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インフラ分野におけるDX推進の人材育成
~インフラDX研修の実施~

国土交通省 九州地方整備局  
インフラDX推進室 建設専門官
房 前 和 朋

キーワード:DX、災害、点群、クラウド、ドローン、メタバース

1.はじめに
DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。「DT」ではなく「DX」と表記されるのは、「trans」が交差するという意味を持つため「X」と略されるためです。
DXはデータとデジタルを用いた「働き方の改革」であり、働く人の負担を減らすとともに、新たな価値を創造する事を目的とします。
九州地方整備局では、インフラ分野のDXを推進する体制強化を図るため、令和3年4月1日に企画部長をセンター長とした九州インフラDX推進センターを発足しました。また、センター内にインフラDX推進室を設置し、6名体制(3名専任)でDXに関する技術開発、整備局内外へのDXの普及促進を行っています(図- 1)。

図1 九州インフラDX推進センターの体制

DXを推進する上での課題はいくつもありますが、特に人材不足は深刻で、「デジタル技術やデータ活用に精通し、DXをリードし実行する人材」は多くの組織で不足しています。

2.DX研修の実施
九州地方整備局では、建設業界のDX推進を担う人材確保のため、整備局内だけではなく、大学や自治体、関係団体に対して研修を実施し、インフラ分野のDX推進を行っています。
内容についても、デジタル計測、クラウド、メタバース、AI、災害査定など多様かつ最先端の内容となっています。

2.1 DXに対応した災害査定官の育成
令和4年5月30日に国土交通本省防災課から自治体に対して「災害復旧事業におけるデジタル技術活用の手引き(素案)」が通知されるなど、急速に災害対応のデジタル化が進んでいます。
九州地方整備局においても、令和3年に災害査定のデジタル化の実証実験等の取り組みを全国に先駆けて行っています。
令和4年5月21日には全国初となる、DXに対応した災害査定官育成の研修を実施しました。研修には整備局職員24名、地方自治体職員6名が参加しました。
災害が激甚化・頻発化するなかで、災害査定の効率化は非常に重要です。研修では災害現場をVR化した「災害査定用バーチャルツアー」(図- 2)で災害現場の定性的な把握、「点群クラウド」による三次元測量結果を用いた定量的な把握を行いました。
近い将来、自治体からの災害査定申請がデジタルで行われると考えられるため、今後の災害査定官はデジタル技術を駆使して審査を迅速かつ正確に行うスキルが求められます。研修では、起終点が適切か、工法が適切か、被災原因は何か等、災害査定に用いる実践的な知識を学びました。

図2 災害現場をVR化した「災害査定用バーチャルツアー」、任意の地点から上下左右360°を自由に見ることができる。

2.2 九州大学生へのDX研修の実施
令和4年7月15日、九州大学の院生等23名を対象に、インフラ分野のDXの最先端技術を学ぶ体験型研修を実施しました。
研修は九州大学から「今後のインフラ整備を担う若者にDXを体験させたい」との強い要望を受け実施したものです。研修ではインフラDX人材育成センターで360°カメラによるVR撮影やスマートフォン・レーザー測量機を用いた点群測量等を体験しました(写真- 1)。

写真1 レーザー測量を体験

また、事前に計測した福岡県の糸島半島の海岸の3Dデータを用い、メタバース作成の実習を行いました。海岸の保全や活用をテーマに、仮想空間に再現された糸島海岸に植物などを配置し、思い描く海岸のメタバースに作り上げました。九州大学清野聡子准教授は、報道機関の取材に対し「学生のいろいろな可能性を引き出せる。構想する力、伝える力を補強するすごいツール」と評されていました。
現在はインターネットを通じて知識を得ることが容易ですが、コロナの影響もあり経験を積む機会が少ないと考えます。知識と経験は車輪の両輪のようなもので、今回の研修のように体験型の研修で経験を得ることで、若い技術者の知識と経験のバランスが整い、大きく成長が期待できると感じました。

写真2 メタバースを作成を体験

2.3 AIを実際に作成する「AI研修」の実施
現在AIは社会の至る所で活用されており、建設業界でも徐々に活用が広がっているところです。
AIは、いままでの機械では難しかった「自らデーターから学び考える」機能を有しており、使い方によっては非常に有用です。
その一方で、AIへの理解が十分でないため、「AIに仕事を任せる事へのためらい」や「AIで何がどのレベルでできるのかを把握できないためどのように仕事に使えば良いかわからない」等の問題が生じています。
そこでDX推進室では、「実際にAIを作成することでAIへの理解を深めるカリキュラム」を作成し、「AI導入を実行できる人材」の育成に取り組んでいます。
令和4年度は、8月8 ~ 9日、9月26 ~ 27日の2 回開催しました。整備局の技術・事務系職50名の他、九州大学、長崎大学、福岡市職員が参加しました。講師は土木分野のAI開発の第一人者である日本工営(株)中央研究所の一言正之氏らを招きました。
AIの作成は難しいように思われがちですが、数学やプログラム等の知識を事前に持っていなくても、本研修を受講するとAIが作成できるようにカリキュラムを工夫しています。
受講生は、AIの基礎知識や活用事例を学んだ後、プログラミング言語の「Python」を使用してAIの作成を行いました(写真- 3)。この研修では、「中小河川の洪水予測を行うAI」、「ドライブレコーダーの動画から道路の損傷を見つけるAI」を作成しました(写真- 4)

写真3 PythonでAIをプログラミング

写真4 完成したAI、白線のかすれを検出

受講生からは「AIを動かすことで原理を理解でき、また、データをAIの活用で幅広い分野で展開できる可能性を実際に体験できた。研修内容を職場のミーティングで共有したい」などの感想をいただきました。

2.4 県・政令市を対象としたDX研修の実施
令和4年3月に開催した、九州・沖縄8県3政令市等による九州・沖縄ブロック土木部長等会議で、建設業界の働き方改革を推進する新たな取り組みとして、インフラDX合同研修会の実施が決定されました。DX推進室が講師を務め、現在、福岡県、長崎県、福岡市、北九州市、熊本市で実施済みです。本稿では、長崎県・熊本市の事例について紹介します。
令和4年7月25日に熊本市役所でDX研修を開催し、市技術系職員等31名が参加しました。令和2年7月豪雨等のデジタルデータ用い、災害などでの活用事例を紹介しました。その後実習として、360°カメラによるVR作成、iPhoneによるレーザー計測、クラウドによる3Dモデルの共有・測量等を体験いただきました(写真- 5)。
令和4年7月25日は熊本市でDX研修を実施しました。

写真5 iPhoneによるレーザー計測を体験

7月27日に長崎県と長崎河川国道事務所が合同で研修会を実施しました。長崎県土木部・長崎振興局から29名、長崎河川国道事務所から12名が参加しました。
デジタル先進県である静岡県の取り組みと、静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害でどのようにデジタル技術が用いられ大きな効果があったか等の座学の後、ドローンによるVR撮影手法や、iPhoneによるレーザー計測、クラウドによる3Dモデルの共有・測量等を体験いただきました。また、県庁に隣接する「おのうえの丘」を360°カメラで撮影、VR作成を体験いただきました。
両研修ともに好評で、熊本市長から整備局長、長崎県技監から整備局企画部長に御礼の言葉をいただきました。

2.5 整備局職員を対象としたDX研修の実施
11月20 ~ 21日に整備局職員を対象とした研修を開催しました。技術・事務系職員22名と九州大学が参加しました。
内容はAIを除く当整備局でのDXの取り組みを総括したもので、測量、クラウドでの共有・活用手法、メタバース作成とデジタルデータを計測して活用する工程を体験できるカリキュラムになっています。
講師には、iPhoneによる計測は(株)オプティム ゼネラルマネージャー坂田泰章氏ら、クラウド共有についてはローカスブルー(株)CEO 宮谷聡氏ら(令和3年度 i-Construction 大賞受賞)、メタバース作成については日本工営(株)DX推進部長佐藤降洋氏ら、とその分野のトップクラスの技術者を招きました。
研修は九州技術事務所で実施しました。研修用河川堤防をフィールドとして、ドローンによる360°写真撮影・SfM による三次元点群測量、iPhoneによるレーザー計測(写真- 6)、360°カメラ撮影などを体験いただきました。

写真6 iPhoneによるレーザー計測

次にドローンや360°カメラで撮影した映像を使ったVRを作成、iPhoneによるレーザー計測結果をクラウドにアップし共有、計測を行いました(写真- 7、図- 3)。

写真7 クラウドを用いたデータの共有

図3 クラウドを用いた測量(延長、面積、直高)

また、全国で初めて社会実装されたメタバースである山国川メタバースを用いて、仮想空間上で思い描く河川環境を作成する研修を合わせて実施しました。メタバースは緯度経度、季節、天候、時間を自由に設定可能です。また河川のデザインを簡単に変えることができます。

図4 メタバースの季節や時間の設定

受講生からは「いままで難しいと思っていたデジタル技術を身近に感じた。事務所で業務に役立てたい。」等の意見をいただきました。

3.まとめ
九州地方整備局では、九州地域におけるDX推進のため、様々な研修を実施、効果をあげているところです。
今回紹介した研修は、すべて新聞掲載されています。このことからも、DXに関する人材育成は、社会から非常に高い関心を持っていただいていると考えます。 
これらのインフラDX推進室が主体的に実施したものですが、これら以外にも非常に多く講師等として研修や講演会などに参加させていただいています。
しかし、現状においては、デジタル技術やデータ活用に精通しDXをリードし実行する人材は、まだまだ不足しています。今後とも様々な形で人材育成を行い、インフラ分野の働き方を変え、また新たな価値を生み出したいと考えます。
最後に、九州大学、長崎大学、九州技術事務所、各研修の講師や協力いただきました皆様に深謝いたします。

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