H21.7 中国・九州北部豪雨による出水概要と改修の効果について
九州地方整備局 鵜木和博
九州地方整備局 甲斐公久
九州地方整備局 甲斐公久
1 出水の概要
① 降雨の状況
梅雨末期の7月24日、九州北部に停滞していた梅雨前線上を低気圧が通過し、前線の活動が活発化した。雨は同日の夕方より降り出し、19~21時にはピークを迎え、福岡市の福岡空港では時間雨量116mm という観測所史上最大の雨量を記録した。その後雨は、翌25日の朝まで断続的に降り続いたが、一時小康状態となったことから、各地に出されていた大雨洪水警報も解除となった。
小康状態であった雨は翌26日の明け方より再度強まった。昼前の10~12時にピークを迎える。その後雨は弱まり、同日夜には大雨警報も解除となった。
大きくは二山の降雨であったが、20時間ほどの小康状態を挟んでいる。
また、一山目と二山目を比較すると、等雨量線図の中心に近い飯塚市や神埼市では一山目が大きく、佐賀県西部の多久市では一山目と二山目が同等か二山目の方が大きいといった状況である。
この一連の豪雨は「平成21年7月中国・九州北部豪雨」と命名された。
② 河川の状況
【筑後川水系】
遠賀川水系では一山目で遠賀川本川下流部の唐熊水位観測所(中間市)、笹尾川の野面水位観測所(北九州市八幡西区)で計画高水位を超過し、犬鳴川でも出水後の痕跡水位から、計画高水位を超過した区間が確認されている。なお、各観測所では既往最高水位を更新している。
【遠賀川水系】
筑後川水系では支川城原川において全川的に計画高水位を超過し、5k500の夫婦井樋橋付近では堤防高下約60cm にまで迫った。
また、上流には「野越し」と呼ばれる堤防の一部が低くなった箇所が9箇所存在するが、うち5箇所より溢水している。
ピーク時の流量は日出来橋において400~450m3/s※が流下していたものと推定される。(計画高水流量330m3/s)
国道34号線の神埼橋より下流左岸側では堤防の堤内(民地)側法尻付近で漏水による法面崩落が発生、月輪工法による水防活動が実施されている。
※流量観測等に基づく速報値
【六角川水系】
六角川水系では支川牛津川の約10kmの区間において、計画高水位を超過した。特に牛津大橋付近では堤防高下約20cmにまで水位が上昇し、土嚢積みによる水防活動が実施されている。
③ 被災状況と改修効果
【遠賀川水系】
遠賀川の沿川各地で内水による家屋浸水被害が発生しており、飯塚市では約1,200戸、直方市でも約500戸が浸水した。
飯塚市については平成15年7月にも豪雨による浸水被害が発生しており、その後「床上浸水対策特別緊急事業」により、河道掘削、排水機場の設置(3 箇所)、橋梁の架替(2橋)等を実施してきた。平成15年の出水は今回の出水と同規模であったが、約4,000戸を超える家屋浸水が発生している。今回の出水では、本川で約0.5m、支川穂波川で約1.7mもの水位低減効果が見られ、被害も約3,000戸を超える家屋浸水が回避されていることから、河川水位の低下が内水排除にも大きな効果をもたらしていることがうかがえる。
【筑後川水系】
城原川では計画高水位を超える出水であったことから、周辺の内水河川から城原川へ排水している3つの排水機場(計27m3/s)の運転調整を実施している。排水機場の運転調整や上流「野越し」からの溢水が直接的に影響しているかどうかは明確ではないものの、約40戸の家屋浸水被害が発生している。
城原川においては平成18年度より河道掘削を実施してきており、もし実施していなかった場合は実際より60cm程度水位が上昇していたものと推測される。
また、前述のとおり、漏水による堤防法面崩落が発生したことから、緊急災害復旧工事による矢板設置工事及び崩壊箇所の復旧工事を実施した。城原川は天井川であり、堤防は県管理時代に築かれた古いものである。沿川には各地で漏水が確認されていることなどから、現在、堤体材料を含めた地質調査を実施中である。
【六角川水系】
六角川においても10排水機場で運転調整を実施している。被害については、6市町で約400戸の家屋浸水被害が発生している。
また、牛津川の牟田辺遊水池では平成14年の完成後初めて洪水流が流入し、下流への洪水調節効果を発現している。
しかしながら、牛津川では堤防高まで約20cmという非常に危険な状態であり、もし越水等による洪水氾濫が発生していた場合、その被害は浸水面積約1,300ha、被災人口10,000人にも及んでいたことが想定される。
2 今後の対応について
【遠賀川】
直方市街部における内水による家屋浸水被害については、現在実施中の「床上浸水対策特別緊急事業」による知古排水機場(4m3/s)の整備や直方市の下水道整備による被害軽減効果が見込まれる。なお、知古排水機場については今年度予算をもって完成の予定である。
今年度から遠賀川下流において流下能力上のネック箇所となっている中間堰(仮称)の改築を特定構造物改築事業により実施中であり、今後は堰の改築事業を促進するとともに、本川中上流部や支川の河道掘削を展開することで、更なる河川水位の低下を図る必要がある。
【筑後川(城原川)】
平成18年度以降実施してきた河道掘削については今年度も継続して実施中である。
更に、11月には災害対策等緊急事業推進費(災害対策の部)対象事業の採択を受け、今後、地質等の調査結果に基づき、堤防の拡築や堤脚部の補強などの対策を実施する予定である。
【六角川】
計画高水位を大きく上回った支川牛津川について、筑後川支川城原川同様、災害対策等緊急事業推進費対象事業の採択を受けたことから、今後、河川水位を低下させるための、大規模な河道掘削を実施する予定である。