九州北部豪雨災害における地域建設業者の災害対応についての調査
牧角龍憲
キーワード:災害対応、地域建設業者、地域貢献
1.はじめに
わが国は地震や風水害など自然災害が不可避な地理的環境条件にあり、数多くの災害が毎年各地で発生している。とくに九州においては、梅雨期の大雨による災害がほぼ毎年のように発生しており、昨年の九州北部豪雨災害のように広域にわたる大規模災害も稀ではない。
災害発生直後、被災あるいは孤立した人々を救助・救援する活動は一刻も早く行わねばならないが、その活動を行うために必要な道路は、倒木に塞がれてあるいは斜面が崩落するなどして至る所で寸断されているのが豪雨災害の常である。救助救援活動をスムーズに行えるようにするために、いの一番に行わねばならないのが交通路の確保(道路啓開)である。
この作業を行うための建設機械や資材を運搬するにも道が必要であるが、山道や農道など地理を熟知した地元の人間だからこそ知り得る迂回路を経て運搬し、組織的に役割分担して人材や資材を迅速に集結させ、崩壊斜面や決壊河川の復旧作業に昼夜をたがわず取組み、被災後数日内に交通が確保できる応急復旧に大きく貢献しているのが地域建設業者である。
地元が被災したら一刻も早く復旧させる(守る)のが我々の使命、という心意気で貢献している地域建設業者は、しかし残念ながら、ここ十数年の公共事業縮減の影響で規模を縮小せざるを得ない状況が続いており、近い将来には誰もいなくなるのではないかと懸念する声も聞こえてくる。
将来においても災害は例年のごとくに襲来してくる。その時、地域の災害復旧はほんとに大丈夫なのか、さらには去年の九州北部豪雨災害のような大規模な災害時はどうなのか、について真剣に考えねばならない時が来ている。
そこで、地域建設業者の災害対応の実態を把握する目的で、九州北部豪雨災害時における復旧活動について、福岡県八女地区および熊本県阿蘇地区を対象にして、復旧マネジメントの観点も取り入れたアンケート調査を実施した。
ここでは、その結果ならびに今後に向けての地域の災害対応力のあり方について述べる。
2.災害対応についてのアンケート調査
2.1.調査方法
九州北部豪雨災害において被害が甚大であった福岡県八女地区ならびに熊本県阿蘇地区の2 地区に所在する地域建設業者を対象にして、災害協定、災害出動、復旧作業、復旧作業による影響、災害対応の役割などについて、表ー1に示す内容でアンケート調査を実施した。
本調査においては、地域の災害対応力のあり方を考える復旧マネジメントの観点から、企業活動としての災害対応による影響について、自由記述を含めた回答を求める質問を多く設定した(質問7 ~ 質問11)。
調査は、両地区ともに災害復旧工事の繁忙期を避けた平成25 年9 月.10 月に行い、八女地区においては.福岡県土木組合連合会八女支部、阿蘇地区においては.熊本県建設業協会阿蘇支部の協力のもとで実施した。
回答数は八女地区が75 社、阿蘇地区が49 社であり、いずれの地区も回収率は100%であった。
2.2.調査結果および考察
(1)災害協定について
災害協定は、協会や組合またはその支部などの建設業関連団体と行政機関との間で締結しているのが一般的であり、個々の地域建設業者はその団体を通じて協定に加盟していることになる。今回の調査では、八女地区は75 社中73 社が、阿蘇地区は49 社全てという多くの業者が加盟しており、地域建設業者が行政と連携協力して災害復旧に取組もうとする意識が高く、地域の災害対応力を組織的に支えているといえる。
この災害協定に加盟した理由について複数回答可で回答を求めた結果を図ー1に示すが、9 割以上が「地域貢献」をあげている。地域建設業者は、地域を守る役割を果たして地域に貢献すべく、災害協定に加盟して災害復旧に従事しようとすることがわかる。
次に、どの行政機関と災害協定を結んでいるかについては、図ー2に示すように、八女地区では80%が市と、阿蘇地区では55%が県、40%が市と締結した災害協定に加盟している。地域建設業者は県・市町村との災害協定を主体にして、地域に密着して活動していることがわかる。
(2)災害復旧の活動について
九州北部豪雨災害の復旧活動に出動したかどうかについては、八女地区は75 社中71 社が、阿蘇地区は49 社全てが出動している。出動のきっかけは図ー3に示すように、90%が役所からの要請であり、災害協定により緊急時の行政と団体との連携がとれていることがわかる。また、自主的に出動したのは、「パトロールでみつけたから」、「地元だから」、「使命感」などが理由であり、災害時に地域を守りたいという気持ちの表れである。
要請から出動するまでの時間を図ー4に示すが、ほぼ6 割の建設業者が「すぐに対応」と回答し、数時間以内も含めると8 割を越えており、地域建設業者は災害時に重機・資材の手配や人員の確保などの準備がしっかり出来ていることがわかる。
発災日が7 月14 日の土曜日であったにもかかわらず「すぐに出動」しているということからは、地域の一大事には何をおいてもかけつけ、一刻も早くに災害復旧する一翼を担うという地域建設業者の心意気が伝わってくる。
「すぐの対応」を迅速な復旧作業につなげるためには、とくに道路が寸断されて重機や作業員の搬路が限られた条件下では、分担する施工エリアの設定が極めて重要になる。図ー5に施工エリアの決められ方を示すが、ほぼ2/3 が「役所からの指示」であり、災害の初動対応においては役所からの的確な指示が求められることがわかる。
復旧作業が円滑に進捗したかどうかについては、図ー6に示すように「円滑であった」は6割程度であり、豪雨災害時には作業を円滑に進めることが容易ではないことが示されている。すなわち、災害時の緊急対応においては平常時にはない多くの事態に遭遇するからである。
自由記述で回答された復旧作業を進める上での課題を図ー7に示す。資機材・人員の調達、指示系統、安全確保、搬路の確保、連絡体制、がれき処理など様々な問題点が指摘されている。これらに対して今後に向けての対策を講じるためには、行政だけではなく建設業団体においても災害対応の実態を十分に検証し、その情報を他地域他団体にも共有できるようにし、災害時における想定外の事態を出来る限り少なくしていくことが必要であるといえる。
(3)災害対応による影響について
企業経営の観点から、災害対応に参加したことによる影響について調査した。出動したことによるメリットの有無を図ー8に示すが、メリットありは半数以下であり、そのメリットも地域の人々に感謝される喜びをあげており、仕事に直結する具体的なものではなかった(図ー9)。
一方、復旧作業に参加したことで手持ち工事やその後の応札に影響があったか否かについては、図ー10 に示すように影響があったと回答した業者も多かった。その内容は、手持ち工事の遅れが最も多く、次は復旧を優先しての入札辞退であった(図ー11)。地域貢献の目的で災害対応に協力する建設業者にとって、出動することが企業体力の損耗につながることは決して望ましいことではなく、建設業者の災害対応に伴う負担を軽減させる策を講じることが行政側に求められている。
災害復旧の作業に係る清算はほとんどが出来高払いでなされている。その金額について質問した結果を図ー12に示すが、満足している業者は4割にも満たなかった。満足と回答しなかった理由は、緊急時ゆえに増加する経費や資材単価が計上されないこと、担当部局で出来高が異なること、安全確保など清算できない部分があること、写真判定のため労務費の計上が認められにくいこと、などがあげられている。
仕事に支障をきたしながらも、過酷な環境下で災害対応に協力する業者に対して、正当な支払いが不可欠であることは言うまでもなく、緊急時の経費や危険手当も含めて積算体制の見直しが早急に必要である。
ここまで述べたように、建設業者が災害対応に参加するメリットは少なく、どちらかといえば犠牲を強いられている。それにもかかわらず、「道路啓開」、「地域貢献」、「地元を守る」の役割を果たすことに尽力する地域建設業者の姿がある。
復旧活動に参加しての意見の多くは以下のようであった。
●地区の山間部で市道が通行止めになると、地域住民は孤立してしまいます。そんな地区の道路を早急に復旧させる事が出来た。
●被災された方が一日でも元の形に戻れるよう協力できたと思う。一人の力は微力だけど皆で力を合わせると復旧が早くなる。
●微力ながら地元に貢献できたことに感謝します。
このように、地域建設業者の心意気と使命感で地域が守られていると言っても過言ではない。
3.今後における地域建設業者の災害対応
3.1.地方自治体の防災会議への参画
平成24 年6 月27 日改正の災害対策基本法の国会附帯決議に『地域・社会の実情に応じた構成となるよう7号・8 号委員の拡充による防災会議の充実を検討』とある。この7 号委員は、災害対策基本法第15 条に『七 当該都道府県の地域において… 指定地方公共機関の役員… 知事が任命する者』と定められ、指定地方公共機関は『都道府県の地域において… 公益的事業を営む法人…』と定義されている。
アンケート結果にみられるように、地域建設業者の災害対応は、営利事業ではなく自衛隊や消防の活動と同じ公益事業(社会貢献事業)である。さらには、災害復旧の先陣を切って道路啓開などを行い、自衛隊や消防などの救援活動の環境づくりに貢献している。したがって、建設業関連団体は、前述の指定地方公共機関になる資格を十分に有しているといえ、この点を県・市町村に対して積極的に働きかけることが大事である。
現在、北海道、栃木県、静岡県、長野県、岐阜県、高知県、佐賀県、長崎県および熊本県の9県において、県建設業協会会長が県防災会議の7 号委員に任命されている。また、横浜市他の4政令市、岐阜市他の5 中核市において、地域建設業関連団体の役員が防災会議委員に任命されている。まだ全体の2 割程度であるが、これらの委員任命は最近であり、さらに増えることが予想される。
防災会議への参画は、災害対応における上流側での参画や具申を可能とするものであり、また、地域貢献が社会的に認知されるとともに災害無線の活用など災害時の情報伝達が確実に出来ることになる。そうなれば、地域建設業者が今以上に自信と誇りをもって災害復旧に取組めることになる。
3.2.地域維持型契約方式の活用
今、地域建設業者の多くは、「5 年先がみえない」ために重機の設備投資や雇用による人員確保に積極的に取り組めず、小規模化・零細化の傾向が顕著になってきており、このままでは地域社会の維持が困難となる地域が生じかねない状況である。
この状況を鑑みて、公共工事の入札契約制度の改正作業が進んでおり、その中に地域維持型契約方式がある。これは地域の的確な維持管理や災害対応等の担い手を中長期的に確保していくため、複数年度契約、複数業務の包括発注や共同受注方式を可能とする方式(入札契約適正化指針、平成23 年8 月9 日閣議決定)であり、現在、その具体的な運用方法について国土交通省中央建設業審議会などで検討が進んでいる。
この方式によれば、地域事情に精通した建設業者が当該地域で持続的に活躍できる場面が増え、中長期的展望をもって企業経営を行えるようになり、災害対応などの地域貢献に存分に力を発揮できる環境が整うことになるといえる。一日も早く、新たな契約方式が普及することが望まれる。
4.おわりに
災害対応についてのアンケートから見えてきたのは、地域建設業者の「地元を守ることが俺達の使命」という心意気である。自然災害が避けられないわが国において、さらに南海トラフ大地震などが想定される時代において、災害に屈服しない地域社会を維持するために貢献する人々がいることを、社会一般にもっと正しく認識してもらえるよう努力していかねばならないと強く感じた。
最後に、本調査は、(一社)九州地方計画協会の平成25 年度公益支援事業の助成を受け、また、(一社)熊本県建設業協会阿蘇支部および(一社)福岡県土木組合連合会八女支部の全面的な協力を得て実施したものである。それらの関係者の方々に厚く感謝申し上げます。アンケート実施に際しては、土木学会・地方の公共工事における入札契約方式に関する研究小委員会の委員である、松崎成伸氏(戸田建設㈱)、塚原健一氏(九州大学大学院)、坂口伸也氏(前田建設工業㈱)、吉村喜一郎氏(竹中土木㈱)、山村啓太氏(㈱鴻池組)、山長聖和氏(㈱奥村組)、寺澤孝憲氏(前田建設工業㈱)、吉田萌子氏(前田建設工業㈱)の方々に多大なご尽力をいただいた。ここに、感謝の意を表します。