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九州・沖縄のこれからの地域づくり、社会資本整備に関する
アンケート結果の分析
NPO法人 タウン・コンパス 理事長 井上信昭
1.アンケートの目的

長引く不況、長期間の公共事業縮減傾向の中、“九州技報”が記事の対象とする地域づくりや社会資本整備に関わる分野は、閉塞感に覆われ、展望を見いだし得ない状況にある。そんな中で起こった3月11日の東日本大震災と福島原発事故は、こうした状況をさらに悪化させているが、一方で、大災害の発生に対応した国土や地域、社会資本整備のあり方が喫緊の課題として問われている。
そこで“九州・沖縄のこれからの地域づくり、社会資本整備のあり方”などについて幅広い意見を集めるためにアンケートを実施した。

2.アンケートの企画と回収結果

社会資本やその整備事業としての公共事業については、国民あるいは地域住民と事業主体との認識のずれがよく指摘される。ここでは、前者を“一般市民”、後者を“建設関係者”とグループ分けする。後者には政府(公務員)に加え、建設業、建設コンサルタント等も含むものとする。
地域づくりや社会資本整備に関するアンケートは通常、一般市民を対象とするものであるが、本アンケートではその企画段階において2つのグループの認識のずれを明らかにしたいという問題提起があり、統計学的には多少問題があっても、これに答えられる方法を設定した。

(1)アンケートの実施方法と対象者

アンケートではその被験者の抽出が重要であるが、ここでは九州・沖縄在住の一般市民を対象としたインターネット調査(web調査)を採用した。
確保する回答数は、ある程度の精度保証も可能な規模として500人を設定し、人口比で県ごとのサンプル数を決定した。
一方、建設関係者のアンケートは、一般市民との比較を目的とする副次的位置付けであることから、ある程度のサンプル数さえ確保できれば良いと判断し、九州技報の講読者に協力を依頼した。

(2)アンケートの内容等

アンケートの概要は表1の通りであり、内容は①社会資本の現在の整備状況、②公共事業に関すること、③3.11東日本大震災に関連すること、④九州・沖縄のこれからの地域づくりや社会資本整備に関すること、⑤被験者属性、である。
社会資本の整備状況のアンケートに対しては、具体的な施設として表5の19施設を示した。そして20番目には社会資本全体の整備状況を総合的に判断する“総合評価”項目を設定した。またアンケート票では、こうしたことに馴染みの薄い一般市民に出来るだけ分かり易く伝えるため、長めの文言で提示した。このため、以下の分析では①~⑳までのカッコ内に“ ” で示す短縮語で表記した。

(3)回答者の概要

一般市民の属性別回答数は、表3に示すとおりである。県別数値は与件である。職業は回収後の集計結果であるが、多様な職業に分散している。
性別は男性241名、女性259名である。
建設関係者の郵送件数および回答数は表4の通りであり、最終的に236名の回答(回収率36.9%)があった。職業では、公務員が193名と全体の81.8%を占めた。

3.アンケート結果の分析
3.1 現在の社会資本の整備状況
(1)施設別の整備状況に対する回答

19施設およびそれらの総合評価を合わせた20項目に対する現在の整備状況を問う質問であり、選択肢は、1.十分(整備されている)、2.ある程度、3.やや不十分、4.不十分、である。
回答結果から選択肢1と2を選んだ割合の合計を“満足度”(各施設の現在の整備状況が十分あるいはまあ十分と判断した割合)として、2つのグループ(一般市民、建設関係者)間で比較した。
表5は、20施設のグループ別満足度およびグループ間の格差を示す。総合評価を含め、総じて一般市民の満足度が高く、建設関係者を大きく上回っている。両グループの格差が大きい上位3施設は、大きい順に高速道路等、歩道等、一般道路であり、全てが道路がらみとなっている。

しかしながらこれら3施設でも、高速道路等と一般道路の満足度が比較的高いのに対し、歩道等は両グループともかなり低いという違いがある。
また、両グループの満足度格差が小さい施設は、小さい順に空港、公園緑地、鉄軌道であるが、空港と公園緑地は建設関係者の満足度が一般市民を上回る、という逆転が生じている。

(2)主要施設の満足度

満足度の上位と下位3施設は表6に示すとおりである。上位1位と2位は両グループで一致している。下位1位と2位は両グループで順位の逆転はあるが、自転車道等と自然エネルギー発電施設が共通して挙がっており、またその満足度は他の施設に比べると非常に低いという特徴がある。

以上の結果をもとに、表7に示す施設について両グループの詳細な回答構成(4つの選択肢の回答割合)を図1(その1~6)に示す。
空港は両グループとも満足度が高く、その回答構成にもほとんど差が見られない。高速道路等は両グループ間で回答構成がかなり違い、特に十分、不十分の割合が両グループで大きな差があることが大きな特徴である。歩道等、自転車道等、そして自然エネルギー発電施設は両グループとも満足度が低く、回答構成は概ね類似している。総合評価は両グループとも十分の回答が非常に少ないが、回答構成は概ね類似している。

3.2 公共事業に関するアンケート

一時期、公共事業に対して国民から厳しい批判の目が向けられ、それを背景にするように公共投資の縮減傾向が続く事態となり、今日に至っている。建設関係者はそれぞれに指摘された課題への対応を続けてきたが、最近の国民の声を知る資料はない。そこで、“品確法”制定時に行われたアンケートを参考に、この結果との突合せを行うことを目的に、一般市民の公共事業に対する関心度、印象、必要性、イメージを調査した。なお上記アンケートは、今回と同じように、民間調査会社に委託したインターネット調査で、実施時期は2005年4月である。全国の人口構成をもとに制度設計されており、回答数は3,000人である。

(1)公共事業に対する関心度
図2(その1)に一般市民の回答状況で、“非常に関心”16.2%、“やや関心”53.6% 、合計69.8%である。これに対し、“あまり”26.6%、“まったく”3.6%、合計30.2%であり、関心を持っている割合が大きく上回っている。上記の過去調査では、“非常に関心”、“やや関心”の合計が68%に対し、“あまり”、“まったく”の合計が32%であり、今回の調査結果とほぼ一致する。

(2)公共事業に対する印象
図2(その2)に一般市民の回答状況を示す。
“良い(印象を持っている)”4.0%、“やや良い”33.4% 、合計37.4%である。これに対し、“やや悪い”51.6%、“悪い”11.0%、合計62.6%であり、悪い印象の割合が大きく上回っている。過去調査は、“良い”、“やや良い”の合計20%に対し、“やや悪い”、“悪い”の合計が67%である。
回答無しの割合(13%)を除いた換算をすると、前者23%に対し、後者77%となり、今回の結果では公共事業に対する印象がある程度改善されたものとなっている。

(3)公共事業の必要性
図2(その3)に一般市民の回答状況を示す。
“(公共事業は)必要”34.0%、“どちらかといえば必要”52.8%、その合計86.8%である。これに対し、“どちらかといえば不要”10.8%、“不要”2.4%、合計13.2%であり、必要だと思う割合が大きく上回っている。過去調査は、“必要”、“どちらかといえば必要”の合計80%に対し、“どちらかといえば不要”、“不要”の合計20%であり、今回の結果は、公共事業の必要性が少し高まったものとなっている。もちろんその背景には、東日本大震災の発生後という時期的な要因も含まれているものと思われる。

(4)公共事業に関する具体的イメージ
過去調査は、公共事業に関する代表的な負のイメージとして“税金を無駄に使っている”と“談合などの不正がある”、の2つを取り上げており、本アンケートでも同じ項目を採用した。図3に回答状況を示す。
①“税金を無駄に使っている”イメージへの回答
図3(その1)より、“(公共事業は税金を無駄に使っていると)思う”32.8%、“やや思う”45.8%、合計79.6%である。これに対し、“あまり思わない”17.2%、“思わない”4.2%、合計21.4%であり、この負のイメージを肯定する割合が非常に大きい。
過去調査は、肯定85%、否定5%、回答無し10%である。回答無しを除く換算では肯定割合が94%になり、今回の結果は、“税金の無駄使い”という負のイメージが少し改善されたものとなっている。
②“談合などの不正がある”イメージへの回答
図3(その2)より、“(公共事業には談合などの不正があると)思う”44.4%、“やや思う”44.2%、合計88.6%である。これに対し、“あまり思わない”9.8%、“思わない”1.6%、合計11.4%であり、この負のイメージを肯定する割合がさらに大きい。
過去調査は、肯定86%、否定3%、回答無し11%である。回答無しを除く換算では肯定割合が94%であり、今回の調査結果は、“談合などの不正がある”という負のイメージが若干ながら改善されたものとなっている。

3.3 東日本大震災に関連したアンケート
(1)東日本大震災規模の災害発生に対する予想
東日本大震災のような大地震、大津波および大被害の発生を事前に予想したかどうかを、3つの選択肢(1.予想していた、2.予想していなかった、3.どちらともいえない)で質問した。その結果を、グループ間で比較したものが、図4(その1~3)である。これを見ると、一般市民と建設関係者との回答構成にほとんど差がなく、今回の事態がいかに“想定外”のものであったかを如実に示す結果となっている。

(2)大震災の教訓
このような“大震災の経験から今後に向けて教訓”とすべきことを、6つの選択肢から1つだけ選択する質問の回答をまとめたものが図5である。一般市民は“3.自然災害の発生を見越した生活様式への変更”や“4.災害発生時の復旧復興策の円滑化”が多いのに対し、建設関係者は“2.計画を超えた場合の対応策の整備”や“1.津波対策をはじめとした防災施設の整備・強化”といった事前準備型の回答が多い。

3.4 九州・沖縄の地域づくり、社会資本整備
(1)社会資本整備の基本姿勢
今後の九州・沖縄における社会資本整備の基本姿勢として、“その他”を含む6つの選択肢を示し、適切と思われるものを1つ選択する設問である。その回答構成(%)を図6に示すが、回答構成は2グループで大きく異なる。市民グループは“2(防災対策を最優先に、地震対策を含めた総合的な防災対策を作り、必要な施設整備を行う)”の選択率が45.6%と第1位であるが、“3(防災施設に限定せず、整備が必要な社会資本に対し計画的に整備を進める)”29.4%、“1(大規模地震に対応可能な地震対策を最優先として、必要な施設整備を行う”11.4%、“5(社会資本整備よりも社会保障等の他の対策を優先させる)”10.0%と、選択が分散している。これに対し、建設関係グループは、“3”と“2”に集中しており、前者51.3%、後者40.3%である。ただ両グループとも、従来型踏襲の選択率は非常に低く、今回の経験を契機に社会資本整備の基本姿勢そのものを見直すべきである、と意識しているものと思われる。

(2)九州・沖縄の地域づくりにおける課題
この設問は、用意した選択肢から2項目を選択するものであり、集計はグループごとに以下の算定を行った。

ある選択肢の選択率(%)=その選択数÷グループ別回答者数*100

図7は、一般市民の上位5項目に対する両グループの回答率を並べて示す。一般市民の選択率第1位は“少子高齢化による人口減少”で14.5%である。以下、“自然災害の多発”(12.1 %)、“自治体の財政悪化”(11.8%)、“中心市街地・商店街の衰退”(11.6%)、“農林水産業の衰退”(9.1%)と続く。これに対し建設関係者の選択率第1位は“自然災害の多発”で20.1%、“少子高齢化による人口減少”(16.9%)、“自治体の財政悪化”(16.3%)、“集落の消滅や中山間地の荒廃”(14.2%)と続く。上位3項目は、順位の違いこそあるが、両グループとも共通している。また(1)と同じように、市民グループの回答には多くの選択肢へ分散する傾向が見られる。

(3)地域づくりにおける九州・沖縄の長所
この集計も(2)と同じ算定を行ったうえで、一般市民の上位5項目に対する両グループの回答率を並べて示したものが図8である。一般市民の選択率第1位は“観光資源が豊富”で17.3%である。以下、“気候が温暖”(15.4%)、“東アジアとの交流等”(15.0%)、“水や土地が豊富”(14.6%)、“自然エネルギー資源がある”(12.9%)と続く。これに対し建設関係者の選択率第1位は“東アジアとの交流等”で21.9%、以下“観光資源が豊富”(17.2%)、“ 水や土地が豊富”(13.2%)、“自然エネルギー資源がある”(10.8%)、“気候が温暖”(9.1%)、と続く。これら上位5項目は、順位の違いこそあるが、両グループとも共通している。またこの設問でも、一般市民の回答は多くの選択肢へ分散する傾向が見られる。

(4)地域づくり、社会資本整備に対する提案
ここでは、九州・沖縄が目指すべき地域づくり、社会資本整備に対する提案を記述方式で回答を求めた。その結果、表8に示すように、一般市民からは全回答者数の79%に相当する395名、建設関係者からは67.9%に相当する159名から膨大な提案があった。
これらの提案は、まずすべての記述内容をワードデータ化し、その内容に応じて36分野のコードを付与した。1人の提案でも複数の内容を持つ場合には内容に応じた複数のコードを付与して分割した。その結果、提案件数は表8のとおり、一般市民グループで551件、建設関係者グループで275件となった。このように多数の提案があったことは、多くの市民、建設関係者がともに九州・沖縄の今後に大きな不安、危機感を抱いていることの表れかと思われる。

提案内容の集計結果から、市民グループの件数上位10の分野について、両グループのそれぞれの総件数に対する件数割合(%)を表9に示す。
第1位は両分野とも“(交通手段が少ないための)交通網の整備”であるが、そのあとの順位はグループでかなり差が見られる。一般市民では東日本大震災・福島原発事故の影響もあり、“自然エネルギーの導入、強化/脱原発”、“自然災害の対策強化”といった提案が上位にランクされる。

4.まとめ

アンケートの主な結果は、以下の通りである。
(社会資本の整備状況について)
  1. 社会資本の整備に対しては、総じて一般市民の満足度が高く、建設関係者を大きく上回っている。空港や港湾に対する満足度は特に高い。
  2. グループ間の満足度格差が大きい上位3アイテムは高速道路等、歩道等、一般道路であるが、歩道等は自転車道等と共に満足度はかなり低い。
  3. 自然エネルギー発電施設は満足度が低く、両グループの回答構成は概ね類似している。
(公共事業について)
  1. 公共事業の関心度、必要性は、当アンケートでは非常に高い。
  2. 公共事業に対する負の印象、イメージには、以前と比較すれば若干の改善は見られるが、依然としてマイナス面が大きい。
(東日本大震災規模の災害発生に対して)
  1. 東日本大震災のような大震災の発生は、両グループとも“想定外”との回答が非常に多い。
  2. 今後への教訓として特定できるものはなく、考えられる多様な対策を総合的かつ計画的に進めていくことが必要である。
(九州・沖縄の地域づくり、社会資本整備)
  1. 社会資本整備の基本姿勢は、一般市民では“防災対策を最優先に、地震対策を含めた総合的な防災対策を作り、必要な施設整備を行う”が選択率第1位に対し、建設関係者では、“防災施設に限定せず、整備が必要な社会資本に対し計画的に整備を進める”が第1位であり、回答構成にかなりの違いがある。地域づくりの課題や長所は、両グループとも同じような回答を示している。
  2. 地域づくり、社会資本整備の提案については、大変膨大で貴重な提案があったが、限られた時間の中で行ったデータ整理・集計に留まっており、詳細分析を別の機会に提供する必要がある。

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