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良質で経済的な鋼道路橋塗装塗替え計画の策定について

福岡県飯塚県土整備事務所
 所長
右 田 隆 雄

キーワード:部分塗替え塗装、ブラストの品質管理

1.はじめに
道路橋の長寿命化がクローズアップされてから大分時が経ちますが、鋼橋に関して言えば適切に維持管理(塗装の塗替え)を実施すれば、外力の増加がない限り半永久的に供用できると考えます。特に、損傷状況に応じた塗替え、つまり「腐食の著しい箇所」はRc-Ⅰ塗装系、「腐食がわずかな箇所」は塗り替えないか、もしくはRc-Ⅲ塗装系などで対応するという「部分塗替え塗装」を実施すると、品質を確保できた上に、50年、100年後のトータルコストを5割~6割に抑えられることがわかっています1)

2.「部分塗替え塗装」を採用する際の課題(以下「課題」)
地方公共団体の発注者が、鋼橋の塗替え塗装工事を担当するのは、恐らく一生のうち一回あるかないかでしょう。
このように経験がない発注者が、「部分塗替え塗装」「ブラスト」と言われて、「何それ?」となるのは、やむを得ないと思います。
「部分塗替え塗装」については、「鋼道路橋防食便覧(日本道路協会2014)」、「鋼道路橋塗装・防食便覧資料集(日本道路協会2010)」および「鋼道路橋の部分塗替え塗装要領(案)(国土交通省2009)」に記述がありますが、以下について、明確には定められていません。
(1)どこを塗り替えて、どこを塗り替えないで良いのか。
(2)塗り替えるときの塗装仕様はどうすれば良いのか。
(3)素地調整はブラストが原則だが、ブラストの品質管理項目、管理目標、検査頻度はどうすれば良いのか。
今回策定した要領は、上記課題について具体的に定めています。塗替え塗装の経験が少ない発注者でも、契約時の特記仕様書にこの要領を添付するだけで、良質で経済的な施工となることを目的としたものです。

3.要領の目次
要領の目次は以下のようにしました。
1章 適用範囲
2章 目的
3章 鋼道路橋塗替え塗装の基本的考え
4章 施工順序および管理項目
5章 足場
6章 A、B 箇所範囲および塗替え塗装系の決定
7章 水洗い
8章 塗膜剥離
9章 1 種ケレン(ブラスト)
10章 塗装
11章 塗装記録表示

4.課題(1)、(2)の対応
課題(1)、(2)の対応として、「3 章 鋼道路橋塗替え塗装の基本的考え」に、以下のように定めました。
(1)省略
(2)腐食の著しい箇所又は腐食が進行しやすい箇所(以下「A 箇所」)と、腐食がわずか又は塗膜が劣化している等の箇所(以下「B 箇所」)で、塗替え塗装系を分ける。
(3)A 箇所は Rc- Ⅰ塗装系を基本とする。ただし、1 種ケレン(ブラスト)が不可能な箇所においては Rc- Ⅲ塗装系とする。
(4)B 箇所は塗替えない、または Rc- Ⅲ塗装系、Rc- Ⅳ塗装系とする。
(5)省略
(6)省略

まず、課題(1)に対しては、「A箇所」と「B箇所」に分けることとしました。
「A箇所」は、腐食の著しい箇所又は腐食が進行しやすい箇所とし、「板厚が減少している腐食箇所」、「腐食の面積割合が概ね30%以上」の箇所のほか、水が滞水しやすい「桁端部」、「支点部」、「下フランジ」、「下フランジに接続するウェブの立ち上がり部」、「継ぎ手部」などとしました。
B箇所」は、腐食がわずか又は塗膜が劣化している等の箇所とし、「板厚減少を伴わない腐食箇所」のほか、「腐食の面積割合が概ね30%未満」、「塗膜の変色・退色」、「塗膜の汚れ」、「上塗りや中塗りだけのはがれ(中塗り、下塗りは健全な状態)」などが生じている箇所としました。
A・B箇所を過度に複雑な区分とすると例えば鉛化合物の残存部位が不明確となるなど、今後の維持管理に支障を来す要因ともなることから、適度にグルーピングすることとしました。
A・B箇所区分の例として、「鋼道路橋の部分塗替え塗装要領(案)」に示される桁端部の塗装範囲(A箇所に相当)を図-1に示します。
また、損傷が生じやすい部位をモデル化し、A箇所およびB箇所の選定パターンを、図-2、図-3に例示します。

図 1 桁端部における「A箇所」の範囲例

図 2 損傷モデルとA、B箇所区分例① 図 3 損傷モデルとA、B箇所区分例②

次に、課題(2)の対応として、A箇所では、防食性能を回復・向上させ長期間耐久性を維持することが必要となるため、防食性能に優れたRcⅠ塗装系を基本としました。
ただし、現場が狭隘な場合や、粉塵飛散、騒音に対する規制があるなど、どうしても1種ケレン(ブラスト)が不可能な箇所においてはRc-Ⅲ塗装系を採用することとしました。
B箇所は塗替えないか、景観上必要があればRc-Ⅲ塗装系もしくはRc-Ⅳ塗装系で、全面もしくは外側の桁のみの塗替えを検討することとしました。
塗替えの要否は、現在の塗装の経過年、劣化状況、周辺橋梁の損傷状況等を参考にして判断することとし、塗替えない場合、少なくともA箇所の次回塗替えまでの期間は塗替えないことを基本としました。

5.課題(3)の対応
課題(3)の対応として、「9章1種ケレン(ブラスト)」に、以下のように定めました。

(1)省略
(2)ブラストの品質管理は、除錆度、表面粗さ、付着粉塵量、付着塩分量によって行う。
(3)付着塩分量は素地調整後の鋼材表面における残存塩分量で管理し、50 mg/m2以下を管理目標値とする。50 mg/m2以下となっていない場合は、再度ブラスト、もしくはブラストと水洗いを行うことによって塩分を除去する。
(4)省略

ブラストの品質管理は、「JISZ0313:2004素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」に記載された4つの要因(除錆度、表面粗さ、付着粉塵量、付着塩分量)を、管理項目としました。各管理項目の管理目標(準拠規格)、および検査頻度を表-1に示します。

表1 管理項目と検査頻度

①除錆度の検査は、ISO8501-1(図-4)の標準写真との対比(図-5)により行うこととしました。

図 4 ISO8501-1基準本 図- 5 ブラスト処理面との対比

②表面粗さの検査は、ブラスト処理等級比較板を使用し、ブラスト処理面との対比を目視によって行うこととしました(図-6、図-7)。

図 6 ブラスト処理等級比較板 図- 7ブラスト処理面との対比

③付着粉塵量の管理はセロテープ試験(JISZ0313:2004、図-8)によるものとしました。

図 8 ダストテストキット

④付着塩分量の検査は、表面付着塩類の測定(JIS Z 0313:2004)によるものとし、管理目標値は50 mg/m2以下としました。
表面付着塩類の測定にはガーゼ拭き取り法、電気伝導率法(電導度法)などがありますが、比較的測定面積が狭く素地調整に与える影響が小さい電導度法を標準としました(図-9)。
測定頻度の目安を表-2 に示し、測定する箇所は腐食が生じていた箇所としました。

表 2 付着塩分量の測定頻度の目安(案)

図 9 ブラスト後の測定例

素地調整にブラストを用いる場合には、素地調整後の鋼材表面に残存する塩分量を管理するものとし、50 mg/m2以上の時は、塩分除去を目的としてブラストを繰り返し行うか、高圧水による洗浄やウェス拭きなどによって塩分を除去することとしました。ブラストや水洗いによる塩分除去の例を図-10 に示します。

図10 塩分除去フロー例

6.おわりに
今回策定した要領は、福岡県飯塚県土整備事務所のホームページからダウンロード(鋼道路橋塗替え塗装要領(案)令和2年3月)できますので、設計や工事の際に、是非参考にしていただければと思います。
そして、より使いやすいものとするために、ご意見を賜ることができれば幸いです。
本論文の作成にあたりご尽力いただいた、一般財団法人土木研究センターの安波氏、中島氏に対し、感謝申し上げます。

参考文献
1)右田隆雄、古賀成善:「福岡前原道路における鋼橋塗替え計画の策定」、九州技報No.66,2020.3

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