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竜門ダム建設工事における濁水処理について

建設省竜門ダム工事事務所
機械課長
坂 井 芳 晴

建設省竜門ダム工事事務所
機械課機械係長
牧 野 千代春

1 はじめに
菊池川は,その源を熊本県阿蘇郡深葉山に発し,阿蘇外輪山の渓流をあつめ菊池市を流下して迫間川,合志川,岩野川等を合わせつつ菊池盆地を貫流し狭さく部に入り,和仁川および江田川等を合わせ玉名平野に出て玉名市において有明海に注ぐ河川である。
竜門ダムは,菊池川流域の治水計画と利水計画のため立案された菊池川総合開発の一環として計画されたもので洪水調節,流水の正常な機能の維持,農業および工業用水の供給を目的として,菊池川水系迫間川に建設中の多目的ダムである。
まず,目的の一つである洪水調節計画は,竜門ダムにおいて計画高水流量540m3/sのうち440m3/sの洪水調節を行い100m3/sの一定放流とし,本川上流に計画するダムと合わせて下流玉名地点における基本高水流量4,500m3/sを3,800m3/sに低減する。
一方,利水計画のうち農業用水の供給については,菊池川下流の左右岸に広がる玉名平野地域へ最大3.616m3/sを,菊池川中流の両岸に広がる菊池台地地域へ6.031m3/sの給水を行う。また,工業用水の供給については,熊本県の長州,荒尾地区へ0.630m3/s,福岡県の大牟田地区へ0.527m3/sの給水を行う。しかし,竜門ダムの集水面積は,26.5㎢と小さく自己流量が少ない。このため菊池川上流立門地区および筑後川水系津江川の下流下筌ダム貯水池末端の2カ所に取水堰を設け下流の既得用水に影響を与えない範囲で最大10m3/sを必要に応じてそれぞれ導水する計画である。

ダム等諸元は,表ー1のとおりであり工事は,昭和62年9月よりダム本体工事および津江導水路工事に着手,平成2年5月には定礎式を執り行い平成3年3月末現在,約39万m3のコンクリート打設を完了,コンクリート打設の最盛期をむかえている。本稿は,ダム建設工事施工に伴って発生する濁水の処理についての中間報告を行うものである。

2 濁水処理および中和処理
ダム建設工事により発生する濁水は,骨材生産に伴って発生する骨材洗浄水とコンクリート打設に伴って発生するコンクリート養生水,清掃水,グラウト排水等のダムサイト排水に大別される。前者は,高濃度濁水で濁水量も多く,後者は,強アルカリ性の濁水でこれらの濁水を直接河川に放流すれば必然的に環境破壊を招くことになるため濁水処理設備を設け処理を行っている。処理方式は,地形的条件より広大な沈澱池を設けるスペースの確保が困難であることから機械方式とし骨材洗浄水については,設備がダム堤体上流側に位置し,濁水量が大容量であり中和処理を必要としないこと,ダムサイト排水については,堤体下流側で集水することおよび中和処理が必要なことから各々に設備を設置するものとした。

2-1 骨材用濁水処理設備
1)発生濁水量
骨材生産過程の使用水量およびダスト量は,設備計画により表ー2のとおりとした。従って,濁水発生量は,使用水量に骨材プラント内の損失および製品骨材に付着する水量を見込み,984m3/hとし,ダスト量を74t/hとしている。

なお,一次破砕設備からの発生がないのは,設備計画より洗浄設備(ドラムスクラバ)を設置せず,粉塵発生防止のための散水のみとしているためである。
以上の結果より,設備能力は1,000m3/hとし,各部能力の検討の結果,昭和62年に完成した厳木ダムより骨材用濁水処理設備,能力1,000m3/hを転用使用している。また,処理水は,渇水期の工事用水の不足および経済性を考慮し循環使用を行っている。
2)処理方式
骨材プラントからの発生濁水は,骨材洗浄によるものであり,処理の対象は浮遊物資(SS)のみとし処理水は循環使用を行い河川放流がないため処理水SS濃度を100ppm以下(工業用水2級)とした。濁水処理設備の処理計画の物質収支を図ー2に,フローシートを図ー3に示す。

骨材プラントで発生した濁水は,原水槽に貯えられ原水供給ポンプで,混和槽,凝集槽の順に送られる。混和槽で無機系凝集剤(PAC)および凝集槽で有機系凝集剤(ポリマ)の添加が行われた後,凝集沈澱分離装置に送られ汚泥と処理水とに分離される。処理水は,循環水タンクに貯えられた後,再利用されている。汚泥は,送泥ポンプにより脱水機に送られ運搬可能な状態に脱水された後,ダンプトラックにより運搬される方式としている。
(1)原水供給装置
原水供給装置は,コンクリート製の原水槽と原水供給ポンプより構成され,骨材プラントより配管によって原水が供給される。原水槽の容量は,滞留時間を5分として1,153m3/h×(5/60)≒100m3とし,原水供給ボンプは,スラリーポンプ3台運転とした。
(2)混和槽
混和槽は,原水槽から迭水された濁水に無機系凝集剤を注入混合するもので,撹拌機および鋼製の混和槽より構成され,容量は,滞留時間を1分として1,153m3/h×(1/60)≒19.5m3とした。
(3)凝集槽
厳木ダムでは,無機系凝集剤および有機系凝集剤を混和する装置として混和槽(急速撹拌槽)が1槽であったため,混和槽におけるフロックの生成状況を観察すると,フロックが十分に成長しきっていない場合が見うけられた。対策として,フロックの生成には無機系凝集剤と有機系凝集剤の添加を別々の槽で行う(時間差をつける)ことにより良好なフロックの生成が行われることがわかったため,もう1槽緩速撹拌を行う凝集槽を追加した。容量は,混和槽同様19.5m3としている。
(4)無機系凝集剤(PAC)注入装置
注入装置は,ポリエチレン製密閉式の凝集剤貯留槽ならびに混和槽へ注入するポンプにより構成され,ポンプ型式は,手動可変容量型ダイヤフラムポンプを使用している。
PAC使用量=原水流量×PAC注入率
=1,153m3/h×100ppm=115kg/h
貯留槽の容量は,10tタンクローリー車による受入れを考慮して15m3とした。
(5)有機系凝集剤(ポリマ)注入装置
注入装置は,有機系凝集剤を溶解貯留し,凝集槽へ注入させるもので,鋼製溶解槽,撹拌機および注入ポンプより構成され,ポンプ型式は,手動可変容量型ダイヤフラムポンプを使用している。
ポリマ使用量=原水流量×ポリマ注入率
=1,153m3/h×3ppm=3.5kg/h
ポリマ液使用量=ポリマ使用量÷溶解濃度
=3.5kg/h÷0.1%=3,500kg/h
≒3.5m3/h
貯留槽は,2槽交互使用するものとして,貯留時間を5hとすると17.5m3となる。
(6)凝集沈降分離装置
凝集沈降分離装置は,凝集槽から送水された濁水を処理水と汚泥に分離するもので,凝集沈降分離槽,レーキ駆動装置およびスラリー引抜きポンプにより構成される。凝集沈降分離槽は,沈降速度4m/h,滞留時間1hとして計画している。
所要表面積=原水流量÷沈降速度
=1,153m3/h÷4m/h=288.3m3
所要水深=沈降速度×滞留時間
=4m/h×1h=4m
以上より,槽寸法は直径20m×側板全高4.4m(有効水深4.0m)とした。
(7)スラリー槽
スラリー槽は,凝集沈降分離装置より引抜かれた汚泥を一時貯留させるとともに固形分の固結防止を図るもので,スラリー槽および撹拌機より構成された2槽を設け,連通管で連結する。容量は,1槽当り91m3で滞留時間は,約50分となる。
(8)脱水装置
脱水装置は,スラリー槽に貯留された汚泥をポンプで圧送し,トラックで運搬可能なケーキ状に脱水処理するもので,送泥ポンプ,脱水機,コンベヤ等で構成されている。脱水機の形式は,木板製半自動フィルタプレス6台とした。
脱水機仕様  濾過容量91.3ℓ/室×100室
  濾過面積4,085m2/室×100室
  運転サイクル45min/cy→1.3cy/h

(9)ケーキ搬出装置
ケーキ搬出装置は,脱水機で脱水したケーキをダンプトラックに積込むために一時貯留するもので,ケーキの排出をよくするよう下部ホッパーをポリエチレン板(t=10mm)でライニングしている。さらに搬出されにくい場合には水を供給できる配管を設置している。

2-2 本体用濁水処理設備
1)発生濁水量
コンクリート養生水等のダムサイトより発生する濁水量は,給水計画および既設ダムの実績等を参考に表ー3のとおり250m3/hとし,各部能力検討の結果,厳木ダムより本体用濁水処理設備,能力250m3/hを転用使用している。また,原水および処理水の水質についても同様に既設ダムの実績を参考に表ー4のように計画した。

2)処理方式
ダムサイトで発生する濁水は,強アルカリ性であるため原水槽より原水供給ボンプで中和設備へ送られPH調整を行った後,混和槽へ送られる。混和槽より先は,ほぼ骨材用濁水処理設備と同じ方式としている。また,処理水は,循環使用しているが,工事使用水量が少なく,処理水に余剰分がある場合は河川に放流されている。本体用濁水処理設備のフローシートを図ー4に示す。

(1)原水供給装置
骨材用濁水処理設備同様にコンクリート製の原水槽,原水供給ポンプ等より構成される。原水槽の容量は,46m3であり滞留時間は,約11分となる。
(2)中和設備
強アルカリ性の原水を炭酸ガスで中和処理を行う設備であり,反応槽,炭酸ガス注入装置,および開放槽よりなる。反応槽は,有効容量8m3であり,滞留時間は約2分となる。また,薬品注入量は次のように計画した。
 炭酸ガス注入量=処理水量×炭酸ガス注入率
=250m3/h×550ppm=137.5kg/h

(3)混和槽
PH調整後,凝集剤を注入しフロックの形成を促進させる設備であり,凝集剤の使用量は,既設ダムの実績を参考に次のように計画した。

(4)凝集沈降分離装置
凝集沈降分離装置は,混和槽からの濁水を処理水と汚泥に分離するもので,凝集沈降分離槽,レーキ駆動装置およびスラリー引抜きポンプにより構成される。凝集沈降分離槽は,処理水SS濃度25ppm以下の条件より,沈降速度を1.5m/h,滞留時間2.5hとして計画した。
所要表面積=原水流量÷沈降速度
=250m3/h÷1.5m/h=167m3
所要水深=沈降速度×滞留時間
=1.5m/h×2.5h=3.75m
以上により,槽寸法は,直径14.8m×側板全高4mとしている。
(5)脱水装置
汚泥槽に一時貯留された汚泥は,送泥ポンプにより脱水機に送られ脱水される。脱水されたケーキの含水率は,35%として計画し,木板製半自動フィルタプレスを設置している。フィルタプレスの仕様は,次のとおりである。

(6)サンプリング装置
本体用濁水処理設備では,処理水を河川放流することがあるため,処理水は,PH計,濁度計を設けたサンプリング装置を設け,常時監視,記録を行っている(写真一6)。

3 処理実績
3-1 骨材用濁水処理設備
骨材用濁水処理設備の処理実績は,表ー7のとおりである。試験施工等により平成元年7月より運転を開始し,本体コンクリート打設を開始した平成2年3月より本格的な運転に入り運転時間も増加した。現在までの日平均運転時間は,9.3時間となっている。
処理水の性状は,循環使用の目標としたSS濃度100ppmに対し,9~39ppm(濁度換算)と良好な状態である。また,脱水ケーキについても,含水率30%の計画に対し,26%程度の良好な結果となっている。

3-2 本体用濁水処理設備
本体用濁水処理設備は,昭和63年9月より運転を開始している。当時は,基礎掘削時でありアルカリ性分を含んだ発生水がないため SSのみの処理を行っている。その後,平成元年7月より炭酸ガス供給装置を設置し,中和処理を開始した。平成3年3月迄の処理実績は,表ー8のとおりである。本体コンクリート打設に伴い,平成2年4月頃より処理量が増加している。
処理水性状は,基礎掘削時,コンクリート打設時とも,処理目標とするSS25ppmに対し1.9~12.2ppm(濁度換算)となっており,PH値についても,中和処理を開始した平成元年7月以降7.1~7.7であり,SS,PH値ともに良好な状態である。また,脱水ケーキについては,含水率35%の計画に対し,23%程度の結果が得られている。

4 あとがき
竜門ダムは,平成3年3月現在,約39万m3の打設を完了し,コンクリート打設の最盛期をむかえている。
厳木ダムより転用した,骨材用・本体用濁水処理設備も多少の初期故障はあったが,現在順調に稼動している。故障のうち特に大きなものは,転用に伴うフィルタプレスの枦板の取替えであった。転用時,外観検査で使用可能と判断し,枦板の再使用を決めたのであるが,竜門ダム据付まで,3年程度の保管期間があったため,保管には十分注意したつもりであったが,据付稼動早々に枦板よりの漏水等が発生しはじめ,本体用濁水処理設備では90%(45枚),骨材用濁水処理設備でも70%(約420枚)の不良品を生じ交換することになった。このことにより,木製枦板は,転用時の外観の判断のみでなく,使用期間,保管期間等を考慮して,場合によっては全数交換した方が,他の設備におよぼす影響を考えた場合,安全と考えられる。
コンクリート打設は,まだ約45万m3を残しており,その後ロックフィルの盛り立てと続く。今後も,濁水処理設備に限らず,施工設備の稼動実績,故障事例等のデータの蓄積を図り,機会があれば紹介したいと考えている。
最後に,工事の順調な進渉を願うとともに,関係者のご支援をお願いするものである。

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