ポーラスコンクリート護岸工法の評価について
国土交通省 武雄工事事務所
調査課長
調査課長
泊 耕 一
国土交通省 武雄工事事務所
調査課 係員
調査課 係員
勝 亦 英 樹
1 はじめに
多自然型工法の一つであるポーラスコンクリート護岸工法は,図ー1に示すように,粗骨材とそれを接合するセメントペースト,モルタル等により多孔質コンクリートを構成するものであり,従来のコンクリート護岸に類似する構造体としての機能に植生機能を付加した新工法・新技術であり,植物等自然生態系の保全,河川景観の向上等,多自然型川づくりの一工法として有効であると期待されている。
六角川水系石原川(図ー2,3参照)では,全国に先駆けて平成7年度にポーラスコンクリートブロックによる護岸緑化工法の技術活用パイロット事業を行っている。現在は全国で施工事例が増えてきているが,河岸浸食が激しいセグメント1に施工し,さらに施工後5年が経過している箇所は全国でも事例がない。そこでポーラスコンクリートの施工後の強度や,そこに生息・生育する動植物の現況を調査することにより,ポーラスコンクリー卜護岸工法の河川護岸としての有効性と生物生息環境に対する適合性の検証を行う。
2 調査箇所
ポーラスコンクリート護岸施工箇所吸出し防止材有り(以下「ポーラス(吸出有)」という。),吸出し防止材無し(以下「ポーラス(吸出無)」という。)における適性を検証するため,ポーラス箇所近接(以下「堤防法面」という。),ポーラス箇所より下流の覆土護岸(以下「覆土箇所」という。)との比較を行った。(図ー4,5参照)
3 調査内容
今回の検証を行う上での調査内容は,図ー6に示すとおりである。
4 調査結果
(1)強度調査
施工後5年が経過しているポーラスコンクリートを目視により調査を行った結果,ひび割れ・断面欠損は確認されなかった。またコア抜きを行い,強度試験を行った結果も圧縮強度,引張強度ともに設計基準強度を満足していた。
(2)植生調査
目視による外観調査では,周辺植生との融和状況は良好であった。
植生調査は,1m×1mのコドラートを設定し行ったが,ポーラス箇所での確認種は覆土箇所とほとんど変わらず,植被率も各季とも若干低くなっている箇所もあったがほとんど変わらない状況であった。また植物調査からは,吸出し防止材の有無による明瞭な差異は確認されなかった。
覆土調査結果によると土壌厚と植被率との有意な関連性は確認されず,土壌厚と吸出し防止材の有無による関連性も確認されなかった。
ポーラスコンクリートのコア抜きによる根の進入状況調査では,コア上面・側面・下面ともポーラス(吸出無)の方が根の進入・貫通本数ともに多い傾向にあり,いずれのコアにも様々な種類の根の進入が確認された。
(3)昆虫類調査
① 任意調査
昆虫類の任意調査を図ー12に示す位置で行った。その結果,確認された種の数は,ポーラス箇所,堤防法面および覆土箇所合わせて,夏季調査で126種,秋季調査で188種であった。この総種数に対するそれぞれの箇所での割合は図ー13に示すとおりであり,堤防法面と比較すると確認種数は少ないが,覆土箇所よりは概ね上回っている。また吸出し防止材の有り無しの差はほとんど見られなかった。
② ピットホール調査
昆虫類のピットホール調査を図ー14に示す位置で行った。その結果,確認された種の数は,ポーラス箇所,堤防法面および覆土箇所合わせて,夏季調査で25種,秋季調査で37種であった。この総種数に対するそれぞれの箇所での割合は図ー15に示すとおりであり,夏季調査では覆土箇所より少なくなっているが,堤防法面との差はほとんどない。また秋季調査では,ポーラス(吸出有)が多くなる結果となった。
(4)土壌動物調査
土壌硬度は,ポーラス箇所の方が低く,吸出し防止材有り無しの比較では無しが低く,土壌が柔らかいといえる。また,土壌pHに関してはそれほど差は生じていないが,覆土箇所の土壌の適性が比較的高かった。保水性に関しても植物の生育上問題のない結果であった。
大型土壌動物は,夏季調杏において全箇所合計で460個体が確認され,秋季では1855個体が確認された。ポーラス箇所の平均と堤防法面を比較すると夏季,秋季ともにポーラス箇所が上回っていた。吸出し防止材の有り無しでは,顕著な差は確認されていない。
また中型土壌動物は,夏季調査において全箇所合計で980個体が確認され,秋季調査でも1635個体が確認された。ポーラス箇所の平均と堤防法面,覆土箇所を比較しても顕著な差は確認されず,吸出し防止材の有り無しでも,顕著な差は確認されていない。
5 分析評価
(1)植生に関する分析評価
ポーラス箇所で確認された植物は47種類あり比較的多く,斜面上部と下部では水位の影響により植生に変化が見られている。
堤防法面に確認されてポーラス箇所に確認されなかった種類としては,地下茎で繁殖するスギナがある。これはスギナの地下茎は5㎜以上の太さがあるため,ポーラスコンクリートの空隙を貫通できなかったためだと考えられる。
(2)土壌厚に関する分析評価
施工当初土壌厚は,最大で25㎝の深さがあったと考えられるが,現状の土壌の厚さは半分以下となっている。これは流速が早い河川であるため,増水時に顕著な土砂堆積が発生せずに,土砂が流されて減少しているためだと考えられる。しかし土壌厚が減少したことによる植生への影響は出ていない。
(3)昆虫類に関する分析評価
ポーラス箇所,堤防法面および覆土箇所の種類と個体数から算出した多様度指数により比較すると,大きな差はなく生態系の復元効果が確認された。
(4)土壌動物に関する分析評価
土壌動物は大型,中型に関わらず,ポーラス箇所で多くの個体数が確認されているため土壌動物にとって生息しやすい環境が復元されている可能性が高いと考えられる。
(5)吸出し防止材の有無による分析評価
ポーラス(吸出有)とポーラス(吸出無)の違いが顕著に現れたのは,コアヘの根の進入状況のみであり,土壌硬度に関しては多少ポーラス(吸出無)が柔らかいという結果であったもののほとんど相違ないことが確認された。したがって,草本類の生育環境としてはポーラス(吸出無)が比較的良い環境であると考えられる。
6 ポーラスコンクリート護岸の有効性評価
① 施工後5年が経過したポーラスコンクリートのコア抜きによる強度試験の結果,設計基準強度18N/㎟以上を満足している。
② コアの空隙からケラの幼虫が出現したことから,ポーラスコンクリートの空隙部を生息場所としていることが確認された。
③ ポーラス箇所の昆虫群集は,科数,種数,個体数および多様度指数も下流護岸のそれとほぼ同等であり,生態系復元効果が確認されている。
④ ポーラス箇所は周辺の下流護岸に比較すると丈の低い草本が卓越し,たとえ丈の高い草本が生育しても,群生状態にはなっていない。これはポーラスコンクリートの空隙率を小さくすることにより,丈の高い草本の根の進入が抑制されるためである。
以上のことによりポーラスコンクリート護岸工法は洪水から河岸·堤防を守る治水機能としての安全性を確保すると同時に,生態系を復元させ自然環境豊かな水辺の創出を行うことに適していると判断される。
7 今後の課題
今回,施工後5年が経過したポーラスコンクリートは,設計基準強度は満足しているが旋工時に比ベ強度は若干低下している。そのため今後もポーラスコンクリートの強度変化と動植物等の生息状況について追跡調査を行っていく必要がある。