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六角川水系緊急治水対策プロジェクト」に
おける高橋排水機場増強検討について
~既存施設を生かした洪水被害軽減対策~

国土交通省 九州地方整備局
企画部 建設専門官
河 上 誠 二

国土交通省 九州地方整備局
武雄河川事務所
管理課 管理課長
永 濱 一 将

国土交通省 九州地方整備局
武雄河川事務所
管理課 機械係長
髙 森 賢 太

キーワード:六角川水系緊急治水対策プロジェクト、高橋排水機場増強、既存ポンプ設備、コスト縮減

1.はじめに
令和元年8月豪雨では、佐賀県と福岡県、長崎県を中心として九州北部の広い範囲で前線の影響による線状降水帯が発生し、各地で記録的な大雨となり大きな災害や浸水被害が発生した。六角川水系では本水害を踏まえ「六角川水系緊急治水対策プロジェクト」をとりまとめ、被害軽減に向けた治水対策を推進している。
六角川水系武雄川の高橋地区では平成9年度に高橋排水機場「ポンプ規模Q = 50m3/s」が完成し、内水被害軽減に寄与しているところであるが、今回の水害では既存のポンプでの対応が困難であった。

写真1 R1. 8月出水状況

本プロジェクトでは、整備計画目標にあわせて確率規模(1/10)の内水に対して、高橋地区の床上浸水被害の解消を目的としている。この目標を現実にするためには、既設の高橋排水機場の既存排水能力50m3/s に加え、11m3/s の排水能力を増強する必要がある。
11m3/s 増強の検討を進める上で、新規ポンプ設備設置案と既存ポンプ設備の施設改良案(ポンプ能力の増強)の比較を行った結果、既存ポンプ設備の能力を最大限生かすことで、コスト縮減及び治水効果の早期発揮を目的としたポンプ能力増強が可能となったので報告する。

2.既設ポンプ設備諸元
総排水量  50.0m3/s
ポンプ形式 立軸軸流ポンプ
ポンプ台数 3 台(1 台あたり吐出量16.7 m3/s)
ポンプ口径 2,600㎜
全揚程   2.9m
主原動機  ガスタービン(807kW)

3.増強方針の比較検討
(1)増強の比較検討
増強方針を表- 1 で比較を行った。

表1 増強方針比較表

Case1 及びCase2 の場合、全ての造物を新規に増設する必要がある。Case2 では用地買収も必要となり、用地交渉・調査・設計を必要とするため、事業が遅れる可能性がある。Case3 においてはいずれと比較して、大規模構造物を新規に増設する必要がないため、27 ~ 28 億円程度のコスト縮減を図ることが可能となる。
また、新規でポンプ台数を増やすこともないため、設備の点検・整備費も含めコスト面で有利となる。
よって今回、Case3 の既設ポンプ増強での事業をすすめることとした。

(2)事業計画
表- 1 のCase1、Case2 のいずれかで施工する場合、効果が発揮されるのは早くて令和6年3月となる。今回、表- 2 のとおり、Ⅰ~Ⅲ期で事業を計画することで、毎年排水能力約3.7m3/sの効果が発揮することが可能となった。また、現場施工を非出水期に行うことで、出水期間中においては、ポンプ全台数の運転が可能となる。

表2 事業計画表<

4.既存ポンプ排水量増強に伴う各機器の検討
(1)既設ポンプの劣化状況
高橋排水機場における整備実績は下記のとおり。
・ポンプ及び減速機 整備実績なし
・ガスタービン   2006年、2010 ~ 12年整備
・制御設備     軽微な部品交換のみ
2017年に行った点検報告を表- 3 ~ 4、図- 1に示す。

表3 点検結果報告

表- 3・図- 1 に示すとおりライナ-部に腐食が確認されたが、ポンプ本体の主軸やインペラは良好な状態であった。

図- 1 ポンプ劣化状況

表4 インペラとケーシングの隙間測定結果

表- 4 ではポンプのインペラとケーシングの隙間測定を行っているが摺動面に大きな損傷もなく、隙間は設計値の範囲内であった。

(2)排水量増強に伴うポンプ揚程の決定
排水量増強に伴い、全揚程見直しを行う。図- 2 のとおり、ポンプ実揚程との合計損失により、ポンプ全揚程は3.2m とする。

図- 2 ポンプ全揚程模式図

(3)ポンプ性能曲線
今回、1 台あたりの排水量を既設16.7m3/s から20.4m3/s に増強するために、ポンプ回転速度100%(108.9min-1)から113%(123min-1)へ増加する必要がある。この場合の予想性能曲線を図- 3 に示す。

図- 3 高橋排水機場性能曲線

(4)既存機器の検討
a)主ポンプ
ポンプ回転速度の増加に伴い、キャビテーションについて検討が必要である。既設回転速度100%(108.9min-1)ではキャビテーションは発止しない。(NPSH Ava > NPSH Req)しかし、今回のポンプ回転速度113%(123min-1)においては、図- 3 より約24.4m3/s 以上(NPSHAva < NPSH Req)でキャビテーションの発生が予想される。したがって、排水量が24.4m3/s 以上になった状態では、回転速度抑制機能の追加が必要となる。また、既設主ポンプの既設の主軸及びインペラの強度については、回転数増量に伴い再度強度計算をおこなったが、既設を問題なく使用が可能であった。

b)主原動機(ガスタービン)・減速機
排水量増量に伴い、主原動機出力を次式にて求める。

図 主原動機出力を求める式

既設主原動機の出力範囲は表- 5 のとおり640 ~ 971kW(既設807kW → 971kW へ変更)の範囲となり、既設原動機の使用が可能となる。ただし、減速機については減速比が異なることにより、減速機の更新が必要となる。

表5 主原動機出力範囲

c)系統機器
原動機出力を増加することにより燃料系統の再検討が必要である。今回計画排水運転時間は主要洪水を対象とした内水排除計算で最も長い、42時間以上運転できる容量が必要となる。燃料貯油槽の容量については次式にて算出する。

図 燃料貯油槽の容量を求める式

上記計算の結果、既設燃料貯油槽の容量は80kL であり、必要となる容量を満足する結果となった。また、燃料移送ポンプについても、容量の再計算を行ったが既設流用で問題ない結果となった。

d)除塵設備の検討
排水量増量に伴い、しさ発生量の再計算を次式にて求める。

図 排水量増量に伴うしさ発生量の再計算式

既設しさ処理量は12.82m3 /h であるため、除塵設備の能力をアップさせる必要がある。
この機能向上にあたって、除塵設備における必要な整備・改造・更新について検討した結果を表- 6 に示す。

表6 除塵設備の改造・更新一覧表

(5)土木構造物の検討
排水量の増加に伴い、吐出水槽のサージング量がアップするため、吐出水槽水位が上昇することになる。その対応として、図- 4 のとおり吐出水槽を500㎜嵩上げする必要が生じる。

図- 4 吐出水槽断面図

通常、コンクリートでの嵩上げにて対応するが、吐出水槽部の重量増加抑止と施工性を考慮し、鋼板製で水槽廻りを+ 500㎜の高さで囲い込むことにより対応することとした。

(6)電気設備の検討
機械設備更新機器の容量アップに伴い、自家発電装置(250kVA → 300kVA)及び変圧装置の更新が必要となったため更新することとした。また、発電機更新に伴い、換気設備の増強も行うこととした。

5.検討結果
高橋排水機場の11m3/s の増強にあたり、通常であれば新規でポンプ場を建設するところである。しかしながら、治水効果を早期に発揮するとともに、コスト及び維持管理費の削減を目的に設計を行った。あまり前例のない既存ポンプ設備の能力アップについて検討を行うなかで、既存ポンプ設備の現状と性能を確認することが重要である。
今回の検討で得られた重要なポイントは以下のとおりである。
・ポンプ回転速度を113%増加することで、1 台当たりの排水量を16.7m3/s から20.4m3/s に増量する。
・ポンプ本体は劣化状況及び構造確認を行い、主要部品(主軸、インペラ)を継続使用する。
・回転速度制御により既設原動機の定格出力内で運転可能となる。
・排水能力アップに伴い、除塵設備、吐出水槽等の改造を行う。
これらの検討を行うことにより、他の既存ポンプ設備でも排水能力増強ができる可能性がある。

6.主ポンプの改造
前述5. の検討結果より、検討重要項目は詳細設計にて確認し、No.3 主ポンプ設備の改造から着手した。
工事は令和3年にNo.3 主ポンプ設備を改造。順次年度毎に各号機を改造し、令和6年に全ての改造完了を目指す。
(1)主ポンプの解体
主ポンプ解体は、上部の減速機から下部のポンプまで全ての解体(写真- 2)を行う。ポンプ内部はガタの侵入があり清掃を行いながらの分解作業となった。構造的な異常は見受けられず順調に解体作業が進んでいったが、コンクリートケーシング上部の吊り下げケーシング(写真- 3)に腐食劣化が確認されたため、ブラスト処理、パテ補修等の工場整備を行った。

写真2 ポンプ解体状況

写真3 吊下げケーシング工場補修 左エポキシパテ補修 右ブラスト処理状況

(2)主ポンプの工場整備
ポンプ回転体は、113% 増加し、主軸・インペラは継続使用するため、シャフトは軸振れ検査、インペラハブユニットについてはJIS 基準に基づく「静的釣合試験」を実施し、許容値を100%(5455g)とした場合、最終不釣合重量は18.33%(1000g)でJIS 等級G6.3 以内であることを確認し、工場整備とした。

図 最終不釣合重量の計算式

(3)主ポンプの組立
現地で分解された各部品は、工場整備を終え全ての部品を現地で組立てた。そのため、主軸とインペラの組立状況やケーシングの隙間確認、主ポンプと減速機、減速機と原動機(ガスタービン)の芯出し確認(表- 7)など、各管理項目に細心の注意をもって施工に挑んだ。工事を進めていく中で更新される減速機、架台以外(図- 5)は、既存流用の現況位置合わせであるため、施工に難を要したが、建設当初(新設同等)の据え付け精度を有する設置ができた。

表7 芯出し表

図- 5 主ポンプ断面図

(4)付帯設備(除塵設備)
除塵設備の能力アップとコンベアによる輸送容量増加のため、傾斜コンベアのベルト幅を900㎜から1000㎜へ変更した。変更後の運転確認において良好な除塵機能が確認された。
 ・除塵        3.7 → 5.5kw 変更
 ・水平コンベア    2.2 → 3.7kw 変更
 ・傾斜コンベアベルト 900 → 1000㎜変更

写真4 傾斜コンベア

(5)制御設備と試運転確認
最終の試運転では、大雨による排水量増加を想定した実揚程条件0.7m 以上を模擬入力し、定格運転(回転速度の増速123min-1(ガスタービン出力速度:1000min-1))を確認した。また、実揚程の制限運転(回転速度の減速109min-1(ガスタービン出力速度:885min-1))を確認した。

図- 6 3号GTヒートラン試験グラフ

7.おわりに
近年の気象環境変化に伴う台風や集中豪雨などにより、ポンプ設備が注目される中、既存ポンプを活用した排水能力増強は、土木構造物の施工が少ないため、治水効果の早期発揮とコスト縮減対策として有効であると考える。
今後、高橋排水機場の工事を進めていく中で、現場施工で発生した問題点をとりまとめることで、同様の施策を展開していく上での有益な知見が得られると考える。
「六角川水系緊急治水対策プロジェクト」として、被災地の一日も早い復旧復興に向け、「逃げ遅れゼロ」、「社会経済被害の最小化」を目指して、治水事業を推進して参りたい。
最後に、貴重な資料や情報の提供を頂いた施工者である㈱荏原製作所及び㈱建設技術研究所の皆様に、深く感謝の意を申し上げます。

【参考文献】
1)一般社団法人 河川ポンプ施設技術協会:揚排水ポンプ設備技術基準・同解説
2)一般社団法人 河川ポンプ施設技術協会:揚排水機場ポンプ設備設計演習
3)国土交通省 水管理・国土保全局:河川砂防技術基準(案)
4)国土交通省 九州地方整備局:土木工事設計要領
5)一般社団法人 農業土木事業協会:高Ns・高流速ポンプ設備計画技術指針

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