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九州技報 第27号 巻頭言

九州電力株式会社 常務取締役
武 富 一 三

電気事業はこれまで一地域一事業者という地域運営(地域独占)となっていましたが,平成12年3月21日新電気事業法施行により競争原理が導入され,電力小売の部分自由化がスタートしました。すなわち自由化対象の需要家(使用電圧2万V,使用規模2千kW以上)は,新しい発電会社や地域外の電力会社など,新規参入の会社から電気を購入することが可能となりました。当社としては,今までどおり電力の安定供給や地球環境問題など,公益的課題の達成に積極的に取り組んでいくとともに,経営全般にわたって徹底した効率化およびコスト低減を推進していくことにしています。
さて,電力需要の伸びは長期的に鈍化していく見通しであり,また電力自由化による需要の離脱も考えられ,電源開発のペースがスローダウンしています。このため,私達土木技術者の活躍の場が狭くなっており,技術の蓄積・継承をどうしていくか,また電力会社の土木技術者はどうあるべきかが問われています。
そのような中で今,宮崎県で純揚水発電所[小丸川発電所(最大出力120万kW,総工事費2,600億円)]の建設を行っています。当建設の一番の特徴は,人工的に築造する上部調整池およびダム全面にアスファルトコンクリートを舗設するものです。その技術的な課題としては,遮水壁となるアスファルトが堤体に比べて非常に薄いため,耐震性の確保,水位低下時のバックプレッシャー対策などがあります。水工アスファルトの分野は経験的要素が多く,設計基準が未だ確定されておらず,また,当地点の舗設面積が30万m2(大濠公園と同規模)とわが国最大となるため,その設計基準の策定についても取り組んでいます。一方,建設を取り巻く最近の環境的課題としては,クマタカなど猛禽類に代表される自然環境との共生があります。当地点では建設地近傍にクマタ力1つがいが確認され,平成7年から生態調査を行うとともに,自然環境の専門家をメンバーとしたクマタカ検討会を立ち上げ,影響評価および保全対策を審議してきました。現在,工事の進捗に合わせたモニタリング調査を行い,その結果を工事に反映させています。コウヤマキを始めとする貴重植物についても移植等の対策を講じ,保護に努めています。
電力土木技術者に求められる業務は,従来にも増して広範化かつ多様化してきており,規制緩和と相まって電力自由化の流れの中で,一層のコストダウンが求められています。この情勢の下,環境保全に配慮した設計が要求され,高品質な設備をいかに安く安全に構築するかが問われています。われわれ土木技術者としては,今後,環境工学や生態学など従来の土木工学の垣根を越えたトータル土木工学が必要とされ,しかも自己責任を原則とした設備の形成・管理が要求される時代を迎えたと言えます。

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