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H28熊本地震からの復興に向けた地域との連携

国土交通省  九州地方整備局      
熊本河川国道事務所(熊本復興事務所併任)
建設専門官
大 川 雄一郎

キーワード:熊本地震、創造的復興、地域連携

1.はじめに
2016年4月に発生した熊本地震では、最大震度7の地震が立て続けに2 度発生し、橋の損傷や斜面が崩壊するなど、熊本地方を中心として各地で甚大な被害が発生しました。
これを受けて国土交通省では翌年4月に「熊本復興事務所」及び「熊本地震復旧対策研究室」を南阿蘇村に開所し、阿蘇大橋地区における大規模斜面崩壊箇所や国道325号等の復旧事業を推進するとともに、熊本河川国道事務所においては、国道57号の災害復旧事業として北側復旧道路の整備を進めてきました。
地震発生から約5年の節目に当たる2021年3月7日、新阿蘇大橋開通をもって、寸断していた全ての国道及び県道が開通し、地元の方や現地を訪れた方々からお祝いや感謝の声を頂いたところです( 図- 1、写真-1、写真-2)。

図1 熊本市街地と南阿蘇村を結ぶ道路ネットワーク

写真1 北側復旧道路開通後の状況

写真2 新阿蘇大橋開通後の状況

2.復旧への気運醸成に向けた取り組み
熊本と阿蘇とをつなぐ道路や鉄道などのアクセスルートが2020年度内に完成を迎えるにあたり、これらの完全復活を願う地域をはじめ多くの声を集め発信するとともに、地域と連携したイベントを企画することで、地域の創造的復興に向けた気運醸成につなげていくこととしました。

(1)「TSUNAGUくまもと実行委員会」の取り組み
国、県、阿蘇市、大津町、南阿蘇村、高森町や熊本市などの周辺自治体が協力して「TSUNAGUくまもと実行委員会」を設立し、復興に携わる地元の方々や工事現場で奮闘する技術者などから開通に向けた喜びの声などをSNS 等を活用して発信するとともに、開通を祝うメッセージ写真をモザイクにした横断幕を作成し開通時に設置しました。SNS では多くの方にフォローして頂くなど、阿蘇地域が賑わいを取り戻す一助となったのではと考えています (図- 2、3、写真- 3)。

図2 取り組みPRのチラシ

写真3 インタビュー動画の例(北側復旧道路)

図3 お祝いメッセージ写真をモザイクにした横断幕<

(2)地元小中学生向けイベントの開催
新阿蘇大橋の開通に向けて、地元教育委員会と協力し、社会勉強の一環として地元の小中学生を対象とした出前講座や現場見学会(写真- 4)を実施するとともに、施工業者の協力により、地元小学生の代表者に橋桁連結の最終コンクリート打設を手伝って頂きました(写真- 5)。
参加者からは「大きな橋でも一人一人手作業でつくられていることを実感できた。」「完成したら家族みんなで渡りたい。」などの感想を頂きました。
また、地元中学生に橋名板製作の基になる橋梁の名称を習字にて書いて頂くなど、イベントを通して、将来を担う子供達が社会基盤整備の重要性を認識し、橋への愛着を持ってながく使って頂くことを期待しています(写真- 6)。

写真4 地元小中学生による現場見学会

写真5 施工業者による橋桁連結イベント

写真6 地元中学生が書いた橋名板の製作

(3)阿蘇の魅力発信イベントへの参加
熊本県・(公社)熊本県観光連盟では、熊本地震からの阿蘇の復興をPR し、アクセスルートの開通効果を最大化するため、地域が一体となったキャンペーン“I’m fine! ASO” を企画し、2020年度のJR 豊肥本線、国道57号(北側復旧道路)、新阿蘇大橋のそれぞれの開通に合わせて、阿蘇の魅力や参加者の笑顔を収穫するイベント(阿蘇の7 市町村から自慢の逸品を集結したマルシェの開催、ステージイベント、フィールドイベント等)が開催されました。
国土交通省においても、積極的に災害復旧事業に関するパネル展示を行うことで、インフラ復旧の過程を見て頂きました(写真- 7)。

写真7 イベント会場でのパネル展示状況

3.創造的復興に向けた連携
熊本地震により特に局所的・集中的な被害が発生した「南阿蘇立野・黒川地域の創造的復興」に向け、熊本地震震災ミュージアムの中核拠点や見学スペース、周辺道路の整備等、国、県、南阿蘇村の連携による取り組みが進められています。
新阿蘇大橋左岸側に整備した「新阿蘇大橋展望所(通称「ヨ・ミュール」)」は、多くの方が訪れる新たな観光スポットとなっています(図- 4、写真- 8)。

図4 国・県・南阿蘇村の連携による「創造的復興」取り組み箇所

写真8 新阿蘇大橋展望所の賑わい状況

また、阿蘇大橋地区の「大規模崩壊斜面」は、後世に伝えていくべき遺構として「数鹿流(すがる)崩れ」と命名、斜面下に整備された見学スペースには「数鹿流崩之碑」や説明板が設置され、防災教育の場としても活用されています(写真- 9)。
現在、南阿蘇村では、被災当時の被害の様子を語り継ぎ、未来への防災の学びを得るべく、これらの施設を周遊する電気バスが運行されています。

■写真9 数鹿流崩之碑展望所

4.沿線3町村による「新阿蘇大橋活性化協議会」の取り組み
新阿蘇大橋の沿線となる大津町、南阿蘇村、高森町の3 町村で「新阿蘇大橋活性化協議会」を設置し、「新阿蘇大橋カウントダウンキャンペーン」として、スタンプを集めると抽選で特産品が当たる「冬のお出かけスタンプラリー」や「新春リアルすごろく」等の周遊促進策を企画し、新阿蘇大橋の開通を盛り上げて頂きました(図- 5)。
また、キャンペーンでは、コロナ禍における新しい生活様式でのおもてなしの一環として、啓発ポスター(熊本弁版)の掲示や特製マスクケースの配布等も行われ、感染拡大防止等にも配慮した取り組みとなっています。

図5 新阿蘇大橋活性化協議会によるキャンペーンチラシ

5.おわりに
新阿蘇大橋開通当日は、通り初めが行われ、開通を祝う地元の方々が、通り初めの参加者を歓迎するために集まってくれたり、周辺では、開通を祝うイベントがいたる所で催されました(写真-10)。また、地元の方から、新阿蘇大橋開通当日に現地を訪れた方々の祝いの声や工事関係者への感謝を伝える寄せ書きをいただき、復興を本当に心待ちにされていたという思いが伝わってきました(写真- 11)。このような復興事業に携われたことを貴重な経験として、今後の業務に生かしていきたいと思います。
完成に至るまでに地元住民の皆様をはじめ、昼夜を厭わずに復旧にあたられた設計会社や施工業者の皆様、検討委員会等に参加いただいた学識経験者や国土交通省国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人土木研究所及び関係機関の皆様、現地で技術支援を頂いた熊本地震復旧対策研究室の皆様など、ご支援、ご協力をいただいた関係者の皆様に、深く感謝の意を申し上げます。

写真10 開通を祝う地元の方々による歓迎

写真11 復興を祝う寄せ書き

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