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九州管内(直轄国道)路面下空洞調査について
田中一美

キーワード:道路、維持補修、探査技術

1.はじめに

地下埋設物や護岸構造物の劣化・損傷等の影響により路面下に発生した空洞が拡大し、舗装体が破壊することで路面陥没へとつながる恐れがある。近年、地下埋設物の老朽化や路面下の高度利用にともない路面下の空洞発生要因は年々増大している。しかもこれに加えて、路面下に発生した空洞を短期間に拡大させる地震や豪雨が頻発している。
道路陥没は、道路に損傷を与えるのみでなく、交通機能を麻痺させ人的被害をも発生させる可能性がある。そこで、道路陥没を未然に防止するためにその原因となる空洞を探し出さねばならない。九州地方整備局管内の直轄国道においては調査開始した平成4年度より平成24 年度末現在までのべ6,114㎞の空洞調査を実施。これまで空洞や舗装体の破損を発見し道路陥没の未然防止に努めてきた。
路面下に隠れた「見えない空洞」をいかに早くそして正確に探すことができるかが空洞調査の大きなポイントとなる。ここに最新技術を駆使した空洞調査を紹介する。

2.空洞の発生メカニズム
空洞調査の方法を紹介する前に空洞発生の要因と形態について述べておきたい。これまでの調査により判明している発生のメカニズムを図ー1から図ー4 までに示す。

以上、空洞発生メカニズムについて4つのパターンを挙げたが、要因としては地形的(河川海岸と隣接)によるものと埋設物によるものの2つに大別できるといえる。こうした分類は、後述する「現地踏査」の方法と関連することとなる。

3.路面下空洞調査の流れ
路面下空洞調査は図ー5 に示すフローに従って実施される。各工程については4.以降に順次述べる。

4.事前調査
4.1 計画・準備
空洞調査箇所は、クラック等舗装の状況、道路巡回の結果や過去の空洞発生履歴その他、年次計画等をもとに選定する。なお、平成24 年度においては7月に発生した北部豪雨による道路冠水により空洞発生のおそれがあるとしてこうした箇所も選定された。
4.2 現地踏査
 選定された調査箇所およびその周辺を対象に現地踏査を実施する。現地踏査は、調査区間の起終点、舗装面の状況のほか、前述した空洞発生の要因となる周辺地形状況や地下埋設物状況について確認する。なお、これらの状況は調査区間ごとに踏査結果一覧[表ー 1]として集計されるほか、車両に取付けた撮影機器により4方向の周辺映像として記録される(写真ー1)。

4.3 計測位置(測線)の決定
現地踏査結果をもとに国道事務所との協議を実施し、一次調査における計測位置(測線)を決定する。一次調査は、後述する「空洞探査車」が道路上を走行し計測する方法により行われるが、車両の規格上、走行1 回につき探査幅は最大で2.5mしかとれないため車線幅員に対して探査幅は不足する。もちろん複数回走行すれば解決するが、調査費用の増大を招く。このような理由から国道事務所との協議により特に必要とされる場合を除き、原則1 車線につき1 走行としている。
1車線につき1走行の場合、具体的に車線のどの位置を走行するのか。ここで前述した地形状況や埋設物の状況が関係する。たとえば、道路沿いに河川や海岸護岸があれば路肩寄りを走行し、また埋設管が車線中央付近にあれば車道中央部を走行するといった具合である。
詳細については図ー6 に示す。

次に現地踏査結果[表ー1]を上記フローにあてはめることにより計測位置(測線)計画表が作成される[表.2]。

5.一次調査
一次調査は「空洞探査車」が表ー2 に示す測線計画にしたがって道路上を走行しながら搭載するレーダを路面に照射する方法により行われるもので非破壊調査である。
5.1 レーダ探査の原理
地中に照射された電磁波が比誘電率の異なる物質(路盤、路床、空洞、埋設物等)の境界で反射波を生じるという性質を利用してその反射波を解析することにより空洞を探査するものである。なお、路盤や路床中に存在する異物を発見することもできる。探査深度は最大で1.5m、探査能力は縦0.5m 横0.5m 厚0.1m 程度である。

5.2 空洞探査車
探査車には車道用と歩道用とがあるが、搭載するレーダの基本原理に関して両者に違いはなく、車両規格が異なるのみである。図ー8に探査車の詳細、写真ー2に調査状況をそれぞれ示す。
空洞探査車が車道あるいは歩道上を走行しながら電磁波を路面に照射し、その反射波が車両に搭載している処理機器によりデジタル処理され記録される。
車道探査車は最高速度60㎞ /h での探査が可能である。なお、照射タイミングは探査車の走行速度に連動して同期されるため加減速中であっても同じ精度でデータを記録することができる。したがって通常車両に混じり交通を乱すことなく調査することができる。
また探査時は、現地踏査と同様に「4方向周辺映像」(写真ー1)が撮影される。このように探査位置を特定する際、視覚的にも容易になるよう工夫がされている。

5.3 解析
取得したデータは解析担当チームに送信され、ただちに解析される。近年、特に異常豪雨や下水管の老朽化などに起因する路面陥没が全国各地で多発しており路面下空洞調査は直轄国道以外にも市町村レベルまで多くの自治体により実施され多くのデータが解析されている。なお、解析する波形の一例を[写真ー3]に示す。

上記の波形例では多数の波形が生じている。路盤、路床といった材料の違いはもちろん、同一材料であっても緩み等から生じる密度の微妙な違いが比誘電率の差として波形に現れる。また埋設管内部の空間は「空洞」ではないためこれとも区別しなければならない。写真ー3では赤枠内の波形が解析の結果「空洞の可能性のある波形」とされた(目視確認ではないのでこう呼ぶ。以下「異常波形」と記す)なお、その後、削孔をともなう「二次調査」において実際に空洞を確認する。いうまでもなく、解析の見誤りは空洞の見逃しへと繋が
る。しかし安全方向にこれもあれもと異常波形と判定していたのでは、二次調査およびこれに必要な交通規制の増大を招き不経済となる。空洞調査の真髄はまさにこの「解析」作業にあるといえよう。九州管内路面下空洞調査においては、解析経験の豊富な技術者によるクロスチェック解析を実施している。なお、発生深度がごく浅いあるいは
広がりが大規模だと思われる空洞波形は特に「緊急調査を要する空洞波形」として道路管理者に緊急報告され、後述する「判定会議」「二次調査」を経ずに即時に路面開削がされ空洞発生状況を確認した後、補修が行われる。

解析は技術者の経験によるところが大きく、その技術的手法を詳細に述べることはできないが、基本となる項目のみを簡単に述べる。
(1)反射極性
波形の白色部分と黒色部分の出現順序を解析する。表ー3のとおり、空気と物質では比誘電率が極端に異る点に着目して空洞を判別する手法である。
通常の路面下構成の場合は深度方向へ向かうに従い、比誘電率は大きくなり黒から白への移行を示す。

路面下構成に空洞が存在する場合、深度方向に比誘電率が小さくなるため白から黒への移行を示す。(黄色枠内の波形は上から白→黒の順序で記録されている)
(2)反射強度
白黒の濃淡に着目する手法である。反射極性にて述べた「白から黒」の場合でも例えば比誘電率が16 である砂層の下部に比誘電率9の砕石があるケースでは、空洞に比べて比誘電率の低下率が小さくなるため空洞の場合と比べ白黒の濃淡が薄くなるという点に着目する。

(3)反射形状
波形左右対称性に着目する。

反射形状解析は埋設物内部の「空間」と空洞を区別するための手法である。埋設管などの人工構造物が空洞とは異なり完全な左右対称形である点に着目する。なお車道用探査車は探査幅員である2.5m 幅の中に計7個のレーダを搭載しているが(諸元は図ー8 参照)横断管の場合は7個のレーダ全てが同一形状の左右対称波形となり、また縦断管の場合は進行方向に同一形状の左右対称波形が連続して記録される。このような観点により空洞と埋設物内部の空間との区別をおこなう。
以上が解析手法の概略である。この後、解析により抽出された「異常波形」を対象に「補足調査」が行われる。
5.4 補足調査
補足調査は「異常波形」が検出された地点周辺に絞って行われる。補足調査は空洞の発生深度と発生形状をより正確に把握するため平成23 年度に試行的に追加され24 年度から正式運用されている。補足調査で用いる探査車には従来探査車より多くのレーダーアンテナが搭載されており、探査密度が大幅に向上している。これにより隣接する波形間へのデータ内挿による補完、結合が容易となり取得波形の「三次元処理」が可能となった。

補足調査により取得した波形も5.3 と同様の解析作業がなされ「緊急調査を要する空洞波形」については道路管理者に緊急報告される。

空洞か否かの判断が困難な波形については従来、安全面を考慮し「異常波形」としていたものが、三次元処理による補足調査を行うことで判断材料が増え取捨選択が容易となり、空洞発見の的中率は従来6 割前後だったものが8 ~ 9 割近くにまで向上した。
反面、取得する波形データ容量が増大するため解析作業に多くの時間を費やすこととなる。これは本探査車を補足調査に限って使用している理由でもある。将来、通常の一次調査車としてより多くの路線で稼働できるよう技術発展を期待する。
5.5 異常波形の集計
補足調査により取得した波形についても同様に解析作業が行われた後、異常波形と判断されたものについては、調査箇所毎に予想空洞規模(縦横の予想寸法)及び予想発生深度が集計され判定会議へ諮られる。

6.判定会議
判定会議においては1.異常信号の妥当性 2.異常信号の危険度評価 3.二次調査箇所の選定の順で審議がなされる。
判定会議は、九州技術事務所長を委員長とし、本局は道路情報管理官、道路管理課長また、各国道事務所においては技術副所長、また九州技術事務所にあっては総括技術情報管理官及び技術副所長を委員とするメンバーで構成される。
6.1 異常信号の妥当性
抽出された全ての異常波形を対象に空洞のおそれと判断するに至った過程や解析上の考え方などについて審議される。また、調査箇所全延長の中からランダムに波形がピックアップされ、異常波形が他に存在しないか等について審議される。
6.2 異常波形の危険度評価
ここでは1. 空洞の可能性評価 2. 空洞発生状況による危険度評価 3. 現地道路状況による危険度評価について審議される。1. から3. の各評価項目は危険度に応じて3 ~ 4 段階の加点がなされ、すべての評価項目の合計点の高い順にⅠからⅢに分類される。なお、合計点が高いほど危険度が高い。
(1)空洞の可能性評価
異常波形を「反射極性」「反射強度」「反射形状」の各項目毎に◎、○、無印の3 段階で評価する。空洞のおそれが高いケースを◎とし、順に○、無印とする。◎の数に応じて加点する。
(2)空洞発生状況による危険度評価
異常波形より予想される空洞の平面的な広がり(縦、横寸法のうちいずれか短い方)および発生深度(土かぶり厚)の2 要素をもとに危険度を3段階で評価し加点する。短軸寸法を用いる理由は、空洞上部の舗装体にかかる輪荷重が、より剛性の高い短軸方向に多く分配されるためである。
危険度はAがもっとも高く次いでBCの順となる(図ー12)。右は発生深度と広がりの模式図。

(3)現地道路状況による危険度評価
埋設物の状況や交通量等に応じて危険度を評価する。埋設物が輻輳するほど空洞発生の可能性が大きくまた、同じ埋設物であっても水系である方が成長性があるため、より空洞の危険度が高い。なお、交通量は空洞そのものの危険度ではなく、陥没した場合の社会的影響度に着目している。
以上(1)から(3)の評価をフローにしたものを示す(図ー13)。

6.3 二次調査箇所の選定
6.2 によりすべての異常波形は危険度ランクⅠからⅢに分類される。ただしランクⅢであっても「空洞のおそれ」であることに変わりはなく、あくまで優先順位を決定する際のめやすとしている。二次調査対象をどのランクまでとするかあるいは同一ランク内での優先度をどう取り扱うかについては、巡回結果や騒音振動に関する沿線住民の意見要望等の実情なども考慮される。また、二次調査を実施せず道路管理者が発注する維持工事等により開削して補修が行われることもある。なお、二次調査の対象とされなかった箇所については、翌年度以降経過観察とし、次回の調査時に前回の波形との比較をおこなうことにより空洞の成長性を管理し、状況に応じて二次調査や補修を適宜実施するといった方法がとられることもあるが、これらは判定会議の審議を経て決定される。

7.二次調査
二次調査では舗装面を削孔し、内視鏡の挿入により空洞発生の有無を目視判断する。これまで非開削の一次調査レーダ波形をもとに「予想」としてきた空洞の規模、発生深度の全容がここで明らかとなる。予想の的中率は、波形解析能力や探査機器能力しいては空洞調査全般の技術力そのものといえる。それだけに緊張する場面である。以下に使用機器を示す(写真ー8、図ー14)。

舗装面を径40㎜で削孔した後、図ー14 で示す観測機器(内視鏡)を使用して空洞を観察、撮影する。また空洞発生原因の簡単な推察も行われる。発生原因については開削による補修時の方がより詳細に究明できることが多い。
こうして撮影された空洞写真は現地写真等とともに図ー15 に示す空洞調書としてまとめられる。

以下、空洞調書について主な点を解説する。
(1)調査箇所等(最上段)
路線名、管轄事務所、距離標や調査地点のほか一次調査日時などが記載される。
(2)位置図
道路台帳に調査地点、現地写真の撮影方向のほか4方向周辺映像が記載される。
(3)空洞撮影記録
黒い部分が空洞である。空洞規模(縦横寸法)が小さいケースでは空洞内部の状況も写り込むが、本記録のように規模が大きい空洞の場合は内視鏡の光が届かないため空洞内部の状況は写らず黒く表示される。
(4)空洞結果
空洞規模(縦横寸法)と空洞の厚みが記載される。また一次調査時の予測値を並記する。本箇所に限らず他の調査箇所においてもほぼ予測値に近い実測結果を得られた。なお「空洞の厚み」という記述は初出である。というのも「空洞の厚み」は二次調査または路面開削による実測によってはじめて判明するもので現在の技術では一次調査による波形の解析による予測ができないためである。表中「一次調査時の予測値」が空欄となっているのはこのためである。
 空洞の縦横寸法、空洞の発生深度とともにこの「空洞の厚み」が将来、一次調査の時点で予測可能となれば、二次調査を実施することなく補修に着手することも可能となり空洞調査全体のスピードアップと工費低減にもつながるだろう。今後の技術発展に期待したい。
 なお平成24 年度調査における空洞の厚みは最大で76㎝、最小では1 から2㎝程度であった。

8.補修
補修は、維持補修工事等により行われる。一次調査後に緊急的に実施する開削調査および補修については5.3 にて述べたが、二次調査後におこなうケースでは「空洞の厚み」という判断要素が加わるためより的確に補修の必要性に関して判断可能となる。また、空洞発生のジャストポイントも判明しているため小規模な空洞に対しては開削によらず注入工法による補修が行われることもある。なお、緊急報告がされた空洞については迅速な対応による補修が行われ、路面陥没の未然防止が図られている。

9.平成24年度調査結果
昨年度の調査結果について以下、図ー16 に示す。

二次調査および開削の結果、空洞は車道および歩道部あわせて106 箇所となりこれを経過観察箇所をのぞく異常信号数(132 箇所)で除した「的中率」は80.3%となった。空洞106 箇所のうち「陥没の危険性あり」として緊急報告されたものは計10 箇所であり、前述のとおりすべて速やかに補修されている。

10.調査結果の活用
平成4年度の調査開始よりこれまでに蓄積されたのべ6,114㎞、計561 箇所の空洞に関する情報をデータベース化し、空洞調査全体計画の策定や道路巡回の基礎資料などに活用する目的で「路面下空洞調査路線評価図」(空洞発生マップ)を昨年度作成した(図ー17)。

空洞発生マップは各路線別に作成し、縦軸に空洞厚さ(m)、横軸にキロポストをとり空洞を発生原因別に色分けしてプロットしている。表の上段部には管轄する事務所、出張所及び地形、沿道状況を表示しまた表の最下段部に過去の調査年度をキロポストに合わせてライン表示した。これによりどの路線の、どの地点においていかなる発生原因に起因する空洞がどの程度発生しているかを視覚的に捉えやすくしている。今後の調査計画や道路巡回の基礎資料などに広く活用していくこととしている。

11.おわりに
空洞調査の実施に際しご指導ご協力いただいた関係者の皆様に対しまして、この場をお借りして御礼申し上げます。
今後、探査技術の進歩によりさらに迅速で高精度の空洞調査を多くの道路で実施し、大メンテナンス時代の一翼を担う調査として発展していくことを祈念します。
〈参考文献〉
平成24 年度九州管内路面下空洞調査業務報告書(平成25 年3 月)

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