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国道220号宮崎市内海の斜面崩壊復旧への取り組み

国土交通省 九州地方整備局
宮崎河川国道事務所
道路管理第二課長
谷 口 廉 宏

キーワード:豪雨、斜面崩壊、復旧、宮崎層群

1.はじめに
国道220号の宮崎市から日南市間約40㎞は、宮崎層群と称される劣化しやすい脆弱な地質のため斜面崩壊、地すべり、落石、土砂流出が多発し、その都度、通行止め、斜面安定化対策を実施し、利用者の安全確保に取り組んできた。
しかしながら、地質の劣化と豪雨、地震による継続的な自然誘因を受け、①平成20年宮浦地区、②平成29年大浦・志戸辻地区の大規模崩壊に続き、今回台風14号の接近で令和3年9月13日から16日にかけて断続的に発生した局地的豪雨により、宮崎市大字内海地区で(図- 1)、山側から土砂が流入した土砂災害(写真-1)が発生した。
本報告は、発災状況と復旧の取り組みについて今後の類似事例の参考となることを期待し報告する。

図1 被災箇所位置図

写真1 斜面崩壊状況

2.日南海岸沿い斜面の災害特徴
宮崎層群は、10号、220号の広い範囲の基盤岩を構成する。海進・海退に伴う海底堆積物を起源とした岩盤で、通常は、数十㎝ごとのリズミカルな砂岩・泥岩の互層からなり、日南海岸では『鬼の洗濯板』として知られている。また、砂岩優勢、泥岩優勢、泥岩主体、砂岩単層など層相の違いはあるものの、西→東側に傾斜(単傾斜)を有し、特に泥岩は風化に非常に弱く、スレーキングが崩壊の要因となる。
表- 1 は、宮崎層群の地質特性と崩壊区分、崩壊規模から災害区分をA ~ E の5つに分類したものである。今回の災害区分はタイプE になる。

表1 宮崎層群における災害区分1)

図2 今回の災害区分タイプEの模式図1)

3.発災状況
(1)降雨
図- 3 に発災時の時間雨量と連続雨量を示す。
9月13日から14日にかけ約300ミリの局地的豪雨が発生した。小康状態を経て、再度15日夜から16日にかけ約460ミリの局地的豪雨となり、4日間の総雨量は約830ミリまで達した。16日9時から10時にかけての時間雨量は99ミリの猛烈な雨となり、その約2時間後、斜面崩壊によりJR日南線、国道220号へ土砂流入が発生した。
図- 4 に気象レーダーを示すが、8時~11時まで日南海岸付近で激しい降雨が続いた。
(2)被災状況
○発生日時:令和3年9月16日11:55 頃
○場所:宮崎県宮崎市大字内海(うちうみ)
○概要:道路区域外の山側からの土砂流入
○規模:高さH = 70m、被災延長= 100m
○その他被害:人身被害なし、孤立集落なし、民家等3 件損壊、JR日南線小内海駅駅舎崩壊

図3 降雨状況(日南市伊比井テレメータ)

図4 気象レーダー(日本気象協会資料に加筆)

(3)被災状況の変化
最初の土砂流入が確認されたのは、16日11時55分頃であった。大量の泥水と共に土砂移動が確認されたため、異常時巡回中の職員が全面通行止めとした。その後、14時40分頃斜面崩壊が発生し、時間の経過とともに土砂の押し出しが進捗し、17時11分頃には流入した土砂が国道を覆い、電柱も倒壊した(写真-2)。土砂移動はその後も続き、翌日17日15時頃には国道を覆い、さらに海側の店舗兼住宅まで土砂が押し寄せ流入した(写真-3)。

写真2 国道への土砂流出と電柱倒壊

写真3 店舗住宅に押し寄せた土砂

(4)国道・JR復旧への課題
今回の斜面崩壊は、山側からの崩土がJR日南線、国道220号へ大量に流入した。これにより駅舎や軌道も破損し、一部国道にも流入した。また、法面上には多量の残留土塊がありJR、国道の安全を確保するためには復旧に係る施工調整を実施する必要が生じた。
このため関係機関(九州地方整備局、九州運輸局、宮崎県、JR 九州)が一同に介した「宮崎市内海地区災害復旧に関する連絡調整会議」を設立し、全体復旧計画の策定、二次災害防止を考慮した復旧作業計画及び役割分担等の情報共有を行った。

4.復旧に向けた取り組み
(1)崩壊要因と二次災害リスクの把握
斜面は降雨の影響で、非常に多くの浸透水、地下水を含んだ不安定な土砂が残存していた。そのため、崩土撤去による二次災害の危険性が高く、更に崩壊源頭部の湧水(写真-4)から崩壊地内への水の供給でぬかるみもひどく(写真-5)、重機の搬入が可能か見極める必要があった。
被災直後の防災ドクターによる現地確認や9月19日に国土交通省国土技術政策総合研究所および国立研究開発法人土木研究所の地質・地盤の専門家による被災箇所の現地調査を実施した。専門家からは、①現在、崩壊土塊の含水比が高く、泥寧化の状況であること、②崩壊土塊内・上部に未崩落土砂が有るため、必要に応じ対策を要すること、③崩落土塊への排水対策(湧水箇所複数有り)の必要性について助言があった(写真―6)。

写真4 崩壊源頭部の湧水状況

写真5 崩壊地のぬかるんだ土砂状況

写真6 専門家による泥岩の劣化状況確認

(2)応急復旧
復旧作業の実施にあたり斜面の安定性と作業の安全性は、ボーリング調査と斜面上部から中腹に設置した3 基の地盤伸縮計で異常の有無を監視し、管理基準値(2㎜ / h)による作業中止、避難指示を判断した(写真-7)。
また、応急復旧工事の初期段階においてバックホウに遠隔操縦装置を搭載した「ロボQS」を稼働させた。応急復旧を担当する建設会社自社所有のバックホウにロボQS 搭載出来ず急遽リース機械を持ち込んでの対応となった。水分を多く含んだ堆積土砂や法面上の残留土塊を安全に除去することを目標とし稼働したが、予想以上に堆積土砂のぬかるみが酷くバックホウによる排土作業における足場確保が容易ではなかった。
さらに法面上の残留土砂の排土作業においても遠隔操作装置のみではバックホウ安定性等の確認を含め周辺の目視確認がしづらく、湧水対策を実施するまでは作業効率が向上しなかった。
近年、DX やICT が進む中で今後さらに災害現場での無人化施工の技術開発、技術の確保が必要と痛感した。

写真7 伸縮計による斜面安定監理

(3)復旧状況
9月21日(火)(災害発生から6日目)に起点、終点側より進入路設置開始(一部、JR 軌道敷を利用)し、9月30日(木)には交通開放見込みの記者発表、10月下旬での交通開放、JR 軌道山側に仮設防護柵の設置を具体化した。

写真8 JR軌道敷を利用した進入路準備

10月2日(土)(災害発生から17日目)から夜間作業開始し、交通開放に向けて復旧を加速した。その中で写真-6 にある泥岩のスレーキング(劣化)で土砂撤去の安全性が確保できないと判断し、10月6日(水)から斜面上部吹付工を開始した。
崩壊斜面の不安定な土塊撤去が進み、10月9日(土)からは線路に隣接し、仮設防護柵の設置を開始した。その後、10月19日(火)に国道部の補修が完了し、翌日10月20日(水)(災害発生から35日目)15時に国道を全面開放した。
なお、災害発生から全面開放までの期間中は日々ドローンで斜面状況を撮影し、宮崎河川国道事務所ホームページ・Twitter にて災害発生状況、復旧状況ほか迂回路情報など幅広く情報発信し、地域住民、道路利用者の理解と協力を得ることができた。

写真9 夜間作業による崩土撤去

5.おわりに
現地は国道全面解放後、JR 小内海駅の復旧と列車運行開始、そして、宮崎県による本復旧工事が進められている。降雨時には現地での監視と点検を継続し、新たな被害は発生していない。
しかし、宮崎河川国道事務所管内における地質は宮崎層群、日南層群、シラスといった土木地質的課題が多く、地質の劣化リスクを取り入れ、今後も適切な維持管理に取り組んでいく必要がある。
最後に早期復旧へ向け、昼夜問わずご尽力いただいた、災害復旧協定に伴う各建設会社の皆さま、各設計・地質コンサルタントのみなさま、また、復旧完了までご協力・激励を頂いた地元の皆さまに感謝申し上げる。

写真10 5月27日時点の復旧状況

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