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令和3年8月出水における東川排水機場の浸水被害からの
応急復旧と恒久的浸水対策について

国土交通省 九州地方整備局  
武雄河川事務所 管理課 管理課長
永 濱 一 将

国土交通省 九州地方整備局  
武雄河川事務所 管理課 機械係長
髙 森 賢 太

キーワード:東川排水機場、令和3年8月出水、応急復旧、浸水化

1.はじめに
六角川は、有明海特有の大きな潮汐作用等による自然干陸化と古くからの干拓によって形成された低平な白石平野を蛇行しながら流下し、有明海の湾奥部特有の大きな干満差の影響が河口から約29㎞付近まで及んでいる。このため流域面積の約6 割が内水域となり、人口・資産も低平な内水域に集中している。このようなことから、洪水、高潮に対して脆弱であると共に、白石平野をはじめとする低平地帯では古くから支川や水路の氾濫による浸水被害が頻発している。
六角川流域では、甚大な被害をもたらした昭和55年及び平成2年出水を契機に河川整備を行ってきたが、近年の令和元年8月及び令和3年8月出水においては、堤防からの越水や支川の氾濫等により、甚大な被害が発生した。令和3年8月11 ~ 14日にかけて発生した記録的な豪雨では、六角川流域の矢筈雨量観測所において、降り始めから総雨量1,083㎜を記録した。六角川の潮見水位観測所において、計画高水位(4.04m)を超過し、ピーク推移は4.86m を記録した(図- 1)。

図1 8月14日5時の気象レーダー

2.東川排水機場の浸水
潮見水位観測所から下流約2㎞にある、佐賀県武雄市橘町片白地区(六角川水系六角川右岸)では、大規模な内水被害が発生した。
平成13年度に建設された東川排水機場(六角川右岸28k 付近)は片白地区の内水被害を軽減するため、計画排水量8m3 /s(表- 1)を設置していたが、8月14日の早朝に施設全体の浸水が確認された(写真- 1、2)。

表1 東川排水機場の概要

写真1 8月14日浸水状況(上流から)

写真2 8月14日浸水状況(下流から)

3.応急復旧
(1)被害調査
令和3年8月14日早朝に設備の浸水が確認されたため、浸水が解消され次第、早急に点検及び復旧に着手できるようにポンプメーカに指示を行った。
14日夕方場内の浸水が解消したため、設備の状態調査及び浸水痕跡の確認を行った(写真- 3)。
同時に、応急復旧に向けて施工方法の検討及び仮設発電機の手配等を行った(表- 2)。

写真3 浸水痕跡調査

表2 施設の復旧対応工程

(2)応急復旧対応
現地調査で得られた結果を基に、応急復旧に向けて24 時間体制で対応にあたった。発電機については、浸水が確認されたため発電機メーカの見解はそのままの運転は不可となった。しかし、浸水の翌日から水抜き、洗浄、部品・油脂類の交換(写真- 4)等の対応を行った結果、4台とも稼働することが可能となった。

写真4 エンジンオイル交換状況

操作制御設備ケーブル類についても浸水が確認された。浸水した操作制御設備内部の機器については新品若しくは予備品等と交換、リアクトル付コンドルファ始動器については工場へ持ち帰り清掃乾燥を行った。ケーブル類については、現地調査当初、絶縁抵抗値の基準値である0.4M Ω以下の部分があったが、ブロアーで乾燥させたことで全て1M Ω以上に回復させた(写真- 5)。

写真5 ケーブル水分除去・乾燥状況

(3)応急復旧までの排水対応
8月14 ~ 19日の6日間、東川排水機場は排水能力を喪失していたため、代替えの対応が必要となった。また、浸水が確認されて以降も長期間降雨が予想されていたため、早急にポンプ車を配備し、内水排除を行った。最大合計7台の排水ポンプ車(5.5m3 /s)で応急復旧までの間、排水作業を行った(写真- 6)。

写真6 ポンプ車による排水状況(8月17日3時頃)

4.恒久復旧の検討
(1)機器更新
応急復旧を行うと同時に恒久対策の検討を行った。まずは、応急的に復旧した機器類の継続使用が可能かを判断し、発電機・吐出弁・操作制御設備・接続盤・ケーブル類・除塵機盤等の更新が必要となった。また、恒久復旧のための災害復旧工事を令和3年10月12日に、当初のポンプ設備を施工した荏原製作所と契約し復旧を進めた。
(2)耐水高さの検討
恒久復旧を行うにあたり、同等規模の出水があった場合でも、設備が稼働できるようにするため、耐水化の必要が生じた。
耐水化については、まず応急復旧前に行った浸水痕跡調査の結果と、堤防高、L1・L2 浸水想定の整理を行った(表- 3)。

表3 耐水化対応高さ整理表

土木工事設計要領河川編の機場内敷地高さを参考に、既往最高内水位TP.8.60mより機器の高さは、0.3m 程度高くすることとした。既往最高内水位TP.8.60m + 0.3m = TP.8.9m 以上が必要となる。
今回、東川排水機場はL2 浸水想定高さTP.9.33m 以上の位置で、機器を配置することとした(表- 4)。

表4 嵩上げ高さ断面図

5.復旧工事施工
(1)工事での課題
①架台の検討
機器の嵩上げに際し、新たに架台の設計を行う必要が生じた。一番嵩上げが必要な燃料タンクでは約2.8m 程度嵩上げが必要となった。また、発電機や操作制御設備についても約2m 程度の嵩上げが必要となった。発電機や燃料タンクは新たに鋼製架台を製作し嵩上げを行った(写真- 7、8)。操作制御設備については、盤筺体構造の嵩上げ及び計器類の配置を見直すことによって、必要な耐水高さをクリアした(写真- 9、10)。

左写真7 発電機着工前 右写真8 発電機着工後

左写真9 操作盤着工前 右写真10 操作盤着工後

②荷重増加に伴う基礎地盤の検討
東川排水機場付近は軟弱地盤のため、架台等の新たな設置に伴い、増加荷重分が地盤に与える影響を検討する必要があった。架台等による荷重増加に対する圧密沈下量を計算した結果、約0.2cm程度の沈下量であり、浅層改良や良質盛土があることを鑑みると、ほぼ沈下の影響はないと判断した。
③危険物施設の工事
施設の嵩上げに伴い消防との調整を行った。屋外燃料タンク更新及び嵩上げに伴い、燃料タンク側板と防油堤の離隔距離を大きくする必要が生じたため、防油堤の拡幅工事を行った。
また、嵩上げした架台については鉄筋コンクリート若しくは、鉄骨コンクリート構造と同等以上の耐火性能を有する必要が生じた。鉄筋若しくは鉄骨コンクリート構造で施工する場合、基礎地盤に与える影響が大きく施工にも時間を有するため、同等以上の耐火性能を有する対策として、耐火塗装での施工を行った(写真- 11)。耐火塗装を施した鋼製架台での施工で対応することで基礎地盤に与える影響を少なくし、工程短縮を図ることが出来た。

写真11 耐火塗装の施工

④退避ルートと場内浸水時の給油対策
令和3年8月出水で、東川排水機場が浸水により孤立したため、発電機架台から直接堤防へ退避するための管理橋設置を行った(写真- 12)。

写真12 退避用管理橋

また、場内が浸水しても屋外燃料タンクに給油が可能となるように、退避ルートの入口付近に燃料給油口を設けた(写真- 13)。

写真13 燃料給油口

6.おわりに
近年は気候変動の影響により気象災害が激甚化しており近年、武雄河川事務所管内でも令和元年8月、令和3年8月と毎年のように記録的な被害が起きており、今後全国的に同じような被害や対応を迫られる必要が生じると考えられる。
東川排水機場の災害復旧工事は、令和3年10月12日に契約し、約10ヶ月程度の短い工期であった。
令和3年11月から令和4年5月までの約7ヶ月間は、常に排水能力の半分(4m3 /s)を確保しながらの施工をする必要があり工程調整に苦慮した。
また、令和4年6月からは、出水期となるため、令和4年5月末までには、排水能力の全て(8m3/s)を確保する必要があった。
このたびの世界的な半導体や樹脂材料等の不足の影響も有り、あらゆる機器の納期が通常より大幅に延期される中の施工となり、施工や納期に大変苦慮した。
最後に、大変厳しい施工条件及び限られた工期の中、あらゆる手を尽くして、復旧工事及び応急復旧の対応をしていただいた、株式会社荏原製作所をはじめ、株式会社荏原電産及び株式会社ミゾタの工事関係者の皆様に深く感謝申し上げる。

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