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「地域に密着した災害復旧の今と未来」シンポジウム報告
塚原健一

キーワード:応急復旧、地域建設業、地域貢献

土木学会建設マネジメント委員会、地方における公共工事の入札契約方式研究小委員会(委員長:牧角龍憲九州共立大学総合研究所所長)では、災害復旧、特に応急復旧時において重要な役割を果たす地場建設業者の災害対応の実態を把握し、地域貢献としての地場建設業者の今後のあり方について検討するシンポジウムを、平成25 年12 月5 日に開催した(プログラムについては文末に掲載)。シンポジウムは産官学多方面から約120 名の参加を得て実りある発表、議論が成された。ここにその概要を紹介する。

1.基調報告(牧角委員長)
・九州北部豪災害時の地場建設業者の災害対応について、平成25 年9 月に福岡県土木組合連合会八女支部会員、熊本県建設業協会阿蘇支部会員、計124 社にアンケートを実施した。
・災害協定には99%の会社が加盟しており、加盟理由(複数回答)としては、95%が地域貢献、35%が総合評価の加点を挙げている。ほとんどの企業は地域貢献が理由であるが、総合評価の加点も大きなインセンティブであることが判る。
・出動までの時間は、約6 割が直ぐに出動、約2 割が5 時間以内の出動と、豪雨時には対応準備ができている会社が多いことが判る。
・施工エリアは約7 割が役所からの指示、15%程度が業界団体からの指示で、役所及び業界団体の適切な指示が必要であることが判る。また復旧作業が円滑に進んだのは約6 割で有り、円滑に進まなかった原因の検証が今後必要である。
・災害出動によるメリットがあったと回答したのは約半数のみであり、出動による手持ち工事への影響等、出動による負の影響があったとの回答が約4 割にのぼった。また応急復旧工事の精算額についても満足しているとの回答は1/3 弱にとどまった。このことから災害時の対応は、地場建設会社の地域貢献という犠牲的精神に大きく支えられていることが判る。
・地域建設業の就業者数はここ10 年で3 割以上減少しており、地域防災会議への参画等により地場建設業の社会的認知を向上させるに必要がある。今後地域の災害対応力を向上するため、組織的に災害対応に係る検証を行い、他地域他団体と情報共有することが必要である。

2.事例報告及びパネルディスカッション
1)3九州北部豪災害時の災害復旧にむけての活動報告を、以下の3つの地区より行った。
・福岡県土木組合連合会八女支部(株式会社酒井組代表取締役 酒井徳弥様)

・熊本県建設業協会阿蘇支部(株式会社肥後建設社代表取締役 内田知行様)

・大分県建設業協会竹田支部代表(株式会社友岡建設代表取締役 友岡孝幸様)

2)国土交通省九州地方整備局総括防災調整官大塚強史様より、九州地方整備局における防災の取り組みについて説明があった。

3)基調報告、各支部からの事例紹介、九州地方整備局からの話題提供を基に、パネルディスカッションを行った。パネルディスカッションではコーディネーターの塚原より以下の2つの視点がお示され、それに沿って議論が行われた。

・視点1
日本の経済・社会・技術は戦後一貫して発展してきたのに自然災害による被害は一向に減らない。九州も依然として災害の大きな脅威にさらされている。災害に立ち向かう現場の状況は大丈夫か?
[各支部よりの意見]
・建設投資が減少している中、人材や設備に投資するのは厳しい状況である。その中での防災対応は手一杯の状況である。現在は若干回復してきているが、今後どうなるか先行きが不透明である。
・公共事業が減少して久しく、建設業は保有する資機材等を減らしてきた。そのような状況下では大規模な災害に対応することは今後困難になる。
・災害時は多方から出動要請が来るが、場所も不明確なことが多く、また連絡は携帯電話のみで、電源も確保できず、連絡調整も困難である。
・広範囲で災害が発生した場合、自分の地区だけで手いっぱいで、他への応援は困難である。
・現在、他の支部と協力して災害対応システムをつくろうとしている。携帯のGPS 機能により、撮影した写真から被災マップを作成したり、その地図で対応したところを色分けしたりする。
・災害発生時は交通渋滞し、市内に容易に入れない。
・役所が浸水し調整機能が果たせず、支部において対応箇所を指示することになったが、指示する上で役所でないため二次災害に対する責任を取ることができず、判断が困難であった。
・地域を越えて連携する場合、責任の所在を明確にする必要がある。
[九州地方整備局より]
・大規模災害時は単独で対応することは困難である。そのため連携は不可欠である。
・災害対応において、事前に準備していないことはできない。そのため、事前から組織体制を整えておくことは重要である。
・大規模災害時は全部を一度に対応することはできない。何が重要か(急ぐか)を見極めることが必要。

・視点2
従来地域社会で担ってきた緊急対応が地域社会の衰退、公共部門の力不足により担いきれなくなってきた。このような状況下で、地域の建設業に求められる役割とはなにか?
[各支部より]
・地場の建設業は地域で仕事をし、雇用を創出することが地域貢献と成り得る。そのようなことを訴え、地域との共生を進めていきたい。
・地場業者が地域で存続していくためには、発注者を含めた大きな枠での検討が必要である。
・ある程度の建設業者が地域で存続できるように、仕事を平準化し、いざという時の備えができる体制を確保する必要がある。
・発注者には地域貢献をいかに評価するかを考えて欲しい。
・大学や高校に土木学科がなくなってきている。また、土木方面へ就職する若者が減っている。企業の存続のためには土木の魅力を高め、若者を引き付けることも必要である。
・建設業以外に基幹産業と成り得るものがない。その中で地元の人を雇用することが地域貢献であるが、現在の状況では5 年後がどのようになるか分からない状態である。
[九州地方整備局より]
・災害対策やインフラの維持管理は常時必要である。それらは地元と同じ目線で見ていくことが必要。
・地場建設業の地域に対する貢献を広く広報していく必要がある。

[議論のまとめ]
・地場の企業が元気を出していくためには、良い企業が良い評価を得ることができる総合評価の体制が必要である。
・地場企業の地域貢献を社会へアピールすることが必要である。(自衛隊の公報を参考に、建設業はいかに社会のインフラにとって必要であるかをアピール。)
・防災対応力を維持していくためには地場建設業の力が必要であるが、地場の建設業者は5年後がどうなるか分からない不安を抱えている。
・地域の仕事がコンスタントにあるように、発注を平準化し、地元業者に先が見えるようにする施策 が必要である。

3.まとめ
閉会にあたり、土木学会建設マネジメント委員会 小澤一雅委員長より以下のとおり挨拶があった。
・東日本大震災後、土木学会でも国土をいかに守るかが議論されてきた。
・本シンポジウムでは災害への備えを整えておく重要性、そしてその備えを事前に検討し整備しておく必要があるとの意見を頂いた。
・今後過去のように投資が増加していくことは考えにくいため、インフラの維持管理と災害時の対応を組合せていくことなどが考えられ、仕事を平準化していくような議論は国や学会などでも進められている。
本シンポジウムでは発表者からだけでなくフロアからも活発な意見交換が行われ、自然災害の脅威に直面しておいる九州地区において、今後地域の防災力を確保していく上での地場建設業のありかたについて有意義な知見を得ることができた。
最後に、本シンポジウム開催にあたりご協力頂いた関係者の皆様にお礼申し上げると共に、シンポジウム開催にご支援頂いた一般社団法人九州地方計画協会にお礼申し上げる。

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