鹿児島県における近年の道路災害の傾向、道路区域外からの
土砂崩落に関するレーザープロファイラ調査について
土砂崩落に関するレーザープロファイラ調査について
鹿児島県 土木部 道路維持課
技術主幹兼維持補修係長
鹿児島大学 非常勤講師
技術主幹兼維持補修係長
鹿児島大学 非常勤講師
宮 本 裕 二
キーワード:道路災害、降雨量分析、レーザープロファイラ調査
1.はじめに
鹿児島県(以下、本県)は日本南西部に位置する温暖な気候であるが、台風の上陸数が日本で最も多く1)これまで大雨等による自然災害を経験してきた2)。また、全国的にも自然災害が激甚化・頻発化しており、近年の豪雨では道路区域のみならず道路区域外からの土砂崩落が発生し、幹線道路等における長時間の通行止めが生じている3)。公共施設管理者である我々は、自然災害を想定外とせず、考え得る有効な対策を講じて人的被害を最小限にする必要がある。そのためには、自然災害の要因となる豪雨や台風等の予測、土砂災害予知技術4)、5)の精度向上等とともに過去に発生した自然災害の検証が必要と考える。
そこで、本県で発生した道路災害の検証を目的として、1989(平成元)年から2021(令和3)年までの33年間(以下、対象期間)での道路整備や防災対策の取組状況、道路災害と降雨量の関係を統計的に整理し、若干の考察を加える。また、奄美大島の県道における道路区域外からの土砂崩落による被災状況及び道路災害リスクの把握を目的としたレーザープロファイラ調査(以下、LP調査)の概要について述べる。
2.道路整備、道路災害の状況
(1)道路整備、道路防災対策
本県は離島を含む広大な県域に個性豊かな歴史・文化が息づいており、世界自然遺産「屋久島」をはじめ3件の世界遺産を有している6)、7) 。県域は温帯から亜熱帯の南北600㎞に渡り、屋久島は「ひと月に35日雨が降る。」と言われるほど雨が多い。図- 1(a)、(b)に鹿児島、屋久島、奄美の降雨観測地点位置図、年降雨量1)、図- 2 に月別の道路災件数(対象期間の累計)を示す8)、9)、10)。
図- 1(b)より年降雨量の平均は、日本の平均(1,700㎜)と比べ本県の方が700 ~ 2,900㎜程度多い。図- 2 では道路災件数を災害発生時の異常気象の「豪雨・梅雨」、「台風」に区分し月毎に累計した。6 ~ 8月は「豪雨・梅雨」、9月は「台風」による災害が顕著である。図- 3 に県管理道路のトンネル延長を示す。鳥越隧道(1898年)11)は総切石積で覆工しており、同時代の石橋等と同様、高度な石工技術12)が窺える。1990年以降はNATMの導入によりトンネル整備が格段に進み、2021年度末には約69㎞(うち奄美:約31㎞)の道路トンネルを供用中である。
表- 1 は本県の道路延長、対象期間での進捗率であり、県管理道路で+ 17% 増加している。以前は急峻で狭隘な峠越え、海と急崖に挟まれた隘路をトンネル等により道路整備を進めた結果、より安全な道路が完成し道路災害の発生リスクは低減している。
本県では1996~1997年に10,174箇所の道路防災総点検13)を実施し「要対策」と判定した936箇所の防災対策工事を進めている。図- 4 に道路災件数8)、9)、10)と道路防災対策の進捗状況を示す。1996年から2021年までに802箇所の防災対策工事が完成し、道路災件数は1998年以降減少傾向で推移しており、同対策が道路災害の減少に寄与したものと考えられる。
(2)降雨量、災害発生状況
表- 2 に被災件数が多い年の決定金額8)、9)、10)を示す。1990年代が被災件数、決定金額上位を占め、特に1993年の公共施設災件数は1万件を超え、決定金額は798 億円と甚大な被害が生じた。図- 5 に降雨量1)と公共施設災8)、9)、10)の推移を示す。4 ~ 9月の降雨量累計は年降雨量の約7割を占め、年降雨量の多い年は被災件数、決定金額とも増加傾向が見られる。ただし、土木施設災害復旧事業国庫負担法の一部改正により、災害限度額や1箇所工事の範囲が見直された年もあるため注意が必要である。
図- 6(a)、(b)に年降雨量偏差(全国51地点の平均値14)、鹿児島)を示す。これらは1991~ 2020年の平均値を基準とした偏差であり、全国平均は約± 400㎜、鹿児島は約± 1,600㎜の範囲で変動し、鹿児島の偏差は増加傾向が見られる。
図- 7 は対象期間における鹿児島での月降雨量の標準偏差である。4 ~ 9月(図中:赤枠)は平均(μ)、標準偏差(σ)の値が他の月に比べ大きい傾向にある。特に6 ~ 8月が顕著であることから当該月の降雨量と被災状況に着目し統計的に整理したものを次に示す。
図- 8 は6・7・8月の月降雨量(ヒストグラム:50㎜区分)と発生数(年)、確率密度の関係である。対象期間で最も災害が多い1993年(図中:赤)は6月に+σ、7・8月に+ 2 σを上回る月降雨量となっている。同図は月降雨量のヒストグラム、平均、標準偏差を1 つのグラフで表現しており、降雨パターンが類似する年を容易に抽出可能である。本稿では降雨パターンが類似する1991年(図中:青)、1998年(図中:緑)、2017年(図中:黄)を抽出し、降雨量と災害の発生状況を検証する。
図- 9 に抽出年の月降雨量1)と道路災件数8)、9)、10)の関係を示す(各年の着色は図- 8 と同じ)。1991年の道路災件数が最大、次に1998年、最小は2017年となり、今回抽出した類似の降雨パターンでは、年代が新しいほど道路災件数が減少する傾向にある。
図- 10 に連続雨量、最大時間雨量1)と道路災件数、決定金額8)、9)、10)の関係を示す。同図は対象期間を3期間(① 1989-1999年、② 2000-2010年、③ 2011-2021年)、連続雨量を100㎜単位、最大時間雨量を20㎜単位に区分し整理した。図- 10(a)、(b)より道路災件数、決定金額は期間①が多い。また、全期間において連続雨量が大きいほど道路災件数が増加する傾向にある。
図- 10(c)、(d)より最大時間雨量が大きいほど道路災件数、決定金額とも増加している。特に、60㎜ /hr 以上において期間③の決定金額が増加している。近年、気候変動の影響により自然災害が激甚化・頻発化し、局所的な豪雨や台風襲来時に道路区域内だけでなく道路区域外からの土砂崩落が発生し、被災範囲(規模)が拡大することが要因の一つとして考えられる。
3.レーザープロファイラ調査
国では「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」2)を重点的に進めており、施策の一つとして道路の法面・盛土の土砂災害防止対策が掲げられている。同対策において、LP調査等の高度化された点検手法等により新たに把握された災害リスク等に対し、豪雨による土砂災害等の発生を防止する法面・盛土対策を推進している(図- 11)。
本県においても道路区域外からの土砂崩落も含めた災害防止対策を検討するため、一般県道曽津高崎線(大島郡宇検村)の被災箇所においてLP調査を実施した。図- 12 及び写真- 1(a、b)に当該箇所の災害発生状況、図- 13 に被災前後の降雨量1)、警報発令の状況を示す。2019年の被災では大雨警報が発令されたが、2021年の被災では警報発令はなく、時間雨量、連続雨量も少ない。ただし、雨量観測地点の瀬戸内町古仁屋から被災箇所までの距離が約17㎞離れている。被災箇所で局所的な豪雨があった可能性もあるが、2021年は夜間の被災であり、現地の降雨状況は不明である。
また、当該箇所は防災カルテにて点検を実施していたものの、植生が繁茂し道路区域外からの土砂崩落の危険性について視認が困難であった。奄美大島での道路整備は進んできたが、当該区間のような箇所では被災時の迂回路確保についての課題も残されている。
そこで、道路区域外からの土砂崩落等も含めた道路災害リスクを把握するため、2022(令和4)年度にLP調査を実施した。当該調査では「三次元点群データを活用した道路斜面災害リスク箇所の調査要領(案)」(令和3年10月)に基づく資料収集(表- 3)や地域特性の把握、当該区域での航空レーザー測量、三次元点群データ作成、フィルタリング処理、数値地形図(数値標高データ)等から微地形表現図を作成した(図- 14)。従来の手法では植生の影響や現地踏査が困難な斜面上部等の状況把握に課題があったが、今回実施した微地形表現図による災害リスクの可視化によって詳細な情報把握が可能となった。
さらに、災害リスクを詳細に検討するため、必要な情報を既存資料等から整理した上で、微地形表現図、デジタルオルソフォトと重ね合わせ、判読素図を作成した(図- 15)。判読素図では、いくつかの情報を選択して表示することができ、例えば、災害リスクとなる微地形要素を選択し、目的に応じた情報(単元斜面、点検区間、崖錐、地すべりの微地形等)のみの組合せが可能となる。
図- 16 は判読素図(図- 15)から2019年、2021年の被災箇所及び県道周辺を拡大した判読結果である。判読結果から遷急線、崖錐、地すべり、崩壊跡等の災害リスク評価に必要な基本情報を得ることができた。
4.まとめ(展望)
本稿では本県の道路整備、道路防災対策の状況をまとめるとともに対象期間における道路災害と降雨量の関係について統計的に整理した。
また、奄美大島で実施したLP調査について述べた。以下に本稿の成果をまとめる。
・本県の道路災件数は対象期間において減少傾向にある。トンネルを含む道路整備による急峻な峠越え、隘路区間の解消、道路防災対策及び災害復旧工事の積み重ねが道路災件数の減少に寄与したものと考えられる。
・対象期間における災害発生時の月降雨量、連続雨量、最大時間雨量と被災件数の関係を統計的に整理した。類似した降雨パターンの年を比較した結果、道路災件数は減少傾向にある。また、決定金額の増加については、近年の道路区域外からの土砂崩落等による被災範囲(規模)の拡大が要因の一つと推察した。
・LP調査の概要を述べた。道路区域外からの土砂崩落等による災害リスクの把握を目的として微地形表現図、判読素図を作成し、リスク評価に必要な詳細情報を得ることができた。
現在、関係機関において気象予測技術の高度化として、線状降水帯や台風による集中豪雨等の予測、災害予知技術等の精度向上が進められている。
また、道路管理者は豪雨による災害の激甚化・頻発化への対応、急激に進む道路施設の老朽化対策を実施しており、本県ではドライブレコーダーやスマートフォンを活用した画像解析技術により路面性状を把握するなど新技術の活用にも取り組んでいるところである。
将来の道路のあり方を見据え、DX活用を検討するなど、「守り」だけでなく「攻め」の姿勢で災害に強い道路整備や道路維持管理を着実に行い、安全・安心な社会基盤を県民に提供することを展望とし、本稿のまとめとしたい。
謝辞:本稿作成に当たり、鹿児島大学酒匂一成教授をはじめ研究グループの方々に御助言をいただいた。災害資料等の収集について、本県土木部道路維持課眞邉武志技術主査をはじめ関係課の方々、LP調査資料についてアジア航測株式会社に御協力いただいた。ここに謝意を表します。
参考文献
1) 気象庁HP:過去の気象データ,
https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php
https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php
2) 鹿児島県土木部河川課:昭和56年~平成12年鹿児島県の20年間公共土木施設災害の推移(国土交通省所管分),151p,2001.
3) 内閣官房HP:防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策,
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/5kanenkasokuka/index.html
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/5kanenkasokuka/index.html
4) 北村良介,酒匂一成,荒木功平,宮本裕二,山田満秀:豪雨災害の予知技術,地盤工学会誌,Vol.30,No.3,pp.6-9,2012.
5) 宮本裕二,スリウィディアストゥティ,松崎陽介,カロアーウィン,酒匂一成,荒木功平,北村良介:雨水の浸透・蒸発挙動の計測とヒステリシスを考慮した数値シミュレーション,土木学会応用力学論文集,Vol.13,pp.535-544,2010.
6) 宮本裕二,桑波田武志:「九州・山口の近代化産業遺産群」の概要と防災対策について,歴史都市防災論文集 Vol.5,pp.303-310,2011.
7) 文化庁HP:日本の世界遺産一覧,https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/sekai_isan/ichiran/index.html
8)鹿児島県土木部:建設省所管公共土木施設災害の状況,平成元~ 11年分,1990 ~(毎年).
9) 鹿児島県土木部:国土交通省所管公共土木施設災害の状況,平成12 ~ 23年分,2001 ~(毎年).
10)鹿児島県HP:国土交通省所管公共土木施設災害の状況,平成24年以降分,http://www.pref.kagoshima.jp/ah07/infra/kasen-sabo/fukyujigyo/symbol.html
11)土木学会土木史研究委員会:日本の近代土木遺産,pp.280-281,2005.
12)宮本裕二:かごしまの石橋・近代化産業遺産にみる石工技術について,九州技報第45 号,pp.128-131,2009.
13)建設省道路局:道路防災総点検要領[豪雨・豪雪等],(財)道路保全技術センター,160p,1996.
14)気象庁HP:日本の年降水量偏差の経年変化,https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn_r.html