一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
「安心ネットワーク緊急整備」
早咲大橋の計画と設計・施工

建設省大隅工事事務所
 技術副所長
犬 童 正 夫

㈱富士ピーエス
 監理技術者
桑 原 安 男

はじめに
一般国道220号は宮崎市を起点として鹿屋市,垂水市など大隅半島を経由して国分市に至る延長185kmの路線で,大隅半島の主要幹線道路として社会・経済・産業等を支えている。
このうち,大隅半島と桜島が陸続きとなっている,垂水市海潟から垂水市牛根までの約3.6km区間は沿岸部からの急峻に切り立った姶良カルデラの内壁に当たり,きわめてもろく不安定な斜面である。このため梅雨期や台風といった降雨期には,たびたび山腹崩壊が発生し,大量の「ボラ」が国道上に流出し,通行止めとなり,産業・経済はもとより,地域住民の日常の生活等に大きな影響を与えている。このため,当該地区の通行規制を解消し「安全で信頼性の高い道路」を目指し,錦江湾の湾岸上に早咲大橋を計画し,現在平成9年度内の完成を目指して施工中である(図ー1)。

1 計画概要
(1)地形・地質
対象地域の地形は,標高300m前後のゆるやかな山頂に対し,山腹斜面は全体的に20°~80°の急勾配を呈している。この急峻な斜面のうち,安山岩等の硬質な地質が分布する箇所は,切り立った斜面を形成する一方,シラスや火山角礫岩などの比較的軟質な地質が分布する中腹斜面以下は,沢が浸食され発達している。地質的には,下部から斜長流紋岩・火山角礫岩・石英安山岩からなり,これらを覆ってボラ層や崖錐堆積物が表層部および沢部や凹部に分布する(図ー2)。

(2)自然環境
気候は,年間を通じて温暖で風が弱く,年間降水最(1500~3000mm)は多い。
景観としては,霧島屋久国立公園(第2種特別地域)桜島地区に含まれ,溶岩原や噴煙を上げる山頂が資源となっており,自然環境の豊かな地域である。また,沖合いではハマチの養殖が盛んである。自然環境への対応は,水質汚濁・自然環境などについて現状調査を実施し,工事中の水質汚濁・養殖への影響・景観への影響などを考慮した。
(3)災害状況
平成3年までの災害の頻度は年平均3回程度発生しており,豪雨時には大規模な崩壊(平成元年7月には連続雨量311mm・流出土砂5900m3)が発生している。平成4年以降,災害の頻度は多くなり,5回の通行規制が発生し,延べ174時間(最長138時間)の通行止を行い,また,平成5年7月には梅雨前線による集中豪雨により山腹崩壊が発生し9日間,平成5年9月3日台風13号により再度の山腹崩壊が発生し21日間に及ぶ交通途絶の異常事態が発生した(写真ー1)。

2 道路防災計画
当防災道路の整備目標は,豪雨や地震に対して安全性・信頼性を確保し,事前通行規制区間の解消を目的とした抜本的な整備水準とした。
(1)設計条件の設定
災害規模は,その履歴から最大規模(日雨量確率1/50)を検証して推定を行った。調査は①災害履歴調査(場所・種類・規模。雨量時間と災害との関連を調査分析),②現地斜面調査(地形・地質・植生・湧水・転石等災害発生要因の把握),③文献収集を行い,この結果より設計条件を次のように定めた。
〇 斜面危険度評価:災害規模の推定,道路構造に対応するため,対象区間斜面の危険度を渓流ごとに区分し判定した。
〇 災害規模:過去最大規模を対象に空中写真計測より検証し,流出土砂量を推定した。
〇 土石流諸元:流出土砂量および災害状況を調査し,文献などを参考にして流下幅・流下速度・波高から土石流エネルギー(流体力・衝撃力)を椎定した。
(2)道路構造形式の選定
① 道路構造の比較
防災道路構造として立案した橋梁案・洞門工案・盛土案の概略構造図を図ー3に示す。
(a)橋梁案は桁下空間を利用し土石流を流下させ,安全性において最も優れるとともに現道交通に対する施工性,維持管理を含めた経済性も有利である。
(b)洞門工案は土石流を上部で流下させ,安全性は高いが施工性,経済性で劣る。
(c)盛土案は土石流エネルギーを直接受ける構造であり,施工性,経済性で優れるが維持管理を含め安全性に不安がある。
この3案の中から安全性,施工性,経済性に優れた橋梁案を採用した。

3 橋梁計画
(1)橋梁形式の選定
上部工形式は,径間長が上石流の危険度ランク別の範囲に応じて50mから75mとなるため海上部の施工,施工中の台風,土石流の災害に対する安全性を考慮して海上部はワーゲンによる張り出し施工法のPC連続箱桁,陸上部はPCポストテンション単純T桁を採用した。
橋脚は一般的な張り出し式および壁式橋脚を採用した。
基礎工は,場所打ち杭φ1.2,φ1.5を採用した。
(2)橋梁概要
本橋の概要を以下に,一般図を図ー4に示す。
路 線 名:一般国道220号
施工場所 :鹿児島県垂水市海潟
道路規格 :第3種第2級 V=60km/h
活 荷 重:B活荷重
橋   長:888.0m
径 間 割:2@36.5 +(47.5+5@59.0+47.5)+(50.0+4@72.5+60.0+25.0)m
幅員構成 :9.0+2.5=11.5m
上部工形式:PCポストテンション単純T桁×2連
      PC7径間連続箱桁×2連
下部工形式:逆T式橋台   2基
      張出式橋脚   2基
      壁式橋脚    13基
基 礎 工:場所打ち杭基礎 17基
設計水平震度:Kh=Cz・CG・CI・CT・Kho
=0.7×1.0×1.0×1.25×0.2=0.18

(3)設計概要
① 上部工
(a)塩害対策
本橋は塩害対策区分工となるので,塩害対策としてかぶりの増厚で対処した。

(b)使用PC鋼材
・PCポストテンション単純T桁
縦方向にはPC鋼より線12S12.7を,横締めにはシングルストランド1S21.8を使用した。
・PC7径間連続箱桁
張り出し施工鋼材には支間長が中程度でブロック数も少ないことからPC鋼棒SBPR930/1180φ32㎜を,連続鋼材にはPC鋼より線12S12.4および12S12.7を使用した。
(c)反力分散方式の採用
PC連続箱桁部については下記の理由により,7径間連続桁とした。
・海上施工と桜島の降灰の影響を減らすため支保施工部を減らす。
・多径間にすることで耐震性を向上させる。
・伸縮装置を減らし,走行性、維持管理を向上させる。
支承構造は,橋脚高が低いため,常時の温度変化の水平力低減,地震時の水平力を各橋脚に分散させる目的で,ゴム支承による反力分散方式を採用した。
端支点の可動支承については,スライド支承を採用した。
② 下部工
(a)支持層の決定
当該地区の地層は複雑で各橋台,橋脚ごとに支持層となる地層が異なる。
支持層としては,N値30以上の安定した層(火山角礫岩層,流紋岩層,凝灰岩層,火砕流堆積層)とし,これに杭径程度根入れさせた。
なお,ボーリングのN値は礫や転石をたたいたものがあるので,10回ごとの貫入量より判断して,平均的なN値を求めた。
(b)フーチングの根入れと基礎形式の選定
海上部施工となるので,フーチングの根入れによって施工法,基礎形式が限定される。形式比較した結果,大気中施工ができる工法が最も優れており,フーチングはH.W.L=1.2m以上とした。
なお,フーチングが露出するので洗掘防止と景観に配慮して石張り護床工を施す。
施工基面がH.W.L以上であるので基礎杭も通常の場所打ち杭φ1.2mとし,礫,転石層を掘削するためケーシング全周回転工法を採用した。
2橋台場所打ち杭は,施工時の現道確保のためフーチングの寸法に制限を受けるので,本数の少ないφ1.5mとした。

4 施工概要
(1)工事用道路
① 仮桟橋の施工
仮桟橋の施工は,下記の手順により施工したが,H鋼杭の打設と覆工板布設の同時施工は作業スペースの関係から施工不可能であったため,2カ所を、同時施工することにより,ガンパイル工法の特殊バイブロハンマの待ちを極力少なくし機械損料の低減を図った。

② ガンパイル工法による施工結果
今回,ガンパイル工法による巨礫部のH鋼杭打設の施工が完了したが,1日6本程度の施工が可能であり短い工期で施工完了した。(杭本体のみであればより多くの打設が可能である。)
今回の施工結果による注意点は次の通りである。
(a)地層が複雑であったため打止め管理(支持層の確認)が難しい。
(b)巨礫部への貫入量の決定が難しい。
(c)杭先端部のマンガン鋼補強により岩への貫入が可能である。
(d)ガンパイル工施工業者が少ないため工法選定には調査が必要である。
(e)マンガン鋼は高炉メーカー特注で入荷困難

(2)下部工
① 基礎杭の施工
基礎杭は場所打ちコンクリート杭で杭径はφ1.2~φ1.5m,杭長ℓ=10.0m~26.0m,本数は203本施工した。施工フローチャートを図ー7に示す。

(3)上部工
① 施工工程
上部工の施工工程を図ー8に示す。

② A1~P2径間の施工
主桁製作ヤードは,取付道路区間が短く確保出来ないため,A1~P1径間を埋戻しその上に製作台2基を設置した。P1~P2径間の主桁6本を製作,架設,横組まで完了した上で,A1~P1径間の主桁を仮置きし,製作台および埋戻し土の撤去を行い,仮置桁を引き戻し架設する変則的な方法を採用した。
架設方法は上路式によるガーダーエレクションである(主桁架設重量は103t/本)。
架設状況を写真ー4に示す。

③ P2~P9,P9~A2径間の施工
(a)柱頭部の施工
柱頭部は橋脚高さが低いため,フーチングより支保工(支柱式と枠組式併用)により施工した。
(b)張り出し施工
張り出し施工は,ディビダークキャンチレバー工法で,ワーゲンを使用し交互にバランスを取りながら施工した。1ブロックの長さは3.0~4.0mである(写真ー5)。

(c)側径間支保工部の施工
側径間支保工部は,支柱式支保工とし,支柱は捨石盛土上のコンクリート基礎上に設置した。

あとがき
迂回路,代替道路のない道路の災害による通行止め等は日常生活,社会経済活動に多大の影響を与えている。安全で信頼性の高い道路交通環境の確保に対するニーズは今後ますます高まってくると思われる。早咲大橋の1日も早い供用が望まれている。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧