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流域治水とは?

熊本県立大学 特別教授
島 谷 幸 宏

流域治水対策が2020 年より開始されたが、概念形成や技術手法については発展途上である。
流域治水はこれまでの治水対策と異なり、流域全体を対象とした治水であり、従来の河道、ダム、遊水地などの河川整備に加え、流出抑制対策、氾濫流のコントロール、土地利用のマネージメントなどを加えた総合的な治水対策である。
流域治水の核となるのが流出抑制対策である。流出抑制対策は、発生源に対する対策と流出過程に関する対策、それらが総和するときの対策に大きく分けられる。
発生源の対策としては、それぞれの土地利用に対して、田んぼダム、雨庭、湿地貯留、道路側溝の透水化などの手法を用いて流出量を抑制する。基本的な原理は、貯留、浸透、蒸発散であり、それらが組み合わされて実施される。例えば、田んぼダムでは畔の高さを活用し、水田への直接降雨を貯留し、流出抑制する方法である。畔の高さ30㎝のうち、20㎝程度を治水に活用し、流出を抑制する。雨庭は、屋根、駐車場、グランドなどへの雨水を浸透・貯留などの手法を用い、流出抑制するものである。これらの手法は導入した敷地からの大幅な流出抑制が可能なことが報告されている。
また流出過程の対策とは、発生源から流出した洪水波を変形させて流出を抑制する手法である。ここ数十年の国土の開発により、河道、水路、側溝などの貯留空間は減少し、粗度は低下し、洪水波の変形は生じにくくなっている。しかしながら、河道・河岸域・川沿いの貯留、蛇行再生、霞堤などによる氾濫域の確保などにより、洪水波を変形することは可能であり、これらの手法による流出過程の対策も流域治水対策の一部であるが、現在は十分に理解されていない。
さらに、それぞれの場所に降った雨がそれぞれの場所から波形をもって流出し、その波形が変形し、到達したそれぞれの流量波形の総和されたものがある地点の流量となる。したがって、最終的にはこれらの総和の在り方自体がある地点の流量を支配することとなる。すなわち、ピーク流量をずらす技術は流域治水対策の一つと言えるが、これについては欧米で概念的に語られているものの、明快な研究例は恐らくない。
以上のように、流域治水対策はこれまでの、治水対策と比べそのメニューは格段に多く、流出過程のプロセス自体の理解とそれに対応した要素技術が必要となる。個々の対策はそれぞれの土地に根差すため、流域治水の過程で付加価値を生むことが重要で、それを可能とする仕組みづくり(例えば税制優遇策、基準、補助金、生物多様性の回復など)により持続可能な地域づくりへとつながることも流域治水対策の面白みでもある。
これまでの治水が速やかに水を排除することを前提とした下流につけを及ぼす治水であるのに対して、流域治水対策は下流に負荷を与えない利他業の治水対策ともいえる。いろいろな意味で、大きなパラダイム転換を図った流域治水であるが、持続的な地域づくりへとつながることが期待されるが、一体どのように進むのだろうか?

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