全国初!
バーチャルツアーを活用した新時代の広報戦略
バーチャルツアーを活用した新時代の広報戦略
国土交通省 九州地方整備局
防災室
防災室
吉 岡 拓 海
キーワード:VR、公共配布カード、九州インフラカード、広報、全国初
1.はじめに
九州地方整備局(以下、九州地整とする)の使命は、九州に住む人々の暮らし、生命、財産を守り、九州の豊かな発展のために必要な社会資本を整備し、管理することであり、職員一人一人がそれぞれ与えられた役割を理解し、誇りをもって仕事に臨んでいる。
しかし、税金を財源として役割を果たす私たち職員は、その価値、重要性、頑張りを「知って」もらえなければ、「正しい評価」を受けることはできない。そのため、職員一人ひとりが、広報の必要性に対する共通認識を高め、それが組織力として強化されれば、私たちの仕事の質やモチベーションも向上し、自ずと業務の効率化も図られ、整備局のプレゼンスの向上にも繋がっていくのではないかと考える。
本稿は私の職務である「防災」分野において、九州地整で2018年7月から配布を開始している「九州インフラカード」を題材に取り組んだ戦略的な広報とさらなる展開について紹介する。
2.実施に向けた課題
(1)九州インフラカードについて
九州インフラカードとは九州内のインフラに関する紹介およびインフラ観光、地域活性化の一助とするため、各施設の基礎的な諸元や役割等の情報を提供する簡易版パンフレットとして九州地整が作成・配布しているカードである。
九州インフラカードには河川系施設、道路系施設、港湾空港系施設、公園系施設、営繕系施設、災害対策用機械、土木遺産系施設の7種類にそれぞれ色分けされている(写真- 1)。
その中で災害対策用機械はより防災に関心を持ってほしいという思いから作成・配布しているが、配布を開始して以降、カードの認知度は思うように向上せず、防災イベント等の集客効果としては低い状態が続いている。
そこで今回、国内初のVR技術を活用した災害対策用機械に関するインフラカード(以下「災害対策車インフラカード」という)を作成し様々な工夫を凝らした戦略的な広報を実施した。
(2)九州インフラカードに関する課題
まず、従来の九州インフラカードの配布状況を調査した。
福岡県内の九州インフラカードに関する1種類当たりの年平均配布枚数を算出したところ216枚/年であった。公共配布カードの草分け的な存在であるダムカード(福岡県近郊)と比較してみると九州インフラカードはダムカードの約1/8倍程度しか配布できていないことが分かった(図- 1)。この要因の一つとしてカードの知名度や魅力が足りないことが挙げられる。 日本国内で配布されている公共配布カードは、150種類以上にも及んでいるが、中でもダムカードは2007年から発行され、知名度も高い。そのような中で、同じようなデザインや内容のカードを発行しても知名度を得ることは困難であった。
また、他の要因としては戦略的な広報が実施できていなかったことも挙げられる。今までマスメディア向けの広報が主流であったが、インターネットやスマホの普及により、一般の方が情報を得る手段が多様化しており、従来の広報だけでは発信力が不足していた。
以上のようなことが実施に向けた課題として挙げられた。
3.課題解決に向けて
今回、防災・減災の取り組みを広く一般に知ってもらうために次の2点を実施した。
(1)付加価値の高いカードの制作
(2)あらゆるメディアを活用した戦略的なアプローチ
(1)付加価値の高いカードの制作
まず、始めに国内で発行されている多種多様なカードとの差別化を図るため、新たな技術である「バーチャルツアー」をカードに導入することとした。
「バーチャルツアー」とは、ユーザーが自由に場所や視点を変えて閲覧できるバーチャルリアリティ技術を利用したコンテンツである。この技術は、2021年から災害査定のDX推進に向けて利用検討が進んでいたものであるが、今回はこれを応用し、360°カメラで車両を撮影し、バーチャルツアー化することで、普段見ることができない災害対策車両内の画像・映像をユーザーに提供することとした。これにより車両に搭乗したような没入感を再現することが可能となった(写真- 2)。
災害対策車両は、災害時に現場の第一線で活動し、立ち入り禁止区域や夜間の活動が多いため、一般の方の目に留まる機会が少ない。その一方、SNSでは「はたらくくるま」や「ヘリコプター」、「特殊車両」といったキーワードで検索されており、潜在的に人気が高いと思われる。そのため、VR機能を付加し、前述した没入感を演出することで、付加価値の高いカードの制作に繋げることができた。
(2)あらゆるメディアを活用した戦略的なアプローチ
従来のマスメディア向けの広報に加えて、ミドルメディアやパーソナルメディア(SNS等)を意識した広報を実施することとした。
最初に実施したのは、従来型のマスメディア向けの記者発表である。発表資料の作成にあたっては、記者の方が報道記事を容易に作成出来るように、話題性のあるキーワードやイメージしやすい写真を多用した。さらに、取材当日はVR機能をわかりやすく報道できるように、九州地整DXラボが保有している没入型ドームスクリーンやVRゴーグルを活用した。ブリーフィングの開始時間については、TV報道に配慮した時間帯で実施するよう調整を行った。
その結果、1日だけでテレビ・ラジオ報道が5回、新聞報道が2回実施されており、幅広く災害対策車インフラカードの存在をPRすることができた(写真- 3)。
次に着手したのがミドルメディア向けの広報である。ミドルメディアには、業界専門誌やインターネットニュースサイトなどが含まれる。従来の記者発表においては、土木・建築系の業界紙への記者発表周知は行っているが、それ以外のミドルメディアには実施されていなかった。今回は、災害対策車インフラカードに興味を示してくれそうな業界専門誌を抽出し、記者発表資料の提供を行った。
一つ目のメディアは、「ご当地カード」の特集雑誌を発行している旅行専門誌である(写真-4)。ウィズコロナ後の旅行ブームの中で、カード収集が旅行の目的地設定のひとつになり得ることから、カード収集や旅行が好きな方の目に留まることが、カードの普及に効果的だと考えた。
もう1つのメディアは、日本唯一のヘリコプター専門誌である(写真- 5)。今回、バーチャルでヘリコプター内部に入ることができるカードを作成しているため、ヘリコプター好きな方々にも興味を持っていただけると考えた。
双方のメディアに対し、記者発表資料を提供したところ、どちらも興味関心を示す反応があり、インターネットニュースサイトや特集記事で大きく報道された。インターネットニュースについては、SNSでの拡散も確認できており、さらなる広報効果を得ることができた。
最後に、九州地整のSNSによる発信も積極的に行った。九州地整YouTubチャンネルにおいてはYouTube 内で人気がある動画を参考に演出やサムネイルを工夫し、動画を投稿した。その結果、災害対策車インフラカード紹介用YouTube動画の再生回数は、他の動画と比較すると再生回数が3倍となっており、一般の方の注目を集めたことが伺える(写真- 6)。またTwitterへの投稿においては、多くの方にリツイート頂き、広がりのある広報を実施することができた(写真- 7)。
4.実施結果
今回、新たに製作した災害対策車インフラカードは、2022年4月から配布を開始している。4月から6月の1種類あたりの配布枚数月平均を既存の九州インフラカードと比較したところ、約20倍も配布されている状況となっている(図- 2)。カードを受け取りに来られた方にお話を伺うと、九州外から来訪されている方も見受けられた。このことから、九州内向けのTV報道だけでなく、全国的に発行されている業界専門誌、インターネットニュースによる報道効果があったことが伺える。
また、ある防災イベント時には災害対策車インフラカードを求めて長蛇の列ができた。このイベントの際は、20秒に1枚のペースでカードを配布するほどの盛況ぶりであった(写真- 8)。
従来の防災イベント時には主にパンフレット配布やパネル展示を行っていた。それらのイベントと比較すると、今回は国土交通省ブースが来場者でひときわ賑わいを見せるなど注目度が明らかに違った。子供に関しては「はたらくくるま」として災害対策車に強い好奇心を示す傾向が見られ、大人にはバーチャルリアリティに興味を示す傾向が垣間見えた。どちらの世代に関しても、今までPRする機会が少なかった国土交通省の防災への取り組みを知っていただくよい機会となった。
また、来場者の中には元々、九州地整のTwitter をフォローしていなかったが、ツイートを見て来たという方がおり、SNSの広報効果を確認することができた。
さらに SNSの反応を見ると「防災フェスタは思っていたより大人も楽しめた」や「子供たちは盛り上がっている」などの大人も子供も楽しめたというコメントが多く、老若男女関係なく盛り上がりを見せるものとなった。
5.さらなる展開
一般的に、急な盛り上がりがあった現象は一過性のブームで終わってしまうことが多い。今回作成した災害対策車インフラカードの知名度をさらに上げていくためには、継続的な広報が必要不可欠である。今後も機会がある都度、記者発表やイベントでのPRを続けていきたいと考えている(写真- 9)。
現在、ウィズコロナの全国的な旅行再開に向けて、様々な施策が取り組まれている。この流れを踏まえ、魅力的な風景を紹介する九州インフラカードの知名度を上げることは、インフラ観光や地域活性化の手助けとなることが期待される。そのため、今回作成したようなバーチャルツアー機能を他のインフラカードに適用する方法を検討している。具体的には、バーチャルツアーの撮影から編集までの一連のプロセスをまとめたマニュアルを作成し、合わせて講習会もパッケージ化することで、誰でも容易に作成できるようにしていきたいと考えている。すでに問い合わせをいただいている部署には、試行版の講習会を実施し講習内容のブラッシュアップを進めている(写真- 10)。
また、今回使用したバーチャルツアーにより、広報のDXを進めるため実施した取り組みを2例紹介する。
1つ目は2次元バーコードシールを活用し、印刷済みのインフラカードにバーチャルツアー機能を実装する取り組みである。シールを用いることで、新たにカード自体を印刷するより簡単・安価にカードの付加価値を高めることが可能となる。今回の取り組みでバーチャルツアー機能を実装したのは、鹿児島県さつま町にある鶴田ダムのカードである。カード裏の2次元バーコードシールを読み込むことで、ダム周辺やダム内の散策ができる仕組みとなっている(写真- 11)。このカードは2022年11月から配布を開始したが、カードを受け取りに来所される方の数が、直前1ヶ月間と比べて約5倍に増加し、広報効果を高めることが出来ている(図- 3)。
2つ目は今年の9月1 日「防災の日」、11月5日「津波防災の日」前後の週にバーチャルツアーを活用したバーチャル展示を開催した(写真-12)。従来の展示は場所の確保や開催地へ足を運ぶ必要があったが、バーチャルツアーを用いることで、ウィズコロナの背景でも、また、来場が難しい方でも防災の取り組みについてさらなる理解促進できる環境を提供した。
6.まとめ
今後、日本は少子高齢化がさらに進み、労働人口の減少を避けることはできない。そのため、人材を確保し、質の高い公共サービスを維持するためには広報活動がますます重要となってくる。今回の「災害対策車インフラカード」に係る取り組みにより、私の職務内容を知っていただく機会も広がり、かつ防災・減災の取り組み・意識啓蒙の一助に繋がったのではないかと考えており、これからも効果的な広報戦略とその推進に努めていきたい。
そして、広報活動を通じて九州地整の取り組みや役割を少しでも多くの人々に知ってもらうことで九州地整が国民から信頼され、期待される存在になれるものと考えている。
謝辞
今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報提供をいただいた方々に感謝の意を表す。
参考文献
1) 日本放送協会:ロクいち!福岡「VR で災害時の車両・ヘリ操作を体験」
2022年4月13 日放送
2022年4月13 日放送
2)(株)旅行読売出版社:ご当地カードを集めよう
https://www.ryokoyomiuri.co.jp/mook/post-67.html
https://www.ryokoyomiuri.co.jp/mook/post-67.html
3)(株)旅行読売出版社 :Yahoo! ニュース記事「国内初!? VR機能付きご当地カード「災害対策車インフラカード」。レアなイベント限定カードも」2022年5月16日掲載
4)(株)タクト・ワン:Helicopter Japan 4・5月号