下水汚泥の安定処理と有効利用に向けて
福岡県 建築都市部 下水道課
流域下水道係 主任技師
流域下水道係 主任技師
堀 口 幸 一
1.はじめに
福岡県では,生活環境の改善,浸水被害の防除,公共用水域の水質保全,下水道資源の有効利用などを下水道の主な役割とし,下水道の整備普及に努めてきたところである。その成果もあって,平成16年度末の福岡県の下水道普及率は69.2%,全国12位と比較的高い水準にあるが,人口規模5万人未満の自治体では,わずか20%程度と低迷し,更なる整備促進が今後の課題とされている。
しかし経済状況の悪化により,多くの自治体が緊縮行政の方向にあり,限られた予算で事業進捗を図る必要に迫られている。そのソフト的な対策として,事業評価,PFI事業の活用,共同負担事業の検討,新技術の採用,エネルギーの有効利用などのコスト縮減を図っていくことも重要である。
このほか,現在では環境に関する様々な問題を抱えており,平成17年2月には地球温暖化防止京都議定書が批准されるなど,今後はより厳しく「地球環境問題への取り組み」や「循環型社会の形成」などについての対応が求められていくものと考えられる。
下水道事業においても整備の普及促進や高度処理化に伴い下水汚泥量も増加していくため,下水汚泥の減量化及び有効利用が大きな課題となっている。また,下水処理場は施設規模も大きく,国内総電力消費量の約0.7%の多量な電力を消費しているため,さらなる省エネルギー化に努め,環境にも配慮していく必要がある。
このような状況の中,御笠川那珂川流域下水道の終末処理場である御笠川浄化センターでは,汚泥の減量化,有効利用及び省エネ対策に積極的に取り組んでいるため,ここで紹介する。
2.御笠川浄化センターの概要
御笠川那珂川流城下水道は,県内で最初の流域下水道として昭和46年度に着手し,昭和50年5月に供用を開始した。終末処理場である御笠川浄化センターは,計画汚水量約40万㎥/日(日最大)と県内で最大級の規模を有しており,全体計画の約8割の施設が完成している。
本浄化センターでは,平成16年度実績で年間約42,000トンの脱水汚泥が発生しており,その約76%を溶融処理(表面溶融炉:100t/d),約15%を乾燥処理(油温減圧式乾燥機:30t/d)している。残りの約9%相当分は,汚泥溶融炉の定期補修時に脱水汚泥のまま場外搬出し,主にセメント原料として利用している。
その状況を図ー1に示し,また汚泥溶融施設と汚泥乾燥施設の概要を表ー1に示す。
3.汚泥溶融施設
3.1 施設概要
従来,当浄化センターにおける下水汚泥処分は,脱水汚泥までの処理後外部委託による海洋投入,陸上埋め立て,緑農地利用が主流であった。しかし,ロンドン条約による廃棄物海洋投入の禁止の動き,埋め立て処分地残余量の減少などの状況から,汚泥の滅量化,安定化,さらには資源化に向けての検討を行った。
その結果,汚泥の減量化では,脱水汚泥の約1/22と大幅に減容化され,重金属類の溶出も基準以下の安定化した物質であり,さらに生成された溶融スラグは,建設資材等への有効利用が期待できることなどの理由から,日量100tの処理能力を持つ汚泥溶融施設の導入を決定し,平成4年度から建設に着手し,平成9年度から稼働を始めた。
本施設の処理工程は,圧送されてきた含水率約80%の脱水汚泥を,まずは乾燥設備で間接加熱し,含水率約20%にまで乾燥させる。次にその乾燥させた汚泥は溶融設備に投入し,1300~1500℃で高温処理され,有機物が熱分解,ガス化,焼却される一方,無機物は有機物の燃焼等により溶融されて,スラグとなって排出される。
溶融時に発生する排ガスについても,熱エネルギーを廃熱ボイラにより蒸気として熱回収し,汚泥乾燥や白煙防止用熱源として有効利用されている。処理工程について,図ー2に示す。
3.2 溶融スラグの建設資材利用
図ー1から分かるように,生成された溶融スラグの約68%の22千tがコンクリート骨材,約32%の10千tがセメント原料などの建設資材として有効利用されている。
コンクリート骨材の全国需要量の推移は,平成2年度から減少傾向にあり,平成10年度以降はほぼ横ばい傾向である。(図ー3)
今後,需要を増加させるには,砕石,砂利などの普及している骨材と同程度もしくは,それ以下の価格設定を検討する必要があり,また流通に関しては,その加工品の販売ルートを有するアスファルト,コンクリート業界と協議調整し,エコスラグ製品の販売促進に努めていくことも今後の課題である。
また近年,セメント業界では,生産設備の合理化や省資源,省エネルギーに努めており,その一環としてセメント原料の代替として,廃棄物の再生利用を推進している。下水汚泥についても,セメント原料の一つである粘土に類似しているため,有効利用量は年々増加している。福岡県はセメント工場が密集し,国内生産量の約1/4を生産しており,下水汚泥の受入需要は十分見込めるものと考える。
しかし,セメント生産量,販売量ともに,ここ10年は減少傾向にあり,今後の下水汚泥の受入量の低下も懸念される。(図ー4)
4.油温減圧式乾燥施設
4.1 施設概要
油温減圧式乾燥施設は,福岡県,(財)下水道新技術推進機構,民間会社3社との共同研究により実用性の確認をおこなった後,平成9年度から施設建設に着手し,平成12年度から稼働している。
本技術は,料理の「天ぷら」の原理を応用したもので,脱水汚泥を1/3~1/4程度にまで減溶することができる。生成する乾燥汚泥の性状は,含水率約1%,含油率約30%,低位発熱量約22MJ/kgとなっている。(表ー2)
処理工程は,まず,汚泥混合タンクにて脱水汚泥と媒体油を10:7の比で混合し,予備加熱タンクにて70℃程度まで加温する。
さらに,汚泥乾燥機本体内を0.6気圧程度の減圧状態にすることで沸点を下げて約85~90℃程度で汚泥中の水分を蒸発乾燥した後,油分分離設備にて二度の工程を経て脱油する。
運転はバッチ式であり,1バッチあたり約2時間を要し,10トンの脱水汚泥の処理が可能であり,現在,8時間運転,3バッチにて30t/日の脱水汚泥を処理している。
媒体油は,廃食油を使用しており,廃食油の回収・処理業者から購入しているが,1バッチ(脱水汚泥約10トン)あたり約1トンの媒体油を必要とする。(表ー3)
本乾燥施設の処理工程を図ー5に示す。
4.2 乾燥汚泥(バイオソリッド)の燃料利用
電源開発㈱では,石炭とほぼ同等の性状を持っている本乾燥汚泥を,火力発電所における石炭の代替燃料として着目していたが,その実用化に向けて当県と共に現在検討を進めているところである。県下水道公社から電源開発㈱に本乾燥汚泥を販売し,これを石炭に混ぜて燃やす燃焼実機試験を,松浦火力発電所1号機(長崎県松浦市)において,平成15年度から16年度にかけて約1年間実施した。実験では,汚泥性状,ハンドリング性(輸送受入,貯蔵),機器への影響,安全管理面,環境面(ばい煙,排水,臭気等)などを調査・検討した。試験期間中,総量約1,200トンの本乾燥汚泥を石炭と混焼(石炭消費量に対して最大1%,平均0.04%)した結果,プラント機器の運転や環境に対し,実用化において支障となるような問題は発生しないことを確認した。
さらに,平成17年度に,最大混焼率1%の連続実験を行うこととしており,これにより知見を蓄積し,実用化に向けた調整を行っていく予定である。
また,これに併せ,御笠川浄化センターでは,油温減圧式乾燥施設の24時間連続運転実験を実施した。
この結果,①10バッチで100トンの脱水汚泥を処理できること,②熱効率の上昇や臭気燃焼炉等にかかる固定費の減少により,運転経費が8時間運転に比べ約10%低減できることなどが確認できた。ただし,設備や運転に関する諸問題も確認し,これを改良する必要が生じた。
本乾燥施設を24時間運転した場合,媒体油である廃食油は,約10トン/日必要となり,この場合,県内に数社ある廃食油回収・処理業者の供給可能量を若干上回る。
このため,媒体油の確保について様々な模索をしている中で,学校,ボランティア,NPOなどとの協同による廃食油回収システムを検討している。このシステムが完成すれば,家庭から下水道に流されていた廃食油を減少させ,処理場への負荷を軽減できるとともに,下水道や地球温暖化防止について,市民の意識を高める啓発・広報効果も期待できると考えている。
5.今後の展望
(1)熱エネルギー利用の推進
乾燥汚泥は,図ー6に示すように下水道資源としての有効利用を行っていくうえでは,受入先の安定的な確保が必要である。このようななか電力業界では,平成15年度に制定されたRPS法により販売電力量に応じて一定割合以上の新エネルギー等の電気利用が義務づけられており,下水汚泥の熱エネルギー利用が注目されている。
下水道管理者としては,下水汚泥の安定的な供給先の確保やリスク分散の観点から,将来有望視されている下水汚泥の熱エネルギーヘの利用を,以下の理由などから積極的に検討していきたい。
・石炭の代替燃料化による電力への転換は,永続的な需要が見込める。
・石炭使用量低減によるCO2削減で,地球温暖化対策に貢献できる。
・バイオマスエネルギー生成に寄与するため,下水道事業のPRに繋がる。
(2)下水汚泥の処分から販売への転換
平成16年度末の福岡県の流域下水道の下水汚泥有効利用率は92%と,全国平均の67%を大きく上回っているが,今後も100%有効利用に向けて取り組んでいく必要がある。
ただし,有効利用している下水汚泥の約3割は,産業廃棄物として処分しており,また,有価物としての販売単価より,産業廃棄物としての処分単価の方が大きいため,多額の支出傾向となっている。この状況を改善するには,出来る限り有価販売にシフトしていく検討が急務となっている。
(3)リサイクル製品認定制度による販売拡大
福岡県では,行政がリサイクル製品に一定の評価を与えることにより需要の拡大を図り,資源の有効利用を通じて循環型社会を形成することを目的に,廃棄物を原料としたリサイクル製品の品質や安全性等を県が確認し認定することで,リサイクル製品の利用を促進する「リサイクル製品制度」を策定している。
本制度は平成17年度中に施行される予定となっており,施行されることにより,溶融スラグを利用した二次製品がリサイクル製品認定制度に認定されると,認定製品毎に,規定された再生資源の含有率を達成する必要があるため,公共事業においても積極的に使用されることとなり,溶融スラグの販売拡大にも繋がるものと考えられる。
6.最後に
御笠川浄化センターにおいては,今後,下水汚泥やエネルギーの有効利用を推進することにより,下水道施設から発生する温室効果ガス排出削減,下水処理の維持管理費の節減などを図り,ひいては循環型社会形成のための一躍を担っていくものと考える。