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トンネル清掃車ブラシアタッチメントのコンパクト化について

国土交通省 九州地方整備局 九州技術事務所
技術活用・人材育成課 施工調査係長
武 藤 美 代

キーワード:道路維持、トンネル清掃、ブラシアタッチメント、コンパクト化

1.開発の背景
九州地方整備局における直轄管理トンネル(AA、A 等級)総延長は約40㎞(R1 年度時点)であり、このうち、監査廊幅員は0.75m ~ 1.0mが最も多く、総延長の58%を占める。また、その約90%は内装(タイル、塗装等)があり、清掃の対象となっている。
九州地方整備局で保有するトンネル清掃車は、幅員が0.8m 以下の監査廊では、壁面上部とブラシ駆動チェーンケースが干渉し、監査廊下部までブラシアタッチメントを入れることができない(図- 1)。また、左右方向のブラシスペースに余裕がなく、アタッチメント設置時やトンネル清掃車の走行時に壁面・手摺と干渉し、トンネル内設備(配電盤、CCTV カメラ等)をアーム伸縮により回避することもできない。

図1 ブラシが監査廊に入らない状況(新津奈木トンネル)

そこで、監査廊のマウントアップに伴い近年増加している狭い監査廊でも清掃可能なブラシアタッチメントのコンパクト化を行った。

2.ブラシアタッチメントの基本構造検討
2.1 対象車両の詳細調査
ブラシアタッチメントの基本構造を検討するにあたり、トンネル清掃車について詳細調査(寸法計測等)を実施し、ブラシアタッチメントのコンパクト化に必要な、改良箇所・範囲・性能要求などの条件設定を行った。なお、開発途中に直轄で保有する車両が1 本ブラシ式から2 本ブラシ式へ更新となったため現行モデルでの設定を行い、改良ブラシの基本構造の条件の基とした。

図2 新旧トンネル清掃車

現行モデル(図- 2)の主な調査箇所を表- 1に示す。

表1 調査項目

2.2 基本構造検討
次に監査廊幅員が狭いトンネルを現有のトンネル清掃車にて清掃するうえで必要な条件を以下に挙げる。
〇最もブラシスペースが狭いトンネルで壁面下部までトンネル清掃車による清掃を行う。
〇ブラシアタッチメント設置時およびトンネル清掃車が左右にブレても壁面・手摺に干渉しない。
〇アームの伸縮によりトンネル内設備(配電盤、CCTV カメラ、煙霧透過率測定装置(VI 計)等)を回避する。また作業効率向上のため回避時には監査廊内にブラシアタッチメントの設置・待避ができる。
これらのトンネル清掃作業時の現場条件に対応させるための基本構造①案:ブラシ片持ち+カバー無し(図- 3)、②案:ブラシアタッチメント単純小型化(図- 4)の2 案を選定し、ブラシアタッチメントの性能、作業性等について比較検討を行い基本仕様の確定を行った。

左 図3 ①案片持ち式  右 図4 ②案単純小型化(カバー無し)

改良設計やトンネル清掃作業におけるメリット・デメリットを比較した結果、ブラシの小径化が不要で能力低下の懸念がないこと、また、ブラシ駆動モータをブラシシャフト内蔵式にし、ブラシアタッチメントにロール機能を持たせ、狭い場所ではロール機能によりブラシ設置・待避が容易になる等、改良によるメリットが多い①案の片持ち+カバー無し方式を採用した。
改良ブラシアタッチメントの特徴は以下のとおりである。
□手摺との干渉を避けるため、ブラシフレームは片持ち式とする。
□トンネル壁面曲線から十分なクリアランスを確保するため、ブラシ駆動モータはブラシ軸内蔵とする。
□再送信アンテナ等がある時は、ロールシリンダによりブラシを回転させ手摺をかわしながらブラシを監査廊内に設置・脱出する。
□既存車両の詳細調査およびトンネル清掃の現地調査により、現在使用されていない自動追従機能は省略することとした。
新旧ブラシアタッチメントの比較図(図- 5)を示す。

図5 新旧ブラシアタッチメント比較図

3.改良箇所・範囲の検討
次に設計したブラシアタッチメント(以下「試作装置」)を車両へ取付け運用可能とするための改良箇所、範囲を検討した。
3.1 油圧系統(油圧ポンプ、油圧配管)
開発する小型ブラシアタッチメントと既存ブラシアタッチメントの両方が使用できるようにするため、油圧装置、油圧ポンプの変更は行わず、油圧配管にカプラーを追加設置することによりブラシの交換が可能な方式とした。
また、油圧配管内の残圧除去のためパージアダプタを追加した。

図6 ブラシアタッチメント取付部

3.2 ブラシアタッチメント取付部
ブラシ取付部は、1 本ブラシ式トンネル清掃車のハンガ方式に対して、現行モデルは上下ともにピンジョイント方式(図- 6)で異なるため、フレームホルダをアーム側に合わせピンジョイント方式とした。
3.3 収納ストッパー検討
収納ストッパー(図- 7)は車両左側に1箇所、車両右側に2 箇所の計3 箇所である。試作装置は、第1支柱(車両前方)の第1 ブームに、第1ブラシと交換して取り付けられる。
なお、試作装置は片持ち式となりブラシ下端で保持ができないため、現行モデルに試作装置を取り付けて格納状態を十分確認したうえで、収納ストッパーの形状や追加位置等の検討を行った。

図7 収納ストッパーによるブラシアタッチメントの収納

3.4 ブラシ吊り下げ
現行モデルはブラシアタッチメントの交換を想定していないため、既存ブラシに交換作業時に使用する吊り環等がない。したがって、現行モデルの既存ブラシの重心位置等を十分確認したうえで、交換用吊り環設置を検討した。
3.5 散水装置
現行モデルの散水は水のみで、1 本ブラシ式トンネル清掃車がブラシに散水している洗剤は使用していない。また、散水ノズルは壁面散水用と、ブラシ散水用の2 種類がある。試作装置は、現行モデルの第1 ブラシ用散水装置を使用することとした。
3.6 作業装置
車両前方の第1 支柱の第1 ブラシはトンネル下部、車両後方の第2 支柱の第2 ブラシはトンネル上部の清掃に使用されている(図- 8)。試作装置は、第1 支柱の第1 ブームに第1 ブラシと交換して取付ける。
現行モデルのブラシは、1 本ブラシ式トンネル清掃車と同様に密巻、材質はポリプロピレンである。試作装置は片持ち式となるため、ピッチ巻とする。

図8 現行モデルの作業姿勢<

3.7 ブラシスタンド
試作装置は自立できずかつブラシ取付の効率化を図りブラシスタンドを製作した。試作装置及び現行モデルのブラシアタッチメントを取り付けたブラシスタンドの吊り上げのための吊り環追加や、人力で移動可能とするためのブラシスタンドへのキャスター追加の検討を行った。

4.試作装置の機能検証
試作装置の機能検証を行うため、保有車両を工場へ回送し、実機に取付を行い、①動作確認(油圧装置、散水装置等)、②ブラシ回転速度調整、③ブラシ振動確認等、工場での機能検証を行った。
検証の結果、①~③の項目すべて「良」であり、試作装置の各機能に問題がないことを確認した。特に、試作装置のブラシ支持方式は片持ち式であるため、ブラシ回転時の異常振動の有無が懸念されたが、エンジン回転数1000、1500、2000rpm の3 パターンで異常振動が発生しないことを確認した。
また既存ブラシアタッチメントに対して試作装置の増加質量は6㎏であり、車両構造変更申請の必要がないことも確認した。

5.試運転確認
工場での機能確認後、模擬トンネル坑内に監査廊を単管パイプで仮設して試作装置を取付けた保有車両による試運転確認を行った(図- 9)。なお、監査廊幅員は、最もブラシスペースが狭い新津奈木トンネル(葦北郡芦北町)を参考とした。
監査廊内設置及び壁面清掃において、試作装置の作業性は良好であった。狭い監査廊内にトンネル壁面や手摺と干渉することなくブラシを挿入でき、ブラシが監査廊内壁面の下部まで届くことを確認した。

図9 模擬トンネルでの機能確認

6.現場での実証実験
現場での運用を図るため、新津奈木トンネルにて、試作機の監査廊内設置、壁面清掃状況、障害物回避などの検証および清掃車の操作員へヒアリングを行った。
その際、現行のトンネル清掃車はブラシの交換を前提としていないため、ブラシを交換するにあたり超音波センサ信号線切り離し時の警報解除スイッチ機能を追加した。
6.1 試作装置の操作性確認
(1)監査廊内設置及び壁面清掃
①ロール機能による試作装置の設置(図- 10)、待避の作業性
試作装置に追加されたロール機能(ブラシの90°回転機能)により、監査廊内へ設置および監査廊内から抜き出す際にブラシ上下の操作量が減ったため、既存のブラシと比較して作業性が大きく向上した。

図10 ロール機能による試作装置の設置

②壁面清掃の作業性
試作装置は、片持ち式構造としてブラシ下部のフレームをなくし、既存ブラシにあるカバーもない構造としている。そのため、監査廊の手摺との接触に注意する必要がなく(図- 11)、清掃の作業性が大きく向上した。

図11 試作装置による監査廊内の壁面清掃

③壁面清掃における清掃の仕上り
ヒアリングの結果、1本ブラシ式よりきれい、従来ブラシと変わらない、汚れが流れ落ちない時がある等、評価が分かれた。試運転確認では、仕上りが悪いという意見は出なかったことから、仕上りについては従来ブラシと同等と考えられる。
④監査廊下段の清掃作業性(現場の意見)
散水ノズルの配置の違いにより、監査廊の下段を清掃する場合、現行モデルの第2 ブラシを使用した方が汚れを落としやすいことがわかった。
(2)監査廊内の障害物回避
試作装置の操作性は良好であった。ただし、吊環が非常電話に対してクリアランスがギリギリなので、接触を気にしてブラシを下げると上部に筋が残るとの意見があった。

6.2 洗浄水の飛散
カバーを外したため洗浄水の飛散が心配されたが、反対車線では、影響を感じられなかった。操作位置では①作業員の位置でほんの少し感じる程度、②車体後方の後ろタイヤの辺りで洗浄水の水滴を感じる程度であった。

7.おわりに
今回の改良で狭い監査廊内の壁面清掃が従来のものとほぼ変わらない仕上がりとなり、ロール機能により作業効率も上がったことも確認できた。今後も、九州地方整備局管内の幅員の狭い監査廊内のトンネルで試行が行われ、試作装置を利用したトンネル清掃の活用実績が積まれることを期待する。
最後に、今回の検討・開発にあたりご協力いただいた一般社団法人日本建設機械施工協会、上成工業株式会社、五領建設株式会社、八代河川国道事務所の皆様に感謝の意を表す。

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