九州地方における公共事業・公共調達に関するシンポジウム
牧角龍憲
キーワード:公共調達、総合評価方式、地域貢献
1 はじめに
本シンポジウムは、平成22年11月11日(木)に、アクロス福岡国際会議場において開催した。
(社)土木学会建設マネジメント委員会(委員長は小澤一雅東大教授)では、これからのよりよき公共事業の推進に寄与できることを狙いとして、公共調達に関する現状の問題点と今後に改善していく方向性について検討する活動を続けている。
その一つとして、それぞれの地方において地域性を踏まえた議論の場として地域シンポジウムを開催しており、本シンポジウムは、九州地方における総合評価のあり方も含めて公共調達の課題と方向性について議論する場として開催した。
2 シンポジウムの概要
主催は(社)土木学会建設マネジメント委員会、後援は国土交通省九州地方整備局、協賛は(社)九州建設弘済会、(社)九州地方計画協会、(財)福岡県建設技術情報センター。
シンポジウムは2部構成で、1部(午前)では地方の公共調達にかかわる現状と課題について受発注者それぞれが報告し、2部(午後)ではこれからの地方における公共調達のあり方をテーマにパネルディスカッションを行った。
参加者総数は290名で、その内訳は、官公庁25機関96名、建設会社59社114名、コンサルタント44社56名、その他14社24名であった。
冒頭に、小澤委員長は「公共調達に関するシンポジウムを開催するのは、それぞれの地域、それぞれの実状に応じて、現場で苦労されている方々の課題を広くみんなで共有することが目的です。総合評価は全国いたるところで使われるようになりましたが、まだまだ沢山の課題を抱えています。それぞれの地域、発注者、企業の実状にあった制度に改革を続けていくことが大事で、技術者が腕を揮える制度、仕組みを実現することが大事だと考えます。」と挨拶した。
3 地方の公共調達にかかわる現状と課題
第1部では地方の公共調達の現状と課題について受発注両者からの報告があり、発注側からは、後田徹九州地方整備局企画部技術開発調整官、義経俊二福岡県県土整備部企画交通課技術調査室長および大熊英敬久留米市役所契約監理室契約課長の3氏から状況報告があった。
後田氏は、総合評価方式のタイプ選定の見直し、技術提案の定量評価、オーバースペック防止対策などについて報告した。義経氏と大熊氏は、地域経済の振興と地場企業の育成が自治体に課せられた課題であるという観点から、競争性・透明性を確保しながら地場企業を優先する考え、予定価格等の事前公表や最低制限価格の設定の模索、マンパワーが不足する中で総合評価方式を実効性あるものにする取組みなどを報告した。
次に、受注者側の立場として、山中徹㈱間組九州支店土木営業部長、青嶋寿雄㈱西海建設営業部長、山本洋一(社)建設コンサルタンツ協会九州支部長の3氏から報告があった。
山中氏は、公共投資の継続的な推進および適正な利益を確保できる調達制度の確立を求めた。
青嶋氏は地場業者の立場から、技術提案を求めない特別簡易型の適用拡大は技術力のある企業を弱体化させる懸念があること、若手技術者の雇用に対しての評価が少ないこと等を指摘し、企業の努力が報われる制度の確立を求めた。山本氏は、20代の若手技術者の激減と高齢化の進行、自治体における業務成績の評価への未活用やローカル発注の問題点などを指摘し、技術力が適正に評価される調達制度の確立を求めた。
4 基調講演と話題提供
大石久和早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授((財)国土技術研究センター理事長、元国土交通省技監)が、「公共調達法の必要性と社会資本整備-国土学の視点から-」をテーマに講演した。
大石氏は、「市場流通を前提にする一般競争は公共事業において制度的に欠陥があり、品確法を発展させた公共調達法なるものが必要であろう。」「過去に多くの先達が国土に働きかけてきてくれたがゆえに今日の安全で快適な暮らしがあり、その取り分がある以上、我々は将来世代に対して贈り物をする責任と義務がある。」「しかし、公共事業を減らした結果、日本は経済成長を全くしないという国になってしまっていて、次世代への責任を果たし得てないのではないか。」「欧米、中国、韓国などに比べても公共投資の水準が低く、インフラ環境がすでに劣後していてこのままでは国際競争に立ち向かえない。」「国の経済成長と地方の経済振興には円滑な流通を可能にするしっかりとした道路ネットワークが必要である。」など、公共事業・公共調達のあり方についてを様々な視点から力説された。多くの来場者に力を与えていただいた。
次に、話題提供として、深津康二東京都江戸川区総務部用地経理課長が「江戸川区公共調達基本条例」をテーマに、来年度から総額2,000億円以上の投資を行う小・中学校改修事業を対象にして制定され、区長期計画の具現化への貢献、地域産業・地域経済の活性化への寄与、調達過程の適正化など、公共調達の基本となる理念と原則を掲げた自治体で初めての条例の考え方と取組みを紹介した。
5 パネルディスカッション
基調講演等に続いて、「これからの地方における社会基盤整備と公共調達のあり方」をテーマに、パネルディスカッションを実施した。パネリストは、前出の大石氏、大熊氏、青嶋氏、深津氏の他に、清水亨九州地方整備局企画部長、中西隆夫前田建設工業㈱九州支店土木部土木施工グループ長、福山俊弘㈱福山コンサルタント常務取締役の7名で、コーディネーターは著者が務めた。
(論点1)価格競争の現状と問題点
- 中西氏「積算精度勝負型がほとんどで、そこに多大な労力を費やすがために現場が弱体化してきている。優秀な技術者離れが心配である。」
- 青嶋氏「最低制限価格の設定にランダム係数が採用されている場合、積算についての努力のしようがなく価格当てゲームになっている。」
- 大熊氏「事前公表している最低制限価格と同額の応札が多く、抽選での落札が増加している。低入札について発注側の調査能力が十分にはないため、低入札調査制度に切り替えるのも難しい。」
(論点2)地方における総合評価のあり方
- 清水氏「価格競争の弊害を減らすため総合評価方式の導入を進めてきた。採点結果の質問対応など、透明性を高めることにも努めている。」
- 大熊氏「適正に企業を選ぶために行き着くのは総合評価方式。が、市町村ではマンパワーが絶対的に不足している。簡易な施工計画の評価においても、採点のノウハウの蓄積が十分でない。」
- 深津氏「市町村では提案型になるような案件は少ない。社会的要請が高い事業を特定して、いい業者を選定するための大胆な試みとして企業評価点と価格点を50:50に設定している。」
- 青嶋氏「努力すれば受注ができるということで総合評価を歓迎している。努力の度合いがどう報われるかというルールを確立してほしい。」
- 中西氏「努力が報われるという点で良い制度。が、かなりの労力を使っているので、しっかりと採点していただける土壌ができることを望む。」
- 福山氏「業務の提案型を採用している自治体では、経験を積むことで発注側の審査能力も高まっている。標準型プロポーザルを考えてほしい。」
- 深津氏「短期間で異動するため、技術力のある職員の育成とノウハウの蓄積が最大の課題。」
(論点3)九州における課題
- 大石氏「災害対応に必要なダンプや重機を持っているのは地場企業。いい地場企業が生き残らないと災害対応能力が低下する。」
- 青嶋氏「総合評価方式のなかで生き残った企業が災害対応の役割を果たすことになるだろう。」
- 大熊氏「災害対応も含めて地域経済を支える優良企業が生き残れるような制度設計をすることが我々の義務と考えている。」
- 著 者「災害対応など地域への貢献度が高い優良企業が生き残るためには、実効性があり、企業も納得できるような評価を行うことが重要。」
最後に、「発注者はもっと大胆にいいものはいいと評価し、受注者はプロとしてそれに応えるための技術力を高め、お互いがプロ意識を持って連携していくことが大事。」と締めくくった。
謝辞 開催にあたり、(社)九州地方計画協会、(社)九州建設弘済会、(財)福岡県建設技術情報センターから公益事業として支援をいただいた。また、花岡信一氏、坂口伸也氏、結城勲氏、松崎成伸氏には実行委員会幹事として多大な協力をいただいた。ここに、厚く感謝の意を表します。