に関しても一役転じると考えられる。


【参考文献】
1)福岡県警察本部交通企画課(1996~2006)「交通年鑑」
2)文部科学省(2001)「「生きる力」をはぐくむ学校での 安全教育」,p74
3)宗像市HP http://www.city.munakata.lg.jp/

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