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有明海沿岸道路筑後川橋工事に着工 ~デ・レイケ導流堤の構造を探る~
戸髙哲也

キーワード:橋梁架替、空間再編、賑わい空間

1.はじめに
有明海沿岸道路は、福岡県大牟田市と佐賀県鹿島市を結ぶ延長約55㎞の地域高規格道路であり、地域間の連携や交流促進、空港や港湾などの広域交通拠点へのアクセス向上を目的としている。現在福岡県内では一般道路部を含む25.7㎞を供用している(図-1)。
本原稿は九州最大の河川である筑後川を渡河する筑後川橋梁の橋脚設置にあたり、土木学会選奨の土木遺産であるデ・レイケ導流堤の一部を解体し施工する必要があるため、施工に先立って進めてきた検討について紹介する。

2.デ・レイケ導流堤検討委員会の設置
筑後川橋梁が計画される筑後川下流域は、広大な筑後平野のある平坦な地形の中で田園・河口風景を有する。筑後川には土木学会選奨の土木遺産であるデ・レイケ導流堤や、国指定重要文化財である昇開橋が存在し、また、筑後川より分派する早津江川には、世界文化遺産登録された三重津海軍所跡が存在する(図-2)。
また我が国でも有数の有明海沿岸部特有の「有明粘土」と呼ばれる非常に軟弱な粘性土が連続する。筑後川橋は長大橋となることから周辺環境に大きく影響を及ぼすため、設計に際してはこれらの周辺風景や歴史遺産に十分配慮し、軟弱地盤にも適した設計検討を実施している。
そこで技術的な検討を総合的に審議していくため、学識者から構成される「有明海沿岸道路 筑後川・早津江川橋梁設計検討委員会(以下、「設計検討委員会」という。)」を設置し、また同時にデ・レイケ導流堤に計画されている筑後川橋梁の橋脚設置において、施工時における導流堤の調査計画や解体方法、復元方法等についての基本方針や課題などを検討し助言を得るため「デ・レイケ導流堤に関する検討会(勉強会)(以下、「デ・レイケ検討会」という)」を設置した(図-3)。

3.デ・レイケ導流堤の概要
デ・レイケ導流堤は、筑後川の河口部から延長約6.5㎞の長大な構造物であり、明治20年に着工し、明治23年に竣工された。建造にあたっては、オランダ人技師ヨハネス・デ・レイケが建設に携わっている。
その機能は、導流堤により水が引き込まれ、かつ川幅を狭くすることで流速が増し、有明海特有のガタ土が河口付近で堆積するのを防ぐことで航路の維持を果たしており、基礎部は、オランダからの導入工法である粗朶沈床と呼ばれる雑木の枝葉を束ねたものを沈め、軟弱な地盤に耐えうる構造としていると考えられている(写真-1,図-4)。

なお、同時期に施工された他事例と比較(図-5)しても、長大で、かつ、約120年経った現在も地盤沈下が無く当時のまま、その姿を残し機能しており、意匠性、技術性が高く、故に大規模改修等の記録が無いため、事前の調査では内部構造は明らかになっていない。

現在では、土木学会選奨土木遺産に選定されるなど、土木構造物としての希少価値や水理的機能と、それにより維持されている航路が確認できるなど、地域における経済・社会活動も含めた筑後川の水文化に導流堤が共存していることを踏まえると導流堤への橋脚配置については、慎重に検討を行う必要がある。

4.筑後川橋の設計におけるデ・レイケ導流堤への配慮
4.1.筑後川橋梁のデザインコンセプト
筑後川橋梁の検討にあたっては、「周辺の歴史遺産と風景そのものが『地域の象徴でありシンボル(主役)』となっており、早津江川橋梁と併せた2橋は、歴史遺産に寄り添う姿や貴重な風景と調和した美しい姿を『準主役』として共演し、この地域のシンボル性をさらに高めることが求められる。」ことをデザインコンセプトとしている(図-6)。

4.2.設計検討委員会での橋梁形式の比較検討結果
筑後川橋は、検討の結果、鋼4経間連続中路アーチ橋を推奨案としており、橋種を選定する上で、橋脚の設置位置が重要と考えて検討を進めた。
また、歴史遺産であるデ・レイケ導流堤や世界文化遺産の三重津海軍所跡などへの影響を考慮すると伴に、筑後川下流域がエツ漁の漁場になっていることや有明海苔の漁業で頻繁に船舶の航行があることから、河川利用や構造性、景観性など総合的な評価を行い、河川通水部には橋脚を設置しない計画とし、デ・レイケ導流堤の上に橋脚を設置するこことなった(図-7)。

4.3.デ・レイケ導流堤に設置する橋脚のデザイン
4.3.1.橋脚の検討方針
地元や委員からの意見として、橋脚が相当な大きさとなるため圧迫感を軽減する対策が必要であること、また、地域の歴史的シンボルである導流堤の景観を崩さないようにデザイン的な工夫が必要との意見を踏まえ、「歴史遺産に寄り添う」というデザインコンセプトのもと、導流堤を引き立てるデザインを目指した。なお、導流堤に設置する橋脚は、土木遺産に接し改変を伴うことから、導流堤に深く関係する地元や土木学会、河川管理者などに設計意図を論理的に整理し説明する必要があったため、関係機関協議やオープンハウスを開催し、広く一般の方からの意見を伺いながら検討を進めた。

4.3.2.橋脚デザインの検討結果
当該橋脚に張石等の装飾をした場合、装飾はあくまでフェイクであり、導流堤の歴史性や威厳、存在感を損なう恐れがあると判断し、コンクリート打放し仕上げにより、その存在感や導流堤の石積みそのものの本物感を尊重することとした。また、導流堤そのものの機能維持のため、橋脚幅を
導流堤幅以下に設計すると伴に、圧迫感の軽減や導流堤の連続性への配慮のため橋脚高さを縮小するなど様々な配慮をした(図-8)。

5.デ・レイケ導流堤に関する検討会(勉強会)での検討内容
デ・レイケ導流堤に関する検討会では、橋脚施工による導流堤の解体時に、その構造等が明らかになっていない導流堤の内部構造を解明し、また、広く一般の方々に知って頂くために、導流堤の解体方法や解体時の調査記録方法、解体後の復元方法及び保管・移設展示活用のあり方について検討した。なお、解体方法やその後の移設展示の方法を検討する上で、まずは導流堤の謎を解明する必要があるため、文献調査や有識者等へのヒアリング調査を実施した。以下に現在までの検討結果を述べる。

5.1.デ・レイケ導流堤に関する検討会の経緯
平成24年度から検討会3回、勉強会3回の計6回を開催しており、平成25年度には、先に述べたとおりデ・レイケ導流堤部に関するオープンハウスを開催し、広く一般の方からのご意見を伺った(図-9)。

5.2.デ・レイケ導流堤の謎を解明
   (現在までに確認した事項)
文献調査及びヒアリングなどによって、導流堤計画時の思想(設置意図、目的)、機能(設置前後の河川状況、現在の河床状況と効果)、構造・材料、現在までの補修状況、特徴と価値など多岐にわたる情報収集により、その謎が少しずつ明らかとなった。
しかしながら、内部構造など全てが明らかとなっておらず、今回実施する筑後川橋下部工工事と合わせた解体調査により、デ・レイケ導流堤の内部構造を解明することが可能になると考えている。

5.3.デ・レイケ導流堤の解体・調査方法
デ・レイケ導流堤の解体調査は、デ・レイケ導流堤上に設置する下部工の施工に必要な鋼矢板による仮締切りの範囲内で実施する。これによりドライな環境下で調査が可能となる。また作業に先立ち、仮設、調査、施工の全ての作業ヤードとなる作業構台を設置した(図-10)。

解体調査は、仮締切りの中に、人と重機(小型バックホウ)を持ち込み解体と記録を実施する。解体した張石、捨石、中詰め材は、区分して陸上保管し、移設展示に活用することとした。
また、掘削断面からも全体の構造を明らかにするため、下部構造までを一連の断面で掘り進むこととした(図-11)。

5.4.デ・レイケ導流堤の調査記録方法
移設展示の際に既存通り積むために「張石に番付と噛み合わせ部分のマーキング」(図-12)を実施する。
取り外した張石は、「写真撮影、計測」をすると共に、中詰め材となる間詰め石の大きさ、土質状況等を確認のため、「記録とサンプル保管」を行い掘削する。
また、掘削断面(一連の断面で掘削)については、三次元測量により記録し、移設後の展示に活用することとした。

5.5.橋脚部の復原(修景)方法
設置した橋脚周辺部は、既存導流堤との連続性を確保するため、間を解体前の導流堤の形状に修景することとしているが、解体した既存の張石は移設展示に利活用するため、修景する石材については、ヒアリング調査等で明らかとなった既存の張石材料である帆崎(ほざき)石を用いることとした(図-13)。

5.6.移設展示のあり方
5.6.1.デ・レイケ導流堤協議会の設立と動向
平成26年5月に、大川市にあるNPO法人大川未来塾が中心となり、デ・レイケ導流堤の移設保存を軸とした若津港周辺の観光的活用プランを考える組織が設立された(写真-2)。
当該協議会による検討の結果、デ・レイケ導流堤の移設展示についての要望が出された。

5.6.2.移設展示について
移設展示については、デ・レイケ導流堤協議会からの要望を踏まえて、「筑後川昇開橋展望公園」及び「大川市ふれあいの家」の2箇所への移設展示を検討していくこととした(写真-3)。また、移設展示方法については、文化的価値が確保できるよう展示することや石積みの意匠性のみならず、粗朶沈床など西洋の近代土木技術を導入している点からも技術性や歴史性を考慮し、内部構造の分かる展示方法を検討する。さらに、維持管理面を考慮し、安全性への配慮や維持管理コストも踏まえて検討する。なお、移設展示の詳細は、解体時調査結果を踏まえて展示方法等を決定することとした(図-14)。

6.解体調査結果(中間報告)
筑後川橋のデ・レイケ導流堤上に設置する橋脚については、平成26年度末に着工式を行い、平成27年度から工事着手し、現在、解体調査工が完了した。
以下、今年度実施した解体調査について述べる。

6.1.解体調査の状況
先に述べたとおり、解体調査に先立ち、仮設、調査、施工の全ての作業ヤードとなる作業構台及び鋼矢板による仮締切りを施工のうえで調査工に着手している(写真-4)。

6.2.本体張石への番付・かみ合わせマーキング
解体後の移設展示に活用する部分の張石については、正確な復原を実施するため、張石1つ1つに番付とかみ合わせマーキングを実施すると伴に、写真撮影による記録を実施したうえで、張石を取り外して陸上保管場所に運搬・保管を実施した(写真-5)。

運搬・保管時には、移設展示での再利用を考慮し、単管パレットに、番付の順番に整列させ、慎重に運搬することとした(写真-6)

6.3.本体張石の下部に粗朶沈床を確認
張石撤去後は、小型バックホウ及び人力にて掘削しながら、中詰め材の調査を実施した。その結果、本体張石の直下に、デ・レイケ導流堤の基礎となる粗朶沈床が確認された(写真-7)。

6.4.デ・レイケ導流堤の内部構造
調査前の文献調査等による想定では、粗朶沈床は、導流堤本体の全面に、当時の河床(深い位置を想定)の直上に設置されていると思われていたが、今回調査の結果、本体張石直下の浅い位置に左右に分かれて設置されていた(写真-8)。

粗朶沈床の下部には、乱されていない砂質土が確認されたことから、当時の河床であると思われ、調査前の想定よりも当時の河床高が高かったと考えられる。このことから、当時は土砂の堆積が顕著であったと思われ、船舶の航行にも支障を与えていたことが確認できた。
また、粗朶沈床は、地盤沈下対策として粗朶を陸上部等で組んでユニット化したものを船で曳航して現地で石などにより沈めたもので施工性に優れており、約120年前に6㎞もの長大な構造物を3年という短期間で築造できたのも、この技術があったからこそと考えられるが、デ・レイケ導流堤では、粗朶沈床を左右に分割して設置しており、更なるコスト縮減や工期短縮を考慮してのものと思われる(図-15)。

7.おわりに
当該地域は、九州最大の河川である筑後川をはじめ、筑後平野の広大な地形、田園・河川風景を有し、また、歴史的遺産が多数存在しており、そのような背景を考慮した橋梁設計を実施すると伴に、デ・レイケ導流堤のように土木学会選奨の土木遺産として希少価値のある構造物にも配慮した道路の計画・検討や合意形成の取り組みを行ってきた。
今年度は、デ・レイケ導流堤の内部構造などの謎を解明すべく橋脚の施工と併せて解体時の調査工を実施してきたが、今回解明された内部構造等も踏まえて、今後も引き続き地域活性化に活用できるような移設展示のあり方を検討していく。
最後に、本検討にあたり多大なるご指導をいただきました「有明海沿岸道路 筑後川・早津江川橋梁設計検討委員会(委員長:日野伸一氏(九州大学大学院工学研究院))」及び「デ・レイケ導流堤に関する検討会(委員長:荒巻軍司氏(佐賀大学))」委員の方々はもとより、地元関係者の皆様、また、設計・検討に携わられた㈱オリエンタルコンサルタンツ、㈱東京建設コンサルタント九州支社には多大な協力をいただき感謝いたします。

〈工事概要〉
工事名:福岡208号 筑後川橋下部工(P6)工事
発注者:国土交通省 九州地方整備局 福岡国道事務所
施工者:村本建設株式会社
施工場所:福岡県大川市
工事工期:平成27年1月.平成28年12月

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