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九州河川管理の新しい扉を開く河川CIMの取り組み
原田佐良子

キーワード:河道管理基本シートの見える化、河川CIM の基本フレーム(2.5 次元)、サイクル型河川管理

1.はじめに
九州地方整備局では、河川、道路などの分野における建設生産プロセス全体(調査・測量・設計、積算、施工・監督・検査、維持・管理、防災)にCIM(Construction Information Modeling /Management)を導入して、職員の省力化ならびに土木技術向上によるアカウンタビリティーの向上を図ることを目的として、平成25 年度に「九州地方CIM 導入検討会(委員長:熊本大学 小林一郎教授(現役職:特任教授))」が発足した。
平成28年度のモデル事業として、河川、道路において、業務が河川管理を含む6件、工事は12件で試行しているところである。
今回、河川管理に関する取り組みについて報告するものである。

2.河川CIM 導入における課題
平成27 年度まで、設計、施工分野におけるCIM の活用が進んでいない状況であった。特に管理面での活用については、現場ニーズの把握、課題整理が不十分であり、河川CIM の全体像が明確でない状況であった。
CIM を河川管理に導入・普及するにあたっては、省力化、効率化、品質の確保が必要であるため、 次に掲げる4つのポイント ①職員の使い勝手がよい ②できるだけシンプルにすること ③ CIM の成功体験を積み上げることができること ④できるだけ低コストであること に留意することとした。

3.河川管理におけるCIM の取り組み
河川部に、産官学からなる「河川CIM 分科会」( 座長 熊本大学 小林一郎教授( 現役職: 特任教授)) を立ち上げ、具体的な取り組みについて、モデル河川(山国川、大野川、五ヶ瀬川、松浦川)での検討をもとに、議論を行った。

前述した、CIM 導入・普及にあたっての” 4つのポイント” に留意した上で、河川管理のどの分野に活用できるのか整理を行った。

あわせて、職員の使い勝手をよくするため、できるだけシンプルに、データ量を重くしない「2.5次元」という考え方を採用することとした。(※「2.5 次元」とは、平面図上の側線位置(200mピッチ)に横断図などを立体的に表示すること(図- 5 参照))。実践できることからはじめてみて、除々に精度をあげいく方向で検討を進めることを目標とした。

4.河川CIM(維持管理)の基本フレーム
九州地方整備局河川部においては、平成19 年度から、学識者と連携した「九州河道管理研究会」にて、河道変化を踏まえた予防保全型の管理や機能維持を考慮した河道掘削技術について研究を行い、実践を行っているところである。研究会では、既存の基礎調査データを活用して河道の状態を縦断的に把握し、河道内にある「差し迫った危険」を可能な限り確実に把握するツールとして「河道管理基本シート」の仕様を検討し、九州20 河川のシートを作成している。
「河道管理基本シート」の見える化としてCIMを展開することとした。
河道の課題、要注意箇所だけではなく、河道の変化の“ 気付き” が増えることで、差し迫った危険を確実に把握することが可能になると考えた。“ できるたけシンプルに、データ量を重くしない”ために、“ 河道管理の基本中の基本” である河川の平面図、縦横断図など、全河川が保有し、かつ河道管理基本シートを構成するデータの中で必要最低限のデータを「基本フレーム」と位置づけた。あわせて、目的に応じて、基本フレームにデータを追加していくことを基本方針とした。

5.基本フレームと“ 気づき” のポイント
基本フレームの活用イメージとして、具体的な“ 気づき” のポイントを以下に整理する。

①「気づき」のポイント その1
平面図、横断図の重ね合わせ、最深河床位置を視覚的に確認することができ、高水敷幅が比較的狭い箇所の経年的な洗掘状況等河道に潜む危険及びその度合いの判断材料となる。

②「気づき」のポイント その2
横断図の重ね合わせ図、最深河床高を縦断的に整理することで、河床高変動量の縦断分布が一目で把握できるようになる。

6.基本フレームの仕様(案)について
九州20 河川で適用することを踏まえて、下記を基本方針として、検討を進めた。
 ①全河川で標準化できること
 ②基本フレームのデータは、出来るだけ軽くし、更新しやすい構成であること
 ③どのPC でも閲覧できるデータ構成とし、操作端末の性能に関わらず動作しやすいこと
 ④基本フレームに目的別データを追加できる構成であること

決定した基本フレーム仕様(案)は以下のとおりである。
・平面図の縮尺は1/2,500 程度とし、色はうすいグレーとする
・横断図の重ね合わせ図は4 世代分とし、配色を決定し、統一する
・MMS(Mobile Mapping System)データを用いて、堤防天端の肩を結ぶライン線を取り込む
・表示・閲覧データを「ビューワー」と表現統一し、ソフトは3DPDF とする。なお、3DPDF は基本フレームのみ対応とする
・基本フレームの表示方法はプリセット機能を基本とする(視点位置の確定)
・レイヤーの表示・非表示について、横断図4世代、最深河床4 世代、MMS 縦断ラインをそれぞれレイヤー分けして9 種類を任意に表示・非表示可能とする。平面図を含めて10 種類のレイヤーとなる。

7.今後に向けて
河川CIM の基本フレーム検討にあたっては、「” 河道管理の基本中の基本” とは何か」を議論の中心に据えながら進めた。現場の目的に応じて、基本フレームに必要なデータを追加することで、堤防管理、河川維持管理計画の見える化、川づくりなど展開が可能となる。

基本フレームの平面図に航空写真を重ね、地質地形分類図、護岸基礎根入位置、ボーリングデータ、耐震対策工法等のデータを追加することで、堤防の状態が一目で把握することができる。
あわせて、UAV を活用した写真測量により三次元データを作成することで、堤防の変状、経年変化等を定量的に把握することができるため、従前より効果的な堤防管理を目指していきたいと考えているところである。

河道変化を踏まえた予防保全型の管理においては、河道内の堆積土砂や樹木繁茂の経年的な状態把握が必要である。UAV を活用した写真測量等により樹木高さ、範囲、地形の変化を定量的に把握することができるため、効率的、効果的な河道管理につながるものと考えているところである。

河川CIM はスタートしたばかりである。新技術データ活用や、設計・施工段階CIM データの活用など、サイクル型河川管理に向けて取り組みを進めていきたい。

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