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牛津川におけるヨシの繁茂抑制対策について

国土交通省 九州地方整備局
武雄河川事務所 調査課長
今 村 正 史

国土交通省 九州地方整備局
武雄河川事務所 計画係長
川 原 輝 久

キーワード:ヨシ繁茂抑制、流下阻害、植生管理、湛水池、粗度

1.はじめに
六角川は、白石平野を緩やかに蛇行しながら流下し、河口部で牛津川を合わせ、有明海に注いでいる河川である。河口部は、干拓でつくられた土地で、有明海の約6mにも及ぶ干満差のため、満潮時には、低平地で水はけが悪く、水害が起りやすいという特徴がある。また、感潮区間が非常に長いのが特徴であり、有明海の潮汐によって運ばれるガタ土が低水路を形成している河川であり、河道掘削後のガタ土の再堆積が課題である。それに加えて、図- 2のように高水敷にはヨシが繁茂しており、洪水時のヨシによる流下阻害が大きな課題である。

図1 ヨシ繁茂抑制対策位置図 

図2 高水敷に繁茂するヨシ

2.ヨシの繁茂抑制対策について
高水敷に生育するヨシの繁茂抑制対策は、流下阻害の解消やヨシの維持管理コスト削減を目的として検討してきた。ヨシの繁茂抑制対策の検討については、ヨシを定期的に伐採する①ヨシ伐採管理案と②高水敷に池をつくり、ヨシの生育を抑制するヨシ繁茂抑制案(池案)(以下池案とする)を比較し(1)維持管理、(2)環境への影響、(3)経済性をもとに総合的に評価を行った結果池案が優位案となった(図- 3)。

図3 ヨシ繁茂抑制対策の検討

池案は、高水敷の掘削を行い、ヨシの地下茎を除去した後、河岸に畦畔を造って、水が入る水位を朔望平均満潮位程度(T.P.+2.7m)に設定し、湛水池を設置する案である (図- 4)。水を湛水することによってヨシの繁茂を抑制し、高水敷の粗度を低減することで、洪水時の流下阻害を緩和し、河川水位を低下させる効果を狙ったものである。

図4 高水敷への湛水池設置(イメージ)

湛水池のヨシ繁茂抑制効果については、試験的に牛津川に湛水池をつくりモニタリングを行ったところ、池内のヨシの生育は施工後2年目に入っても見られなかった。ヨシの繁茂抑制効果が高いことを確認した上で牛津川の高水敷における湛水池の設置に至っている(図- 5、6)。

図5 施工直後(H23. 5)経過日数0日

図6 施工後(H24. 7)経過日数441

湛水池の水深の決定については、水深の違いによるヨシ繁茂抑制効果の検討によって決定した。
水深1.0mの場合と水深0.5mの場合を比較検証し、水深1.0mの場合は、池内にヨシの繁茂は確認されなかった。一方で、水深0.5mの場合は、ヨシの繁茂が確認された。これは池内にガタ土が沈降堆積したことで湛水池の水深が浅くなり、ヨシの生育環境が整った事が原因と考えられる。よって湛水池の水深は1.0m以上確保することとした(図- 7、8、9)。

図7 水深の違いによる抑制効果の検証

図8 水深h=1.0mの場合(ヨシの繁茂なし)

図9 水深h=0.5mの場合(ヨシの繁茂あり)

六角川流域内には有明粘土層などの軟弱地盤が広く分布していることから、軟弱地盤上に築堤する場合は、盛土のすべり防止のために地盤改良を行う場合が多い。このため、湛水池の設置による堤防防護幅の検討にあたり、地盤改良の有無による検討を実施した。検討の結果、湛水池を設置するためには、最低でも10m~ 15m以上の堤防防護幅が必要であることが分かる(表2 - 1)。

表2-1 堤防防護の検討の結果

前述したように、湛水池の設置によるヨシの繁茂抑制効果によって高水敷の粗度を低減し流下能力を向上させることを見込んでいるが、その時の粗度係数は図- 10 に示すとおりである。

図10 ヨシ繁茂区間高水敷粗度設定図

図11 川の流れに対してのヨシの挙動の様子

川の流れに対するヨシの挙動は、直立、たわみ、倒伏の3 つの状態となる。倒伏状態では、地表から概ね0.7mが死水域となることが分かっている(図- 11)。
河道計画における粗度係数の考え方は、平成14年に行った現地通水実験をもとに設定している。図- 12、13、14 はその実験の状況・結果を示している。
ヨシの直立時の粗度は0.12、ヨシ倒伏時の粗度は、0.05 になる。ヨシを高さ50㎝程度の草地の水準で伐採管理すると粗度は0.035 になり、湛水池部は0.02 になる。湛水池部は、粗度が抑えられるため、洪水流を流しやすくなることが言える。

図12 流水中のヨシ挙動の現地通水実験の様子

図13 六角川現地通水実験によるヨシの粗度

図14 既存研究事例による高水敷粗度

3.牛津川の湛水池の設置状況について
牛津川感潮区間における湛水池の設置は、平成25年から実施されており、牛津川湛水池の整備状況を表3 - 1 に示す。令和4年3月時点では、8地点において47箇所の湛水池が整備されている。また、図- 15、16 は、令和4年4月に新たに完成した湛水池の状況写真であり、完成直後の様子を示している。

表3 - 1 牛津川湛水池の整備状況の概要

図15 完成した湛水池の状況(令和4年4月)

図16 湛水池の流入口の状況

(1)湛水池の設置の効果
牛津川湛水池の洪水時の効果として近年実施した掘削の効果を含めると、牛津川で既往最高水位を記録した令和元年8月洪水規模では砥川大橋の水位が、約40㎝下がることが期待されている。また、維持管理費用は、ヨシの伐採管理案に比べて30年間で約3分の2のコストダウンが可能となる。

4.牛津川湛水池モニタリングについて
牛津川では、平成25年から湛水池の設置を実施しており、ヨシの繁茂状況に加えて土砂堆積、施設の変状、水質・底質、生物の状況を把握するためのモニタリング調査を行ってきた。前節の表3 - 1 に示す湛水池①~⑧のモニタリング調査結果を報告する。

(1)ヨシの繁茂状況
図- 17 は湛水池を上空より見た写真である。湛水池の周りには、ヨシが繁茂している状況であるが、湛水池内にはヨシ繁茂は見られない状況である。現時点で、最長8年経過した湛水池を含むすべての湛水池においてヨシの繁茂は見られていない状況であり、湛水池によるヨシの繁茂抑制効果を示している。

図17 (令和3年8月出水後)湛水池④の様子

(2)土砂堆積の状況
湛水池の土砂堆積状況は、図- 18 に示すとおり、完成後2年が経過した湛水池⑥、⑦、⑧の平均堆積土砂厚は、全て20㎝以下であったが、完成後8年が経過した湛水池②、④では、25㎝以上の堆積厚が確認された。先の試験結果から湛水池水深が0.5m以下になるとヨシの生育環境が整いヨシの生育が考えられるが、湛水池完成以降の満潮時の流入や既往最大出水後においても最大25㎝程度の堆積厚であり、堆積傾向は総じて安定していると言える。
令和3年8月出水の影響で直近の1年間の堆積は、多くなっているが、堆積土砂の土砂掘削必要頻度としては、10数年に1回程度と推測できる。

図18 各湛水池における堆積土砂厚について

(3)施設の変状
図- 19 は、湛水池①の護岸の状況であり、一部畦畔の洗堀は見られたが、問題となる破損は見られなかった。また、すべての湛水池において、修繕等の措置が必要な変状は見られなかった。
牛津川の既往最高水位1、2 位を記録した令和元年出水や令和3年出水後においても、大きな変化も見られておらず、大規模出水への耐久性も確認できた。

図19 湛水池①における護岸等破損状況調査票

(4)生物の調査
湛水池整備による植生の管理は、ヨシ・アイアシ群落等の侵入・繁茂を抑制するとともに新たな水域環境が創出されることにより、多様な生物の生息場となっている。
湛水池の生物調査についての一例を図- 20 に示す。湛水池設置から5年経過後の平成30年8月に魚類と底生動物の生息状況の調査を実施し、魚類17種(重要種:5種) 、底生動物23種(重要種:8種)が確認された。令和3年9月調査では、魚類23種(重要種:4種)に既往調査を合わせ計29種を確認、また底生動物32種(重要種:9種)に既往調査を合わせ計37種が確認されており、良好な水域環境となっていることが分かる。

図20 平成30年と令和3年の魚類及び底生動物調査の結果

(5)水質・底質調査
湛水池内の水質の経年変化を図- 21 に示す。pHは直近の令和3年9月では低下しており、令和3年8月出水により河川水が混入した影響が考えられる。一方、全窒素、全リンは、令和3年9月に上昇しており、令和3年8月 出水により、濁水が混入した影響が考えられる。
底質の経年変化を図- 22 に示す。CODは過去の調査結果と比較すると最も低い値となっている。この要因として、CODについては、令和元年出水により湛水池に堆積した土砂がフラッシュされたためと考えられる。
以上のことから、水質・底質については大潮時や洪水時による数値の上下はあるものの大きな変化は確認されなかった。

図21 水質の経年変化

図22 底質の経年変化

表4 - 1 モニタリング結果一覧

5.今後の課題について
前節ではヨシの繁茂抑制対策として実施した湛水池設置の効果について述べてきた。しかし、湛水池を設置するにあたり次のような課題があると考える。
一つ目は、維持管理の課題である。前述したように湛水池は、水深が0.5m以下になるとヨシの生育環境が整い生育が見られるようになる。そのため、水深が0.5m以下にならないように、定期的な堆積土砂の除去が必要になる。前節の土砂堆積のモニタリング結果から、多く堆積しているところは、10数年に1回は堆積土砂の除去が必要であると考えられる。湛水池の効果を最大限発揮するためには、湛水池の計画的な維持管理が必要であり、今後も土砂の堆積状況等について継続的なモニタリングが必要である。
二つ目は、湛水池の形状である。湛水池の形状は、長方形で直線的(人工的)であり河川景観を保全・創出する上で課題といえる。自然の風景になじみ、溶け込む形状を可能な限り追及し、河川景観の保全・創出に配慮する必要がある。また、水域と陸域の連続性に配慮した水際の多様化を図りつつ、湛水池の機能を維持できる六角川水系独自の「多自然川づくり」を推進する必要がある。

6.終わりに
前述したように湛水池によるヨシの繁茂抑制効果は、モニタリング結果によってはっきりと確認ができている。また、環境への影響についても、湛水池の設置前より、多様な生物の生息場になるなど新たな水域環境が創出されている。一方、前節で述べた課題も残っており、今後の経過を見ながら、維持管理などに取り組む必要がある。
前述したように牛津川において湛水池の効果が確認されたことから、現在六角川本川においてもヨシの繁茂抑制対策として湛水池整備を実施している。引き続き流域全体でヨシの繁茂抑制対策に取り組むことで、治水と環境に配慮した河川環境保全と高水敷粗度低減によっての洪水時の河川水位の低下がより期待できる。牛津川で施工した実績を活かして、よりよいものにしていく所存である。

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