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道路啓開計画に基づく国道218号の橋梁耐震補強について
~南海トラフ地震に備えた道路整備~

宮崎県 県土整備部
道路保全課 主査
日 高  淳

キーワード:南海トラフ地震、道路啓開計画、橋梁耐震

1.はじめに
宮崎県では、約2,000橋の橋梁を維持管理している。橋梁耐震補強については、九州道路啓開計画において広域移動ルート(部隊等の広域的な移動のためのルート)に指定されている国道218号の橋梁耐震補強を優先的に進めている。

2.本県の橋梁耐震の概要
(1)九州道路啓開計画について
九州道路啓開計画においては、地震発生後に九州各地から沿岸部にアクセスが可能となるよう、高速道路や国県道を活用し、九州東側沿岸に向けて道路啓開を実施する計画となっている(図- 1)。
その中で、熊本県熊本市から宮崎県延岡市にかけて九州を横断している国道218号は、応援部隊等の広域的な移動ルートである「広域移動ルート」に指定されており、緊急物資の輸送、復旧・復興のために重要な路線となっている。

図1 道路啓開計画イメージ図

(2)国道218号の橋梁耐震
本県の橋梁耐震補強は、広域移動ルートに指定されている国道218号に架かる橋梁のうち、特殊橋など施工難易度の高い橋梁7橋を優先的に実施している。現在、7橋のうち、2橋の耐震補強工事が完成しており、残り5橋の耐震補強対策を進めている。

図2 国道218号橋梁耐震補強位置図

3.干支大橋橋梁耐震補強工事について
(1)干支大橋の概要
耐震補強工事が完成した2橋のうち、昨年度完成した干支大橋の耐震補強工事を紹介する。
干支大橋は橋長385.0m、アーチ支間長275.0m、橋梁形式は鋼中路式ブレストリブ固定アーチ橋であり、平成6年度(平成7年3月22日開通)に完成された橋梁である。干支大橋が架かる延岡市北方町は地域区分に十二支を採用している町であり、橋梁名の由来となっている。

写真1 干支大橋全景図

(2)耐震性能の目標
干支大橋は、前述のとおり重要な路線に位置する橋梁であり、地震後においても緊急車両等の通行を早期に可能とすることが求められる。そのため、レベル1 地震動に対しては耐震性能1(地震によって橋としての健全性を損なわない性能)を確保し、レベル2 地震動に対して、耐震性能2(地震による損傷が限定的なものに留まり、橋としての機能の回復が速やかに行い得る性能)を確保する計画としている。

(3)耐震補強対策の検討
レベル2 地震動に対する照査については、3次元骨組解析モデルを用いた時系歴応答解析により実施した。橋軸方向は、アーチリブおよび吊材等の主要部材のほとんどが損傷を受け、ブレーキトラス周辺の部材の応答が大きかった(図- 3)。橋軸直角方向はアーチリブの上支材・上横構、下支材・下横構および補剛材等、二次部材についてもほとんどが損傷を受ける結果となった(図- 4)。
特にアーチ基部に大きな上向きの鉛直力が作用し、ピボット支承部が損傷・破壊し、橋梁自体の倒壊につながる可能性がある結果となり、アーチ基部支承にかかる鉛直力を低減するための制震対策が必要と判断された。
このため、フロー図(表―1)に基づき、耐震対策を検討し、最適な耐震補強対策の組み合わせを決定した。

図3 地震時の変形イメージ

図4 地震時の損傷イメージ

表1 耐震補強対策検討フロー

(4)耐震補強対策工法
干支大橋で実施した耐震補強対策を下記のとおり紹介する。
①橋脚補強
橋脚にコンクリート巻立補強(t=750mm)を行うことで、地震時の橋脚損傷を防ぐ。

写真2 P1橋脚補強

②粘性ダンパー取付
粘性ダンパーは、地震時に上部構造(橋桁)と下部構造(橋脚)でそれぞれ個別に振動する(時間的に差がある(周期差))ことを利用し、ダンパーシリンダー内の粘性体(本橋は油圧シリンダー)の摩擦抵抗力により地震時エネルギーを吸収するものである。本橋では最大容量1000kNの粘性ダンパーを採用しており、アメリカでの製作・輸入により調達している(写真- 3)。

写真3 P1橋脚粘性ダンパー

③アーチ基部ピボット支承改修
地震時に損傷する補強リングの交換を行うとともに、上向きの鉛直力によるピボット支承の引抜(アップリフト)に対応するため、支承部アーチ材及び鉛直材を鋼製部材で拘束する(写真- 4)。

写真4 P2アーチ基部ピボット支承

④桁端部改修
橋桁と橋台の遊間長を400mmに拡げることで、地震時に橋桁と橋台の衝突を防ぐ(写真- 5)。また、落橋防止装置を新たに設置する(写真- 6)。

写真5 A2側桁端部改修

写真6 A2側落橋防止装置

⑤座屈拘束ブレース取替
座屈拘束ブレースは、座屈拘束されたダンパー用鋼材(十字心材)が塑性変形することで地震時エネルギーを吸収する部材である(図- 5)。既存の鋼部材(アーチリブ上・下横構、端支柱対傾構)を座屈拘束ブレースに取り替えることで、橋梁へ働く地震力の低減を図る(写真- 7)。

図5 座屈拘束ブレース構造概要

写真7 座屈拘束ブレース取替状況

⑥ブレーキトラス改修
横桁部とアーチ部を剛結するブレーキトラス構造を撤去し、ブレーキトラス構造桁の代わりに新しい横梁を設置し、この横梁に可動支承を設置し橋桁を支えることで、橋桁部とアーチ部を切り離す改修を行う(固定部から可動部への改修)。この改修により、橋梁全体に作用する地震力の大幅な低減を図る(写真- 8、図- 6)。

写真8 新設横梁、可動支承取付状況

図6 ブレーキトラス改修概要

4.おわりに
干支大橋のような特殊橋は、それぞれ特徴的な構造特性を有し、一律の対策工法の適用が容易ではないため、1橋1橋の損傷部材の特定と耐震性能の検討、その結果に応じた耐震対策工法の選定が必要となる。そのため、平成25年度に「国道218号特殊橋耐震補強検討委員会」を設置し、学識経験者からのご助言をいただきながら対策工法の検討を進めた。
特に、干支大橋については、道路を供用しながらブレーキトラス構造を撤去する改修など、難易度の高い工法が採用されており、耐震補強にかかる設計から工事に至るまで多くの苦労があった。
今般、平成25年度から始まった耐震対策が約10年の月日を経てようやく完成に至ることができた。これまでに干支大橋の設計、製作、施工にて関係したすべての方々に対して感謝の意を表すとともに、引き続き、国道218号の橋梁耐震対策を進め、南海トラフ地震への備えに努めていきたい。

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