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中島川右岸バイパス工事の計画・施工について

長崎県土木部
 河川課 主査
西 田 正 道

1 はじめに
中島川は,長崎市の中心市街地を流れ,中流には,眼鏡橋を始めとする石橋群,下流左岸には,鎖国時代の海外との唯一の窓口となった「出島」跡地等があり,沿川には,観光長崎市の名所が数多く存在しているのみではなく,長崎の「まち」の伝統ある歴史を舞台として,市民の誇りと親しみを持って受け継がれてきた河川である。
昭和57年7月23日から24日未明にかけての集中豪雨により各河川は氾濫し,土石流や崖崩れが多数発生し,「長崎水害」といわれる大災害となった。とりわけ,中島川流域での被害は想像を絶するものであったため,河口から西山川合流点までの区間を河川激甚災害対策特別緊急事業としての採択を受け,中島川の改修に着手した。
本報告は,中島川激特事業の中で実施した「右岸バイパス」の計画,施工について報告する。

2 バイパス計画
(1)バイパス計画の経緯
長崎眼鏡橋は寛永11年(1634年)興福寺二代目住職,唐僧黙子如定によって創建され,昭和35年の国の重要文化財に指定され,観光長崎のシンボル的存在である。「長崎水害」により,中島川石橋群のうち六橋は流失したが,眼鏡橋は一部損壊の被害を受けたのみであった。
中島川の河川改修の中で,この眼鏡橋の取扱いについて種々の意見が出され,知事の諮問機関である「長崎防災都市構想対策委員会」において,移転か現地保存か激論のすえ,現在位置に残すことが望ましいとの答申が出され,眼鏡橋両岸の暗渠化(バイパス)による治水対策が,計画に移された。
(2)バイパス計画
眼鏡橋の右岸沿いには,観光客が散策したり,地域住民の憩いの場となっている中島川公園,その背後には市道をはさんで,観光客を対象とした店舗,ビル,左岸沿いには,地域住民を相手とした小店舗等が立ち並んでいる。(図ー1)
その中で,両岸にバイパスを計画し,右岸部は公園と市道の一部を利用した「右岸バイパス」,左岸部は,都市計画街路計画と一体となった「左岸バイパス」で,流量配分については,計画高水流量380m3/sを,右岸バイパス210m3/s,左岸バイパス70m3/s,現河道100m3/s(現況流過能力)とした。(図ー2)

バイパス計画は,図ー3,図ー4,図ー5,表ー1のとおりであるが,右岸バイパス水路巾は,用地及び施工制約を基に,可能な限り広くとりW=12.0m,左岸バイパスはW=5.0mとし,断面については,限られた巾の中で最大流量を流しうる矩形断面とした。水理計算による原案に基づき,模型実験(写真ー3,写真一4)を行ったが,呑口部において流速V=8.0m/sの射流状態となり,分流がスムーズに行われなかった。その対策として上流部に落差工による減勢池を設置し,流速を殺し,安定した分流を可能とした。また,呑口部に倒伏堰を設置し,通常水は現河道へ流すこととした。
構造は門型ラーメン構造とし,頂版は市道敷高とのかねあいより頂版厚を極力抑えるため鉄骨コンクリート(SRC)として設計を行った。

3 右岸バイパス
(1)施工計画
左岸バイパス計画の上には人家が密集し,用地交渉等に時間を要するため,上物が公園である右岸バイパス工事に先行着手した。
右岸バイパス約320m区間は,市道と並行して人家及び商店が密集し,かつ市道を一部利用した計画であるため,隣接民家の生活道路の早期確保,観光名所眼鏡橋近辺の早期解放を図るように施工中の交通止期間を最小におさえた表ー2の施工計画とした。

(2)施工工法の選定
施工が人家密集地で民家と近接した工事となるため,土留工と併用したバイパス側壁本体の施工法の選定については,下記条件
① 地盤(玉石,岩盤層)の掘削が可能であること。
② 孔壁の維持
③ 騒音,振動が小さいこと。
④ 経済性
などについて検討の結果,オーガパイル工法と呼ばれる鋼管柱列タイプの地中壁が妥当と思われたが,転石の大きさ,騒音,振動,転石層における施工精度等の未確定な要素が多いため,試験工事を実施した。ロックオーガ(φ540mm~φ620mm)により7ケ所の試験工事を行った結果,玉石層は問題なく削孔できたが,安山岩質凝灰角礫岩の中にφ500mm~φ800mmの巨大転石が数多く存在していたため,
① 巨大転石にあたると,極端な削孔速度の低下が生じた。
② オーガヘッドが,巨大転石にあたると,先行建込みの鋼管杭側に寄り,鋼管に損傷を与えた。
③ 騒音が規制値(75ホン)を超えるとともに,音質がガラスをこするような不快音を生じた。
試験工事の結果から,騒音が小さく,巨大転石を掘ることができる工法として考えられるのは,次の工法である。

・バケット式掘削機の改良
連続地中壁工法のバケット式の掘削動作は,爪による掻き起こしと歯による切削であり,いずれの動作もまず最初に爪または歯を地中に押し込み,ワイヤによるしぼり込み力で掘削する機構となっている。しかし地盤が固い場合は,ビットを併用し,地盤に衝撃を与えて掘削するか,吊り落しの打撃力で掘削することになるため,打撃力による振動・騒音を避けるためバケット自重による地盤への押込み力(喰込力)を検討した。(表ー2)

当該箇所の岩盤中・強風化の凝灰角礫岩であり,岩盤の強度としては脆弱な部分も考えられたが,δ=100kg/cm2前後と判定され,W=20tの改良バケット(写真一5)を用いれば掘削可能と判断された。
3工法のうち,深礎工や大口径ボーリングを当該箇所の主要工種として採用することは,工事費・工程の面から非常に不利と判断され,改良バケット(重量20t)により地中連続壁を構築していく方法が,騒音・振動対策,経済性から最も有利と判断された。
ただし,当地盤の中にはφ800mm程度の巨大転石が存在することから,ショベルにクロスラーを取り付け,油圧力により転石を動かし,バケットでつかみとる補助工法(写真一7)を用いることとした。
また,石造りアーチ橋である眼鏡橋・袋橋の背面にはアーチ反力が作用するため,バケット掘削による孔壁をベントナイトにより維持させるのは,無理があると考えられ,石橋背面の側壁については深礎工を採用した。(図ー6)

(3)施工
地中壁及び右岸バイパスの施工順序は,図ー7,図ー8により実施した。
道路の早期確保等の条件より,特注の20tバケットを装着した掘削機を2台使用し,地中壁の工期の短縮を図るとともに,水路内部の掘削土砂の搬出は,バイパス最下流部,最上流部の2ケ所より行った。
水路内面の仕上げを行うために,地中壁用鉄筋籠の水路内面側にシートを付着させて建込み,水路内掘削後シートを取り外し厚さ20cmのコンクリート打設した。また,次の孔壁と連続性を持たせるために設置したインターロッキングパイプの取りはずしは,側壁コンクリートを傷つけないように,油圧ジャッキーにより慎重に引抜を実施した。孔壁の維持に使用した泥水(ベントナイト)は,玉石・転石層があるため,掘削時には通常より濃い(比重1.1~1.2)を用い,回収を行いながら利用し最終的には産業廃棄物として処理を行ったが,掘削に伴う民地等への大きな被害はほとんどなかった。

4 あとがき
中島川「右岸バイパス」は,2年間の工期を要し昭和62年3月に完成し,出水時において有効に働いている。その後,工事に伴い撤去された公園も整備され,現在,水害以前の趣まではいかないが,新しい姿を市民・観光客に見せている。
以上,簡単に「右岸バイパス」について紹介させてもらったが,眼鏡橋現地保存という設定の中での計画,市街地での地中壁という特殊工法を用いた工事といい未経験部分の多いため,暗中模索の中での計画・施工であったが,いまだ未着手であるが左岸バイパス施工時の教訓となれば幸いである。

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